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549.【ハル視点】アキトの話

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 アキトは黙り込んだブレイズに焦った様子で口を開いた。

「あの…実は俺一緒にパーティー依頼を受けてたあの時に、ハルと話してるところをブレイズに聞かれたんです」
「ああ、なんだ、そうなのか?」

 ルセフの言葉に、ブレイズは不服そうな表情を隠さずにしぶしぶと口を開いた。

「アキト、良かったの?…秘密にするって約束したのに」

 友人と約束したからと理由を告げない。それは普通の事のようでいて、なかなか守り通せるものではない。俺は内心でブレイズへの評価を一段階引き上げた。

「うん、約束守ってくれてありがとう。でもここにいる人達には話して大丈夫だよ、ブレイズ。だってハルは精霊じゃないんだからね!」

 アキトがはっきりとハルは精霊じゃないともう一度宣言すれば、ブレイズはそっかぁと呟いてから、ふうと肩の力を抜いた。

「この前はすぐに否定できなくてごめんね」
「俺も勘違いしてごめんね」

 二人で謝罪しあった事で、どうやら無事に誤解は解けたようだ。

「それで?ブレイズは二人の会話を聞いただけで、精霊だーって思ったのか?」

 揶揄うように尋ねるウォルターの隣で、ルセフはぼそりとなるほどと呟いた。

「なるほど…?って事は、ルセフは今の説明で納得できるわけ?」

 不思議そうに尋ねたファリーマに、ルセフはああ俺は納得できたなとあっさりと返した。ブレイズの発想は確かに突飛な物ではあったが、よくよく考えればあり得ない誤解では無いんだよな。

「えーと、どの辺が納得できたんですか…?」

 恐る恐る尋ねたアキトに、ルセフは嫌な顔一つせずに口を開いた。

「まずアキトの通り名は精霊の守り人で、精霊の声が聞こえるのかもしれないって噂になってた…のは知ってるのか?」
「はい、もちろん知ってます」
「そうか。最初はすぐに信じる奴の方が少ない噂だったが、話す所を見たって冒険者が何人か現れてからはどんどん信じる奴も増えていったんだ」

 最初は人の気配がある場所でわざと話しかけたりしていたが、途中からは俺も驚くぐらいの勢いで一気に噂が広がったからな。興味を持つ人が多い精霊に関する話題だからなんだろうが、それにしてもすごい勢いだった。

「あ、俺はアキトに会う前から、そういう奴もいるかもなーって思ってたぞ」

 ウォルターがさらりとそう言えば、ブレイズもうんうんと頷いている。なるほど、二人は元々精霊が見える人もいるかもしれない派だったのか。

「ちなみに俺は信じなかった派だな」

 アキトがどうこうって話じゃなくてなとルセフは続けた。

 自称・他称を問わず、通り名が本人と完全に一致する事なんて滅多に無い。だからルセフは、通り名をただの情報の一部としか思わないようにしてるんだそうだ。自分の目で見たものしか信じないらしい。

 俺も同じような考え方だから、理解はできる。

「あー、うん。俺も実際にアキトに会うまでは、精霊が見えるって話は信じてなかったよ」

 苦笑しながらごめんなとアキトに謝ったファリーマは、急に視線をあげるとまっすぐにアキトを見つめて口を開いた。

「でもなアキトの魔法の実力を知って、もしかしたら本当に精霊が見えててもおかしくないんじゃないか――と思うようになったんだ。精霊の声が聞こえたら魔法の威力が上がるという説は、遥か昔から存在してたからな。ただ遥か昔過ぎて真偽の程は定かでは無いなんて言われていたんだが、アキトの魔…」
「はい、そこまでなー」

 いきなり暴走を始めたファリーマの口を、ウォルターが手のひらで抑え込む。精霊の声が聞こえたら魔法の威力が上がる説か、確かに昔からそんな話はあったなと俺はぼんやりと記憶を辿った。

「あー…すまんな」

 本当に仕方のない奴だと言いたげなルセフに、アキトは笑顔で答えた。

「いえ、ファリーマさんと話すのは楽しいので」
「ありがとう、本当にありがとう」

 しみじみと噛み締めるようにお礼を口にしたルセフの後ろで、口を押さえられたままのファリーマがキラキラと目を輝かせている。

 一方でウォルターはまじかよと言いたげな、ちょっと引いた顔だったがな。ブレイズはそんな二人の反応を見て、楽し気に笑っていた。

「あーそれでな…その前提がちゃんとあるんだったら、見知らぬ相手と話してるアキトの声を聞いたら相手が精霊だと思うかもしれないと思ったんだよ。姿も見えない声も見えない相手と話してるならなおさらな」

 依頼中なのに俺がハルの存在を一切感じなかったって事は、幽霊には気配探知も効かないんだろうしなとルセフは苦笑しながら続けた。

「あーそう言われれば…まあ、確かに?」

 納得した様子のウォルターをじっと見つめていたブレイズは、不意にぷいっと視線を反らした。

「へー、さっきまで俺のこと想像力が無いとか馬鹿にしてたのに…?リーダーの説明なら?納得するんだ?へー?」
「ああ、悪かったって、ブレイズ」
「謝り方が軽い!全然悪いと思ってない言い方だよね、それ!」
「そんな事無いって」

 すっかり拗ねてしまったらしいブレイズに、ウォルターは慌てて近づいて行くと機嫌を取りだした。相変わらず仲良しだな、二人とも。

 抑え込まれていた口を解放されたファリーマは、何事も無かったかのように俺達の方へスタスタと近づいてきた。

「俺も、今の説明で納得いったよ」

 ニコニコと笑うファリーマは、さっきの話題を蒸し返すつもりは無いようだ。

「なあアキト、突然体質の事を話してくれたのは、さっきからやけに大人しかったブレイズの事を心配してくれたから…だよな?わざわざありがとうな」

 ルセフはそう言うと、ぽふぽふとアキトの頭に手を置きそのまま優しく頭を撫で始めた。嬉しそうに笑うアキトを微笑ましく眺めていたんだが、不意に振り返ったルセフは俺の視線に気づくなり慌てて口を開いた。

「あ、ハル、これはそういうのじゃないからな?」

 ああ、うん。ルセフはたぶん最初から、アキトと俺の伴侶候補の腕輪に気づいてたんだな。人の伴侶候補に触れるなと怒り出す奴もまあいるからなと考えながら、俺は笑って答えた。

「ああ、分かってるよ。ルセフとウォルター、ファリーマはブレイズとアキトを保護者目線で可愛がってるだけだって、俺はちゃんと知ってるからな」

 別に頭を撫でるぐらいなら怒り出したりはしないさ。アキトも喜んでるみたいだしなと、俺は続けた。アキトに気がある相手なら、もちろん触れさせたりはしないがな。

 俺の言葉を聞いたルセフはホッとした様子で息を吐いてから、真剣な表情で口を開いた。

「俺達四人は体質の話、ちゃんと秘密にするからな。アキトもハルも安心してくれ」
「ありがとうございます」
「ああ、ありがとう」

 まずは四人がアキトの体質を受け入れてくれたな。あと二人だ。
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