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586.実験の準備
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「なんだよ、ちゃんと許可を取ろうとしてるんだから、ため息吐かなくても良いだろ?」
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマさんをちらりと見てから、ルセフさんは今度はハルに視線を向けた。
うん、ファリーマさんへのコメントは特に無いんだね。普段から結構振り回されてるんだろうなぁ。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりにそう告げたウォルターさんの言葉に、ファリーマさんは自分の口を両手で塞いでみせた。黙ってるから早く許可をくれってアピールだな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら俺は別に反対しないよと、ハルは予想外に前向きな姿勢を口にした。もしかしたら嫌がられるかもとちょっと心配してたんだけど、思ったよりもかなり良い反応じゃないかな?
さすがにハルが絶対に駄目って言う実験には、俺も無理に参加できないもんな。魔法の実験に興味はあるけど、かといってハルに心配をかけてまでやりたいわけじゃないから。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと言いたげなハルの視線を受けて、ファリーマさんは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが見えた。ブレイズ、やめて。俺も笑っちゃいそうになるから。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマさんは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいそうだ。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマさんに、ハルはその内容なら俺は反対しないよとあっさりと許可をくれた。
「ハル、ありがとう!」
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマさんは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ。あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
やっぱりそうなのかと皆の会話を聞いていたら、ふと気になる事ができてしまった。
俺って野営の時でも普通に浄化魔法とかバンバン使ってるんだけど、もしかしてあれもまずかったんだろうか。何なら昨日寝る前と、今朝起きてからもほとんど無意識のうちに浄化魔法使ってたよな。もしかして、あっちの護衛の人達起こしちゃってた?
急に心配になってハルにこっそり聞いてみたけど、攻撃魔法以外ならよほど魔力感知ができる相手じゃないとバレないんだそうだ。
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
優しい笑みで肯定されて、俺はホッと肩の力を抜いた。つまり俺の使った浄化魔法で叩き起こされた人なんていなかったんだ。良かった。本当に良かった。これでこれからも遠慮なく、浄化魔法は使いまくって良いって事だよね。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
ルセフさんはそう言うなり立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
ファリーマさんは、ニッコニコの笑顔だ。
「こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフさんを止めたのは、意外にもクリスさんだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフさんはちらりとハルに視線を向けた。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ああ、分かった」
「ハル…ファリーマの見張りも頼んで良いか。暴走しそうなら殴ってでも止めてくれ」
「あー…うん、わかった。魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフさんはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
あーうん、ファリーマさんの実験に対する信頼って、ゼロなんだな。
勝手に実験したわけじゃないのにと明らかに拗ねた様子のファリーマさんをちらりと見てから、ルセフさんは今度はハルに視線を向けた。
うん、ファリーマさんへのコメントは特に無いんだね。普段から結構振り回されてるんだろうなぁ。
「おい、ファリーマ。実験の許可が欲しいなら、ここは黙って待ってた方が早いと思うぞ」
笑い混じりにそう告げたウォルターさんの言葉に、ファリーマさんは自分の口を両手で塞いでみせた。黙ってるから早く許可をくれってアピールだな。
「ハル、アキトが実験を手伝う事になってるみたいだけど…ハルはそれで良いのか?」
「ああ、昨日のうちに実験の約束をしてるとは聞いてたからな」
アキトがしたいなら俺は別に反対しないよと、ハルは予想外に前向きな姿勢を口にした。もしかしたら嫌がられるかもとちょっと心配してたんだけど、思ったよりもかなり良い反応じゃないかな?
