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552.今夜の宿は

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 結局、俺の体質の事は皆に受け入れてもらえたし、ハルが精霊だという誤解が解けたおかげでいつも通りの明るいブレイズに戻った。しかもカーディの幽霊恐怖症も、少しだけマシになった…ような気がするらしい。まだ自信は無いらしいけど、それでも気が楽になったなら良い事だよね。

 そんな実りの多い休憩時間を終えた後は、またトライプールに向けての移動を再開した。

 クリスさんの提案で少しずつ休憩を挟みながらの移動だけど、ルセフさんたちがすごいからって想定よりもかなり早く進んでいるらしい。

 俺達がイーシャルに向かう時は、川を船で下ったからかなり時間が短縮できてたんだって。確かにあっという間に着いたよな。でもこの調子なら、明日にはトライプールに辿り着くかもってハルが教えてくれた。

 皆、すごいな。

「それにしても…彼らは良いチームですね。人柄もですが腕前も」

 四人だけの馬車の中で、クリスさんはしみじみとそう呟いた。

「ああ、アキトの友人だというひいき目抜きで見ても、本当に良いチームだと思うよ」

 ハルがすぐにそう答えれば、カーディも笑って付け加える。

「役割分担がしっかりしてるから、安心して見てられるよな。それに仲が良いんだなーって分かる休憩時間のやりとりも楽しい」
「あー、うん、分かる」

 休憩中は本当に楽しそうにじゃれあってるんだけど、いざ護衛となると切り替えがちゃんとしてるんだよな。皆を見てると、俺も冒険者としてもっと頑張らないとなと思う。

「クリス、今日の夜はどうするんだ?」
「うーん、どこかの村か街に立ち寄って泊まっても良いかなと思っていたんですが…この速度だと想定してた宿は通り過ぎそうですね」

 嬉しそうな、でも少し困ったような表情で、クリスさんはそう答えた。

「多分ルセフのチームは野営でも文句は言わないと思うぞ」
「あ、俺もそう思います!」

 ハルの言葉に思わず口を挟んでしまった。ルセフさん達と野営した時、みんな楽しそうだったし慣れた様子だったのを思いだしたから、つい。

「そうなんですか…じゃあ、聞いてみましょうか」
「ああ、そうだな」

 御者席に繋がる小窓をコンコンとノックしてルセフさんに聞いてみた所、慣れない村や街で宿を確保するべく彷徨うより、むしろ野営の方が嬉しいという答えが返ってきた。

「では、そうしましょうか」

 今夜はどうやら皆で野営をする事に決まったらしい。またブレイズのパーティーと野営ができるのかー楽しみだな。ワクワクしながら、俺は窓から見えたブレイズに手を振った。



 ハルとクリスさん、ルセフさんの三人で相談して今夜の野営地にしようと決めた停留場には、先客の馬車が一台停まっていた。馬車の横にテントを張っているのは明らかに冒険者らしき人達だった。

「俺はちょっと挨拶に行ってきますね」

 馬車を停車させるなりそう言いおいて御者台から飛び降りたルセフさんに、俺も行ってくるとハルもすぐに馬車から下りて後を追った。

「あの…クリスさん、先客には挨拶をするって決まりとかがあるんですか?」

 これって多分マナー的に挨拶が必要とかそういう感じじゃない…よね?だってルセフさんもハルも表情こそ笑ってたけど、目が真剣だった。

 疑問に思ってこっそりと小声で尋ねた俺に、クリスさんも小声で答えてくれた。

 馬車の中にいるのは俺達三人だけだけど、御者席に繋がる小窓が開いたままだから一応ね。

「あれは挨拶というより偵察ですね」
「偵察…?」
「相手がどんな奴かを探って、今夜の宿はここで良いかとか、どの程度警戒するかなんて事を決めるんだよ」
「あー…なるほど」

 だから洞察力の鋭いあの二人が行ったのかと見守っていると、二人は自然な笑みを浮かべて馬車の方へと戻ってきた。

「大丈夫だったみたいですね」
「ああ、そうみたいだな」

 ルセフさんは小窓をそっと閉めるとそのまま自分のパーティーメンバーの方へ、ハルは扉を開けて馬車の中に乗り込んできた。

「どうでした?」
「ああ、問題は無さそうだ。王都の職人一家と、護衛の冒険者だった」
「王都の職人ですか…」
「ああ、革製品を作ってるそうだぞ」

 ハルの伝えた情報に、クリスさんは興味深そうに笑みを浮かべた。

「名前はもちろん言ってないが、こちらの護衛対象が魔道具技師だとはさっき伝えてきた」
「さすがハルですね。後でご挨拶に行きましょうか、カーディ」
「ああ、人脈は大事だからなぁ」

 ふふと楽し気に笑い合う二人を眺めていると、外からブレイズが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「アキトー下りてこいよ!」
「あ、うん、すぐ行く!」

 俺は慌てて立ち上がった。
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