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590.爆走馬車
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俺とファリーマさんのあの実験からたくさん魔力を吸収したらしい馬達は、それはもう驚くほどに元気いっぱいだった。
楽しそうに嬉しそうに、全速力で街道を駆け抜けた。馬車を何台抜いたのかは、途中で数えるのを止めた。よく見えなかったけど、多分すれ違った人達は皆揃ってぽかんと口を開けてたんじゃないかな。そう考えてしまうぐらい、ものすごいスピードだった。
一応ね、俺のせいだって分かったから、途中で休憩を取った時にルセフさん達にはちゃんと謝ったんだよ。
いきなり速くなった馬に振り回されてるのはルセフさん達なんだし、きっと怒られるだろうなと覚悟して謝ったんだけど、返ってきたのは予想外の反応だった。
「え、じゃあこの速さってアキトのおかげなの?アキト、すごいね!」
ブレイズには、何故かキラキラと尊敬の眼差しで見つめられた。この速さならもっと速く弓を引かないと駄目だよねと、嬉しそうに分析を始めてるみたいだ。気になるのは、そこなんだね、ブレイズ。
「ああ、なるほど。それでこんなに速いのか。正直、ここまで速いのは初めてだけどな、速くなるのって楽しいんだな」
ウォルターさんはそう言うと、別に制御できない程じゃないし馬はちゃんと障害物は避けてくれるからなとからりと笑った。えっと、そういう問題なのかな?
まさかの展開に驚きながら、でもさすがにルセフさんは叱ってくれるかなと視線を向ければ、苦笑を浮かべられてしまった。なんでもルセフさんは、魔力を与えると馬が速くなるって話を以前から知ってたらしい。
「だからまあ、実験を許可した時からこうなるかもなと思ってたからな、アキトは気にするな。それに原因っていうなら、アキトよりもどちらかと言うとファリーマだろう?」
むしろ申し訳ないと、何故か謝り返されてしまった。
「なんだよ、俺のせいか?」
「間違いなくそうだろ?」
厳しいなと口にしたファリーマさんは、次の瞬間には俺に向かって笑いかけてくれた。
「でもまあ、俺の責任だと俺も思うよ。アキト、心配させてごめんな」
「いえ、そんな」
「あ、ちなみに俺も速度の速い馬は楽しいと思う」
「だよなー」
やっぱりお前もそうかと嬉しそうなウォルターさんと、ファリーマさんはニコニコと笑い合っている。ブレイズが俺も楽しいよーと明るく口にすれば、ルセフさんもまあ俺も楽しくないとは言えないけどなと笑いだした。
みんな急に速くなった馬に戸惑うどころか、思いっきり楽しんでたらしい。すごいな、逞しい。
「なあ、それにしても、馬って本当に魔力を提供したら速くなるんだな」
ルセフから話は聞いてたけど、まさかここまで速度が速くなるとは思ってなかったんだけどとファリーマさんは感心した様子で続けた。
「これだけ速くなるなら、今度俺もやってみようかな」
悪戯っぽく笑いながらこぼしたその言葉は、ルセフさんの耳にもばっちりと届いたらしい。
「ファリーマ、確かに速度が上がるのは嬉しいが…もしやるときは、絶対に事前に許可を得てからにしろよ」
「あー分かってるって、思いつきで勝手に魔力を与えたりしないから」
「そう言いながら、お前は思いついたらすぐ実行するから言ってるんだ」
爽やかに笑ったファリーマさんを、ルセフさんは疑いの眼差しでじーっと見つめていた。その隣でブレイズとウォルターさんは、また速い馬に乗れるって大喜びしてたけどね。
本当に楽しそうな皆の姿に、自然と入っていた肩の力が抜けた。
「ね、アキト、誰も怒ってないみたいだね」
「うん、もっと…怒られるかと思ってたのに…」
「俺は大丈夫だって言ったでしょう?」
ハルの手が優しく頭を撫でてくれるのを感じながら、俺はうんとひとつ頷いた。
馬達は何度かの休憩を挟んでも、絶好調のままだった。
一体どれだけの魔力を吸収したんだろう。馬の身体に何か影響は無いのか心配になったけど、ハルいわくむしろ魔力はあった方が調子が良いぐらいだから何の問題も無いらしい。そっか、良かった。俺のせいで馬に何かあったら、どうしようかと思ったよ。
「あ、もうそろそろ見えてくるかな」
ハルの言葉に、窓にくっついて外の景色を眺めてみる。まだまだ距離はあるけれど、木々の合間から大きな城壁が一瞬だけ見えた。
「あ、見えた。見えたよ!」
見慣れたあの大きな壁は、間違いなくトライプールのものだ。
「うん、トライプールまでもう少しだね。この辺りからたまに見えるんだ」
そう説明されている間にも、木々の合間からまた城壁が顔を見せる。
「すぐ隠れちゃうけどな」
カーディは少し残念そうにそう口にした。
「ええ、でもこの景色を見ると、トライプールに帰ってきたなーと思いませんか?」
「うん、まあ確かにそうだな」
「俺もそう思うよ、アキトは?」
笑顔で振り返ったハルに、俺は笑って答えた。
「うん、俺もそう思うよ!」
トライプールまではもう少しだ。
楽しそうに嬉しそうに、全速力で街道を駆け抜けた。馬車を何台抜いたのかは、途中で数えるのを止めた。よく見えなかったけど、多分すれ違った人達は皆揃ってぽかんと口を開けてたんじゃないかな。そう考えてしまうぐらい、ものすごいスピードだった。
一応ね、俺のせいだって分かったから、途中で休憩を取った時にルセフさん達にはちゃんと謝ったんだよ。
いきなり速くなった馬に振り回されてるのはルセフさん達なんだし、きっと怒られるだろうなと覚悟して謝ったんだけど、返ってきたのは予想外の反応だった。
「え、じゃあこの速さってアキトのおかげなの?アキト、すごいね!」
ブレイズには、何故かキラキラと尊敬の眼差しで見つめられた。この速さならもっと速く弓を引かないと駄目だよねと、嬉しそうに分析を始めてるみたいだ。気になるのは、そこなんだね、ブレイズ。
「ああ、なるほど。それでこんなに速いのか。正直、ここまで速いのは初めてだけどな、速くなるのって楽しいんだな」
ウォルターさんはそう言うと、別に制御できない程じゃないし馬はちゃんと障害物は避けてくれるからなとからりと笑った。えっと、そういう問題なのかな?
