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581.【ハル視点】心配性な二人

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 口に含めばふわりと広がる花の香りを楽しめば、肩の力が一気に抜ける気がする。花茶には目を覚まさせる効果もあるから、今の時間にはちょうど良いだろう。

「それで、二人は一体何を話したいんだ?」

 この二人は頭の回転も、もちろん戦闘での腕も良い。性格も良い上に、アキトを可愛がってくれている。アキトが懐いている相手だし、俺も正直に言えば気に入っている。

 だからまあ、正直に言うなら俺は話題なんて何でも良いんだ。例えどんな話題を選んだとしても、俺にとっても楽しい時間となるだろう。

 それでも一応尋ねてみたのは、わざわざ俺と一緒に見張りがしたいと主張した二人の、聞きたい事が気になったからだ。

「あー…色々気になってた事があるんだけど…いくつか聞いても良いか?」
「ああ、何だ?」
「先に言っておくが、もし答え難いと思う内容があったら、ちゃんと断ってくれよ?」

 無理をして答える必要は無いんだからなと前置きをするルセフに、俺は笑って頷いた。

 もし俺の一存ではどうする事もできないような情報を求めてくるなら、適当に誤魔化そうかと思っていたんだがな。どうやらこれは、誤魔化すよりもちゃんと断る方が良さそうだ。ここまで気づかってくれる相手を、騙すような真似はしたくないしな。

「俺が気になってたのはハルの本職についてなんだ。アキトは、お前の本職を知ってるのか?」

 今は防音結界が無いからと、誰に聞かれても良いように言葉を選んでくれているのが分かる。

 本職。つまり騎士団員である事をアキトが知っているかという質問と、今も俺が騎士団に所属しているのかって探りだな。

 その程度なら別に隠すほどの事でも無いなと、俺はすぐに答えた。

「ああ、知ってるよ」
「そうか…知ってるのか…」

 ルセフはホッとした表情でへにゃりと笑ってみせた。ああ、そういえば幽霊の時にアキトと出会ったとは言ったが、アキトのおかげで目が覚めたんだとは言わなかったな。

 もし万が一アキトが騎士団について知らなかった場合、自分たちもアキトに隠すべきなのか?その理由はあるのか?とか色々聞きたかったんだろうな。

「アキトへの気づかい、ありがとうな」
「あーそこまであっさりバレるのか…ハルの思考能力って怖いな。…どういたしまして」

 ルセフはすこし疲れた顔をしていたけれど、それでも感謝の言葉は受け取ってくれた。

「俺もひとつ聞いても良いか?」
「ああ、どうぞ?」

 ウォルターはまっすぐに俺を見据えて、口を開いた。

「ハルの実家についても、アキトは知ってるのか?」

 ウォルターの口から飛び出したのも、アキトが知ってるかどうかという質問か。本当にこの二人は、心からアキトの事を可愛がってくれているんだな。ふわりと温かくなった胸に笑みをこぼしながら俺は答える。

「ああ、それもちゃんと知ってるよ。ついでに言うならこの間、二番目の兄には偶然出会ったよ」
「二番目って事は…ウィリアムさんか…」

 ルセフは真剣な顔でぼそりとそう呟いた。

 俺の家族はそれなりに有名だから知っていても別におかしくは無いんだが、二番目と聞くなり名前まで出てくるとはさすがに思わなかったな。それともアキトと一緒にいる所を見られてから、調べたりしたんだろうか。

「……なあ、その時、お前の兄貴はアキトについて何か言ってたか?」
「祝福の言葉をもらったよ」

 さらりとそう告げれば、ウォルターとルセフは顔を見合わせてから、ふぅーと大きく息を吐いた。ああ、そこも気になっていたのか。

「良かった…貴族は色々あるからって心配してたんだ」
「心配は有難いが…うちの家は貴族って感じじゃないからな。それこそ強い人なら何でもありなんだよ」
「強いってのは、戦いか…?」

 アキトなら大丈夫だろうけどと、ルセフは続ける。

「いや、もちろん戦闘面でも良いんだが、心が強いとか、計算に強いとか、商いに強いでも何でも良いんだ」

 そう言いきった俺に、ウォルターは驚いたみたいだ。そんな貴族がいるのかと聞かれたけど、いるんだよなぁ。

 一方ルセフは聞いた事はあったけど、さすがに脚色かと思ってたと苦笑しながら教えてくれた。脚色じゃないんだよ。

「俺は元々、誰かに執着したって経験がなくてな」
「そうなのか?」
「ああ、本気で誰かを好きになったのは、アキトが初めてだ」
「惚気るねぇ」

 口では揶揄うようにそう言いながらも、ウォルターはニヤニヤと楽し気に笑っている。

「だから、家族にはむしろ早く会わせろって言われてるぐらいだから、そういう心配はしなくて大丈夫だ」

 そう告げれば、二人は嬉しそうに笑ってくれた。
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