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560.【ハル視点】役割分担

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 ゆっくりと夕陽が沈みつつある停留場で、俺達は急いで野営の準備を始める事になった。さすがにここの停留所に、魔道具のような便利な灯りは存在しない。人目が無い場所に設置しても盗難に合うだけだからな。

 太陽が完全に沈んで真っ暗になってしまう前に、せめてある程度の準備を済ませておきたい。

「えっと、ハル、こういう時って何から始めるもの?」
「うーん、暗くなる前にって言うと、焚火用の枯れ枝探しと、テント張り、魔物避けの設置と、後は食事の準備かな」

 指折り数えながら答えれば、アキトはうんうんと頷きながら真剣に聞いてくれる。

「例えウマがいても、普段の冒険の野営とするべき事はあまり変わらないんだよ」
「へーそうなんだ」

 あ、ウマ用の食事はクリスが用意しているから心配しなくて良いからねと付け加えれば、アキトはパァッと笑みを浮かべた。うん、やっぱりウマの話は食いつきが良いんだよな。そもそも食事の用意が無ければウマは借りれないんだと伝えれば、アキトは感心した様子でチラチラと馬車の方へと視線を向けていた。

「じゃあまずは…」

 そう呟いたアキトだったが、急に大きく目を見開いたまま固まってしまった。

 一体どうしたんだとそっと視線を追えば、そこには自分の魔導収納鞄から大量の枯れ枝を無造作に取り出していくウォルターの姿があった。

「ウォルター、用意が良いな」

 まさか焚火用の枯れ枝まで持参してるとは思わなかったと口にした俺に、ウォルターはあっさりと笑って答えた。

「ああ、ウマ移動だと集めるのが面倒だからな。こないだの依頼の時にちょっと貯めておいたんだ。だから今日は枯れ枝探しはいらないぞ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 それじゃあ魔物避けの設置にでも回るかと思ったが、そちらには既にファリーマが手を付けているみたいだ。

「えっと、じゃあ食事の用意…?」

 困った顔でぼそりと呟いたアキトと一緒になって移動はしてみたが、明らかにルセフが作業を始めてるのが見えた。さすがに全員素早いな。

「ルセフさん、手伝う事ありますか?」
「食事は俺が責任を持って担当するから、まかせて欲しい」
「全部まかせて良いのか?」
「ああ、さっきクリスさんとカーディさんにも許可を貰ったからな。むしろ腕を振るいたいんだ」
「あ、ルセフさーん!」

 声を上げて駆け寄ってくるブレイズは、何故か両手に大きな肉の塊を抱えている。一瞬だけ感じた血の匂いからして、どうやら解体して間もないようだ。移動中に一瞬だけ感じた魔物の気配は、これだったのか。

「これ!お待たせ!」
「お、待ってたぞー」
「解体は近くでしたけど、肉以外は全部ウマが食べてくれたから、魔物が寄ってきたりはしないよ」
「それは良かったな。じゃあ今日はこれを使わせてもらうな。今夜の夕食はブレイズのおかげで豪華になりそうだ」

 えらいえらいとルセフに褒められたブレイズは、へへーと嬉しそうに笑っている。ぶんぶんと振られる尻尾が見える気がするな。

「解体…?」

 アキトの不思議そうな声に、ブレイズはにっこりと邪気の無い笑顔で笑ってみせた。

「うん、さっき仕留めたやつだから、鮮度抜群だよ」

 ブレイズはウマでの移動中に襲い掛かってきた大きな魔鳥を、しっかりと倒してその上回収までしていたらしい。しかもさっきルセフと俺があちらに挨拶に行ってる間に離脱して、ささっと捌いておいたらしい。なるほど、それでさっきブレイズだけいなかったのか。

「すごいね」
「へへーでも料理は俺がするより、ルセフさんが作った方が絶対に美味しいからまかせるんだ」
「お、嬉しい事言うなーブレイズは。ここはまかせてくれ!」

 ルセフは満足そうにそう言うと、嬉しそうに下ごしらえを始めた。幽霊だった時にも思ったが、本当に料理が好きなんだろうな。

 それにしても、このパーティーは全員、自分のするべき事をみつけて行動するのがはやいんだな。役割分担が完璧すぎて、後はテントぐらいしかやれる事がなさそうだ。

「みんな…すごいな」

 少し寂しそうにそう呟いたアキトに、俺はニッコリと笑って声をかけた。こうなったら俺達のテントでも張りに行こう。

「アキト、一緒にテント張りに行こう?」
「あ、そうだね!」

 まだテント張りがあったと言いたげに、キラキラと目を輝かせる姿は本当に可愛い。

「あ、ハル、アキト、俺達のテントもあそこに出てるから、頼んで良いか?」

 ルセフは俺に目くばせをしながら、不意にそう尋ねてきた。

 確かにルセフが指差した場所には積み上げられているテントがあるが、魔物避けを設置し終わったファリーマが今まさに向かってるんだが…。そう思った瞬間、ファリーマは急に方向転換をしてウォルターの方へと歩いていった。ん?と思って視線を動かせば、こっそりと片手で指示を出しているルセフの姿が目に入った。

 ああ、なるほど。あれはファリーマ達に頼むつもりで出しておいたテントだが、俺達に…いや、アキトのために譲ってくれるって事か。元気に返事をして歩き出したアキトの背中を目で追いながら、俺はルセフにこっそりと声をかけた。

「ルセフ、ありがとう」
「テントを張ってもらうんだから、俺の方がお礼を言うべきじゃない?」
「いや、わざわざ指示を出してまで俺達にまかせてくれたんだから、やっぱりありがとうと言わせてくれ」
「気づかれてたか」

 クスクスと笑いながら、ルセフはどういたしましてと小さな声で答えてくれた。
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