587 / 1,103
586.実験の準備
しおりを挟む
「なんだよ、ちゃんと許可を取ろうとしてるんだから、ため息吐かなくても良いだろ?」
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマさんをちらりと見てから、ルセフさんは今度はハルに視線を向けた。
うん、ファリーマさんへのコメントは特に無いんだね。普段から結構振り回されてるんだろうなぁ。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりにそう告げたウォルターさんの言葉に、ファリーマさんは自分の口を両手で塞いでみせた。黙ってるから早く許可をくれってアピールだな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら俺は別に反対しないよと、ハルは予想外に前向きな姿勢を口にした。もしかしたら嫌がられるかもとちょっと心配してたんだけど、思ったよりもかなり良い反応じゃないかな?
さすがにハルが絶対に駄目って言う実験には、俺も無理に参加できないもんな。魔法の実験に興味はあるけど、かといってハルに心配をかけてまでやりたいわけじゃないから。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと言いたげなハルの視線を受けて、ファリーマさんは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが見えた。ブレイズ、やめて。俺も笑っちゃいそうになるから。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマさんは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいそうだ。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマさんに、ハルはその内容なら俺は反対しないよとあっさりと許可をくれた。
「ハル、ありがとう!」
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマさんは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ。あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
やっぱりそうなのかと皆の会話を聞いていたら、ふと気になる事ができてしまった。
俺って野営の時でも普通に浄化魔法とかバンバン使ってるんだけど、もしかしてあれもまずかったんだろうか。何なら昨日寝る前と、今朝起きてからもほとんど無意識のうちに浄化魔法使ってたよな。もしかして、あっちの護衛の人達起こしちゃってた?
急に心配になってハルにこっそり聞いてみたけど、攻撃魔法以外ならよほど魔力感知ができる相手じゃないとバレないんだそうだ。
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
優しい笑みで肯定されて、俺はホッと肩の力を抜いた。つまり俺の使った浄化魔法で叩き起こされた人なんていなかったんだ。良かった。本当に良かった。これでこれからも遠慮なく、浄化魔法は使いまくって良いって事だよね。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
ルセフさんはそう言うなり立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
ファリーマさんは、ニッコニコの笑顔だ。
「こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフさんを止めたのは、意外にもクリスさんだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフさんはちらりとハルに視線を向けた。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ああ、分かった」
「ハル…ファリーマの見張りも頼んで良いか。暴走しそうなら殴ってでも止めてくれ」
「あー…うん、わかった。魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフさんはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
あーうん、ファリーマさんの実験に対する信頼って、ゼロなんだな。
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマさんをちらりと見てから、ルセフさんは今度はハルに視線を向けた。
うん、ファリーマさんへのコメントは特に無いんだね。普段から結構振り回されてるんだろうなぁ。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりにそう告げたウォルターさんの言葉に、ファリーマさんは自分の口を両手で塞いでみせた。黙ってるから早く許可をくれってアピールだな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら俺は別に反対しないよと、ハルは予想外に前向きな姿勢を口にした。もしかしたら嫌がられるかもとちょっと心配してたんだけど、思ったよりもかなり良い反応じゃないかな?
さすがにハルが絶対に駄目って言う実験には、俺も無理に参加できないもんな。魔法の実験に興味はあるけど、かといってハルに心配をかけてまでやりたいわけじゃないから。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと言いたげなハルの視線を受けて、ファリーマさんは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが見えた。ブレイズ、やめて。俺も笑っちゃいそうになるから。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマさんは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいそうだ。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマさんに、ハルはその内容なら俺は反対しないよとあっさりと許可をくれた。
「ハル、ありがとう!」
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマさんは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ。あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
やっぱりそうなのかと皆の会話を聞いていたら、ふと気になる事ができてしまった。
俺って野営の時でも普通に浄化魔法とかバンバン使ってるんだけど、もしかしてあれもまずかったんだろうか。何なら昨日寝る前と、今朝起きてからもほとんど無意識のうちに浄化魔法使ってたよな。もしかして、あっちの護衛の人達起こしちゃってた?
急に心配になってハルにこっそり聞いてみたけど、攻撃魔法以外ならよほど魔力感知ができる相手じゃないとバレないんだそうだ。
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
優しい笑みで肯定されて、俺はホッと肩の力を抜いた。つまり俺の使った浄化魔法で叩き起こされた人なんていなかったんだ。良かった。本当に良かった。これでこれからも遠慮なく、浄化魔法は使いまくって良いって事だよね。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
ルセフさんはそう言うなり立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
ファリーマさんは、ニッコニコの笑顔だ。
「こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフさんを止めたのは、意外にもクリスさんだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフさんはちらりとハルに視線を向けた。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ああ、分かった」
「ハル…ファリーマの見張りも頼んで良いか。暴走しそうなら殴ってでも止めてくれ」
「あー…うん、わかった。魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフさんはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
あーうん、ファリーマさんの実験に対する信頼って、ゼロなんだな。
157
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる