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536.カーディの村
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カーディは何度も深呼吸をしてから、やっと口を開いた。
「アキト、びっくりさせて悪かったな。アキトの体質を信じてないとか受け入れられないとかじゃないんだ」
情けない話なんだがとカーディは続ける。
「その…俺は…幽霊がかなり苦手…?いや苦手というか怖い…んだよ?」
「え、そうなの?」
「ああ、そうなんだ。そもそもは……あー口に出して説明もしたくない……悪いがクリス、説明は頼んで良いか?」
「ええもちろん。むしろ頼ってくれてありがとうございます、カーディ」
目をつむってて良いですからねと笑ったクリスさんいわく、カーディの住んでいた村には幽霊に関係する怖い話や伝説、噂話などがそれはもうたくさんあったらしい。
墓場にいる幽霊に出会うと魂を取られるとか、何時以降に村の近くの湖に行くと幽霊に攫われて帰ってこれないとか、村から出る街道の脇にある廃屋には幽霊がいるから絶対に入るなとかとにかく種類が多かったらしい。
そんなにたくさんの幽霊が一つの村に集まってたって、何だか違和感があるな。
「カーディが話してくれたのはこの辺りですが、他にも本当に色んな話があったらしいですね」
「そんなに幽霊の噂があるのか…?」
不思議そうに尋ねたルセフさんに、クリスさんはそうらしいですよとあっさりと答えた。
「そんな幽霊の話を幼い頃から繰り返し繰り返しすり込まれた結果、カーディは極度の幽霊恐怖症になってしまったんですよ」
その話を聞いた俺が一番最初に思ったのは、カーディが俺と同じこの体質じゃなくて良かったなだった。
ここに幽霊がいないのは本当だけど、船着き場にもイーシャルにも普通の人間に見える奴からスプラッタな奴までいろんな幽霊がいたからな。トリク祭りなんて普通のお客さんに混ざって観光してる幽霊もいっぱいいたし、カーディにはおそらく耐えられないだろう。
「これが、さっきのカーディの反応の理由ですね。アキトさんの体質を信じてないわけでも受け入れてないわけでも無いと分かってもらえましたか?」
「あ、はい。説明ありがとうございました」
「どういたしまして」
「俺らしくない、情けない理由で…悪いな…」
まだ顔色が良くは無いけれど、カーディはうっすらと目を開いて呟いた。
「ううん、恰好悪くなんかないよ。教えてくれてありがとう」
「こちらこそ。体質、教えてくれてありがとな」
「あのさ…カーディ、正直に答えて欲しいんだけど…幽霊が見える俺は、怖い?」
あんなに取り乱す程怖いなら距離を取った方が良いのかなと恐る恐る聞いた俺に、カーディはあっさりと答えた。
「いや、アキトは怖くないな。実在すると知ったら、あの噂が全部本当だったのか…?って考えちゃってな」
今までにすり込まれた噂が全部本当だったらって思った結果、恐怖心が止まらなくなったって感じか。
「あーそれなんだけど…ちょっと良いか?」
「ん、どうした?」
これは北のとある国の話なんだけどなと前置きをしてから、ハルは話し出した。
「その国では、何か危険があった場所を子孫に伝えたいが、詳細を話せば逆に興味を抱いて近づく人が出るかもしれない。そう考えた結果、わざと曖昧な理由で伝承するという風習があるんだ」
「そうなんですか?曖昧というのは?」
「ああ、そこの地域では、近づくと精霊がら罰が下るなんて言われてたんだが…さっきの話と似てると思わないか?」
「あー…なるほど。それは似ていますね…」
「え、本当にそんな国があるのか?」
縋るように視線を向けたカーディに、ハルはすぐに頷いた。
「あのさ、その話なら俺も聞いた事があるよ」
横からそう同意したルセフさんは、それってデューレイス国の話だろう?と言葉を重ねた。ハルはちょっと驚いたみたいで一瞬だけびっくり顔をしてたけど、次の瞬間にはニヤリと笑みを浮かべていた。その笑顔、格好良いな。
「ああ、そうだ。よく知ってたな」
「行った事があるんだよ」
「…え、待ってくれ…じゃあ俺の村のも?」
「ああ、さすがに勝手に断言は出来ないけれど、その可能性は高いと思う」
「俺もそう思うな」
ハルとルセフさんの意見に、カーディは困惑した様子で呟いた。
「近づいたら危険な場所を…幽霊のせいにした…?」
「あの、カーディ?もしかして怖い話だったら悪いんだけど…」
「ん?気にせず言ってくれ」
「普通の幽霊って見えてない人にはあまり干渉しないんだ。心残りを解消したらすぐに消えちゃうぐらいだから」
見える人には思いっきり干渉しようとするのもいるって話は、あえて今はしない。
「そうなのか…?」
不思議そうなカーディの隣で、クリスさんは心配そうにカーディを見つめていた。
「よっぽどの悪霊というか怨霊なら話は別なんだけど、そんなにたくさん話題になるほどそういう質の悪いのが集まってたとしたら…えっと、生きてる人が普通の生活をできる筈が無いんだよ」
俺がさっき覚えた違和感はこれだ。生者の魂を奪ったり攫ったりするような悪霊が村の近くにいるのに、村は全滅してないって矛盾してるんだよね。
「だから俺も、ハルとルセフさんの話が信憑性が高いと思うよ」
しばらく呆然としていたカーディは、そっかと呟くとぎこちなく笑顔を浮かべた。
「そう思えば、うん…怖さは一気に減るな…」
「カーディ!良かったですね!」
「うん。アキト、ハル、ルセフさん…ありがとうな」
