生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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596.【ハル視点】アキトの謝罪

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 ウマの速度があがった原因が自分たちの実験だと知った途端、アキトはがっくりと肩を落とした。ここまで落ち込んでしまうなら、言わない方が良かっただろうか。

「俺のせいなのか…うわーどうしよう…」
「そんな事ないよ、アキト」
「慰めてくれてありがとう、ハル」

 いや、決してただの慰めってわけじゃない。

 こんな結果になったのは、アキトだけのせいじゃないからな。実験を提案したファリーマも一因ではあるし、なんならウマに魔力を与えるとどうなるかを知っていたのに、止めなかった俺が一番悪いんじゃないか。

 まあ、止めなかったのにも一応理由はあるんだがな。

 基本的にウマというのは魔力の選り好みが激しい。つまりよほど気に入った魔力しか吸収しないものだ。

 まさか全員のウマが揃って気に入った上に、差し出されたわけでもない魔力を勝手に吸収するなんて思わなかったんだよなぁ。驚くほどプライドが高いのに、それを捨ててでも吸収したくなるほどアキトの魔力が魅力的だったって事か。

 そう考えると、一番悪いのは許可も得ずに勝手に吸収したウマ達じゃないか?そんな事を考えている間に、アキトはバッと顔をあげるとクリスとカーディさんに声をかけている。

「クリスさん、カーディ、迷惑かけてごめんなさい」

 しょんぼりと肩を落としたアキトに、カーディさんは大慌てで口を開いた。

「いやいや、速く着くなら俺達は嬉しいぐらいだぞ?な、クリス」
「そうですよ!私は早くあの魔石を加工したいんですから!むしろありがとうございます!」

 その言葉に嘘は無いんだろうが、クリスはちょっと慌てすぎじゃないか?何とかしろと二人揃って俺に視線を送ってくるのはやめてくれ。まあ、不安そうなアキトを放っておいたりしないんだが。

「アキト、どうしても気になるなら、休憩の時にでもウマを操ってる皆に聞いてみたら?」
「聞く?」
「そうそう、ウマが早くて困ってるかとか?」
「あ、そうだよね!聞いてみる!」

 次の休憩でまずちゃんと謝ろってから聞いてみようと決意しているアキトを微笑ましく見守っていると、クリスとカーディさんに心配そうに見られてしまった。

 そんな顔しなくても勝算があるに決まっているだろう。あんなに楽しそうにウマを操ってる奴らが、速度が上がったからって文句を言う筈が無い。むしろ絶対にお礼を言われるぞ。俺はそう確信しながらただ笑みを浮かべた。



 アキトの魔力で強化されたウマ達は、全速力で街道を駆け抜けた。アキトの魔力を勝手に使ってっていうのが少し気に入らないが、圧巻の速度だった。

 クリスの指示で挟んだ休憩時には、アキトは宣言通り丁寧に謝罪をして回った。結果は俺の予想通りだったが。

「え、じゃあこの速さってアキトのおかげなの?アキト、すごいね!」

 ブレイズはそう言って、キラキラと目を輝かせた。この速さならもっと速く弓を引かないと駄目だよねと、嬉しそうに分析を始めている。順応性が高いな。

「ああ、なるほど。それでこんなに速いのか。正直、ここまで速いのは初めてだけどな、速くなるのって楽しいんだな」

 ウォルターはそう言うと、別に制御できない程じゃないしウマはちゃんと障害物は避けてくれるからなとからりと笑った。まあそうだよな。ウマが攻撃しようと思わない限り、障害物は綺麗に避けていくからな。

 アキトは二人に褒められて慌てた様子でルセフに視線を向けたが、ルセフからは苦笑が返ってきた。

「ウマに魔力を与えると早くなるって話は知ってたからな。だからまあ、実験を許可した時からこうなるかもなと思ってたからな、アキトは気にするな」

 優しく笑ってアキトを慰めているが、今の言い方だと魔力の選り好みの件は知らないのかもしれないな。騎士団ではそれぞれのウマに相性の良い魔力持ちを組ませていたが、あれは一般的では無かったんだろうか。

「それに原因っていうなら、アキトよりもどちらかと言うとファリーマだろう?」

 むしろ申し訳ないと、ルセフはアキトに謝罪してみせた。

「なんだよ、俺のせいか?」
「間違いなくそうだろ?」

 厳しいなと口にしたファリーマは、次の瞬間にはアキトに向かって笑いかけていた。

「でもまあ、俺の責任だと俺も思うよ。アキト、心配させてごめんな」
「いえ、そんな」
「あ、ちなみに俺も速度の速い馬は楽しいと思う」
「だよなー」

 やっぱりお前もそうかと嬉しそうなウォルターとファリーマは、ニコニコと楽しそうに笑い合っている。ブレイズが俺も楽しいよーと明るく口にすれば、ルセフもまあ俺も楽しくないとは言えないけどなと笑いだした。

 まあ、そうだよな。むしろ速い馬に慣れる良い機会だと思ってるだろう。

「なあ、それにしても、馬って本当に魔力を提供したら速くなるんだな」

 ルセフから話は聞いてたけど、まさかここまで速度が速くなるとは思ってなかったんだけどとファリーマは感心した様子で続けた。

「これだけ速くなるなら、今度俺もやってみようかな」

 悪戯っぽく笑いながらこぼしたその言葉は、ルセフの耳にもしっかりと届いたらしい。

「ファリーマ、確かに速度が上がるのは嬉しいが…もしやるときは、絶対に事前に許可を得てからにしろよ」
「あー分かってるって、思いつきで勝手に魔力を与えたりしないから」
「そう言いながら、お前は思いついたらすぐ実行するから言ってるんだ」

 爽やかに笑ったファリーマを、ルセフは疑いの眼差しでじーっと見つめている。その隣でブレイズとウォルターは、また速い馬に乗れるかもと大喜びをしている。

 一応、魔力の選り好みの件は後で教えておくべきだろうな。今はまずはアキトを優先するが。

「ね、アキト、誰も怒ってないみたいだね」
「うん、もっと…怒られるかと思ってたのに…」
「俺は大丈夫だって言ったでしょう?」

 優しくアキトの頭を撫でれば、アキトはうんとひとつ頷いてくれた。



 その後も魔力で強化されたウマ達の勢いは少しも衰えなかった。

 そうそう途中でアキトに魔力の影響って残ったりしないの?と聞かれたのには驚いた。ウマの事を本気で心配するアキトの優しさに、抱き着かなかった俺は偉い。
 
 むしろ魔力はあった方が調子が良いぐらいだと伝えれば、ホッと胸を撫で下ろしていた。



「あ、もうそろそろ見えてくるかな」

 俺が告げた言葉に、アキトは慌てて窓にくっついた。ぴたりと窓にくっついて、小さなこどものように外の景色を眺める姿が何とも可愛らしい。

 まだまだ距離はあるが、木々の合間から大きな城壁が一瞬だけ見えた。トライプールの城壁だ。

「あ、見えた。見えたよ!」
「うん、トライプールまでもう少しだね。この辺りからたまに見えるんだ」

 そう説明している間にも、木々の合間からまた城壁が顔を見せる。

「すぐ隠れちゃうけどな」

 カーディさんは少し残念そうにそう答える。

「ええ、でもこの景色を見ると、トライプールに帰ってきたなーと思いませんか?」
「うん、まあ確かにそうだな」
「俺もそう思うよ、アキトは?」

 笑顔で振り返った俺に、アキトは嬉しそうに笑って答えてくれた。

「うん、俺もそう思うよ!」

 トライプールまではもう少しだ。
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