589 / 1,103
588.もうひとつの実験
しおりを挟む
皆に褒められたら、本当に成功したんだなって実感がやっと湧いてきた。じわじわと湧き上がってくる嬉しさを感じながら、俺はバッとファリーマさんを振り返った。
急な俺の動きに、ファリーマさんはかなり驚いたみたいだった。まん丸な目をして俺を見ていたけど謝るのは後回しだ。だって今はどうしても言いたい事があるから。
「ファリーマさん、この魔法すごいです!」
「ああ、ありがとう、アキト。でも、成功したのはアキトのおかげだからな?」
理論上はともかく俺には実行できなかったんだからなと、ファリーマさんは苦笑しながら続けた。いやいや、実行はできなかったとしても、この魔法は間違いなくファリーマさんのおかげだよ。
「でも、俺こんな風に組み合わせて魔法を作るって考えた事も無かったから…やっぱりファリーマさんの方がすごいと思います」
「いや、実行できなかったら意味は無いだろう?アキトの方がすごいよ」
「いいえ、ファリーマさんの方が…」
更に言いつのる俺と、全力で否定するファリーマさん。でもここはそう簡単には引けないよね。だってファリーマさんはすごいんだから。
むむむと見つめ合う俺達に、ブレイズが笑いながら声をかけてきた。
「どっちもすごいで良いんじゃない?」
「ああ、そうだな。ファリーマもアキトもどっちもすごいよ」
優しく諭すように、ハルからもそう声をかけられてしまった。俺とファリーマさんは、顔を見合わせてから二人揃って笑ってしまった。
「ああそうだな、せっかく実験が成功したんだからどっちもすごいで良いか」
「そうですね」
ブレイズとハルの温かい視線が、ちょっとだけ恥ずかしい。ハルはさ、いつもの事だから慣れてるんだ。でも、ブレイズは年下なのに…すごく大人な視線で見られてる。俺と同じく恥ずかしそうにしていたファリーマさんは、話を切り替えるように声をあげた。
「なあ、ところでさ、この魔法の使い心地はどうだった?」
「あ、すごく制御しやすかったですよ。魔力も思ったより減りません」
「そうなのか」
「そもそも俺、火魔法だとここまで制御できないんですよ」
「そうなのか?焚火に火をつけるのは上手かったけど?」
「えっと、火をつけるのはできるんですけど、的めがけて飛ばすのが無理なんです」
火魔法を使って火をつけるーとか、燃え上がらせるーとかは簡単に出来るんだけど、火の玉を飛ばすってのが難しいんだよね。火の玉って想像しちゃうからなのかな。その辺をふよふよと漂わせる事はできるんだけど、的に向かって飛ばすってのが本当に難しい。
俺には向いてないんだって諦めてたんだけど、この魔法なら大丈夫みたいだ。
「ファリーマさん、これからもこの魔法って使っても良いんですか?」
「ああ、それはもちろん。使ってくれた方が嬉しいよ」
「っ!ありがとうございます!」
やった。使って良いって言ってくれた。
「慣れればもっと素早く発動できるかな」
練習しないとなと呟いた俺を、ファリーマさんはじっと見つめてから口を開いた。
「ハル、もう一個だけ実験を追加しても良いかな?」
あ、ハルに聞くんだ。ルセフさんはまだあっちにいるし、監視を頼まれてたのがハルだからかな。ハルは面白そうに笑って答えた。
「ん?内容にもよるね。後アキトの気分次第?」
「内容は、今の実験をどこまで短縮して行えるかどうかっていう実験なんだけど…」
真剣な顔で言ってるけど、要は俺が言った慣れればもっと素早く発動できるかなって疑問を解消しようとしてくれてるって事だよね。
「ああ、そういう検証のための実験なら俺に文句は無いよ。ちなみにアキトは?」
答えは知ってるけどと言いたげな悪戯っぽいハルの笑みに、俺はハイッと元気に挙手をしてから答えた。
「やりたいです!」
「よっし、じゃあ次は全部を連続して行ってみようか」
「連続して?」
「そう。最終的には一瞬で発動できるようにならないかな?」
理論的には無理じゃないと思うんだけどと言うファリーマさんに、俺は笑顔でやってみましょうと答えた。
そこからは何度も何度も魔法の発動を繰り返した。連続して発動するっていうのはあっさりとできたのに、一瞬で発動するようにってなると一気に難易度があがったんだ。
でも難易度があがると、逆に燃えてくるよね。
ファリーマさんにアドバイスをもらい、ブレイズに明るく応援され、ハルに褒められながら、魔法の精度はどんどん上がっていった。
最終的には一瞬で火がついたつぶてを出せるようになったし、何個かまとめて発動する事もできるようになった。
これでファーレスウルフにも対抗できそうだと言った俺に、ブレイズとファリーマさんの困ったような視線が突き刺さった。え、なんで?
