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588.もうひとつの実験
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皆に褒められたら、本当に成功したんだなって実感がやっと湧いてきた。じわじわと湧き上がってくる嬉しさを感じながら、俺はバッとファリーマさんを振り返った。
急な俺の動きに、ファリーマさんはかなり驚いたみたいだった。まん丸な目をして俺を見ていたけど謝るのは後回しだ。だって今はどうしても言いたい事があるから。
「ファリーマさん、この魔法すごいです!」
「ああ、ありがとう、アキト。でも、成功したのはアキトのおかげだからな?」
理論上はともかく俺には実行できなかったんだからなと、ファリーマさんは苦笑しながら続けた。いやいや、実行はできなかったとしても、この魔法は間違いなくファリーマさんのおかげだよ。
「でも、俺こんな風に組み合わせて魔法を作るって考えた事も無かったから…やっぱりファリーマさんの方がすごいと思います」
「いや、実行できなかったら意味は無いだろう?アキトの方がすごいよ」
「いいえ、ファリーマさんの方が…」
更に言いつのる俺と、全力で否定するファリーマさん。でもここはそう簡単には引けないよね。だってファリーマさんはすごいんだから。
むむむと見つめ合う俺達に、ブレイズが笑いながら声をかけてきた。
「どっちもすごいで良いんじゃない?」
「ああ、そうだな。ファリーマもアキトもどっちもすごいよ」
優しく諭すように、ハルからもそう声をかけられてしまった。俺とファリーマさんは、顔を見合わせてから二人揃って笑ってしまった。
「ああそうだな、せっかく実験が成功したんだからどっちもすごいで良いか」
「そうですね」
ブレイズとハルの温かい視線が、ちょっとだけ恥ずかしい。ハルはさ、いつもの事だから慣れてるんだ。でも、ブレイズは年下なのに…すごく大人な視線で見られてる。俺と同じく恥ずかしそうにしていたファリーマさんは、話を切り替えるように声をあげた。
「なあ、ところでさ、この魔法の使い心地はどうだった?」
「あ、すごく制御しやすかったですよ。魔力も思ったより減りません」
「そうなのか」
「そもそも俺、火魔法だとここまで制御できないんですよ」
「そうなのか?焚火に火をつけるのは上手かったけど?」
「えっと、火をつけるのはできるんですけど、的めがけて飛ばすのが無理なんです」
火魔法を使って火をつけるーとか、燃え上がらせるーとかは簡単に出来るんだけど、火の玉を飛ばすってのが難しいんだよね。火の玉って想像しちゃうからなのかな。その辺をふよふよと漂わせる事はできるんだけど、的に向かって飛ばすってのが本当に難しい。
俺には向いてないんだって諦めてたんだけど、この魔法なら大丈夫みたいだ。
「ファリーマさん、これからもこの魔法って使っても良いんですか?」
「ああ、それはもちろん。使ってくれた方が嬉しいよ」
「っ!ありがとうございます!」
やった。使って良いって言ってくれた。
「慣れればもっと素早く発動できるかな」
練習しないとなと呟いた俺を、ファリーマさんはじっと見つめてから口を開いた。
「ハル、もう一個だけ実験を追加しても良いかな?」
あ、ハルに聞くんだ。ルセフさんはまだあっちにいるし、監視を頼まれてたのがハルだからかな。ハルは面白そうに笑って答えた。
「ん?内容にもよるね。後アキトの気分次第?」
「内容は、今の実験をどこまで短縮して行えるかどうかっていう実験なんだけど…」
真剣な顔で言ってるけど、要は俺が言った慣れればもっと素早く発動できるかなって疑問を解消しようとしてくれてるって事だよね。
「ああ、そういう検証のための実験なら俺に文句は無いよ。ちなみにアキトは?」
答えは知ってるけどと言いたげな悪戯っぽいハルの笑みに、俺はハイッと元気に挙手をしてから答えた。
「やりたいです!」
「よっし、じゃあ次は全部を連続して行ってみようか」
「連続して?」
「そう。最終的には一瞬で発動できるようにならないかな?」
理論的には無理じゃないと思うんだけどと言うファリーマさんに、俺は笑顔でやってみましょうと答えた。
そこからは何度も何度も魔法の発動を繰り返した。連続して発動するっていうのはあっさりとできたのに、一瞬で発動するようにってなると一気に難易度があがったんだ。
でも難易度があがると、逆に燃えてくるよね。
ファリーマさんにアドバイスをもらい、ブレイズに明るく応援され、ハルに褒められながら、魔法の精度はどんどん上がっていった。
最終的には一瞬で火がついたつぶてを出せるようになったし、何個かまとめて発動する事もできるようになった。
これでファーレスウルフにも対抗できそうだと言った俺に、ブレイズとファリーマさんの困ったような視線が突き刺さった。え、なんで?
