608 / 905
607.【ハル視点】別れの挨拶
しおりを挟む
ウマにまで嫉妬すると告白したのに、アキトは俺の嫉妬深さに嫌悪感を表したりはしなかった。むしろその気持ちは分かるとあっさりと返してくれた。
その予想外の反応が嬉しくて、気づけば両手をしっかりと繋いでしまっていた。もし邪魔が入らなければ、抱きしめて口付けてしまっていたかもしれない。そのぐらい嬉しかったからな。
もし人前でそんな事をしたらアキトが恥ずかしがるのは間違いないから、邪魔は入って良かったんだが――。いま、俺達は何故かニヤニヤと笑う周りに冷やかされながら、トライプールまでの道を歩いている。
まあ冷やかすと言っても、これはアキトのためにも止めに入らないと駄目だと思わない程度の言葉なんだけどな。二人は仲良しだなとか、伴侶候補というよりももう伴侶に見えるとか、そういう事を言ってくるだけだ。
アキトは照れくさそうに頬を赤く染めているが、嫌そうじゃないから良しとしよう。俺は無言のまま、トライプールの大門を目指してひたすらに歩き続けた。
トライプールの大門を問題無く通過して、屋台の並ぶ見慣れた広場に入っていく。見慣れない屋台がいくつか増えているなと視線を巡らせながら、俺は広場の隅の方へと移動した。
この辺りには椅子すらないが、その分いつでも空いている。いまは八人もいるからな。集まって立ち止まっても邪魔にならない場所を選んだ。
クリスは全員の顔を見回してからおもむろに口を開いた。
「皆さん、お疲れ様でした。何事もなく無事にトライプールまで帰りつけたのは皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「そうだな。みんな頼もしかったし、それに楽しかったよ。ありがとな」
カーディさんもニッと笑ってそう続けた。
「皆で打ち上げもしたかったんですが…さすがに皆さん疲れてると思いますから、またの機会にしましょうか」
ルセフはクリスの言葉に笑みを返した。
「気づかいありがとうございます」
「まあ、さすがに疲れたよな。初めての速度だったし」
「え、そう?俺はまだまだあのウマに乗って走りたかったぐらいだけどなぁ」
「うわーこれが若さか…」
「えーそんなに言うほど年齢違わなくない?」
「いや、結構違うだろ?」
わいわいといつもの調子で賑やかに言い合うルセフ達の反応を眺めていると、不意にクリスの視線が不意にこちらを向いた。それで良いか?と聞きたいんだろうな。
「俺達は帰りは馬車の中で楽をさせてもらったからな、ルセフ達の良いようにしてやってくれ」
それで良いかなとアキトに視線を向ければ、すぐにこくこくと頷きが返ってきた。
「それではそういう事で。あ、冒険者ギルドへの報告はこちらでしておきますので、明日以降には報酬が受け取れると思います」
ルセフ達はウマでの移動で疲れてるだろうから妥当な所だな。俺達もついて行くかどうかは後で確認すれば良いか。そんな事を考えていると、不意にルセフがぽつりと呟いた。
「…え、そんな事までさせちゃっていいのか?」
クリスとカーディさんは顔を見合わせてから答える。
「護衛で疲れてるんだから、俺達が報告するのは当然じゃないか?」
「ええ、さすがに疲れ果ててる時なら明日に回させて欲しいとお願いする事もありますが、今日はまだ元気ですからね」
「そうだよな」
二人は何でそんな事を言われたのかが分からないと言いたげだ。
「あ!もちろんきちんと報告をするかが心配なら、私とカーディの報告に立ち会ってもらっても良いんですが…!」
「ああ、いや、すまない。クリスさんとカーディさんの人柄はもう知ってるし、信用できるからそこは全然問題無いんだが…」
「分かる、その気持ち俺は分かるよ!ルセフ!」
言い難そうに口ごもったルセフに、ファリーマはいきなり駆け寄ってそう叫んだ。ああ、何かあったんだなと察した俺は何も言わなかったが、アキトは不思議そうに首を傾げた。
「すまんな。最近は駄目な護衛依頼が続いたからさ、毎回俺達が報告も押し付けられてたんだよ」
ウォルターは苦笑しながら、クリスとカーディさんに向かって声をかけた。
「ああ、そうなんですか…それは、大変でしたね…」
クリスがルセフの苦労を労っている隣で、カーディさんは心底嫌そうに顔を歪めた。
「いるよなーそういう大事な事をあっさり誰かに押し付けるやつ。しかもそういう奴に限って、別に何か重大な理由があってーとかじゃないんだろ?」
想像できると続けたカーディさんに、ウォルターは同じくらい嫌そうな顔で答えた。
「ああ、それならさすがに俺達も文句は無いんだがな。この間の奴は酒が飲みたいからって言い放ったぞ…?」
「うわぁ…」
よほど衝撃的だったのか、アキトも思わずといった様子で声を洩らした。
「もし私の同業者なら、ぜひとも名前を聞きたいですね…」
ちょっと待て、クリス。何をするつもりだ。慌てた俺とは違って、ウォルターは冷静に答えた。
「あー依頼人の事は詳しくは言えないが、とりあえずあんたらの同業者じゃないからな」
「そうですか」
ちょっと残念ですと怖い顔で呟いたクリスは、もし同業者なら店に圧力をかけるぐらいはやりそうで怖いな。しかもクリスを止められる唯一の人であるカーディさんも、本当に残念だなと笑っているから余計に怖い。
「…あんたらとの仕事は、俺達も楽しかったよ」
ウォルターは苦笑しながらも、ぼそりとそう返した。
その予想外の反応が嬉しくて、気づけば両手をしっかりと繋いでしまっていた。もし邪魔が入らなければ、抱きしめて口付けてしまっていたかもしれない。そのぐらい嬉しかったからな。
もし人前でそんな事をしたらアキトが恥ずかしがるのは間違いないから、邪魔は入って良かったんだが――。いま、俺達は何故かニヤニヤと笑う周りに冷やかされながら、トライプールまでの道を歩いている。
まあ冷やかすと言っても、これはアキトのためにも止めに入らないと駄目だと思わない程度の言葉なんだけどな。二人は仲良しだなとか、伴侶候補というよりももう伴侶に見えるとか、そういう事を言ってくるだけだ。
アキトは照れくさそうに頬を赤く染めているが、嫌そうじゃないから良しとしよう。俺は無言のまま、トライプールの大門を目指してひたすらに歩き続けた。
トライプールの大門を問題無く通過して、屋台の並ぶ見慣れた広場に入っていく。見慣れない屋台がいくつか増えているなと視線を巡らせながら、俺は広場の隅の方へと移動した。
この辺りには椅子すらないが、その分いつでも空いている。いまは八人もいるからな。集まって立ち止まっても邪魔にならない場所を選んだ。
クリスは全員の顔を見回してからおもむろに口を開いた。
「皆さん、お疲れ様でした。何事もなく無事にトライプールまで帰りつけたのは皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「そうだな。みんな頼もしかったし、それに楽しかったよ。ありがとな」
カーディさんもニッと笑ってそう続けた。
「皆で打ち上げもしたかったんですが…さすがに皆さん疲れてると思いますから、またの機会にしましょうか」
ルセフはクリスの言葉に笑みを返した。
「気づかいありがとうございます」
「まあ、さすがに疲れたよな。初めての速度だったし」
「え、そう?俺はまだまだあのウマに乗って走りたかったぐらいだけどなぁ」
「うわーこれが若さか…」
「えーそんなに言うほど年齢違わなくない?」
「いや、結構違うだろ?」
わいわいといつもの調子で賑やかに言い合うルセフ達の反応を眺めていると、不意にクリスの視線が不意にこちらを向いた。それで良いか?と聞きたいんだろうな。
「俺達は帰りは馬車の中で楽をさせてもらったからな、ルセフ達の良いようにしてやってくれ」
それで良いかなとアキトに視線を向ければ、すぐにこくこくと頷きが返ってきた。
「それではそういう事で。あ、冒険者ギルドへの報告はこちらでしておきますので、明日以降には報酬が受け取れると思います」
ルセフ達はウマでの移動で疲れてるだろうから妥当な所だな。俺達もついて行くかどうかは後で確認すれば良いか。そんな事を考えていると、不意にルセフがぽつりと呟いた。
「…え、そんな事までさせちゃっていいのか?」
クリスとカーディさんは顔を見合わせてから答える。
「護衛で疲れてるんだから、俺達が報告するのは当然じゃないか?」
「ええ、さすがに疲れ果ててる時なら明日に回させて欲しいとお願いする事もありますが、今日はまだ元気ですからね」
「そうだよな」
二人は何でそんな事を言われたのかが分からないと言いたげだ。
「あ!もちろんきちんと報告をするかが心配なら、私とカーディの報告に立ち会ってもらっても良いんですが…!」
「ああ、いや、すまない。クリスさんとカーディさんの人柄はもう知ってるし、信用できるからそこは全然問題無いんだが…」
「分かる、その気持ち俺は分かるよ!ルセフ!」
言い難そうに口ごもったルセフに、ファリーマはいきなり駆け寄ってそう叫んだ。ああ、何かあったんだなと察した俺は何も言わなかったが、アキトは不思議そうに首を傾げた。
「すまんな。最近は駄目な護衛依頼が続いたからさ、毎回俺達が報告も押し付けられてたんだよ」
ウォルターは苦笑しながら、クリスとカーディさんに向かって声をかけた。
「ああ、そうなんですか…それは、大変でしたね…」
クリスがルセフの苦労を労っている隣で、カーディさんは心底嫌そうに顔を歪めた。
「いるよなーそういう大事な事をあっさり誰かに押し付けるやつ。しかもそういう奴に限って、別に何か重大な理由があってーとかじゃないんだろ?」
想像できると続けたカーディさんに、ウォルターは同じくらい嫌そうな顔で答えた。
「ああ、それならさすがに俺達も文句は無いんだがな。この間の奴は酒が飲みたいからって言い放ったぞ…?」
「うわぁ…」
よほど衝撃的だったのか、アキトも思わずといった様子で声を洩らした。
「もし私の同業者なら、ぜひとも名前を聞きたいですね…」
ちょっと待て、クリス。何をするつもりだ。慌てた俺とは違って、ウォルターは冷静に答えた。
「あー依頼人の事は詳しくは言えないが、とりあえずあんたらの同業者じゃないからな」
「そうですか」
ちょっと残念ですと怖い顔で呟いたクリスは、もし同業者なら店に圧力をかけるぐらいはやりそうで怖いな。しかもクリスを止められる唯一の人であるカーディさんも、本当に残念だなと笑っているから余計に怖い。
「…あんたらとの仕事は、俺達も楽しかったよ」
ウォルターは苦笑しながらも、ぼそりとそう返した。
応援ありがとうございます!
79
お気に入りに追加
3,900
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる