555 / 1,103
554.テント設営
しおりを挟む
ルセフさんに教えてもらった場所にいそいそと近づいていったけれど、そこに無造作に積み上げられているテントの数は四つだけだった。あれ?四つだけ?と俺はゆるりと首を傾げる。
「ん?アキト、どうかした?」
後ろから追いかけてきてくれたハルを振り返って、俺は尋ねる。
「ハル、この四つあるのってルセフさん達のパーティーの分のテントだよね?」
「うん、そうだろうね。先に俺達のテントも出しちゃおうか」
「あ、うん」
促されるままに自分の鞄に手を入れてテントを取り出しながら、俺はハルを見つめた。
「えっと、じゃあ、クリスさんとカーディのテントも、貰いに行かないとだね」
今もウマの世話をしてくれてるのに、二人の分だけここになかったから張らなかったなんてひどすぎるよね。そう思って提案したんだけど、ハルはああなるほどそれを気にしてたのかと笑みを浮かべた。
「アキト、クリスとカーディさんは今日はテントはいらないと思うよ」
テントはいらない…?え、テントはいるよね?寝ないの?一体どんな理由があればテントがいらないんだろうと色々と考えてはみたけれど、答えは一切出てこなかった。
「テントはいらないって……なんでいらないの?」
「一応後で二人に直接確認はするつもりだけど、今日は多分クリスもカーディさんも馬車で寝ると思うからね」
ハルによると今回みたいに馬車で移動してる時は、基本的に依頼人とか偉い人なんかが馬車の中で寝るっていうのが定番なんだって。
しかも昼間俺達が座ってたあの椅子が、バラシて組み立てると簡易のベッドに早変わりするらしい。何それ、すっごく面白そうだ。もし二人に許可を貰えたら、後で見せてもらえたりするかな。ワクワクしながら聞いていた俺に、不意にハルが尋ねてきた。
「馬車の中ならベッドがあるってのも理由ではあるんだけど、もう一つ大きな理由があるんだ。アキトは分かるじゃば?」
「えー…大きな理由?えっと、虫が来ないとか?」
俺は別に平気だから良いんだけど、野営してるとどうしても虫が寄ってくるんだよね。灯りの無い場所で火を起こすんだから仕方ない事なんだけどさ。
「ああ、虫が苦手な人なら、それも大きな理由になるかもしれないけど…それじゃ無いね」
すぐに否定せずに優しく笑って答えてくれるのが、すごくハルらしい。
「うーん…思いつかないや」
「正解は、もし何か不測の事態が起きた時――例えば魔物とか盗賊の襲来なんかがあった時に、守りやすくするためなんだ」
あーなるほど。だから依頼人とか偉い人にあえて馬車の中で寝て貰うのか。この世界の人達の危機管理能力って本当にすごいよね。いや、それだけ危険が身近にあるって事か。
「それに馬車の中にいてくれれば、最悪の事態になったら馬車ごと移動できるからね」
あの二人ならそういう意味での問題は無いけど、護衛のいう事なんて聞かない依頼人は本当に予想外の動きをするから面倒なんだよねとハルは遠い目をして呟いた。あ、駄目だ。ハルが何かを思い出してる。明らかに目がいつもと違う。
「ハ、ハル!そろそろテント張り始めようか!」
そんなハルの顔を見ていたくなくて慌てて声をあげれば、ハルは苦笑しながらもそうだねと明るく同意してくれた。
二人一緒になって順番にテントを張っていこうかって案も出たんだけど、最終的には二人別々にテントを張る事に決まった。
「どのテントを担当するか、アキトが決めて?」
ふふと楽し気に笑ったハルの優しさで、俺は組み立て方がばっちり分かる自分のテントに加えて、作りが単純そうなハルとブレイズのテントを担当する事になった。
ファリーマさんのはともかく、ルセフさんのとウォルターさんのテントは俺のよりも明らかに部品が多かったんだ。一体どこがどうなるのか、見ててもいまいち分からなかったんだよね。説明書が欲しいと切実に思う作りだった。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
まずは自分のテントを組み立てて、次はハルのテントだ。組み立ててる所を見た事があるから、すこし悩みながらも無事に設営が終わった。
「アキト、手伝おうか?」
そんな言葉に驚いて振り返れば、ハルの後ろには三つのテントが並んでいるのが見えた。うわーあのややこしそうなテントまでもう終わったのか。
「ううん、これは自分でやりたい」
「ん、分かった」
ハルはそういうと思ってたと言いたげに、笑って俺の言葉を受け入れてくれた。
「よし、これで完成ー!」
ブレイズのテントを完成させてそう声をあげれば、ずっと見守ってくれていたハルは優しい笑みを浮かべた。
「お疲れ様、アキト」
「ハルもお疲れ様」
「でもアキトもだいぶテントの設営にも慣れてきたね」
「そうかな?ハルと比べたらまだまだ時間かかるけど…」
「そこはほら、俺のテント張り経験値が高いから?」