さすがにハルが絶対に駄目って言う実験には、俺も無理に参加できないもんな。魔法の実験に興味はあるけど、かといってハルに心配をかけてまでやりたいわけじゃないから。
「あ、もちろんアキトにすこしでも危険がある実験なら、俺は全力で断らせてもらうけど…ね?」
当然詳しく説明してくれるよねと言いたげなハルの視線を受けて、ファリーマさんは慌てた様子でぶんぶんと首を振った。そのあまりに激しい動きに、ブレイズが笑いを堪えてるのが見えた。ブレイズ、やめて。俺も笑っちゃいそうになるから。
「いや!決して危険があるような実験じゃないよ!一応、皆にも先に実験の内容を説明しておくと…」
そう言い置いたファリーマさんは、今回の実験では理論派では難しい魔法を感覚派なら発動できるかどうかを確認したいんだと話し出した。
実験の第一段階は周囲にある木を使って木製のつぶてを作る事。
第二段階はその木製のつぶてに燃えやすい油か何かを染みこませる事。
第三段階はそのつぶてに火をつける事。
最終的にはその燃えるつぶてを、的に当てる事ができるかどうかまで実験したいそうだ。
「アキトに危険は一切無いし、つぶての火を森に延焼させるような失敗は絶対にしない。水魔法を使っていつでも消火できるようにするからね」
真剣な表情でそう言いきったファリーマさんに、ハルはその内容なら俺は反対しないよとあっさりと許可をくれた。
「ハル、ありがとう!」
「どういたしまして」
「これで依頼主からも実験参加者の伴侶候補さんからも許可が貰えたって事だよな?な?」
上機嫌のファリーマさんは、これならルセフも文句ないだろう?と嬉しそうに続けた。
「あーでももう一つだけ。あっちの馬車にも許可を取ってきた方が良いぞ」
「ああ、そうだよな」
「急に魔力を練りだしたら、無駄に警戒させるからなぁ」
やっぱりそうなのかと皆の会話を聞いていたら、ふと気になる事ができてしまった。
俺って野営の時でも普通に浄化魔法とかバンバン使ってるんだけど、もしかしてあれもまずかったんだろうか。何なら昨日寝る前と、今朝起きてからもほとんど無意識のうちに浄化魔法使ってたよな。もしかして、あっちの護衛の人達起こしちゃってた?
急に心配になってハルにこっそり聞いてみたけど、攻撃魔法以外ならよほど魔力感知ができる相手じゃないとバレないんだそうだ。
「あ、そうなんだ」
「ああ、攻撃魔法じゃなければ大丈夫だから、安心して良いよ」
優しい笑みで肯定されて、俺はホッと肩の力を抜いた。つまり俺の使った浄化魔法で叩き起こされた人なんていなかったんだ。良かった。本当に良かった。これでこれからも遠慮なく、浄化魔法は使いまくって良いって事だよね。
「それじゃあ、その交渉は俺が行ってくるよ」
ルセフさんはそう言うなり立ち上がった。
「え、良いのか?俺も行こうか?」
「お前が行ったら、実験内容の説明から始まるからな。許可を貰ってくるまで勝手に実験を始めるなよ?」
「もちろん、良い子で待ってるよ、リーダー」
ファリーマさんは、ニッコニコの笑顔だ。
「こういう時だけリーダー呼びなんだよなぁ」
ぼやきながら歩き出そうとしたルセフさんを止めたのは、意外にもクリスさんだった。
「ルセフさん、挨拶には私達も同行しても良いでしょうか?」
「お二人が…?」
「ええ、昨日は結局ほんの挨拶程度しかお話しできなかったので」
「ああ、人脈作りですが」
「ええ」
「分かりました。ウォルター、護衛についてきてくれるか?」
「おう」
四人が揃って立ち上がると、ルセフさんはちらりとハルに視線を向けた。
「許可が出たら合図をするから、そしたら実験は始めてくれて良いから」
「ああ、分かった」
「ハル…ファリーマの見張りも頼んで良いか。暴走しそうなら殴ってでも止めてくれ」
「あー…うん、わかった。魔法の飛ぶ方向もちゃんと気にしておくから安心して行ってきてくれ」
「アキト、もし危険だと思ったら途中でも中止してくれよ」
「はい、分かりました」
「ブレイズ、何か合ったらすぐに俺に伝えに来てくれ」
「了解!」
「最後にファリーマ」
「はーい」
「くれぐれも無茶だけはするなよ」
頼むから問題を起こすなよときっちり念を押してから、ルセフさんはもう一台の馬車の方へと歩き出した。
あーうん、ファリーマさんの実験に対する信頼って、ゼロなんだな。
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