生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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603.お土産と誘い

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「アキト、受け取ってくれるみたいだよ?」

 にっこりと笑って促してくるハルに笑顔でお礼を言ってから、俺は急いで魔導収納鞄に手を入れた。気が変わる前に受け取ってもらおうと思って。

「あの、これなんですけど」

 そう言いながら俺が鞄から取り出したのは、ずんぐりとした不思議な形の瓶に入った北国のお酒と、布で出来た袋に入ったおつまみだ。

 袋の中身は、数種類のチーズとナッツの詰め合わせだ。お酒にチーズとナッツって、もはや定番って感じのおつまみセットだと思うよね。

 でもこの辺りではあまり馴染みのない、結構珍しいおつまみにあたるらしい。料理に使わずにそのままチーズやナッツを食べる事が、そもそも滅多に無いんだって。

 北国では当たり前の組み合わせなんだがってお店の人の説明に、ハルもびっくりしてたみたい。ちなみにちょっと味見させてもらったチーズやナッツは、変なクセも無く濃厚な旨味があって美味しかった。

「へぇ、すごいな、これは北ノールの酒じゃねぇか」

 確かに特徴的な瓶ではあるけど、ぱっと見ただけでどこのお酒かまで分かっちゃうのか。さすがレーブンさん、料理関係の知識も多いんだな。 

「はい、北ノールのお酒です。美味しいけどけっこうきついって聞いたのでちょっと悩んだんですけど…レーブンさんはお酒に強いってハルに教えてもらったので」
「ああ、確かにこれはきつい酒だから贈る相手は選ぶよな」

 そう言いながら瓶を受け取ってくれたレーブンさんは、まじまじと手の中の瓶を見つめている。口の端が少しだけ上がってるから、かなり喜んでもらえてるみたいだ。

「こっちはおつまみです」
「北国ではチーズやナッツを料理に使わずに、つまみにするらしいよ?レーブン、知ってた?」

 ハルがそう尋ねれば、知識として知ってはいるが食べた事は無いと答えが返ってきた。

「アキト、ありがとうな」
「いえ、ゆっくり楽しんでください」
「いや…しかし、この酒は俺が一人で飲むのはもったいないな…アキトは酒は強かったよな?」

 前に飲んで帰ってきてたもんなと続けたレーブンさんの視線は、俺では無くまっすぐハルに向いていた。ハルは、うん、アキトはかなり強い方だよと笑って答えている。

「え?えっと…それはお土産なので…レーブンさんが飲んでください」
「まあそう言うなって、あのなアキト、俺の弟の事は知ってるよな?」
「弟って言うと、白狼亭のローガンさんですよね?」

 ハルの一番お気に入りの、ステーキを出しているお店。その白狼亭の店主が、レーブンさんの双子の弟さんだ。

 レーブンさんと顔立ちはあまり似てなかったけど、筋肉質で強面で、でも笑うと柔らかい雰囲気になる所がよく似ていたのが印象に残っている。しかも俺の事を、レーブンの息子なら俺の甥っ子みたいなものだと笑ってくれた優しい人だ。

「ああ、そうだ」

 ローガンさんとレーブンさんは、二人とも人気の宿とお店をやってるせいで、同じ街に住んでいるのになかなかゆっくりと会う機会は無いらしい。

「まあたまに街中ですれ違っても、元気か?程度しか話さないんだがな」

 そう言ってほのかに笑ったレーブンさんに、ハルはその様子は想像できるよと面白そうに答えている。うん、確かに俺にも想像できたよ。元気か?元気だ。そっちは?元気だ。そうかじゃあまたな。ああ。ってあっさり別れてしまう気がする。

「だからたまには予定を合わせて休みを作って、二人で持ち寄った料理を食べる事にしてるんだ。そうでもしないとろくに会話もしないからなぁ…唯一の家族なのに」

 その食事会でのレーブンさんとローガンさんの話題は、基本的には料理の事なんだそうだ。

 あそこの肉屋の肉は質が良くなったとか、最近冒険者に人気の香草の美味しい使い方とか、持ち寄った料理の改良点についてとかを話すんだって。二人ともあんなに美味しい料理が作れるのに、まだ改良しようとしてるんだと感心してしまった。

「料理の事でも、喋らないよりは良いだろうって事でな」

 少し考えてから、ハルはもしかしてと口を開いた。

「ローガンがアキトの事を聞いた事があるって言ってたのは、その食事会での話なのか」
「ああ、そんな事もあったな」

 さらりと流したレーブンさんは、嬉しそうに俺に向かって口を開いた。

「それが、次はちょうど明日の夜なんだ」
「え、明日ですか?」
「そう、明日だ。今回はここの食堂で、二人で飯を食う予定だったんだが…一緒にどうだ、ハル、アキト」
「え…でも、家族で食事をするための時間なんですよね?」

 楽しそうだとは思うけれど、誘われてわーいって参加できる集まりじゃないと思う。

「そうだな」

 滅多に会えない二人の、邪魔になるのは嫌だ。

「それなのに、俺達がいても良いんですか?」
「アキトも家族みたいなもんだし、ハルもアキトの伴侶候補なら身内みたいなもんだ」

 そうだろうと笑うレーブンさんの笑顔を見て、思わず言葉に詰まってしまった。ハルは俺の背中をぽんっと軽くたたいてから、優しく見つめてくる。

「アキト、ここまで言ってくれてるなら、参加させてもらっても良いんじゃない?」
「アキト、来てくれるか?」
「っ!はいっ!…楽しみにしてますっ!」
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