俺達の顔を順番に見てからお礼を言ったカーディを、クリスさんは思いっきり抱きしめた。
「アキト、びっくりさせて悪かったな。アキトの体質を信じてないとか受け入れられないとかじゃないんだ」
情けない話なんだがとカーディは続ける。
「その…俺は…幽霊がかなり苦手…?いや苦手というか怖い…んだよ?」
「え、そうなの?」
「ああ、そうなんだ。そもそもは……あー口に出して説明もしたくない……悪いがクリス、説明は頼んで良いか?」
「ええもちろん。むしろ頼ってくれてありがとうございます、カーディ」
目をつむってて良いですからねと笑ったクリスさんいわく、カーディの住んでいた村には幽霊に関係する怖い話や伝説、噂話などがそれはもうたくさんあったらしい。
墓場にいる幽霊に出会うと魂を取られるとか、何時以降に村の近くの湖に行くと幽霊に攫われて帰ってこれないとか、村から出る街道の脇にある廃屋には幽霊がいるから絶対に入るなとかとにかく種類が多かったらしい。
そんなにたくさんの幽霊が一つの村に集まってたって、何だか違和感があるな。
「カーディが話してくれたのはこの辺りですが、他にも本当に色んな話があったらしいですね」
「そんなに幽霊の噂があるのか…?」
不思議そうに尋ねたルセフさんに、クリスさんはそうらしいですよとあっさりと答えた。
「そんな幽霊の話を幼い頃から繰り返し繰り返しすり込まれた結果、カーディは極度の幽霊恐怖症になってしまったんですよ」
その話を聞いた俺が一番最初に思ったのは、カーディが俺と同じこの体質じゃなくて良かったなだった。
ここに幽霊がいないのは本当だけど、船着き場にもイーシャルにも普通の人間に見える奴からスプラッタな奴までいろんな幽霊がいたからな。トリク祭りなんて普通のお客さんに混ざって観光してる幽霊もいっぱいいたし、カーディにはおそらく耐えられないだろう。
「これが、さっきのカーディの反応の理由ですね。アキトさんの体質を信じてないわけでも受け入れてないわけでも無いと分かってもらえましたか?」
「あ、はい。説明ありがとうございました」
「どういたしまして」
「俺らしくない、情けない理由で…悪いな…」
まだ顔色が良くは無いけれど、カーディはうっすらと目を開いて呟いた。
「ううん、恰好悪くなんかないよ。教えてくれてありがとう」
「こちらこそ。体質、教えてくれてありがとな」
「あのさ…カーディ、正直に答えて欲しいんだけど…幽霊が見える俺は、怖い?」
あんなに取り乱す程怖いなら距離を取った方が良いのかなと恐る恐る聞いた俺に、カーディはあっさりと答えた。
「いや、アキトは怖くないな。実在すると知ったら、あの噂が全部本当だったのか…?って考えちゃってな」
今までにすり込まれた噂が全部本当だったらって思った結果、恐怖心が止まらなくなったって感じか。
「あーそれなんだけど…ちょっと良いか?」
「ん、どうした?」
これは北のとある国の話なんだけどなと前置きをしてから、ハルは話し出した。
「その国では、何か危険があった場所を子孫に伝えたいが、詳細を話せば逆に興味を抱いて近づく人が出るかもしれない。そう考えた結果、わざと曖昧な理由で伝承するという風習があるんだ」
「そうなんですか?曖昧というのは?」
「ああ、そこの地域では、近づくと精霊がら罰が下るなんて言われてたんだが…さっきの話と似てると思わないか?」
「あー…なるほど。それは似ていますね…」
「え、本当にそんな国があるのか?」
縋るように視線を向けたカーディに、ハルはすぐに頷いた。
「あのさ、その話なら俺も聞いた事があるよ」
横からそう同意したルセフさんは、それってデューレイス国の話だろう?と言葉を重ねた。ハルはちょっと驚いたみたいで一瞬だけびっくり顔をしてたけど、次の瞬間にはニヤリと笑みを浮かべていた。その笑顔、格好良いな。
「ああ、そうだ。よく知ってたな」
「行った事があるんだよ」
「…え、待ってくれ…じゃあ俺の村のも?」
「ああ、さすがに勝手に断言は出来ないけれど、その可能性は高いと思う」
「俺もそう思うな」
ハルとルセフさんの意見に、カーディは困惑した様子で呟いた。
「近づいたら危険な場所を…幽霊のせいにした…?」
「あの、カーディ?もしかして怖い話だったら悪いんだけど…」
「ん?気にせず言ってくれ」
「普通の幽霊って見えてない人にはあまり干渉しないんだ。心残りを解消したらすぐに消えちゃうぐらいだから」
見える人には思いっきり干渉しようとするのもいるって話は、あえて今はしない。
「そうなのか…?」
不思議そうなカーディの隣で、クリスさんは心配そうにカーディを見つめていた。
「よっぽどの悪霊というか怨霊なら話は別なんだけど、そんなにたくさん話題になるほどそういう質の悪いのが集まってたとしたら…えっと、生きてる人が普通の生活をできる筈が無いんだよ」
俺がさっき覚えた違和感はこれだ。生者の魂を奪ったり攫ったりするような悪霊が村の近くにいるのに、村は全滅してないって矛盾してるんだよね。
「だから俺も、ハルとルセフさんの話が信憑性が高いと思うよ」
しばらく呆然としていたカーディは、そっかと呟くとぎこちなく笑顔を浮かべた。
「そう思えば、うん…怖さは一気に減るな…」
「カーディ!良かったですね!」
「うん。アキト、ハル、ルセフさん…ありがとうな」
俺達の顔を順番に見てからお礼を言ったカーディを、クリスさんは思いっきり抱きしめた。
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