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541.【ハル視点】予感
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「あ、クリス、一つだけ質問があるんだ」
離れてから何も問題は無かったかとカーディさんに尋ねていたクリスは、ちらりと俺の方へと視線を向けた。
「馬車の護衛なんだが…」
そう話しかけると、クリスはああと笑顔で頷いた。
「先ほど私との顔合わせは済ませていますよ」
「顔合わせと言うって事は、馴染みの冒険者ってわけじゃないのか…?」
「ええ、まあ」
あっさりと答えたクリスに、俺は率直に尋ねた。
「クリスの目から見て、相手はどの程度信頼できる?」
クリスとカーディさんは、やっぱりそこが気になるよなと笑っていたけれど、アキトは驚いた顔でまじまじと俺を見つめていた。
「もし馬車の護衛をする冒険者が頼れないと思ったのなら、そういうものとして警戒度を上げたいからね」
そう言いきれば、アキトもすぐに真剣な顔に変わった。今はただ黙ってクリスの返事を待っている。
「人を見る目には自信がありますが、彼らは大丈夫だと思いますよ。人柄も腕前も」
「そうか」
「ああ、それに彼らもメロウさんのお勧めなんです。だからそういう意味でも信頼できると思いますよ」
「なんだメロウの紹介なのか、それなら大丈夫そうだな」
裏の裏まできっちり調査するあのメロウが護衛として推薦するなら、それはかなりの腕前を持っていてかつ普段の行動に問題がない冒険者だろう。
そう思って肩の力を抜いた俺は、メロウのお勧めになるほどのお気に入りのパーティーを脳内に思い浮かべてみた。
魔法使いばかり五人で組んでいるあの異色のパーティーは、今は北に依頼に出ている筈だよな。商人の護衛が得意なファーヴァの率いる六人パーティーは、王都を拠点にするようになっているから違う。リッターの所は一人抜けて三人になったから馬車の護衛はできないだろう。
そうして脳内で指折り考えてみたんだが、たぶんこいつらだろうなと思えるパーティーは思い浮かばなかった。他にお気に入りといえば…そう考えてふと思い浮かんだのはアキトをパーティーに誘ってくれた、ブレイズのいるあのパーティーだった。
うーん。可能性は十分にあると思うんだが、期待させておいてもし違った時にアキトが可哀想だよな。そう考えた俺は自分の予想を口にはせずに黙っておく事に決めた。
どうせもうすぐ顔を合わせるんだしなと考えながら歩いていると、アキトがそういえばとカーディさんに声をかけた。
「トリクの花は見つかったの?」
「ああ、これ!見てくれ!」
カーディさんがいそいそと魔道収納鞄から取り出したのは、俺達の持っているものとそっくりな白いリボンのついたトリクの造花だった。
「あれ、リボンの色が違う?」
不思議そうに尋ねたアキトに、クリスが嬉しそうに答えた。
「ええ、何でも作り手が他の人とお揃いになるのは嫌でしょう?とリボンの色を変えているらしいですよ」
なんでも一度のお祭りで同じ色のリボンは使わないように、きっちりとこだわって作っているらしい。そこまでこだわってくれているなんて、果物飴程度では対価が全然足りなかったな。
「すごいな…」
「ええ、すごいですよね」
思わずこぼれた俺の言葉に、クリスは嬉しそうに笑いながら同意してくれた。あまりに手先が器用なので、もし魔道具技師になる気があったらと少年に手紙を預けてきたんだとクリスはこっそりと教えてくれた。確かにあの器用さは向いてるかもしれないな。
こそこそとそんなやりとりをしていた俺達に気づかずに、アキトは笑顔でカーディさんに話しかけた。
「手に入って良かったね、カーディ」
「ああ、大事にしないとな。家に帰ったら壁にでも飾ろうかな」
ふふと嬉しそうに笑ったカーディさんに、クリスはとろけるような笑顔を浮かべてそうしましょうねと優しく囁いた。相変わらずだな、この二人は。
甘い空気を振りまく二人の後を追って馬車乗り場に辿り着くと、職員達と御者、それにたくさんのウマの視線が一気に集まってきた。明らかに値踏みするようなウマの視線を躱して歩く俺の隣で、アキトはうわーと可愛い声をあげた。
「うわーどの馬もすっごく可愛い」
「アキトは本当にウマが好きだね」
「うん。綺麗な目も好きだし、サラサラのたてがみも好きだなー」
あと走ってる姿も好きだなーついつい見惚れちゃうぐらい綺麗だよねと言ったアキトに、俺はそうだねとすぐに同意した。これは別に嘘ってわけじゃない。どのウマもたしかに綺麗だとは思えるからな。ただそれよりも先に強そうだとか、隙を見せたくないとかがくっついてしまうだけだ。
俺達のそんなやりとりを、クリスとカーディさんはきょとんと見つめていた。
