上 下
548 / 1,103

547.【ハル視点】打ち明け話の前準備

しおりを挟む
 ぶつぶつと言いながら思考に沈んでしまったらしいファリーマが静かになるなり、不意にウォルターが不思議そうに尋ねた。

「なあ、ブレイズ?」
「ん?」
「なんか…お前今日えらく無口じゃないか?」
「え、そんな事ないよ?」
「いやいやいや、ごまかすなって、そんな事あるだろ。なんだ、体調でも悪いのか?」

 ウォルターはそう尋ねながら、慣れた様子でブレイズの額にぴたりと手を当てた。

「いや、元気だよ、大丈夫だって」
「お前昔っから何故か体調悪いのを隠そうとするからな」

 でも熱は無いみたいだなとつぶやいたウォルターに、ブレイズは照れくさそうにしながらもふわりと笑みを見せた。

 そういう行動をするから兄ちゃんなんて呼ばれるんじゃないのか?と苦笑しながら、俺はアキトに視線を向けた。

 この心配そうな顔からして、多分アキトは気づいてないんだろうな。俺はちらちらとブレイズの様子を伺っているアキトの肩を、ちょんちょんと指先で優しく突いた。

「ん?ハル?」

 見上げてくるアキトの耳元にそっと顔を近づけて、俺はそっと囁いた。

「ねえ、アキト。もしかしてさブレイズの様子がおかしいのって…俺についてのあの誤解が解けてないから…じゃない?」

 アキトは俺の言葉を聞くなり、ハッと顔を上げた。

 馬車の前で再会した時は、俺の存在を忘れていたから普段通りのブレイズだったんだと思う。少しずつ態度が変わっていったのは、俺を精霊だと思っているせいで恐れ多いとか思ってるんだろうな。

「でも、何て言えば良いの?」

 こっそりと尋ねてきたアキトに、俺も小声で答える。

「アキトの見える体質について、話せば良いんじゃない?」

 ここにいる人達の事は、信頼してるんでしょう?と優しく笑って尋ねれば、アキトはすぐにうんっと笑顔で頷いた。

「うん、そうだね」

 説明しようと意気込んだアキトが口を開く前にと、俺はアキトに声をかけた。

「あ、アキト、ちょっとだけ待って」
「え?」
「あーすまない、みんな。ちょっと混みあった話をするからこれ、使っても良いか?」

 そう言いながら俺が魔導収納鞄から取り出したのは、防音結界の魔道具だ。急に魔道具を取り出して宣言した俺に、周りの視線が一気に集中する。

 信頼している人以外にアキトの体質について知られるのは、アキトが良くても俺が嫌だ。まあ今は近くに知らない奴の気配は無いんだが、それでも注意をするに越した事は無いだろう。

「防音結界が必要な話…?一体何の話だ?」

 怪訝そうな顔をしたウォルターの質問に、俺はあっさりと答えた。

「ここにいる奴以外には、できれば聞かせたくない秘密の話だな」
「俺は問題ないぞ」
「私も問題はありません」

 カーディさんとクリスは、想像以上にあっさりと防音結界を受け入れた。クリスは少し心配そうにこちらを見ているが、さすがにアキトも出身については話さないと思うぞ。

 二人は了承したが他はどうだろうと視線を向ければ、どうやらパーティーメンバーは視線を交わして相談中のようだ。手を使ったサインもしていないのに視線だけで会話ができるのか。

 しばらく待つと無言の相談は終わったらしく、ルセフが代表して答えてくれた。

「使ってくれて良いよ。どんな話か興味もあるし」
「ありがとう」

 俺は全員に向かって感謝の言葉を告げてから、すぐに防音結界を作動した。ただそれだけで周りの音は一切聞こえなくなる。遠くで聞こえていた鳥の鳴き声も、小さく鳴き続けていた虫の声も、風で揺れる葉っぱの音も全部だ。本当に高性能だな、この防音結界は。

「あ、責任を持って気配探知はするから、それは安心してくれて良いよ」

 ルセフも気配探知は続けるだろうが、一応と声をかければ全員から頷きがかえってきた。

「よし、アキト、良いよ」
「うん、ありがと、ハル」

 俺が話すんだと思っていたらしい全員の視線が、驚きつつも声をあげたアキトに集まっていく。アキトは笑顔で口を開いた。

「えーと、まずはみなさん、防音結界を許してくれてありがとうございます」

 お礼の言葉から始めたアキトに、周りの皆も笑みを返している。ウォルターからは硬くならなくて良いぞーなんて優しい声がかかった。

「ブレイズの元気が無いように見える理由はもしかして俺の秘密のせいかなと思ったので、話を聞いてもらおうと思いました」

 ああ、これはかなり緊張してるみたいだな。いつもよりも硬い話し方に、俺は思わず苦笑を浮かべる。

「うまく説明できるか分からないけど、聞いてください」

 そう前置きをしてからどこから話そうかと戸惑うアキトに、俺ははにっこりと笑って手を上げた。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...