「アキト、ファーレスウルフはそうそう遭遇しない魔物だからね」
あ、そうなんだ。
急な俺の動きに、ファリーマさんはかなり驚いたみたいだった。まん丸な目をして俺を見ていたけど謝るのは後回しだ。だって今はどうしても言いたい事があるから。
「ファリーマさん、この魔法すごいです!」
「ああ、ありがとう、アキト。でも、成功したのはアキトのおかげだからな?」
理論上はともかく俺には実行できなかったんだからなと、ファリーマさんは苦笑しながら続けた。いやいや、実行はできなかったとしても、この魔法は間違いなくファリーマさんのおかげだよ。
「でも、俺こんな風に組み合わせて魔法を作るって考えた事も無かったから…やっぱりファリーマさんの方がすごいと思います」
「いや、実行できなかったら意味は無いだろう?アキトの方がすごいよ」
「いいえ、ファリーマさんの方が…」
更に言いつのる俺と、全力で否定するファリーマさん。でもここはそう簡単には引けないよね。だってファリーマさんはすごいんだから。
むむむと見つめ合う俺達に、ブレイズが笑いながら声をかけてきた。
「どっちもすごいで良いんじゃない?」
「ああ、そうだな。ファリーマもアキトもどっちもすごいよ」
優しく諭すように、ハルからもそう声をかけられてしまった。俺とファリーマさんは、顔を見合わせてから二人揃って笑ってしまった。
「ああそうだな、せっかく実験が成功したんだからどっちもすごいで良いか」
「そうですね」
ブレイズとハルの温かい視線が、ちょっとだけ恥ずかしい。ハルはさ、いつもの事だから慣れてるんだ。でも、ブレイズは年下なのに…すごく大人な視線で見られてる。俺と同じく恥ずかしそうにしていたファリーマさんは、話を切り替えるように声をあげた。
「なあ、ところでさ、この魔法の使い心地はどうだった?」
「あ、すごく制御しやすかったですよ。魔力も思ったより減りません」
「そうなのか」
「そもそも俺、火魔法だとここまで制御できないんですよ」
「そうなのか?焚火に火をつけるのは上手かったけど?」
「えっと、火をつけるのはできるんですけど、的めがけて飛ばすのが無理なんです」
火魔法を使って火をつけるーとか、燃え上がらせるーとかは簡単に出来るんだけど、火の玉を飛ばすってのが難しいんだよね。火の玉って想像しちゃうからなのかな。その辺をふよふよと漂わせる事はできるんだけど、的に向かって飛ばすってのが本当に難しい。
俺には向いてないんだって諦めてたんだけど、この魔法なら大丈夫みたいだ。
「ファリーマさん、これからもこの魔法って使っても良いんですか?」
「ああ、それはもちろん。使ってくれた方が嬉しいよ」
「っ!ありがとうございます!」
やった。使って良いって言ってくれた。
「慣れればもっと素早く発動できるかな」
練習しないとなと呟いた俺を、ファリーマさんはじっと見つめてから口を開いた。
「ハル、もう一個だけ実験を追加しても良いかな?」
あ、ハルに聞くんだ。ルセフさんはまだあっちにいるし、監視を頼まれてたのがハルだからかな。ハルは面白そうに笑って答えた。
「ん?内容にもよるね。後アキトの気分次第?」
「内容は、今の実験をどこまで短縮して行えるかどうかっていう実験なんだけど…」
真剣な顔で言ってるけど、要は俺が言った慣れればもっと素早く発動できるかなって疑問を解消しようとしてくれてるって事だよね。
「ああ、そういう検証のための実験なら俺に文句は無いよ。ちなみにアキトは?」
答えは知ってるけどと言いたげな悪戯っぽいハルの笑みに、俺はハイッと元気に挙手をしてから答えた。
「やりたいです!」
「よっし、じゃあ次は全部を連続して行ってみようか」
「連続して?」
「そう。最終的には一瞬で発動できるようにならないかな?」
理論的には無理じゃないと思うんだけどと言うファリーマさんに、俺は笑顔でやってみましょうと答えた。
そこからは何度も何度も魔法の発動を繰り返した。連続して発動するっていうのはあっさりとできたのに、一瞬で発動するようにってなると一気に難易度があがったんだ。
でも難易度があがると、逆に燃えてくるよね。
ファリーマさんにアドバイスをもらい、ブレイズに明るく応援され、ハルに褒められながら、魔法の精度はどんどん上がっていった。
最終的には一瞬で火がついたつぶてを出せるようになったし、何個かまとめて発動する事もできるようになった。
これでファーレスウルフにも対抗できそうだと言った俺に、ブレイズとファリーマさんの困ったような視線が突き刺さった。え、なんで?
「アキト、ファーレスウルフはそうそう遭遇しない魔物だからね」
あ、そうなんだ。
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