「アキト、ファーレスウルフはそうそう遭遇しない魔物だからね」
あ、そうなんだ。
急な俺の動きに、ファリーマさんはかなり驚いたみたいだった。まん丸な目をして俺を見ていたけど謝るのは後回しだ。だって今はどうしても言いたい事があるから。
「ファリーマさん、この魔法すごいです!」
「ああ、ありがとう、アキト。でも、成功したのはアキトのおかげだからな?」
理論上はともかく俺には実行できなかったんだからなと、ファリーマさんは苦笑しながら続けた。いやいや、実行はできなかったとしても、この魔法は間違いなくファリーマさんのおかげだよ。
「でも、俺こんな風に組み合わせて魔法を作るって考えた事も無かったから…やっぱりファリーマさんの方がすごいと思います」
「いや、実行できなかったら意味は無いだろう?アキトの方がすごいよ」
「いいえ、ファリーマさんの方が…」
更に言いつのる俺と、全力で否定するファリーマさん。でもここはそう簡単には引けないよね。だってファリーマさんはすごいんだから。
むむむと見つめ合う俺達に、ブレイズが笑いながら声をかけてきた。
「どっちもすごいで良いんじゃない?」
「ああ、そうだな。ファリーマもアキトもどっちもすごいよ」
優しく諭すように、ハルからもそう声をかけられてしまった。俺とファリーマさんは、顔を見合わせてから二人揃って笑ってしまった。
「ああそうだな、せっかく実験が成功したんだからどっちもすごいで良いか」
「そうですね」
ブレイズとハルの温かい視線が、ちょっとだけ恥ずかしい。ハルはさ、いつもの事だから慣れてるんだ。でも、ブレイズは年下なのに…すごく大人な視線で見られてる。俺と同じく恥ずかしそうにしていたファリーマさんは、話を切り替えるように声をあげた。
「なあ、ところでさ、この魔法の使い心地はどうだった?」
「あ、すごく制御しやすかったですよ。魔力も思ったより減りません」
「そうなのか」
「そもそも俺、火魔法だとここまで制御できないんですよ」
「そうなのか?焚火に火をつけるのは上手かったけど?」
「えっと、火をつけるのはできるんですけど、的めがけて飛ばすのが無理なんです」
火魔法を使って火をつけるーとか、燃え上がらせるーとかは簡単に出来るんだけど、火の玉を飛ばすってのが難しいんだよね。火の玉って想像しちゃうからなのかな。その辺をふよふよと漂わせる事はできるんだけど、的に向かって飛ばすってのが本当に難しい。
俺には向いてないんだって諦めてたんだけど、この魔法なら大丈夫みたいだ。
「ファリーマさん、これからもこの魔法って使っても良いんですか?」
「ああ、それはもちろん。使ってくれた方が嬉しいよ」
「っ!ありがとうございます!」
やった。使って良いって言ってくれた。
「慣れればもっと素早く発動できるかな」
練習しないとなと呟いた俺を、ファリーマさんはじっと見つめてから口を開いた。
「ハル、もう一個だけ実験を追加しても良いかな?」
あ、ハルに聞くんだ。ルセフさんはまだあっちにいるし、監視を頼まれてたのがハルだからかな。ハルは面白そうに笑って答えた。
「ん?内容にもよるね。後アキトの気分次第?」
「内容は、今の実験をどこまで短縮して行えるかどうかっていう実験なんだけど…」
真剣な顔で言ってるけど、要は俺が言った慣れればもっと素早く発動できるかなって疑問を解消しようとしてくれてるって事だよね。
「ああ、そういう検証のための実験なら俺に文句は無いよ。ちなみにアキトは?」
答えは知ってるけどと言いたげな悪戯っぽいハルの笑みに、俺はハイッと元気に挙手をしてから答えた。
「やりたいです!」
「よっし、じゃあ次は全部を連続して行ってみようか」
「連続して?」
「そう。最終的には一瞬で発動できるようにならないかな?」
理論的には無理じゃないと思うんだけどと言うファリーマさんに、俺は笑顔でやってみましょうと答えた。
そこからは何度も何度も魔法の発動を繰り返した。連続して発動するっていうのはあっさりとできたのに、一瞬で発動するようにってなると一気に難易度があがったんだ。
でも難易度があがると、逆に燃えてくるよね。
ファリーマさんにアドバイスをもらい、ブレイズに明るく応援され、ハルに褒められながら、魔法の精度はどんどん上がっていった。
最終的には一瞬で火がついたつぶてを出せるようになったし、何個かまとめて発動する事もできるようになった。
これでファーレスウルフにも対抗できそうだと言った俺に、ブレイズとファリーマさんの困ったような視線が突き刺さった。え、なんで?
「アキト、ファーレスウルフはそうそう遭遇しない魔物だからね」
あ、そうなんだ。
169
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる