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600.別れの時間

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 冒険者ギルドへの報告は、結局クリスさん達におまかせする事に決まった。俺達も馬車で移動組なんだし体力はまだ残ってる。ギルドにも一緒に行こうか?ってハルが聞いてくれたんだけどね、カーディに苦笑しながら断られたんだ。

 報告が終わったらクリスさんはすぐに店に戻って作業に入るから、ってのがその理由なんだけどね。魔道具の研究ってなると他が見えなくなるから、間違いなく迷惑をかけるしって愛おしそうに目を細めて言われたら、うん、無理にはついていけないよね。

「今度はストファー魔道具店にも遊びに来てくれよな」
「うん、魔道具にも興味があるし、絶対行く!」
「ハルも、何かあればいつでも頼ってくださいよ?」
「ああ…俺は友人には遠慮なく頼るぞ」
「お待ちしてます」

 そんな会話を交わしてから、クリスさんとカーディはこのまま冒険者ギルドへ向かうからと、あっさりと手を振って去っていった。

「ルセフ達はどうするんだ?」
「そうだな…今日はもうさすがに帰るか」

 このところ依頼に次ぐ依頼だったから、パーティーメンバーで借りてる家に帰ってのんびりしたいそうだ。

 とにかく寝たいよなと既に眠そうな表情のウォルターさんと、お腹減った…としょんぼりしているブレイズ。何故かその隣では、ファリーマさんが次の魔法の理論を考えたいと目を輝かせている。

 え、もしかしてファリーマさん、寝ないつもりなの?俺はギョッとしながらファリーマさんを見つめた。

「まったくそれは明日にしろよ、魔法馬鹿」
「えー…?でもさぁ、思いついた事があって…」
「明日はパーティ全員休みにするからな。寝てから考えた方が効率が良いだろ」
「あー…それもそうか。うん、じゃあそうする!」

 おお、ルセフさんの提案のおかげでちゃんと寝る事になったみたいだ。良かった。

「じゃあ、ここでお別れだね」

 何気なくそう口にした途端、一気に寂しい気持ちに襲われてしまった。また会えると分かっていても、それでもお別れの瞬間はやっぱり寂しい。さっきのクリスさんとカーディの時は、実感する前に去って行ったからな。

「アキトーもうお別れなんて寂しいよー!」
「うわっ…!」

 急にそんな事を叫びながら抱き着いてきたブレイズを、俺は慌てて受け止めた。いや、受け止めようとした――だな。ブレイズの長身を支え切れずに見事に転びかけた所を、ハルの手でそっと抱き支えられてしまった。

 ハル、ありがとう。

「ブレイズ―、お前自分とアキトの身長差考えろ!」

 ウォルターさんの言葉がグサッと突き刺さる。うん、俺の方が年上なのに、ブレイズよりもだいぶ小さいもんね。分かってるけど言われると刺さる。

「そうだぞ!体重だって全然違うんだからな!」

 あの、ファリーマさん、それもしっかり刺さりました。どうせ俺は筋肉も少ないですよ。思いっきり拗ねていた俺の背中を、ハルの手が優しく撫でさすってくれる。落ち着いてと言うような優しい手の動きだ。

「アキト。また会えたら声かけるからね!」
「うん!俺も声かけるね!」

 この世界には気軽に連絡を取る手段ってのが、あんまり無いんだよね。基本は手紙でやりとりするし、当然だけどPCもスマホも無い。メッセージとかも、もちろんやりとりできない。つまり会えるかどうかすら運なんだ。

 また会えるかな。会えるよね。じわりと湧いてくる不安に視線を上げると、ブレイズも同じように不安そうな表情を浮かべていた。

「おいおい、二人してしょんぼりすんなよ!同じ街にいて、しかも同じ冒険者稼業だろう?また会えるさ」
「そうそう」
「今回だって、思ったよりも早く会えたしね」
「そうだよ、アキト」

 口々にそう慰めてくれる皆に、俺とブレイズはくっついたまま思わず笑ってしまった。みんな、本当に優しいな。

「あ、そうだ。ハルとアキトさえ良ければ、一緒に依頼を受けたりもしたいんだけど」
「えっ、依頼っ!…ハル?」

 ルセフさんの言葉に反応はしてしまったけれど、勝手に返事したら駄目だろうと慌てて様子を伺えば、ハルはにっこりと笑ってくれた。

「ルセフ達のパーティーとなら、俺もぜひ参加してみたいよ」
「おっ、じゃあハルの戦いっぷりが近くで見れるって事か!」
「あ、アキトの魔法がまた見れる!?」
「うわー楽しみ!」
「あのな…期待させて悪いけど、そうすぐに良い依頼があるとは限らないからな?」

 ルセフさんは苦笑しながら、テンションの上がった仲間たちをなだめている。分かってるってと言いながらも、皆は嬉しそうに笑い合っている。
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