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532.ブレイズの体調

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 思考に沈んでしまったらしいファリーマさんが静かになるなり、不意にウォルターさんが不思議そうに尋ねた。

「なあ、ブレイズ?」
「ん?」
「なんか…お前今日えらく無口じゃないか?」
「え、そんな事ないよ?」
「いやいやいや、ごまかすなって、そんな事あるだろ。なんだ、体調でも悪いのか?」

 ウォルターさんはそう尋ねながら、慣れた様子でブレイズの額にぴたりと手を当てた。

「いや、元気だよ、大丈夫だって」
「お前昔っから何故か体調悪いのを隠そうとするからな」

 でも熱は無いみたいだなとつぶやいたウォルターさんに、ブレイズは照れくさそうにしながらもふわりと笑みを見せた。

 さっきから俺も気になってたんだよね。なんだかすごく大人しいというか、いつものブレイズらしい笑顔が無いのが気になる。本当は体調が悪いのを隠してるのかなと考えながら様子を伺っていた俺の肩を、ハルの指先がちょんちょんと優しく突いた。

「ハル?」

 そっと耳元に顔を近づけてきたハルは、困った顔で続けた。

「ねえ、アキト。もしかしてさブレイズの様子がおかしいのって…俺についてのあの誤解が解けてないから…じゃない?」

 そう言われて、俺はハッと顔を上げた。

 そうだ、そうだった。ブレイズは俺が幽霊のハルに話しかけてた声を聞いてたからって、何故かハルイコール精霊って思い込んでたんだった。偶然出会えて一緒にトライプールまで移動できるんだって浮かれてたせいで、すっかり忘れてたよ。

 その誤解を解かないとと慌てて口を開きかけた俺は、そこで言葉に詰まってしまった。だって何て説明すれば納得してくれるのか、想像がつかない。もしただハルは精霊じゃないよって言っても、隠してるんだなって思われちゃいそうだよね。

「でも、何て言えば良いの?」

 こっそりと尋ねれば、ハルはそっと耳元に唇を寄せて同じく小声で答えてくれた。

「アキトの見える体質について、話せば良いんじゃない?」

 ここにいる人達の事は、信頼してるんでしょう?とハルは優しく笑ってくれた。

 うん、確かにここにいるのは、俺の中でも信頼できるひとたちばかりだ。

「うん、そうだね」

 説明しようと意気込んだ俺に、ハルは冷静に声をかけた。

「あ、アキト、ちょっとだけ待って」
「え?」
「あーすまない、みんな。ちょっと混みあった話をするからこれ、使っても良いか?」

 そう言いながらハルが魔導収納鞄から取り出したのは、防音結界の魔道具だった。

 異世界人だと告げるつもりは今の所無いし俺の体質だけだったら別に良いかなって思ってたんだけど、ハルの意見は違ったみたいだ。まあ知らない人にたまたま聞かれるのはちょっと怖いかもしれないな。

「防音結界が必要な話…?一体何の話だ?」

 怪訝そうな顔をしたウォルターさんの質問に、ハルはあっさりと答えた。

「ここにいる奴以外には、できれば聞かせたくない秘密の話だな」
「俺は問題ないぞ」
「私も問題はありません」

 カーディとクリスさんはあっさりと防音結界を受け入れてくれるみたいだ。

 他のみんなはどうだろうと視線を向ければ、どうやら視線を交わして相談中みたいだ。あ、ファリーマさんもいつの間にか戻ってきてたんだ。ウォルターさんが頷けば、ブレイズもコクコクと頷いている。

 気づけば相談は終わったらしく、ルセフさんが代表して答えてくれた。

「使ってくれて良いよ。どんな話か興味もあるし」
「ありがとう」

 ハルが防音結界を作動すると、周りの音は一切聞こえなくなった。遠くで聞こえていた鳥の鳴き声も、小さく鳴き続けていた虫の声も、風で揺れる葉っぱの音も全部だ。

「あ、責任を持って気配探知はするから、それは安心してくれて良いよ」

 あ、そうか。魔物がもし近づいてきてたとしても、音で分からなくなるのか。屋外で使った事が無かったから知らなかったけど、色々注意点があるんだな。

「アキト、良いよ」
「うん、ありがと、ハル」

 そう答えた俺に周りの視線が一気に集中する。もしこれが知らない人が相手だったら焦るぐらいには圧のある視線だったけど、今ここにいる人達の事はよく知ってる。

 俺はにっこりと笑みを浮かべると、落ち着いた気持ちのままに口を開いた。
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