まさかの展開に驚きながら、でもさすがにルセフさんは叱ってくれるかなと視線を向ければ、苦笑を浮かべられてしまった。なんでもルセフさんは、魔力を与えると馬が速くなるって話を以前から知ってたらしい。
「だからまあ、実験を許可した時からこうなるかもなと思ってたからな、アキトは気にするな。それに原因っていうなら、アキトよりもどちらかと言うとファリーマだろう?」
むしろ申し訳ないと、何故か謝り返されてしまった。
「なんだよ、俺のせいか?」
「間違いなくそうだろ?」
厳しいなと口にしたファリーマさんは、次の瞬間には俺に向かって笑いかけてくれた。
「でもまあ、俺の責任だと俺も思うよ。アキト、心配させてごめんな」
「いえ、そんな」
「あ、ちなみに俺も速度の速い馬は楽しいと思う」
「だよなー」
やっぱりお前もそうかと嬉しそうなウォルターさんと、ファリーマさんはニコニコと笑い合っている。ブレイズが俺も楽しいよーと明るく口にすれば、ルセフさんもまあ俺も楽しくないとは言えないけどなと笑いだした。
みんな急に速くなった馬に戸惑うどころか、思いっきり楽しんでたらしい。すごいな、逞しい。
「なあ、それにしても、馬って本当に魔力を提供したら速くなるんだな」
ルセフから話は聞いてたけど、まさかここまで速度が速くなるとは思ってなかったんだけどとファリーマさんは感心した様子で続けた。
「これだけ速くなるなら、今度俺もやってみようかな」
悪戯っぽく笑いながらこぼしたその言葉は、ルセフさんの耳にもばっちりと届いたらしい。
「ファリーマ、確かに速度が上がるのは嬉しいが…もしやるときは、絶対に事前に許可を得てからにしろよ」
「あー分かってるって、思いつきで勝手に魔力を与えたりしないから」
「そう言いながら、お前は思いついたらすぐ実行するから言ってるんだ」
爽やかに笑ったファリーマさんを、ルセフさんは疑いの眼差しでじーっと見つめていた。その隣でブレイズとウォルターさんは、また速い馬に乗れるって大喜びしてたけどね。
本当に楽しそうな皆の姿に、自然と入っていた肩の力が抜けた。
「ね、アキト、誰も怒ってないみたいだね」
「うん、もっと…怒られるかと思ってたのに…」
「俺は大丈夫だって言ったでしょう?」
ハルの手が優しく頭を撫でてくれるのを感じながら、俺はうんとひとつ頷いた。
馬達は何度かの休憩を挟んでも、絶好調のままだった。
一体どれだけの魔力を吸収したんだろう。馬の身体に何か影響は無いのか心配になったけど、ハルいわくむしろ魔力はあった方が調子が良いぐらいだから何の問題も無いらしい。そっか、良かった。俺のせいで馬に何かあったら、どうしようかと思ったよ。
「あ、もうそろそろ見えてくるかな」
ハルの言葉に、窓にくっついて外の景色を眺めてみる。まだまだ距離はあるけれど、木々の合間から大きな城壁が一瞬だけ見えた。
「あ、見えた。見えたよ!」
見慣れたあの大きな壁は、間違いなくトライプールのものだ。
「うん、トライプールまでもう少しだね。この辺りからたまに見えるんだ」
そう説明されている間にも、木々の合間からまた城壁が顔を見せる。
「すぐ隠れちゃうけどな」
カーディは少し残念そうにそう口にした。
「ええ、でもこの景色を見ると、トライプールに帰ってきたなーと思いませんか?」
「うん、まあ確かにそうだな」
「俺もそう思うよ、アキトは?」
笑顔で振り返ったハルに、俺は笑って答えた。
「うん、俺もそう思うよ!」
トライプールまではもう少しだ。
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