生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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547.【ハル視点】打ち明け話の前準備

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 ぶつぶつと言いながら思考に沈んでしまったらしいファリーマが静かになるなり、不意にウォルターが不思議そうに尋ねた。

「なあ、ブレイズ?」
「ん?」
「なんか…お前今日えらく無口じゃないか?」
「え、そんな事ないよ?」
「いやいやいや、ごまかすなって、そんな事あるだろ。なんだ、体調でも悪いのか?」

 ウォルターはそう尋ねながら、慣れた様子でブレイズの額にぴたりと手を当てた。

「いや、元気だよ、大丈夫だって」
「お前昔っから何故か体調悪いのを隠そうとするからな」

 でも熱は無いみたいだなとつぶやいたウォルターに、ブレイズは照れくさそうにしながらもふわりと笑みを見せた。

 そういう行動をするから兄ちゃんなんて呼ばれるんじゃないのか?と苦笑しながら、俺はアキトに視線を向けた。

 この心配そうな顔からして、多分アキトは気づいてないんだろうな。俺はちらちらとブレイズの様子を伺っているアキトの肩を、ちょんちょんと指先で優しく突いた。

「ん?ハル?」

 見上げてくるアキトの耳元にそっと顔を近づけて、俺はそっと囁いた。

「ねえ、アキト。もしかしてさブレイズの様子がおかしいのって…俺についてのあの誤解が解けてないから…じゃない?」

 アキトは俺の言葉を聞くなり、ハッと顔を上げた。

 馬車の前で再会した時は、俺の存在を忘れていたから普段通りのブレイズだったんだと思う。少しずつ態度が変わっていったのは、俺を精霊だと思っているせいで恐れ多いとか思ってるんだろうな。

「でも、何て言えば良いの?」

 こっそりと尋ねてきたアキトに、俺も小声で答える。

「アキトの見える体質について、話せば良いんじゃない?」

 ここにいる人達の事は、信頼してるんでしょう?と優しく笑って尋ねれば、アキトはすぐにうんっと笑顔で頷いた。

「うん、そうだね」

 説明しようと意気込んだアキトが口を開く前にと、俺はアキトに声をかけた。

「あ、アキト、ちょっとだけ待って」
「え?」
「あーすまない、みんな。ちょっと混みあった話をするからこれ、使っても良いか?」

 そう言いながら俺が魔導収納鞄から取り出したのは、防音結界の魔道具だ。急に魔道具を取り出して宣言した俺に、周りの視線が一気に集中する。

 信頼している人以外にアキトの体質について知られるのは、アキトが良くても俺が嫌だ。まあ今は近くに知らない奴の気配は無いんだが、それでも注意をするに越した事は無いだろう。

「防音結界が必要な話…?一体何の話だ?」

 怪訝そうな顔をしたウォルターの質問に、俺はあっさりと答えた。

「ここにいる奴以外には、できれば聞かせたくない秘密の話だな」
「俺は問題ないぞ」
「私も問題はありません」

 カーディさんとクリスは、想像以上にあっさりと防音結界を受け入れた。クリスは少し心配そうにこちらを見ているが、さすがにアキトも出身については話さないと思うぞ。

 二人は了承したが他はどうだろうと視線を向ければ、どうやらパーティーメンバーは視線を交わして相談中のようだ。手を使ったサインもしていないのに視線だけで会話ができるのか。

 しばらく待つと無言の相談は終わったらしく、ルセフが代表して答えてくれた。

「使ってくれて良いよ。どんな話か興味もあるし」
「ありがとう」

 俺は全員に向かって感謝の言葉を告げてから、すぐに防音結界を作動した。ただそれだけで周りの音は一切聞こえなくなる。遠くで聞こえていた鳥の鳴き声も、小さく鳴き続けていた虫の声も、風で揺れる葉っぱの音も全部だ。本当に高性能だな、この防音結界は。

「あ、責任を持って気配探知はするから、それは安心してくれて良いよ」

 ルセフも気配探知は続けるだろうが、一応と声をかければ全員から頷きがかえってきた。

「よし、アキト、良いよ」
「うん、ありがと、ハル」

 俺が話すんだと思っていたらしい全員の視線が、驚きつつも声をあげたアキトに集まっていく。アキトは笑顔で口を開いた。

「えーと、まずはみなさん、防音結界を許してくれてありがとうございます」

 お礼の言葉から始めたアキトに、周りの皆も笑みを返している。ウォルターからは硬くならなくて良いぞーなんて優しい声がかかった。

「ブレイズの元気が無いように見える理由はもしかして俺の秘密のせいかなと思ったので、話を聞いてもらおうと思いました」

 ああ、これはかなり緊張してるみたいだな。いつもよりも硬い話し方に、俺は思わず苦笑を浮かべる。

「うまく説明できるか分からないけど、聞いてください」

 そう前置きをしてからどこから話そうかと戸惑うアキトに、俺ははにっこりと笑って手を上げた。
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