生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
581 / 1,179

580.【ハル視点】見張りの交代

しおりを挟む
 ブレイズに引きずられてきたウォルターは、手を離された場所に立ち尽くしたまま大きなあくびを繰り返している。全然眠気を隠せていないな。いや、そもそも隠すつもりも無いのか。

「よっし、今日も無事にウォルター兄ちゃんを起こしてきたよ!」
「ああ、さすがブレイズだ!」
「ほんっっっとうに助かるよ…ブレイズ、ありがとな」

 心からの感謝を述べるルセフとファリーマの反応に、今までの苦労が見え隠れしている。ウォルター本人は、ゆらゆらと揺れながら立ち尽くしてるのが気になって仕方がないんだが。

「それじゃあ、俺達はそろそろ寝にいこっか」
「ああ、そうだなー」
「うん、交代しないとね」

 三人はささっとマントを片づると、すぐに立ち上がった。

「おやすみなさい」
「じゃあねーおやすみー」
「おやすみ、後は頼んだ」

 前半担当組の挨拶に、俺とルセフは笑顔でおやすみと返した。ウォルター?まだそこで揺れてるな。

「ねえ、ウォルター兄ちゃんもちゃんと起きてよ?」
「起きた…起きたよ…。あと、俺は…おまえの、兄ちゃんじゃ…ない…」

 今にも閉じてしまいそうな眠たそうな目をしているのに、ちゃんとそこには突っ込めるんだな。思わず感心してしまったが、どう考えても起きてはいないよな。

「あ、そこに文句言えるなら、もうすぐ本当に起きるね」

 ブレイズは慣れた様子でそう言うと、楽し気に笑ってから軽く手を振るとテントの方へと歩いて行った。

「本当にすごいよな、ブレイズは。尊敬するわ」

 ウォルターはちゃんと起きろよーと言い置いて、ファリーマはあくびをしながら歩き出した。アキトはそんな二人の後ろを、楽し気に笑いながら追っていった。

 もう少しぐらいアキトと話したかったな。

 一瞬だけそう思ってしまったけれど、口には出さなかった。たぶんこれは、俺が眠る前に教えた『一流の冒険者は時間を無駄にしない』というあの教えを、ちゃんと守ろうとしてるからだろうしな。邪魔をするわけにはいかない。

 名残惜しいけれど仕方ないなと諦めて見守っていれば、アキトは自分のテントの入口前でくるりとこちらを向いた。あ、目があったなと思った瞬間、口だけを動かしたおやすみの挨拶をもらってしまった。

 自分もさっきやった事だけど、アキトにされるとこんなに嬉しいものなんだな。もしかしてアキトも、さっきの挨拶を嬉しいと思ってくれたんだろうか。

 そんな事を考えながら満面の笑みを浮かべると、俺も声を出さずにおやすみと返す。

 ただそれだけのやりとりで、満足そうにそして幸せそうに笑ってくれるアキトの破壊力ときたらものすごかった。ああ、ほんとうにいつでも可愛いなぁ。あれが俺の伴侶候補なんだよと、誰彼かまわず自慢したくなってくる。

 したくなるだけで、もったいないから誰彼かまわずなんてしないんだけどな。

「ハルとアキトは、相変わらず仲が良いな」

 ふふと楽し気に笑ったルセフには、しっかりやりとりを見られていたらしい。

「まあ、伴侶候補だしな」

 何でもないようにさらりとそう返せば、確かにそうだなと納得した様子のルセフの声が返ってきた。

「あー…やっと、ちょっとだけ…目、覚めてきたわ」

 不意にそう声を上げたウォルターに、俺とルセフは揃って視線を向けた。まだあくびを連発はしているけれど、ゆらゆらと揺れるのも止まったし、今にも目が閉じそうって感じも無くなったな。

「ウォルター、今日はやけに遅かったな?」
「ああー魔物の気配が遠いからだろうなぁ」

 自己分析しながらもマントを敷き始めたウォルターの隣に、俺も自分のマントを取り出して並べる。ルセフはどちらに座ろうか悩んだようだが、最終的には俺の隣に座る事にしたようだ。俺達は三人並んで焚火の前に腰を下ろした。

「ルセフ、ウォルター、花茶でも飲むか?」

 そう尋ねれば、二人からは欲しいとすぐに返事が来た。

 元々俺は花茶はそれほど好んでいなかったんだが、アキトが好きだからと繰り返し飲んでいるうちにすっかり好きになってしまったんだよな。アキトのために練習したから淹れるのもすっかり上手くなってきた。

 取り出した花茶を注いだカップを二人の手に渡してから、俺も自分の花茶を口に運んだ。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

処理中です...