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587.魔法の実験
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「あ、合図来たよ!」
ブレイズの声に、俺達は揃って視線を上げた。
すこし距離があるからさすがに会話の内容までは聞こえないけれど、無事に許可は貰えたみたいだ。あちらの依頼人と会話をしているクリスさんとカーディ、護衛と話しているルセフさんの後ろで、ウォルターさんからのハンドサインが来たらしい。
「やったーっ!やっと実験できる!」
昨日からやってみたいと思ってたから、本当に嬉しい。
「アキト、ここに立って」
ハルに誘導された場所に立てば、視界に入るのは遠くに見える森だけだった。多分万が一にも馬車の方へと飛んでいかないようにっていう、ハルの配慮なんだろうな。
「ファリーマさん、始めて良い?」
「ああ。実験は段階的に進めて欲しいんだけど…まず最初に、魔力をよーく練ってくれる?」
魔力をよーく練る?そんな指示をされたのは初めてだけど、ファリーマさんが言うなら何か意味があるんだろうな。俺は特に抗わずにゆっくりと魔力を練り始めた。いつもよりも慎重に、丁寧にゆっくりと。
練り上げている内にふと視線を感じて周りを見渡してみれば、両方の馬車の馬達がこちらを見つめているのに気がついた。
「え、馬が見てる…?」
「ああ、魔力を練ってるのを見てるんだよ」
そういえばハルが、この世界の馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。魔力にも反応するんだ。馬ってすごいなと考えながら、それでもゆるゆると魔力を練り上げていく。
「ハル、馬の視線だけど、どう思う?」
「ああ、何をするのかとは思われているだろうが、敵意は感じないよ」
それなら良かったと答えたファリーマさんは、準備は良いねと俺に向かって尋ねた。魔力もばっちり練り上げたしと、俺はすぐに頷いた。
「それじゃあ始めようか。アキト、まずはこの木を使ってつぶてを作ってくれる?」
「うん、やってみる」
地面に転がっている太い枝を、じっと見つめながら考えてみる。木で作る木製のつぶてか。ただの丸い形だと飛ばし難そうだから、できたら土のつぶてと同じぐらいの流線形が良いかな。先は尖ってた方が攻撃力が上がりそうだから、先は鋭くとがらせておこうかな。
うん、こんな形でどうかな。
心の中でそう呟いた瞬間、俺の目の前には木製のつぶてが浮かんでいた。綺麗な流線形を描く木製のつぶてを見て、その形良いなーとブレイズが小声で褒めてくれた。
「第一段階、成功。次は油か何かが染みてる所を想像して」
実験を始める前まではあんなにワクワクした様子ではしゃいでたのに、ファリーマさんは今は落ち着いた声で指示を出してくれる。ファリーマさんって、本当に根っからの研究者気質なんだな。俺にとってはすごく頼もしい。
「やってみます」
油…っていうと何だろう。ガソリンはさすがに違うよね。この世界にあるのかどうかも分からないし、どう燃えるかとか想像できない。
この世界の油っていうと…?あ、レーブンさんが料理に使ってる油があったな。市場に買い出しに行った時に買ってたあれは、火をつけるとゆっくりと時間をかけて燃えるんだって言ってた。
よし、あの油でいこう。
魔力を練りながら想像すれば、内側からじわりと滲み出てきた油で木製のつぶての色がゆっくりと変わっていく。油は外からじゃなくて内側から出るのか。
「第二段階も成功だね。アキト、次は慎重に火をつけて」
油が染みたつぶてに火を付けるだけなんだから、そんなに大きくない方が良いよね。
ライターぐらいの小さな火を想像した瞬間、ふわりと目の前のつぶてに火がついた。
「第三段階も成功。最後にあの的を狙ってくれる?」
そう言ってファリーマさんが指さしたのは、森の少し手前に立っている立派な的だった。ブレイズと一緒に受けた、昇級試験の的を思いだす作りだな。こんなのいつの間に用意したんだろうと感心しながら、俺は迷わずに的の中心を狙ってつぶてを放った。
速度まで考えなかったせいでいつもの土魔法と同じ速度で飛んでいったつぶては、あっさりと的の中心を貫いた。ぶわりと火に包まれて燃え上がった的を、ファリーマさんの水魔法が一瞬で消火してみせた。
「第四段階も成功!アキトすごい、すごいよ!ありがとう!」
ファリーマさんには近くで見られて良かったと手放しで褒められて、ブレイズには満面の笑顔で拍手され、ハルにはさすがアキトだと優しく微笑まれた。
ブレイズの声に、俺達は揃って視線を上げた。
すこし距離があるからさすがに会話の内容までは聞こえないけれど、無事に許可は貰えたみたいだ。あちらの依頼人と会話をしているクリスさんとカーディ、護衛と話しているルセフさんの後ろで、ウォルターさんからのハンドサインが来たらしい。
「やったーっ!やっと実験できる!」
昨日からやってみたいと思ってたから、本当に嬉しい。
「アキト、ここに立って」
ハルに誘導された場所に立てば、視界に入るのは遠くに見える森だけだった。多分万が一にも馬車の方へと飛んでいかないようにっていう、ハルの配慮なんだろうな。
「ファリーマさん、始めて良い?」
「ああ。実験は段階的に進めて欲しいんだけど…まず最初に、魔力をよーく練ってくれる?」
魔力をよーく練る?そんな指示をされたのは初めてだけど、ファリーマさんが言うなら何か意味があるんだろうな。俺は特に抗わずにゆっくりと魔力を練り始めた。いつもよりも慎重に、丁寧にゆっくりと。
練り上げている内にふと視線を感じて周りを見渡してみれば、両方の馬車の馬達がこちらを見つめているのに気がついた。
「え、馬が見てる…?」
「ああ、魔力を練ってるのを見てるんだよ」
そういえばハルが、この世界の馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。魔力にも反応するんだ。馬ってすごいなと考えながら、それでもゆるゆると魔力を練り上げていく。
「ハル、馬の視線だけど、どう思う?」
「ああ、何をするのかとは思われているだろうが、敵意は感じないよ」
それなら良かったと答えたファリーマさんは、準備は良いねと俺に向かって尋ねた。魔力もばっちり練り上げたしと、俺はすぐに頷いた。
「それじゃあ始めようか。アキト、まずはこの木を使ってつぶてを作ってくれる?」
「うん、やってみる」
地面に転がっている太い枝を、じっと見つめながら考えてみる。木で作る木製のつぶてか。ただの丸い形だと飛ばし難そうだから、できたら土のつぶてと同じぐらいの流線形が良いかな。先は尖ってた方が攻撃力が上がりそうだから、先は鋭くとがらせておこうかな。
うん、こんな形でどうかな。
心の中でそう呟いた瞬間、俺の目の前には木製のつぶてが浮かんでいた。綺麗な流線形を描く木製のつぶてを見て、その形良いなーとブレイズが小声で褒めてくれた。
「第一段階、成功。次は油か何かが染みてる所を想像して」
実験を始める前まではあんなにワクワクした様子ではしゃいでたのに、ファリーマさんは今は落ち着いた声で指示を出してくれる。ファリーマさんって、本当に根っからの研究者気質なんだな。俺にとってはすごく頼もしい。
「やってみます」
油…っていうと何だろう。ガソリンはさすがに違うよね。この世界にあるのかどうかも分からないし、どう燃えるかとか想像できない。
この世界の油っていうと…?あ、レーブンさんが料理に使ってる油があったな。市場に買い出しに行った時に買ってたあれは、火をつけるとゆっくりと時間をかけて燃えるんだって言ってた。
よし、あの油でいこう。
魔力を練りながら想像すれば、内側からじわりと滲み出てきた油で木製のつぶての色がゆっくりと変わっていく。油は外からじゃなくて内側から出るのか。
「第二段階も成功だね。アキト、次は慎重に火をつけて」
油が染みたつぶてに火を付けるだけなんだから、そんなに大きくない方が良いよね。
ライターぐらいの小さな火を想像した瞬間、ふわりと目の前のつぶてに火がついた。
「第三段階も成功。最後にあの的を狙ってくれる?」
そう言ってファリーマさんが指さしたのは、森の少し手前に立っている立派な的だった。ブレイズと一緒に受けた、昇級試験の的を思いだす作りだな。こんなのいつの間に用意したんだろうと感心しながら、俺は迷わずに的の中心を狙ってつぶてを放った。
速度まで考えなかったせいでいつもの土魔法と同じ速度で飛んでいったつぶては、あっさりと的の中心を貫いた。ぶわりと火に包まれて燃え上がった的を、ファリーマさんの水魔法が一瞬で消火してみせた。
「第四段階も成功!アキトすごい、すごいよ!ありがとう!」
ファリーマさんには近くで見られて良かったと手放しで褒められて、ブレイズには満面の笑顔で拍手され、ハルにはさすがアキトだと優しく微笑まれた。
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