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582.【ハル視点】花茶の淹れ方
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一番不安に思っていた事が無事に解決したせいか、ルセフとウォルターは顔を見合わせて笑い合うとようやく花茶を口に運んだ。
「あ…美味いな、これ。花の香りはするのに、苦味が無い」
ウォルターは大きく目を見張りながら、ぽそりと感想をこぼした。
花茶は適当に淹れると、どうしても苦味が出てしまうんだよな。こだわって淹れないと、決して美味しくはならないという中々に面倒なものだ。
「うん、確かに美味しいな。これは…ハルが淹れたのか?」
ルセフは俺に視線を向けて、不思議そうに尋ねてくる。
「ああ、そうだよ。今朝淹れてから魔導収納鞄にしまっておいたんだ」
「えー…これさ、その辺の料理店で出されるのよりも美味くないか?」
ハルはこんな事までできるのかよと、ウォルターは苦笑を浮かべている。
確かに俺が淹れたものだが、元々できたわけじゃない。
「アキトは花茶飲んだ事無かったらしくてな」
「ああ、飲まない地域もあるからな」
「俺はトライプールで適当な屋台で買ったのが初めて飲んだ花茶だなーすっごい苦かった」
思いだすだけでも震えが来るとウォルターはおおげさに身体を震えさせる。
「あーお前がものすごく寝坊した時に買ったやつか…あれはわざと一番苦い店で買ったんだけどな」
「は?じゃああれあんなに苦いって知ってて買ったのか?」
「今、そう言っただろ?」
「信じられねぇ!お前もファリーマも飲まなかったのも知ってたからかよ」
「起きないお前が悪い」
断言したルセフは、何事もなかったように俺に視線を戻して先を促してくる。ウォルターは放っておいて良いのか?それを言われると弱いって苦笑してるから、まあ良いんだろうな。
「そんなアキトがさ、たまたま買った店の花茶を気に入ったんだよ」
「お、じゃあ当たりを引いたって事か」
あの頃はこの世界の色んなものを試しては素直に驚いたり喜んだりするアキトが可愛くて、できるだけ美味しいものだけを勧めてたからな。
「花茶を気に入ってくれたアキトに、他の場所の花茶は苦くて美味しくは無いなんて言えないだろう?」
「あーなるほど。つまりアキトのために練習したのか」
「ああ、だからこの花茶が美味しいとしたら、それはアキトのおかげだよ」
さらりとそう告げれば、ルセフもウォルターもなんだまた惚気だったのかと面白そうに笑いだした。ん?これも惚気になるのか?よく分からないが、まあ楽しそうだから良いか。俺は何も言わずに二人の笑いがおさまるのを、じっと待った。
「はー笑った笑った」
「ちょっと笑いすぎたな…わるいな、ハル」
ルセフは謝ってくれたが、俺は別に笑われても気にしない。馬鹿にしてるというわけでも無く微笑ましそうに笑ってだけだからな。不快に思うわけが無い。
「気にしてないよ。それで、次は何の話をしたいんだ?」
「あ、じゃあ俺の質問良いか?」
俺とルセフの顔を交互に見ながら、ウォルターはそう尋ねた。ルセフがすぐに頷いたのを確認してから、俺もすぐに頷きを返した。
「盾の事なんだけどよ、俺の周りには強い盾使いってあんまりいねぇんだ」
確かに冒険者で盾使いとなると、そもそもの人数が多くは無い。ウォルターが強い盾使いというからには、ウォルターより強い盾使いという事になるんだろう。
「まあ、冒険者には、あまりいないだろうな」
冒険者にはいないが、盾使い自体はたくさん存在している。ではどこにいるのかと聞かれれば、答えは騎士団だ。
騎士は守るものという意識が強いからか、それとも役割分担をして集団で戦うのに前衛を守る盾使いがいる方が有利だからなのか。その辺はよく分からないが、騎士団ではそれなりの数が剣ではなく盾を選ぶ。
「俺の古巣の方には結構いたがな」
騎士団とは言えないからごまかして答えたが、ウォルターはまさにそれが聞きたかったんだといいたげに目を輝かせた。
「その古巣で一番の盾使いは…あ、別に名前とかは教えてくれなくて良いからな」
慌てた様子で手を振るウォルターをぼんやりと眺めながら、俺は騎士団の団員達を思い浮かべていた。
トライプールの騎士団で現在一番の盾使いというと、現副団長のディエゴだろうな。いつの間にかアキトと仲良くなっていた、俺の後を継いで副団長をやってくれているあいつだ。
ディエゴは騎士団員の中では筋肉が付きにくく細身に見えるが、舐めてかかると手ごわい相手だ。剣を使わせてももちろん弱くは無いが、盾を使わせたら驚くほどに強固な守りを見せる。
「ああ、一人思い浮かんだ」
「そいつってさ…俺よりも筋肉ってあるか?」
「いや、無いな」
