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592.【ハル視点】実験の許可を
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ルセフの大きなため息に、ファリーマはむっと眉を寄せた。
「なんだよ、ちゃんと許可を取ろうとしてるんだから、ため息吐かなくても良いだろ?」
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマをちらりと見てから、ルセフは今度は俺に視線を向けてきた。ファリーマへの反応はしないんだな。
文句でも言おうとしたのか口を開こうとしたファリーマを止めたのは、ウォルターだった。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりに告げられた言葉に、ファリーマは自分の口をぱしりと両手で塞いだ。黙ってるから早く許可をくれって言いたいんだろうな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら別に反対しないよと、俺は即答した。あんなにワクワクした顔をしているのに、駄目だなんて言えるわけがないだろう。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと視線を向ければ、ファリーマは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが視界の端に見えた。楽しそうで何よりだよ。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。なるほど、そういう実験ならアキトが必要になるのも理解できる。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいらしい。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマは、周りがよく口にする魔法馬鹿ではなく明らかに研究者の目をしていた。うん、これは本当に大丈夫なやつだな。
「その内容なら俺は反対しないよ」
「ハル、ありがとう!」
うん、このありがとうは、許可を出してくれてありがとう――かな。自分がやると決めたんだからと言い張るでも、ハルの許可はいらないでも無く、そこでお礼を言っちゃうあたりがアキトだよなぁ。
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ」
そう口を挟めば、全員の視線が一気に集まってくる。
「あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
そんな話をしていたら、不意にアキトが困った顔でちょいちょいと俺の袖を引いてきた。どことなく不安そうな表情に驚きながら、俺は慌ててアキトに耳を寄せた。
「俺、浄化魔法使いまくってるけど…もしかしてまずかった?」
「浄化魔法は大丈夫だよ。紛らわしい言い方してごめんね、アキト」
不安にさせてしまった事を反省しながら、俺は小声で囁いた。
「攻撃魔法以外は、よっぽど魔力感知ができる相手じゃないとバレないから」
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
怖がらせないようにと優しい笑みを意識しながら微笑めば、アキトはホッと肩の力を抜いた。最初から攻撃魔法はって言ったら良かったな。
何かあったのかとこちらに視線を向けていたルセフにひらりと手を振れば、こちらは問題なしと理解してくれたらしい。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
そう言うなりルセフはすぐに立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
ファリーマは慌てて声をあげたが、にっこりと笑顔で拒絶されていた。
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
「まったく、こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフを止めたのは、意外にもクリスだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフはちらりと俺を見た。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ありがとう、リーダー」
「ハル、ファリーマの見張り頼んだ」
本当に頼むからと見つめてくる視線の圧に、負けそうになるな。まあ拒否するつもりも無いんだが。
「ああ、魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
「なんだよ、ちゃんと許可を取ろうとしてるんだから、ため息吐かなくても良いだろ?」
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマをちらりと見てから、ルセフは今度は俺に視線を向けてきた。ファリーマへの反応はしないんだな。
文句でも言おうとしたのか口を開こうとしたファリーマを止めたのは、ウォルターだった。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりに告げられた言葉に、ファリーマは自分の口をぱしりと両手で塞いだ。黙ってるから早く許可をくれって言いたいんだろうな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら別に反対しないよと、俺は即答した。あんなにワクワクした顔をしているのに、駄目だなんて言えるわけがないだろう。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと視線を向ければ、ファリーマは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが視界の端に見えた。楽しそうで何よりだよ。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。なるほど、そういう実験ならアキトが必要になるのも理解できる。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいらしい。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマは、周りがよく口にする魔法馬鹿ではなく明らかに研究者の目をしていた。うん、これは本当に大丈夫なやつだな。
「その内容なら俺は反対しないよ」
「ハル、ありがとう!」
うん、このありがとうは、許可を出してくれてありがとう――かな。自分がやると決めたんだからと言い張るでも、ハルの許可はいらないでも無く、そこでお礼を言っちゃうあたりがアキトだよなぁ。
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ」
そう口を挟めば、全員の視線が一気に集まってくる。
「あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
そんな話をしていたら、不意にアキトが困った顔でちょいちょいと俺の袖を引いてきた。どことなく不安そうな表情に驚きながら、俺は慌ててアキトに耳を寄せた。
「俺、浄化魔法使いまくってるけど…もしかしてまずかった?」
「浄化魔法は大丈夫だよ。紛らわしい言い方してごめんね、アキト」
不安にさせてしまった事を反省しながら、俺は小声で囁いた。
「攻撃魔法以外は、よっぽど魔力感知ができる相手じゃないとバレないから」
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
怖がらせないようにと優しい笑みを意識しながら微笑めば、アキトはホッと肩の力を抜いた。最初から攻撃魔法はって言ったら良かったな。
何かあったのかとこちらに視線を向けていたルセフにひらりと手を振れば、こちらは問題なしと理解してくれたらしい。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
そう言うなりルセフはすぐに立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
ファリーマは慌てて声をあげたが、にっこりと笑顔で拒絶されていた。
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
「まったく、こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフを止めたのは、意外にもクリスだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフはちらりと俺を見た。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ありがとう、リーダー」
「ハル、ファリーマの見張り頼んだ」
本当に頼むからと見つめてくる視線の圧に、負けそうになるな。まあ拒否するつもりも無いんだが。
「ああ、魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
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