生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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593.【ハル視点】二人の実験開始

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「あ、合図来たよ!」

 ブレイズの声に、俺達は揃って視線を上げた。

 すこし距離があるからさすがに会話の内容までは聞こえないが、どうやら無事に許可は貰えたようだ。あちらの依頼人と会話をしているクリスとカーディさん、護衛と話しているルセフの後ろで、ウォルターが手だけで許可を伝えて来たらしい。うん、やっぱり便利だな、あのサイン。

「やったーっ!やっと実験できる!」

 嬉々として叫んだファリーマを無視して、俺はアキトの手を引いた。

「アキト、ここに立って」

 ここが一番、実験をするのに相応しい場所だろう。あちらと俺達の馬車にも影響が無い方向で、かつウマを刺激しすぎない程度の距離もある。森への延焼の可能性は、ファリーマが潰すだろうという信頼もあった。

 頑張ってねと声をかけてから、俺はアキトの後ろ側へと下がった。もしウマが興奮して向かってきたら、いつでも止めに入れる位置だ。

「ファリーマさん、始めて良い?」
「ああ。実験は段階的に進めて欲しいんだけど…まず最初に、魔力をよーく練ってくれる?」

 ファリーマの指示を受けたアキトは、なんで?と不思議そうにしながらも丁寧に魔力を練り始めた。ウマは揃って顔を上げるとアキトを見つめているが、どうやら敵意はなさそうだ。ただ純度の高い魔力を興味深そうにじっと見つめている。

「え、馬が見てる…?」
「ああ、魔力を練ってるのを見てるんだよ」

 そう告げれば、アキトはへー馬ってすごいんだねと感心している。うん、本当にアキトはウマが好きだよな。ちょっと妬ける。

「ハル、馬の視線だけど、どう思う?」

 ファリーマの質問に、俺はウマを見据えたまま答えた。

「ああ、何をするのかとは思われているだろうが、敵意は感じないよ」

 俺とファリーマ、ブレイズが揃って視線を向けているのに、ウマの視線はアキトだけに固定されている。そんなに見ないで欲しいな。

「それなら良かった。準備は良いね?アキト」

 こくりと頷いたアキトも真剣な表情だ。

「それじゃあ始めようか。アキト、まずはこの木を使ってつぶてを作ってくれる?」
「うん、やってみる」

 実験というのは、何度も挑戦と失敗を繰り返すものだと思うんだが、アキトは俺の予想通り一瞬で木のつぶてを作り上げてみせた。木目の見えるつぶては流線形で、先はしっかりと尖っている。

 美しい形だなと感心したのは俺だけでは無かったらしい。

「その形良いなー」

 ブレイズは狙いやすそうだし綺麗だと呟くと、アキトすごいなと素直に称賛の言葉を口にした。裏表の無い友人からの率直な誉め言葉に、アキトはへへと嬉しそうに笑みを浮かべる。

 それでも魔力は少しも揺らがないのは、さすがアキトだな。
 
「第一段階、成功。次は油か何かが染みてる所を想像して」
「やってみます」

 今度は少し考えこんでしまったアキトは、あっと声を上げると急に魔力を動かした。

 ついさっきまでカラリと乾いていた木製のつぶてに、じわじわと内側から油がにじみ出してくる。油が染みるにつれて色もじわりと変わっていくから、分かりやすい。

「第二段階も成功だね。アキト、次は慎重に火をつけて」

 はいと答えたアキトは、小さな火を操ってあっさりと火を灯してみせた。ふと視線を感じて目を動かせば、あちらの護衛が息をのんで見つめているのが見えた。ここまでの魔力制御ができる人はそう多くないから無理もないか。

「第三段階も成功。最後にあの的を狙ってくれる?」

 そう言ってファリーマが指さしたのは、森の少し手前に立っている立派な的だった。いつの間に用意したんだ。まず間違いなくファリーマの魔法だろうが、俺にも感知させないとはさすがだな。

 アキトは気負わずにあっさりと的を狙ってつぶてを放った。いつもの土魔法と同じぐらいの速度で飛んでいったその火のついたつぶては、あっさりと的の中心を貫いてみせた。途端にぶわりと火に包まれて燃え上がった的を、ファリーマの水魔法が一瞬で消火する。

「第四段階も成功!アキトすごい、すごいよ!ありがとう!」

 ファリーマは近くで見られて良かったと手放しで褒め始めるし、ブレイズは満面の笑顔で拍手をしている。

「さすがアキトだね」

 そう言って笑いかければ、アキトは嬉しそうにくしゃりと笑ってくれた。
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