アキトのウマ好きを知らないとそんな反応にもなるよな。ウマを捕まえて可愛いとか綺麗とか言える人なんて、御者以外にはいないんだから無理も無いか。
離れてから何も問題は無かったかとカーディさんに尋ねていたクリスは、ちらりと俺の方へと視線を向けた。
「馬車の護衛なんだが…」
そう話しかけると、クリスはああと笑顔で頷いた。
「先ほど私との顔合わせは済ませていますよ」
「顔合わせと言うって事は、馴染みの冒険者ってわけじゃないのか…?」
「ええ、まあ」
あっさりと答えたクリスに、俺は率直に尋ねた。
「クリスの目から見て、相手はどの程度信頼できる?」
クリスとカーディさんは、やっぱりそこが気になるよなと笑っていたけれど、アキトは驚いた顔でまじまじと俺を見つめていた。
「もし馬車の護衛をする冒険者が頼れないと思ったのなら、そういうものとして警戒度を上げたいからね」
そう言いきれば、アキトもすぐに真剣な顔に変わった。今はただ黙ってクリスの返事を待っている。
「人を見る目には自信がありますが、彼らは大丈夫だと思いますよ。人柄も腕前も」
「そうか」
「ああ、それに彼らもメロウさんのお勧めなんです。だからそういう意味でも信頼できると思いますよ」
「なんだメロウの紹介なのか、それなら大丈夫そうだな」
裏の裏まできっちり調査するあのメロウが護衛として推薦するなら、それはかなりの腕前を持っていてかつ普段の行動に問題がない冒険者だろう。
そう思って肩の力を抜いた俺は、メロウのお勧めになるほどのお気に入りのパーティーを脳内に思い浮かべてみた。
魔法使いばかり五人で組んでいるあの異色のパーティーは、今は北に依頼に出ている筈だよな。商人の護衛が得意なファーヴァの率いる六人パーティーは、王都を拠点にするようになっているから違う。リッターの所は一人抜けて三人になったから馬車の護衛はできないだろう。
そうして脳内で指折り考えてみたんだが、たぶんこいつらだろうなと思えるパーティーは思い浮かばなかった。他にお気に入りといえば…そう考えてふと思い浮かんだのはアキトをパーティーに誘ってくれた、ブレイズのいるあのパーティーだった。
うーん。可能性は十分にあると思うんだが、期待させておいてもし違った時にアキトが可哀想だよな。そう考えた俺は自分の予想を口にはせずに黙っておく事に決めた。
どうせもうすぐ顔を合わせるんだしなと考えながら歩いていると、アキトがそういえばとカーディさんに声をかけた。
「トリクの花は見つかったの?」
「ああ、これ!見てくれ!」
カーディさんがいそいそと魔道収納鞄から取り出したのは、俺達の持っているものとそっくりな白いリボンのついたトリクの造花だった。
「あれ、リボンの色が違う?」
不思議そうに尋ねたアキトに、クリスが嬉しそうに答えた。
「ええ、何でも作り手が他の人とお揃いになるのは嫌でしょう?とリボンの色を変えているらしいですよ」
なんでも一度のお祭りで同じ色のリボンは使わないように、きっちりとこだわって作っているらしい。そこまでこだわってくれているなんて、果物飴程度では対価が全然足りなかったな。
「すごいな…」
「ええ、すごいですよね」
思わずこぼれた俺の言葉に、クリスは嬉しそうに笑いながら同意してくれた。あまりに手先が器用なので、もし魔道具技師になる気があったらと少年に手紙を預けてきたんだとクリスはこっそりと教えてくれた。確かにあの器用さは向いてるかもしれないな。
こそこそとそんなやりとりをしていた俺達に気づかずに、アキトは笑顔でカーディさんに話しかけた。
「手に入って良かったね、カーディ」
「ああ、大事にしないとな。家に帰ったら壁にでも飾ろうかな」
ふふと嬉しそうに笑ったカーディさんに、クリスはとろけるような笑顔を浮かべてそうしましょうねと優しく囁いた。相変わらずだな、この二人は。
甘い空気を振りまく二人の後を追って馬車乗り場に辿り着くと、職員達と御者、それにたくさんのウマの視線が一気に集まってきた。明らかに値踏みするようなウマの視線を躱して歩く俺の隣で、アキトはうわーと可愛い声をあげた。
「うわーどの馬もすっごく可愛い」
「アキトは本当にウマが好きだね」
「うん。綺麗な目も好きだし、サラサラのたてがみも好きだなー」
あと走ってる姿も好きだなーついつい見惚れちゃうぐらい綺麗だよねと言ったアキトに、俺はそうだねとすぐに同意した。これは別に嘘ってわけじゃない。どのウマもたしかに綺麗だとは思えるからな。ただそれよりも先に強そうだとか、隙を見せたくないとかがくっついてしまうだけだ。
俺達のそんなやりとりを、クリスとカーディさんはきょとんと見つめていた。
アキトのウマ好きを知らないとそんな反応にもなるよな。ウマを捕まえて可愛いとか綺麗とか言える人なんて、御者以外にはいないんだから無理も無いか。
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