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595.【ハル視点】停留場を後にして
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アキトとファリーマが満足するまで実験を終えた頃、ようやくクリス達が揃って帰ってきた。
いや、むしろ実験が終わるまで、わざとあちらにいるようにしたんだろうな。さすがに自分たちの依頼人がいる場所に魔法を放つ事は無い。そう考えれば護衛の緊張もすこしは減るからな。
ふと目線が合ったクリスに視線だけで謝意を伝えれば、にっこりと笑みが返ってきた。うん、やっぱりそうか。
「アキト、すごかったな」
「ああ、護衛のやつらも魔法制御の上手さに感心してたぞ」
そんな風に笑って褒めたのは、カーディさんとウォルターだ。魔法を使う冒険者が見れば、弟子になりたいと言いかねないぐらいの魔力制御力だからな。
「ええ、それに何故かウマも楽しそうに眺めてましたよ」
クリスは、ふふと笑ってアキトに伝えている。知らなかったとアキトは驚いているが、あれだけ見られていたのに気づいてなかったのか?アキトが魔法の実験をしている間は、周りへの警戒をもっと上げておく必要があるな。
こっそりとそう決意していると、ルセフが俺達の方へと近づいてきた。アキトとファリーマの前に立つと、心底疲れた顔で口を開いた。
「ファリーマ、アキト、ちょっとやりすぎじゃないか…?」
「あ、待って待って、リーダー。俺ちゃんとハルに許可を貰ったからな?」
ファリーマは慌てた様子で言い訳し始めた。そこで俺に振るのか。まあ、アキトのための実験を提案してくれたんだから、援護はするんだけどな。
「そうなのか?ハル?」
「ああ、アキトが練習したいって言ってたし、ちょうど良いかなと」
ルセフを相手にするなら、変に言い訳をするよりもはっきりと自分の意見を言った方が良い。そう判断した俺は、アキトがしたいって言った事を実験すると言われて俺が断るわけが無いだろうと匂わせた。
「まかせる相手を間違えたな」
「それはすまない。だが、有意義な実験だったぞ」
にっこりと笑って答えれば、ルセフはふうとひとつ息を吐いた。
「まあ、あちらの依頼人も護衛のやつらも感心してたから良いけどな」
なんだ、思ったよりも怒ってなかったんだな。
「それは良かった」
ルセフは姿勢を正すと、ファリーマとアキトに向けて柔らかく微笑んだ。
「ファリーマ、アキト。実験の成功おめでとう」
「っ!ありがとう!」
まさかお祝いを言われるとは思ってなかったんだろう。ファリーマはびっくり顔で固まってから、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
「意外だな。ルセフはもっと怒るかと思ってたぞ。さすがにやりすぎだろうとは俺でも思ったしな」
ウォルターの揶揄うような言葉に、ルセフはまあ確かにと口にしてから続けた。
「ただまあ、前にアキトに会ってから、ずーっと考えてたのを知ってるからな。成功して良かったよ」
「ルセフー!ありがとう!」
「あれ?泣いてる?泣いてるの?」
いつの間にか近づいてきていたブレイズが、クスクスと笑いながらファリーマの顔を覗き込む。ファリーマは顔を隠しながら、震える声で叫んだ。
「泣いてないっ!」
後片づけを終えた俺達は、そのまますぐに停留場を後にし領都トライプールに向けて出発した。
クリスとカーディさん、アキトと俺は馬車に乗り、ルセフが御者。ウォルターとブレイズとファリーマは騎乗という昨日と何も変わらない編成だ。
クリスの分析では、このままの速度でいけば夜までにはトライプールに着くという事だった。このままの速度でいけば…な。
「…クリスさん」
アキトが困った顔でクリスに声をかける。
「はい、どうしましたか、アキトさん」
「これ明らかに昨日よりも速くないですか?」
アキトは窓の外の景色をぼんやりと眺めながらそう尋ねた。昨日は外を走ってるブレイズやウォルターを見たり景色を見たりできていたのに、今はできないからな。のんびり景色を楽しむとかそういう速さじゃない。
どちらかというとこれは行軍の速さだな。まあ、原因は明らかなんだが。
「…ええ、明らかに速いですね」
「ここまで速いウマとか初めて乗るな?」
カーディさんは遠い目をしながらぼそりと呟いた。
「ゆっくり休んで元気になった…とか?」
何とも可愛いアキトの予想に、クリスとカーディさんからは苦笑が返った。俺?俺はアキトの可愛さに震えてた。うーん、これは原因を言っておくべき――かな。
「実は俺は…これぐらい速いウマにも乗った事があるんだけど…」
そう切り出せば、全員の視線が一気に集まってきた。さすがハル!詳しいんだねと言いたげなアキトの視線に笑みを返してから続ける。
「よほどの緊急事態だけなんだけどね、ウマに魔力を提供して速度を上げる事があるんだ」
「あー…そういう事か」
「ええ、そういう事でしょうね」
