生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
544 / 1,179

543.【ハル視点】アキトが嬉しそうだと俺も嬉しい

しおりを挟む
「あーすまん。和んでるとこ悪いんだが、俺のためにもう一回だけ自己紹介してもらっても良いか?」

 申し訳なさそうにカーディさんが口にした言葉に、クリスはハッと顔をあげた。私とした事が愛しの伴侶にこんな事を言わせてしまってと思ってるんだろうな。しょんぼりと肩を落としたクリスの頭を、カーディさんの手がくしゃりと撫でた。

 うん、あっさりと復活したな。

「こちらこそ気が付かなくてすまないな」

 すぐにそう答えたリーダーのルセフが言葉を続ける前に、カーディさんはそっと手をあげた。

「まずは俺から自己紹介するな。俺の名前はカーディ。元C級の冒険者で今はストファー魔道具店で働いてる、よろしくな」

 護衛に対して自分から挨拶をするカーディさんに、ルセフ達は少し驚いたみたいだ。

「ちなみに彼が、私の最愛の伴侶です」

 大事な事だからときっちりそう付け加えたクリスに、その場にいた全員が思わず苦笑を浮かべた。この反応、多分別行動中にカーディさんの事話してたんだろうな。

「丁寧にありがとう。俺がこのパーティーのリーダーをやってる、前衛で剣士のルセフだ。よろしくな」

 そう口にしたルセフの視線が、ちらりとウォルターに向かう。

「俺は前衛、盾使いのウォルターだ。頑丈さには自信があるぜ」

 にやりと笑ったウォルターは、隣のファリーマへとひらりと手を揺らめかせる。

「後衛の魔法使い、ファリーマだ。アキトがいるなら、もし時間があればぜひとも俺に魔法の話をさせて欲し…」
「ファリーマ?」

 低い声でルセフに名前を呼ばれたファリーマは、軽く肩をすくめるとちらりとブレイズの方へと視線を向けた。

「俺は後衛、弓使いのブレイズ。命中力には自信があるよ!よろしくお願いしまーす!」

 明るく自己紹介をしたブレイズは、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。うん、今日もブレイズは元気だな。高速で振られてる犬の尻尾が見える気がする。



 自己紹介と挨拶が無事にが終わると、クリスとカーディさんは馬車の中へと消えていった。今から積み込んである荷物の最終確認をするんだそうだ。

 本来なら俺とアキトも一緒に馬車の中へ行くべきなんだが、クリスが折角友人に会えたんだからお話して待ってて下さいと言ってくれたんだ。これは明らかにアキトへの優しさだよな。こういう気づかいが、本当にありがたい。

「まさか二人がここにいるとは思わなかったよ、元気だったか?」

 ルセフにそう話しかけられた俺は、笑顔で答えた。

「ああ、二人とも体調には問題なかったよ。そっちは?」
「全員元気だし、依頼も順調だったよ」
「それは何よりだな」
「最近は何を倒したんだ?」

 笑顔で情報交換を呼びかけてくるルセフに、俺は少し考えてから答えた。

「一番最近は…ファーレスウルフだな」
「は?ファーレスウルフ?差し支えなければ聞きたいんだが…一体どこに出たんだ?」
「ああ、船着き場からイーシャルまで徒歩で向かう道の…」

 このパーティー相手に情報提供を惜しむつもりなんて欠片も無い俺は、すぐにそう答えた。アキトの事を評価してくれた信頼できる相手だからな。

「そうなのか…俺達は南に行ってたんだが、あの辺りは今年はやけに雨が多くてな」

 ルセフも自分の知っている情報を、すぐに教えてくれる。なるほど例年よりもかなり雨が多いのか。という事は水系統の魔物が増えるかもしれないって事だ。

 そんな風に情報交換をしながら視線だけを向けて見れば、アキトはブレイズと二人だけで向き合ってた。

 二人だけなのか?と不思議に思って周りを見回せば、ファリーマがウォルターに捕まっているのが見えた。ああ、魔法の話をって言って、捕まったのか。

「なあ、アキトはトリク祭りだって知ってて来たのか?」
「ううん、お祭りの前日にイーシャルに着いてね、来てから知ったんだ。ブレイズは?」
「俺達も知らなかったよ。もう少し南で依頼があってさ、その依頼を受けようとしたらメロウさんからこの護衛の話を聞いたんだ」
「そうなんだ」
「折角だから受けるべきだってルセフさんが言うから受けたんだけど…受けて良かったなーアキトと一緒にトライプールに戻れるなんて!」

 そう言ったブレイズの目はキラキラと輝いていた。本当にアキトの事が大好きなんだなと分かるが、そこに恋愛感情なんて微塵もない。うん、この二人の事は安心して見ていられるな。

「俺も嬉しいよ」
「あーそれにしてもまさかこっちに来てるとは思ってなかったからさ。俺、アキトにお土産買っちゃったんだけどなー」

 ちょっと残念そうにそう口にしたブレイズに、アキトは驚きつつもすぐに答えた。

「あ、俺もブレイズにお土産買ったよ!」
「え、本当に?」
「うん、パーティーの皆の分もあるよ」
「えーそうなのか?」

 びっくり顔をしていたブレイズは、次の瞬間ふにゃりと笑った。

「俺さ、誰かからお土産貰うのって滅多に無いんだ」

 パーティーメンバーとは常に一緒に行動してるから、お土産の必要なんて無いからなとブレイズは笑って続けた。地元の村ならともかく、トライプールには友人と呼べる人もそんなにいないようだ。

「だからさ、アキトが俺のためにお土産買ってくれてるのすごい嬉しい」

 選ぶのも楽しかったけど選んでもらうのも嬉しいもんなんだなーと照れ笑いを浮かべたブレイズに、アキトは嬉しそうに笑って答える。

「ね、ブレイズ。そのお土産さ、後で交換しない?」
「ああ、良いな」
「どこで買ったんだとかいっぱい話しながら交換したら、それも楽しそうだよね」
「うん、やろうやろう!」


 アキトとブレイズが楽しそうだなと笑い合っている間に、クリスとカーディさんは馬車の中からひょこっと顔を出した。

「荷物に問題は無かったです。それじゃあ、そろそろ出発しますか」
「はい」
「はーい!」
「分かった」
「御者は予定通り俺がやるな」
「ああ、頼んだぞ、リーダー」

 御者はルセフがやるのか。それなら安心だな。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...