生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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591.【ハル視点】停留場の朝

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 どれだけ会話を楽しんでいても、今は護衛としての見張り中である事に変わりは無い。俺は周囲の警戒をしながらも、なんでもないような顔をして普通に会話をし続けていた。こういうのは慣れだからな。

 アキトの気配がテント内で動いているのに気づいたのは当然だった。

 もう少ししたら会話を中断してでも、アキトを起こしに行こうかなと思っていたんだけどな。アキトは別にウォルターみたいに、起こされないと起きないわけじゃない。

 ただ、起こした時のふにゃりとした笑顔と、寝起きで舌足らずなおはようの挨拶を俺が聞きたいだけだ。

 今日はアキトはすぐにテントから這い出してきた。

「アキト?」
「おはよう、ハル」

 よし、寝起きすぐの舌足らずなおはようでは無いなと、少しだけ安心してしまう。あれは俺だけが知っていれば良いアキトの可愛い所だからな。

「ああ、おはよう。よく眠れた?」
「ぐっすりだったよ。すっきり目が覚めたぐらいよく寝たー」

 へへへと笑いながら少し自慢げに答えるアキトが可愛いすぎて、自然と笑みがこぼれてしまった。

「おはよう、アキト」
「おはよ、起こされる前に自分で起きてくるとかすごいな、アキト」

 ルセフとウォルターの挨拶に、アキトも笑顔でおはようございますと返している。少し困った顔をしているのは、多分ウォルターの誉め言葉にだろうな。ただ自分で起きてきただけで褒められてもと思っているのが、手に取るように分かった。

 ちょいちょいと手招きをすれば、アキトはすぐに俺に近づいてきてくれた。ルセフが空けてくれた空間に、きちんと礼を言ってから腰を下ろす。

「アキト、はいこれ」

 果実水が入ったカップを差し出せば、アキトは嬉しそうに笑みをこぼした。

「ありがとう、ハル」

 アキトは最近は朝に飲むなら、これが一番のお気に入りだからな。すっきりとした酸味のある果実水で、一般的に好き嫌いはかなり分かれるものだが、キラキラと目を輝かせているからアキトの好物なのは間違いない。

「なんだ…花茶じゃないのか?」

 少し不思議そうにウォルターがそう尋ねてきた。

 アキトが好きだから花茶を淹れる練習をしたと知った後だからこそ、何故果実水なのかと気になったんだろうな。アキトは寝起きに花茶は飲まないからなとあっさりと答えを返せば、ルセフとウォルターから生暖かい視線を向けられた。

 聞いておいてその視線はちょっと失礼じゃないか?とは思ったが、アキトがなんで分かるんだろうと嬉しそうにしているのが可愛いかったから、俺はちらりと睨むだけで何も言わなかった。



 しばらくすると、ブレイズもファリーマも自主的に起きだしてきた。

 ウォルターはその度におおげさに驚いていたけれど、ブレイズとファリーマにも綺麗に流されていた。まあそうなるだろうな。

 最後にクリスに手を引かれた無表情なカーディさんが馬車から下りてくれば、全員が集まった。そういえばカーディさんは寝起きが悪いんだったな。デレデレしながらクリスが世話を焼いているから、あそこは全てクリスにまかせておけば問題は無いだろう。

「全員揃ったな。おはよう、それじゃあさっそく朝食にしようか」

 アキトが起きだしてくる前から調理を始めていたルセフは、しこんでいたスープを惜しみなく全員に配ってくれた。軽く焚火であぶったパンを浸して食べれば、食べ応えもあるし文句なく美味い。

 アキトの幸せそうな笑顔を見ていると、こういうスープをもっと色々作れるようにならないとなと使命感が湧いてくる。さっきの作り方はしっかりと観察させてもらったし。今度作ってみようか。



 食事を終えたらすぐに出発をするのかと思っていたが、もう急がなくても今日中にトライプールに着くからとしばらく自由時間となった。

 さて何をして待つかなと考えていた俺の視線の先で、アキトがハッと顔を上げてファリーマに視線を向けた。視線が合ったらしいファリーマも、ニッと嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ルセフ。自由時間なら、今からアキトと魔法の実験したいんだけど…良いかな?」

 はいっと元気に手を上げて尋ねたファリーマをまじまじと見つめてから、ルセフは疲れた様子でゆるく首を振った。

「あのな、ファリーマ。今は依頼中なんだから、俺じゃなくて依頼人に聞いてくれ」

 判断はまかせますとルセフは申し訳なさそうに、クリスとカーディさんに視線を向けた。普通の依頼人ならそんな事は後でやれと言うかもしれないが、ここにいるのは規格外の依頼人だからな。

「あ、クリスさん、カーディさん、アキトの魔法の実験しても良いですか?」
「えーと、魔法の実験…ですか。カーディ?」
「ああ、良いんじゃないか。俺は別に気にしないぞ」
「カーディが気にしないなら、私たちは問題ありません」

 まあこの二人ならそう言うよな。

「え…良いんですか?」

 あっさりと許可が出た事に心底驚いたらしいルセフは、気を取り直すと今度はアキトへと視線を向けた。

「アキト、こんな事を言ってるけど…実験を手伝うって約束したのか?」
「あ、はい。面白そうな話だったので、俺も気になってます!」
「そうか…」
「むしろ俺が時間も考えずに実験しそうだった所を、ファリーマさんは止めてくれたぐらいなんですよ」

 自分の意思で参加するんですと慌てて言葉を付け足したアキトに、ファリーマはよく言ってくれたと言いたげな満足そうな笑みを浮かべている。

 ルセフはそんなファリーマをちらりと見てから、ふーとひとつ大きなため息を吐いた。
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