カーディさんもクリスも納得してくれたが、アキトだけはまだ不思議そうに俺を見上げてくる。言い難いけど、はっきり言うしかないか。
「多分あの実験から漏れ出た魔力を、馬が吸収したんだと思うよ」
いや、むしろ実験が終わるまで、わざとあちらにいるようにしたんだろうな。さすがに自分たちの依頼人がいる場所に魔法を放つ事は無い。そう考えれば護衛の緊張もすこしは減るからな。
ふと目線が合ったクリスに視線だけで謝意を伝えれば、にっこりと笑みが返ってきた。うん、やっぱりそうか。
「アキト、すごかったな」
「ああ、護衛のやつらも魔法制御の上手さに感心してたぞ」
そんな風に笑って褒めたのは、カーディさんとウォルターだ。魔法を使う冒険者が見れば、弟子になりたいと言いかねないぐらいの魔力制御力だからな。
「ええ、それに何故かウマも楽しそうに眺めてましたよ」
クリスは、ふふと笑ってアキトに伝えている。知らなかったとアキトは驚いているが、あれだけ見られていたのに気づいてなかったのか?アキトが魔法の実験をしている間は、周りへの警戒をもっと上げておく必要があるな。
こっそりとそう決意していると、ルセフが俺達の方へと近づいてきた。アキトとファリーマの前に立つと、心底疲れた顔で口を開いた。
「ファリーマ、アキト、ちょっとやりすぎじゃないか…?」
「あ、待って待って、リーダー。俺ちゃんとハルに許可を貰ったからな?」
ファリーマは慌てた様子で言い訳し始めた。そこで俺に振るのか。まあ、アキトのための実験を提案してくれたんだから、援護はするんだけどな。
「そうなのか?ハル?」
「ああ、アキトが練習したいって言ってたし、ちょうど良いかなと」
ルセフを相手にするなら、変に言い訳をするよりもはっきりと自分の意見を言った方が良い。そう判断した俺は、アキトがしたいって言った事を実験すると言われて俺が断るわけが無いだろうと匂わせた。
「まかせる相手を間違えたな」
「それはすまない。だが、有意義な実験だったぞ」
にっこりと笑って答えれば、ルセフはふうとひとつ息を吐いた。
「まあ、あちらの依頼人も護衛のやつらも感心してたから良いけどな」
なんだ、思ったよりも怒ってなかったんだな。
「それは良かった」
ルセフは姿勢を正すと、ファリーマとアキトに向けて柔らかく微笑んだ。
「ファリーマ、アキト。実験の成功おめでとう」
「っ!ありがとう!」
まさかお祝いを言われるとは思ってなかったんだろう。ファリーマはびっくり顔で固まってから、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
「意外だな。ルセフはもっと怒るかと思ってたぞ。さすがにやりすぎだろうとは俺でも思ったしな」
ウォルターの揶揄うような言葉に、ルセフはまあ確かにと口にしてから続けた。
「ただまあ、前にアキトに会ってから、ずーっと考えてたのを知ってるからな。成功して良かったよ」
「ルセフー!ありがとう!」
「あれ?泣いてる?泣いてるの?」
いつの間にか近づいてきていたブレイズが、クスクスと笑いながらファリーマの顔を覗き込む。ファリーマは顔を隠しながら、震える声で叫んだ。
「泣いてないっ!」
後片づけを終えた俺達は、そのまますぐに停留場を後にし領都トライプールに向けて出発した。
クリスとカーディさん、アキトと俺は馬車に乗り、ルセフが御者。ウォルターとブレイズとファリーマは騎乗という昨日と何も変わらない編成だ。
クリスの分析では、このままの速度でいけば夜までにはトライプールに着くという事だった。このままの速度でいけば…な。
「…クリスさん」
アキトが困った顔でクリスに声をかける。
「はい、どうしましたか、アキトさん」
「これ明らかに昨日よりも速くないですか?」
アキトは窓の外の景色をぼんやりと眺めながらそう尋ねた。昨日は外を走ってるブレイズやウォルターを見たり景色を見たりできていたのに、今はできないからな。のんびり景色を楽しむとかそういう速さじゃない。
どちらかというとこれは行軍の速さだな。まあ、原因は明らかなんだが。
「…ええ、明らかに速いですね」
「ここまで速いウマとか初めて乗るな?」
カーディさんは遠い目をしながらぼそりと呟いた。
「ゆっくり休んで元気になった…とか?」
何とも可愛いアキトの予想に、クリスとカーディさんからは苦笑が返った。俺?俺はアキトの可愛さに震えてた。うーん、これは原因を言っておくべき――かな。
「実は俺は…これぐらい速いウマにも乗った事があるんだけど…」
そう切り出せば、全員の視線が一気に集まってきた。さすがハル!詳しいんだねと言いたげなアキトの視線に笑みを返してから続ける。
「よほどの緊急事態だけなんだけどね、ウマに魔力を提供して速度を上げる事があるんだ」
「あー…そういう事か」
「ええ、そういう事でしょうね」
カーディさんもクリスも納得してくれたが、アキトだけはまだ不思議そうに俺を見上げてくる。言い難いけど、はっきり言うしかないか。
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