あありに真剣な顔でそう言い放ったハルに、俺は思わず噴き出してしまった。
「ん?アキト、どうかした?」
後ろから追いかけてきてくれたハルを振り返って、俺は尋ねる。
「ハル、この四つあるのってルセフさん達のパーティーの分のテントだよね?」
「うん、そうだろうね。先に俺達のテントも出しちゃおうか」
「あ、うん」
促されるままに自分の鞄に手を入れてテントを取り出しながら、俺はハルを見つめた。
「えっと、じゃあ、クリスさんとカーディのテントも、貰いに行かないとだね」
今もウマの世話をしてくれてるのに、二人の分だけここになかったから張らなかったなんてひどすぎるよね。そう思って提案したんだけど、ハルはああなるほどそれを気にしてたのかと笑みを浮かべた。
「アキト、クリスとカーディさんは今日はテントはいらないと思うよ」
テントはいらない…?え、テントはいるよね?寝ないの?一体どんな理由があればテントがいらないんだろうと色々と考えてはみたけれど、答えは一切出てこなかった。
「テントはいらないって……なんでいらないの?」
「一応後で二人に直接確認はするつもりだけど、今日は多分クリスもカーディさんも馬車で寝ると思うからね」
ハルによると今回みたいに馬車で移動してる時は、基本的に依頼人とか偉い人なんかが馬車の中で寝るっていうのが定番なんだって。
しかも昼間俺達が座ってたあの椅子が、バラシて組み立てると簡易のベッドに早変わりするらしい。何それ、すっごく面白そうだ。もし二人に許可を貰えたら、後で見せてもらえたりするかな。ワクワクしながら聞いていた俺に、不意にハルが尋ねてきた。
「馬車の中ならベッドがあるってのも理由ではあるんだけど、もう一つ大きな理由があるんだ。アキトは分かるじゃば?」
「えー…大きな理由?えっと、虫が来ないとか?」
俺は別に平気だから良いんだけど、野営してるとどうしても虫が寄ってくるんだよね。灯りの無い場所で火を起こすんだから仕方ない事なんだけどさ。
「ああ、虫が苦手な人なら、それも大きな理由になるかもしれないけど…それじゃ無いね」
すぐに否定せずに優しく笑って答えてくれるのが、すごくハルらしい。
「うーん…思いつかないや」
「正解は、もし何か不測の事態が起きた時――例えば魔物とか盗賊の襲来なんかがあった時に、守りやすくするためなんだ」
あーなるほど。だから依頼人とか偉い人にあえて馬車の中で寝て貰うのか。この世界の人達の危機管理能力って本当にすごいよね。いや、それだけ危険が身近にあるって事か。
「それに馬車の中にいてくれれば、最悪の事態になったら馬車ごと移動できるからね」
あの二人ならそういう意味での問題は無いけど、護衛のいう事なんて聞かない依頼人は本当に予想外の動きをするから面倒なんだよねとハルは遠い目をして呟いた。あ、駄目だ。ハルが何かを思い出してる。明らかに目がいつもと違う。
「ハ、ハル!そろそろテント張り始めようか!」
そんなハルの顔を見ていたくなくて慌てて声をあげれば、ハルは苦笑しながらもそうだねと明るく同意してくれた。
二人一緒になって順番にテントを張っていこうかって案も出たんだけど、最終的には二人別々にテントを張る事に決まった。
「どのテントを担当するか、アキトが決めて?」
ふふと楽し気に笑ったハルの優しさで、俺は組み立て方がばっちり分かる自分のテントに加えて、作りが単純そうなハルとブレイズのテントを担当する事になった。
ファリーマさんのはともかく、ルセフさんのとウォルターさんのテントは俺のよりも明らかに部品が多かったんだ。一体どこがどうなるのか、見ててもいまいち分からなかったんだよね。説明書が欲しいと切実に思う作りだった。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
まずは自分のテントを組み立てて、次はハルのテントだ。組み立ててる所を見た事があるから、すこし悩みながらも無事に設営が終わった。
「アキト、手伝おうか?」
そんな言葉に驚いて振り返れば、ハルの後ろには三つのテントが並んでいるのが見えた。うわーあのややこしそうなテントまでもう終わったのか。
「ううん、これは自分でやりたい」
「ん、分かった」
ハルはそういうと思ってたと言いたげに、笑って俺の言葉を受け入れてくれた。
「よし、これで完成ー!」
ブレイズのテントを完成させてそう声をあげれば、ずっと見守ってくれていたハルは優しい笑みを浮かべた。
「お疲れ様、アキト」
「ハルもお疲れ様」
「でもアキトもだいぶテントの設営にも慣れてきたね」
「そうかな?ハルと比べたらまだまだ時間かかるけど…」
「そこはほら、俺のテント張り経験値が高いから?」
あありに真剣な顔でそう言い放ったハルに、俺は思わず噴き出してしまった。
145
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる