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551.【ハル視点】恐怖心
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アキトと同じものを見れる事に静かに感謝をしていた俺は、不意に聞こえてきたクリスの言葉にハッと顔を上げた。
「これが、さっきのカーディの反応の理由ですね」
肩にもたれているカーディさんの髪の毛を指先で溶かしながら、クリスは申し訳なさそうに続けた。
「決してアキトさんの体質を信じてないわけでも、受け入れてないわけでも無い…と分かってもらえましたか?」
「あ、はい。説明ありがとうございました」
丁寧に感謝の言葉を述べるのがアキトらしいな。
「どういたしまして」
「あー…俺らしくない、情けない理由で…悪いな…」
まだ顔色が良くは無いけれど、カーディさんはうっすらと目を開いてそう呟いた。
「ううん、恰好悪くなんかないよ。教えてくれてありがとう」
「こちらこそ。体質、教えてくれてありがとな」
「あのさ…カーディ、正直に答えて欲しいんだけど…幽霊が見える俺は、怖い?」
震える声で恐る恐るそう尋ねたアキトに、カーディさんはあっさりと首を振って答えた。
「いや、アキトは怖くないな。実在すると知ったら、あの噂が全部本当だったのか…?って考えちゃってな」
なるほど。今までにすり込まれた噂が全て本当だったらと想像してしまった結果、恐怖心が止まらなくなったのか。
そういう事なら、さっき少しだけ頭を過った仮説を伝えておくべきかな。
「あーそれなんだけど…ちょっと良いか?」
「ん、どうした?」
これは北のとある国の話なんだけどなと前置きをしてから、俺は話し出した。
「その国では、何か危険があった場所を子孫に伝えたいが、詳細を話せば逆に興味を抱いて近づく人が出るかもしれない。そう考えた結果、わざと曖昧な理由で伝承するという風習があるんだ」
「そうなんですか?曖昧というのは?」
クリスが不思議そうに尋ねてくる。
「ああ、そこの地域では、近づくと精霊がら罰が下るなんて言われてたんだが…さっきの話と似てると思わないか?」
「あー…なるほど。それは似ていますね…」
「え、本当にそんな国があるのか?」
縋るように視線を向けてきたカーディさんに、俺はすぐに頷いて答えた。
別にこれはカーディさんを安心させるために、俺が作った嘘の話ってわけじゃないからな。後ろ暗い所が無い分、返事にも迷いは無い。
実際に北の小国デューレイス国では、近づく事に問題のある場所は全て精霊の罰が下りると言い伝えられている。元々自国は精霊が多い国だったんだという他国向けの牽制もあるんだろう。それにしても面白い発想だと思う。
カーディさんはびっくり顔で俺を見つめている。これをきっかけに、もしかして自分の村も?と思ってくれたら良いんだがと考えていると、思わぬ所から援護がやって来た。
「あのさ、その話なら俺も聞いた事があるよ」
横からそう同意してくれたルセフは、それってデューレイス国の話だろう?と俺を見つめながら言葉を重ねた。デューレイス国はこの国からはかなり遠方にある上、そうそう話題にも上らないような本当に小さな国だ。まさかこの話題を知ってる奴がいるとは思わなかったんだが、ルセフの情報網はやっぱりすごいな。
「ああ、そうだ。よく知ってたな」
「行った事があるんだよ」
しかも行った事があるのか。詳しい話を聞きたい所だが、今はそれどころじゃないかと俺は好奇心を抑え込んで口を開いた。
「…え、待ってくれ…じゃあ俺の村のも?」
「ああ、さすがに勝手に断言は出来ないけれど、その可能性は高いと思う」
「俺もそう思うな」
俺とルセフ二人から出た意見に、カーディさんは困惑した様子で呟いた。
「近づいたら危険な場所を…幽霊のせいにした…?」
考えを巡らせているらしいカーディさんに、不意にアキトが声をかけた。
「あの、カーディ?もしかして怖い話だったら悪いんだけど…」
「ん?気にせず言ってくれ」
大丈夫だと言いながらも、カーディさんはギュっとクリスの手を握った。クリスの顔が蕩けてるんだが、それも今は無視だな。
「普通の幽霊って見えてない人にはあまり干渉しないんだ。心残りを解消したらすぐに消えちゃうぐらいだから」
「そうなのか…?」
不思議そうなカーディさんの隣で、クリスは心配そうに二人のやりとりを見つめていた。
「よっぽどの悪霊というか怨霊なら話は別なんだけど、そんなにたくさん話題になるほどそういう質の悪いのが集まってたとしたら…えっと、生きてる人が普通の生活をできる筈が無いんだよ」
そうだよな。さっき聞いた全ての話が、実際に影響を与えるような悪い幽霊のせいだとしたら、いくらなんでも村を捨てて移住してるだろう。
「だから俺も、ハルとルセフさんの話が信憑性が高いと思うよ」
三人からそう断言されたカーディさんはしばらく呆然としていたけれど、不意にそっかと呟くとぎこちなく笑顔を浮かべた。ああ、恐怖心は少しは薄れたみたいだな。
「そう思えば、うん…怖さは一気に減るな…」
「カーディ!良かったですね!」
「うん。アキト、ハル、ルセフさん…ありがとうな」
俺達の顔を順番に見てからお礼を言ったカーディさんを、クリスは思いっきり抱きしめた。
「これが、さっきのカーディの反応の理由ですね」
肩にもたれているカーディさんの髪の毛を指先で溶かしながら、クリスは申し訳なさそうに続けた。
「決してアキトさんの体質を信じてないわけでも、受け入れてないわけでも無い…と分かってもらえましたか?」
「あ、はい。説明ありがとうございました」
丁寧に感謝の言葉を述べるのがアキトらしいな。
「どういたしまして」
「あー…俺らしくない、情けない理由で…悪いな…」
まだ顔色が良くは無いけれど、カーディさんはうっすらと目を開いてそう呟いた。
「ううん、恰好悪くなんかないよ。教えてくれてありがとう」
「こちらこそ。体質、教えてくれてありがとな」
「あのさ…カーディ、正直に答えて欲しいんだけど…幽霊が見える俺は、怖い?」
震える声で恐る恐るそう尋ねたアキトに、カーディさんはあっさりと首を振って答えた。
「いや、アキトは怖くないな。実在すると知ったら、あの噂が全部本当だったのか…?って考えちゃってな」
なるほど。今までにすり込まれた噂が全て本当だったらと想像してしまった結果、恐怖心が止まらなくなったのか。
そういう事なら、さっき少しだけ頭を過った仮説を伝えておくべきかな。
「あーそれなんだけど…ちょっと良いか?」
「ん、どうした?」
これは北のとある国の話なんだけどなと前置きをしてから、俺は話し出した。
「その国では、何か危険があった場所を子孫に伝えたいが、詳細を話せば逆に興味を抱いて近づく人が出るかもしれない。そう考えた結果、わざと曖昧な理由で伝承するという風習があるんだ」
「そうなんですか?曖昧というのは?」
クリスが不思議そうに尋ねてくる。
「ああ、そこの地域では、近づくと精霊がら罰が下るなんて言われてたんだが…さっきの話と似てると思わないか?」
「あー…なるほど。それは似ていますね…」
「え、本当にそんな国があるのか?」
縋るように視線を向けてきたカーディさんに、俺はすぐに頷いて答えた。
別にこれはカーディさんを安心させるために、俺が作った嘘の話ってわけじゃないからな。後ろ暗い所が無い分、返事にも迷いは無い。
実際に北の小国デューレイス国では、近づく事に問題のある場所は全て精霊の罰が下りると言い伝えられている。元々自国は精霊が多い国だったんだという他国向けの牽制もあるんだろう。それにしても面白い発想だと思う。
カーディさんはびっくり顔で俺を見つめている。これをきっかけに、もしかして自分の村も?と思ってくれたら良いんだがと考えていると、思わぬ所から援護がやって来た。
「あのさ、その話なら俺も聞いた事があるよ」
横からそう同意してくれたルセフは、それってデューレイス国の話だろう?と俺を見つめながら言葉を重ねた。デューレイス国はこの国からはかなり遠方にある上、そうそう話題にも上らないような本当に小さな国だ。まさかこの話題を知ってる奴がいるとは思わなかったんだが、ルセフの情報網はやっぱりすごいな。
「ああ、そうだ。よく知ってたな」
「行った事があるんだよ」
しかも行った事があるのか。詳しい話を聞きたい所だが、今はそれどころじゃないかと俺は好奇心を抑え込んで口を開いた。
「…え、待ってくれ…じゃあ俺の村のも?」
「ああ、さすがに勝手に断言は出来ないけれど、その可能性は高いと思う」
「俺もそう思うな」
俺とルセフ二人から出た意見に、カーディさんは困惑した様子で呟いた。
「近づいたら危険な場所を…幽霊のせいにした…?」
考えを巡らせているらしいカーディさんに、不意にアキトが声をかけた。
「あの、カーディ?もしかして怖い話だったら悪いんだけど…」
「ん?気にせず言ってくれ」
大丈夫だと言いながらも、カーディさんはギュっとクリスの手を握った。クリスの顔が蕩けてるんだが、それも今は無視だな。
「普通の幽霊って見えてない人にはあまり干渉しないんだ。心残りを解消したらすぐに消えちゃうぐらいだから」
「そうなのか…?」
不思議そうなカーディさんの隣で、クリスは心配そうに二人のやりとりを見つめていた。
「よっぽどの悪霊というか怨霊なら話は別なんだけど、そんなにたくさん話題になるほどそういう質の悪いのが集まってたとしたら…えっと、生きてる人が普通の生活をできる筈が無いんだよ」
そうだよな。さっき聞いた全ての話が、実際に影響を与えるような悪い幽霊のせいだとしたら、いくらなんでも村を捨てて移住してるだろう。
「だから俺も、ハルとルセフさんの話が信憑性が高いと思うよ」
三人からそう断言されたカーディさんはしばらく呆然としていたけれど、不意にそっかと呟くとぎこちなく笑顔を浮かべた。ああ、恐怖心は少しは薄れたみたいだな。
「そう思えば、うん…怖さは一気に減るな…」
「カーディ!良かったですね!」
「うん。アキト、ハル、ルセフさん…ありがとうな」
俺達の顔を順番に見てからお礼を言ったカーディさんを、クリスは思いっきり抱きしめた。
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