生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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538.【ハル】大事な話と…

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「実はクリスはもう一つ…俺とアキトが知っておいた方が良いって情報もくれたんだ」
「情報?」

 不思議そうに尋ねるアキトの、空になったカップにそっと花茶を足しながら俺は口を開いた。

「ああ…異世界人についての話なんだけど…どこかの国に、異世界人を召喚したという貴族がいるらしい」
「異世界人を召喚…」
「クリスも最初にその話を聞いた時ははただの噂話なんだと思っていたらしいが…最近になってその国の貴族が、今も異世界人を探していると知ったそうだ」

 そこまで説明すれば、察しの良いアキトはなるほどとぽつりと呟いた。

「つまり俺が探されてるって可能性があるって事だよね?」
「うん」

 深刻な顔をして何かを考えているアキトを見ていられなくて、俺は慌てて口を開いた。

「でも、アキト以外の異世界人を探してるって可能性もあるよ。アキト以外にも異世界から渡ってきた人はいるんだから…」

 自分で言っておいてなんだが、説得力が全く無いな。もし本当にアキト以外の異世界人を探しているのだとしても、異世界人だとバレてしまえばアキトも連れていこうとするだろう。

 まあ、俺が持ちうる権力と人脈、それに戦闘能力を全て使って拒否するけどな。

 密かに決意を固める俺に、アキトは気づかってくれてありがとうと優しく答えた。

「でも自分が探されてるって思っていた方が良いよね」
「うん、そうだね。知らないよりは知っていた方が警戒できるだろうからって、クリスもそう言ってたよ」
「そっか、本当に俺達のために教えてくれたんだね」
「ああ、クリスは本当に打算無く教えてくれたみたいだな」

 そう告げた瞬間、アキトは嬉しそうにふわりと笑みを浮かべた。

「アキトの知識を利用するつもりかと、俺は殺気まで飛ばしてしまったんだけどな…」

 思わずぽつりとこぼした俺の言葉に、アキトは大きく目を見開いたまま、まじまじと見つめてくる。そんなつもりは無いと分かっていても、責められているような気分になってくる。

「わざとじゃないんだ!無意識のうちに…つい…うっかり…」

 どんどん勢いをなくしていく俺の言葉に呆れるでもなく、アキトはそっと手を伸ばすとテーブルの上に載せていた俺の手をきゅっと握ってくれた。弾かれるように視線を上げた俺に、アキトは優しく笑って声をかけてくれた。

「クリスさんには申し訳ないけど、ハルは俺のために怒ってくれたんでしょ?」
「…でも」
「俺は、ハルが俺のために怒ってくれたっていうその気持ちが嬉しいよ」
「アキト…」
「それに、クリスさんは許してくれたんでしょう?」

 そうじゃないとさっきの情報を教えてくれたりしないよねと尋ねてくる鋭いアキトに、俺はすぐに頷いて答えた。

「ああ、謝罪をしたら受け入れてくれた」
「それなら良かった」
「無意識のうちに殺気を飛ばす奴なんて嫌じゃないのか?」
「嫌なわけないよ。それに俺だってハルの意思を無視してハルが誰かに利用されるなんて事になったら、無意識のうちに殺気ぐらい飛ばすかもしれないし…」

 実際にアキトはそんな事はしないだろうが、そう思ってくれる気持ちが嬉しい。そう思って聞いていたんだが、アキトは不意にぴたりと言葉を止めると悩みだしてしまった。どうしたんだろうと不思議に思いながら見つめていると、不意にアキトが口を開いた。

「あ、やっぱり訂正」
「訂正?」
「うん、俺に殺気が飛ばせるか分からないから、もしその時が来たら代わりに魔法飛ばすね!」

 それはもう可愛らしくにっこりと笑いながら告げられた予想外過ぎるその言葉に、俺は思わず息をのんだ。

 殺気は飛ばせないから、代わりに魔法を飛ばす――か。牽制や威圧を通り越して、一気に攻撃に転じるとは。まあアキトの魔法制御なら当てずに威嚇ぐらいは出来るだろうから、特に問題は無いか。

 一瞬でそこまで考えた俺は、じわじわと湧いてくる嬉しさについつい声を上げて笑いだした。

「そんなに笑わなくても良いだろ?」
「殺気よりも魔法を出すって言われたら、そりゃあ笑うよ。先手必勝で攻撃してるじゃないか」
「攻撃が最大の防御って言葉が俺の世界にはあってねー」
「え、そうなのか?」

 でも確かにこれは嬉しいかもしれないなと同意すれば、アキトは満足そうに頷いた。



 クリスの忠告についてしっかりと伝えた後は、自然と今日の予定が話題に上がった。

 予定している出発時刻は昼頃だから、今すぐ急いで出る必要は無い。今からトリク祭りを見て回る?と一応聞いてみたが、アキトの答えは予想通りもう満足したよだった。

「じゃあ二人でのんびり過ごそうか」
「うんっ!」

 満面の笑みで答えたアキトがあまりに嬉しそうで、二人の時間をこんなに喜んでくれるのかと思うとアキトに触れたくてたまらなくなった。性的な意味での触れ合いをする時間は無いけれど、ちょっとぐらいアキト言うところのイチャイチャをしても問題は無いだろう。

「アキト、おいで」

 ベッドの背もたれに身体を預けるようにして座った俺は、笑顔でアキトを手招いた。どんな反応をするかなと伺っていると、アキトは何の躊躇もなくスタスタと俺に近づいてくる。その無防備さが、俺への信頼の現れなんだろうな。

 来たよと言いたげな視線に俺の伴侶候補が可愛い!と叫びたくなったが、ぐっと我慢して俺は自分の脚の間をぽんぽんと軽く叩いた。

 途端にボッと赤くなったアキトはどうしようと視線を彷徨わせていたが、しばらくすると覚悟を決めたらしくそろーっとベッドに近づいてきた。

 そのままベッドに乗り上げてゆっくりと近づいてくるアキトを、俺は急かすでも無くただニコニコ笑って見つめていた。

 恥ずかしいのか頬が真っ赤なのも、いつもはまっすぐに合う目線がちょっとずらされているのも、たまらなく可愛い。いつまででも眺めていられそうな気がするな。
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