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556.ルセフさんの料理

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 すっかり暗くなった周囲を、焚火の火がゆらゆらと揺らぎながら照らし出す。

 俺達はルセフさんから料理の載ったお皿を受け取ると、それぞれ焚火の見える場所に適当に腰を下ろした。俺の隣には当然ハルがいて、その隣にはクリスさんとカーディ、向かい側にルセフさん達のパーティーメンバーが並んでいる。

「うわーおいしそう!」

 思わずそんな言葉をこぼしながら、俺はまじまじと手渡されたお皿の上を見つめた。

 大き目のお皿に盛られているのは、葉物の野菜がメインのサラダとライスだ。しかもライスの上には焼き目がつくまで焼いた魔鳥のお肉のスライスがどんっと載り、その上からタレがかけられている。

 えっと、なんかこういう異国の料理あったよな?俺は食べた事は無いけど、写真とかで見た事あったんだよなー。そう思ったけど、名前が思い出せない。しばらく考えこんでみたけど、やっぱりすぐには思いだせそうに無いな。まあいいかと俺は思いだす事をすぐに諦めた。

 名前よりも目の前の料理がライスを使ってるって事の方が重要だからね。もちろんパンも美味しいと思うんだよ。思うんだけど、やっぱりお米は俺の中で特別なんだよな。

 ふと視線を感じて顔を上げれば、良かったねと言いたげな優しい笑みを浮かべたハルと視線が合った。うん、俺がワクワクしてるのバレバレなんだな。でもこれはワクワクせずにはいられないよ。

「ああ、追加もまだまだあるからな、もし良ければ各自おかわりもしてくれ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 俺とハルがすぐにそう返せば、ルセフさんはニコリと笑ってくれた。

「夕食の準備、ありがとうな」
「ルセフさん、ありがとうございます。本当に美味しそうですね」

 こんなにも手早くこれだけの料理が作れるなんてすごい事ですと褒めるクリスさんに、照れくさそうな笑みを返している。

「うん、ありがと。それにしてもこれ結構久しぶりだよなー」
「ルセフさん、ありがとー」
「うん、今日もうまそうだな。ありがとな。これはおかわりせずにいられないだろ」
「ああ、いくらでも食ってくれ。あ、ほら、冷める前に食べてくれよ?」
「「いただきます」」

 ハルと二人で声を重ねて木製のフォークを取り上げる。

「うっま!」
「ルセフさん、これ美味しい!」

 ウォルターさんとブレイズが声をあげた。

「え、ちょっとうますぎない…?これは…ルセフの料理の中でも過去一の出来では?」

 ファリーマさんはちょっと呆然としながらそう呟いている。

「あー確かに、今日のは我ながらいつもより美味い気がするな…。やっぱり魔鳥肉の鮮度で味が変わるんだよなぁ…」

 ルセフさんはこの味が毎回出せるようになりたいと分析に余念が無いみたいだ。

「これは美味いな!」
「――っ!これは驚きました!ルセフさんお店が出来る腕ですよ」
「あーありがとう。でも俺は冒険者だからこっちは趣味だよ」

 満更でもなさそうにそう答えるルセフさんの声を聞きながら、俺はまずはタレのかかっていない魔鳥のお肉だけを口に運んだ。

 柔らかい肉の弾力と甘みを感じる肉汁。焼く前に下味を付けてあるのか、タレがかかっていなくても驚くほど美味しかった。

「わっ!美味しい!」
「ああ、これは美味しいな…驚いたよ」
「二人の口にも合ったか。良かった」

 お肉の美味しさを確認したなら、次はやっぱりライスだろうとそっとフォークですくい上げる。そっと口に運んでもぐもぐと咀嚼してから、俺は思わず声をあげた。

「―――っ!ルセフさんっ!」

 急に大きな声を出した俺に驚いたのか、皆の会話がぴたりと止まってしまった。 

「え、どうかしたのか、アキト?」

 心配そうに尋ねてくるハルに答えられず、俺はただ思うがままに言葉を続けた。
 
「天才…っ!」

 あ、駄目だ一気に語彙力が無くなった。

 さっき鍋を使っていたのは、たぶん焼いた魔鳥のお肉と一緒にライスを煮込むためだったんだろうな。魔鳥から出た旨味エキスを全て吸い込んだライスが、もうこれだけを延々と食べたいと思うほどに美味しかった。俺、もしかしたら今涙目かもしれない。

「えーと…???」

 ああ、ルセフさんの周りにたくさんのハテナマークが見える気がする。えっと、どう説明すれば良いんだろう。語彙力さんは今はどこかに旅行中みたいだしと慌てていると、ハルが楽し気に声を上げて笑いだした。

「そういう事か!」

 ハルの笑い声に、周りの空気が少しずつ解けていく。

「みんな、驚かせてすまなかったな。アキトは元々ライスが大好物なんだが…よっぽどこの料理が美味しかったんだろう。美味しすぎて言葉が出なくなって、ルセフさん天才と言ったんだと思う」
「え、そうなのか?」
「ああ、間違いないと思うよ、アキトそうだろ?」

 すぐにフォローを入れてくれるハルの存在が、本当にありがたい。俺は心から感謝をしながら、コクコクと激しく頷いた。
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