アキトほどでは無いが、騎士団員の中では間違いなく華奢な方だ。まあそれで侮られる事も多いんだが、全てを実力で黙らせて副団長を務められるような奴だ。
「あ…美味いな、これ。花の香りはするのに、苦味が無い」
ウォルターは大きく目を見張りながら、ぽそりと感想をこぼした。
花茶は適当に淹れると、どうしても苦味が出てしまうんだよな。こだわって淹れないと、決して美味しくはならないという中々に面倒なものだ。
「うん、確かに美味しいな。これは…ハルが淹れたのか?」
ルセフは俺に視線を向けて、不思議そうに尋ねてくる。
「ああ、そうだよ。今朝淹れてから魔導収納鞄にしまっておいたんだ」
「えー…これさ、その辺の料理店で出されるのよりも美味くないか?」
ハルはこんな事までできるのかよと、ウォルターは苦笑を浮かべている。
確かに俺が淹れたものだが、元々できたわけじゃない。
「アキトは花茶飲んだ事無かったらしくてな」
「ああ、飲まない地域もあるからな」
「俺はトライプールで適当な屋台で買ったのが初めて飲んだ花茶だなーすっごい苦かった」
思いだすだけでも震えが来るとウォルターはおおげさに身体を震えさせる。
「あーお前がものすごく寝坊した時に買ったやつか…あれはわざと一番苦い店で買ったんだけどな」
「は?じゃああれあんなに苦いって知ってて買ったのか?」
「今、そう言っただろ?」
「信じられねぇ!お前もファリーマも飲まなかったのも知ってたからかよ」
「起きないお前が悪い」
断言したルセフは、何事もなかったように俺に視線を戻して先を促してくる。ウォルターは放っておいて良いのか?それを言われると弱いって苦笑してるから、まあ良いんだろうな。
「そんなアキトがさ、たまたま買った店の花茶を気に入ったんだよ」
「お、じゃあ当たりを引いたって事か」
あの頃はこの世界の色んなものを試しては素直に驚いたり喜んだりするアキトが可愛くて、できるだけ美味しいものだけを勧めてたからな。
「花茶を気に入ってくれたアキトに、他の場所の花茶は苦くて美味しくは無いなんて言えないだろう?」
「あーなるほど。つまりアキトのために練習したのか」
「ああ、だからこの花茶が美味しいとしたら、それはアキトのおかげだよ」
さらりとそう告げれば、ルセフもウォルターもなんだまた惚気だったのかと面白そうに笑いだした。ん?これも惚気になるのか?よく分からないが、まあ楽しそうだから良いか。俺は何も言わずに二人の笑いがおさまるのを、じっと待った。
「はー笑った笑った」
「ちょっと笑いすぎたな…わるいな、ハル」
ルセフは謝ってくれたが、俺は別に笑われても気にしない。馬鹿にしてるというわけでも無く微笑ましそうに笑ってだけだからな。不快に思うわけが無い。
「気にしてないよ。それで、次は何の話をしたいんだ?」
「あ、じゃあ俺の質問良いか?」
俺とルセフの顔を交互に見ながら、ウォルターはそう尋ねた。ルセフがすぐに頷いたのを確認してから、俺もすぐに頷きを返した。
「盾の事なんだけどよ、俺の周りには強い盾使いってあんまりいねぇんだ」
確かに冒険者で盾使いとなると、そもそもの人数が多くは無い。ウォルターが強い盾使いというからには、ウォルターより強い盾使いという事になるんだろう。
「まあ、冒険者には、あまりいないだろうな」
冒険者にはいないが、盾使い自体はたくさん存在している。ではどこにいるのかと聞かれれば、答えは騎士団だ。
騎士は守るものという意識が強いからか、それとも役割分担をして集団で戦うのに前衛を守る盾使いがいる方が有利だからなのか。その辺はよく分からないが、騎士団ではそれなりの数が剣ではなく盾を選ぶ。
「俺の古巣の方には結構いたがな」
騎士団とは言えないからごまかして答えたが、ウォルターはまさにそれが聞きたかったんだといいたげに目を輝かせた。
「その古巣で一番の盾使いは…あ、別に名前とかは教えてくれなくて良いからな」
慌てた様子で手を振るウォルターをぼんやりと眺めながら、俺は騎士団の団員達を思い浮かべていた。
トライプールの騎士団で現在一番の盾使いというと、現副団長のディエゴだろうな。いつの間にかアキトと仲良くなっていた、俺の後を継いで副団長をやってくれているあいつだ。
ディエゴは騎士団員の中では筋肉が付きにくく細身に見えるが、舐めてかかると手ごわい相手だ。剣を使わせてももちろん弱くは無いが、盾を使わせたら驚くほどに強固な守りを見せる。
「ああ、一人思い浮かんだ」
「そいつってさ…俺よりも筋肉ってあるか?」
「いや、無いな」
アキトほどでは無いが、騎士団員の中では間違いなく華奢な方だ。まあそれで侮られる事も多いんだが、全てを実力で黙らせて副団長を務められるような奴だ。
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