上 下
576 / 1,112

575.【ハル視点】組み分け

しおりを挟む
 野営時に重要な事というのはいくつも存在しているが、その中の一つに食べた物の後始末をしっかりとするというものがある。初めてこの決まりを聞いた新人はなかなか信じてくれないが、これがかなり重要なものだ。

 おろそかにすれば料理の香りに釣られて、魔物や野生動物が集まってくるかもしれない。実際にそれで魔物に襲われたなんて事件があったから、決まりになってるんだからな。

 急いでいる時はとりあえず魔導収納鞄にしまっておけと部下には指導していたと話せば、アキトは微妙な顔で黙り込んでしまった。それは何となく嫌だなと言ったアキトは、あっと思いついたように満面の笑みを浮かべた。

「俺が浄化魔法かけるのはどう?」
「…良いのか?」
「うん、みんなのもまとめてかけるよ」

 ああ、まあここにいる奴らにはアキトの豊富な魔力量も精密な魔力操作力もバレてるから良いか。そう思って立ち上がって皿を集めていけば、あちら側からはウォルターが集めてきてくれた。

「ウォルター、ありがとう」
「いや、俺達も助かるからな」

 あっという間に目の前に集められたお皿に、アキトはすこしの躊躇もなくまとめて浄化魔法をかけた。ファリーマは、お皿の目の前に座り込んで笑顔で観察中だ。彼は本当にぶれないな。



 アキトのおかげですぐに終わったと全員でお礼を言ってから、俺達はそれぞれ好きな飲み物を取り出して焚火の近くに腰を下ろした。

「ねえ、ハル?」
「ん?何?」
「背後には真っ暗な夜の森があるのに、この停留場はのんびりした空気がある気がするんだけど…なんでだろ?」
「ああ、それは近くに魔物の気配が一切ないからじゃないかな」

 気配探知が使えない筈なのに、そこまで察知できるのはすごい事だと思う。

「魔物の気配自体は普通にあるけど、近づいてこないんだよね」
「それって、なんで?」
「俺とアキト、それにルセフ達のパーティー、あとは先客の冒険者も強い人ばっかりだからな…今日は魔物の方が避けていくんじゃないかな」

 アキトが浄化魔法のために魔力を練り出した瞬間、あちらのリーダーはこっそりとこちらの様子を伺っていたからな。魔力の時点で反応できて、かつ無駄に騒がずに警戒だけを強める。かなり有能だと思う。

「そうなんだ」

 アキトはへーと呟やきながら先客の方へと視線を向けた。あちらはあちらでのんびりと過ごしているようで、風に乗ってたまに笑い声が聞こえてくる。

 不意に夜空を見上げたアキトは、雲の切れ目から見える星を見てふわりと笑みを浮かべた。本当にアキトは星が好きだな。もっと綺麗に星が見えたら、もっと喜んでもらえるのにな。少しだけ残念に思いながら、俺はアキトに声をかけた。

「ちょっと雲が多いね」
「うん、でも星も綺麗だよ。ハルと一緒だから余計に綺麗に見える」

 アキトがぽつりとこぼした嬉しい言葉に、自然と笑みが浮かんでしまう。うん、確かに今日の星も綺麗に見えるな。俺はアキトと一緒に、黙って星を見上げた。



 夜もだいぶ深まってきた所で、クリスとカーディさんは今夜の寝床である馬車の中へと戻っていった。

 まあ、クリスは皆と話すのが楽しいからまだまだ外にいたいって感じだったんだが、そろそろ戻るぞってカーディさんに手を引いて連れて行かれたんだがな。

 いつまでも依頼人が外にいたら護衛が困るんだって言い聞かせながら、手を引かれて嬉しそうなクリスと一緒に、カーディさんは馬車の中に消えていった。

 あれは間違いなく、手を引いてほしくて我儘を言ってみたんだろうな。おそらくカーディさんはそれを理解した上で甘やかしてるんだろう。お似合いの二人だよ。

 残された俺達は、六人全員で顔を見合わせた。

「それじゃあ見張りを決めようか」
「そうだな」
「今日は六人もいるから、見張りも楽だよな」

 定番の二人組で組んだとしても三組も出来るんだから、当然見張りの受け持ち時間も少なくて済む。

 このメンバーなら、誰と組む事になっても、特に問題は無さそうだな。アキトの友人であるブレイズと、年下の可愛い後輩扱いをしているルセフとファリーマ、ウォルターだからな。誰に決まっても、アキトに手を出されないかと心配する必要は無さそうだ。

 すぐに決まるだろうと思った組み分けは、思いのほか難航した。

「だから、俺はアキトと一緒に魔法談義がしたいんだって!再会した時は譲ってやっただろ、ブレイズ」

 ファリーマはそう言って、一歩も譲らない。

「確かにそれはそうだけど、俺だってアキトともっと色々話したい!それにお土産交換だってしたいんだよ?」

 ブレイズは上目遣いでファリーマを見つめながら、悲しそうにそう口にしている。あ、ファリーマが身じろいだな。さすがに年下の特権を上手く使うな。

「あー俺は別に誰と一緒でも問題はねぇんだけど、どうせならハルと話をしたいな」

 ウォルターがそう言ったのには、少しだけ驚いた。まさか俺と組みたいと言われるとは思っていなかったからな。

「俺、か?」
「ああ、同じ前衛だし、戦術とかにも詳しそうだから色々話てみたいんだよな。嫌なら断ってくれても良いんだぞ?」
「ああ、いや、俺も前衛について話が聞けるんだからそれは構わないが…」

 そう答えかけた俺に、横から声がかかる。

「ちょっと待ってくれ、俺もハルと情報交換がしたいんだが…」

 ルセフまでがそう言い出したのには、俺はさらに驚いた。視界の端でアキトがさすがはハルと言いたげな表情をしているのが、くすぐったくも嬉しい。

「それこそさっき食事の後にしてただろう?」
「あんな少しの時間で情報交換が終わるわけが無いだろう」

 これはまだまだ決まりそうにないな。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...