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531.護衛と依頼主の距離感

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「これはうまいな…」
「ああ、すげぇな」
「このもちもち感はクセになる」
「うん、美味しい」

 口々に半透明の肉まんもどきを褒めちぎったルセフさん達は、もぐもぐと上品に食べ進めるクリスさんと豪快にかぶりついてるカーディを見て苦笑を浮かべた。

「本当に面白い依頼主だな」
「面白い…?」

 ルセフさんがぽつりとこぼした言葉にそう尋ね返すと、ウォルターさんが笑って答えてくれた。

「ああ、護衛と一緒になって地面に腰を下ろして、しかも同じものを食べる依頼人なんてそうはいないぞ?」

 自分たちは馬車の中や用意した派手なテーブルで豪華な食事を楽しみ、護衛は勝手に空いた時間で適当に食べろって態度のひともいるらしい。

「そんなひとが…本当にいるの?」

 さすがに嘘でしょ?と尋ねた俺に、パーティーの四人もハルも、そしてクリスさんとカーディまで苦笑を浮かべてゆるりと首を振った。本当にいるんだ、そんなひと。

「まあそこまで酷くはなくても、普通なら依頼主は護衛と同じものは食べないな」

 ルセフさんは笑ってそう続けた。

「というか、そもそも護衛にまで食べ物を用意したりしないんだよね」

 ファリーマさんはそう言いながら、美味しい物に出会えて俺は嬉しいけどねと笑っている。カーディはそんな皆のやりとりに明るく口を挟んだ。

「俺も元冒険者だから分かるけど、まあ色んな奴がいるよなぁ」
「ああ、もちろん良い依頼主もいるんだが…」
「滅多にいないんだよな…」

 ぼそりと呟いた皆の空気がひどく重い。

「それにしても、こんなにうまい飯本当にもらって良かったのか?」
「ええ、私たちが食べたい物を選んだだけなので、口にあって良かったです」

 にっこり笑ってさっきも言いましたけどおかわりもありますよと追加分を取り出したクリスさんに、ウォルターさんは嬉しそうに手を差し出した。

「クリスさんとカーディさんは、本当に依頼書に書かれてる通りの対応をしてくれるんだな」

 しみじみと呟いたルセフさんに、クリスさんは不思議そうに尋ねる。
 
「そういう条件で依頼をしているんだから当然の事だと思うんですが…?」
「あー…うん、条件は俺が決めるんだーって依頼を受けてからバンバン条件を変えるくそ野郎に最近当たったからなぁ…」

 ウォルターさんは嫌悪感を隠さずに、心底嫌そうにそう言った。しかもその言葉を聞いたルセフさんまで、一瞬で眉をしかめる。

「うん、あれは歴代最悪のくそ依頼主だったな」
「あーうん、確かにあれは大変だった。しかも途中から魔法の話は禁止だとか言われたし」
「いや、でもあれはお前が条件破りの腹いせに質問責めにした上に、わざと難しい魔法理論の話ばっかり聞かせたからだろうが」

 途中からちょっと同情しちゃったからなとウォルターさんは苦笑を洩らす。そんな事をしたのかと驚いて視線を向ければ、ファリーマさんは悪戯っぽく笑ってみせた。

「だってあの依頼人魔法研究の専門家を名乗ってたんだぜ?なのにあの程度の知識量って…あり得ないだろう?」

 ああいう知識も実力も無いのに偉そうな奴は嫌いなんだとファリーマさんは続けた。

「そういえばファリーマは魔法が好きだって言ってたが、どういう魔法が好きなんだ?」

 何げない様子でカーディがファリーマさんに向かってそう尋ねた瞬間、ルセフさんは天を扇ぎ、ウォルターさんは絶句し、ブレイズはそっと視線を反らした。ああ、聞いちゃったな。

「カーディ!あんた聞いてくれるのか?良い奴だな!そうだなー俺は魔法ならまあ何でも好きだし嫌いな魔法は無いんだけど、特に自分が使えない魔法にはかなり興味があるな」

 すっごいワクワクした様子のファリーマさんに、カーディは動じずに答える。

「自分が使えない魔法って、例えば?」
「俺はどちらかというと攻撃特化だからそれ以外の魔法だな。補助魔法は前に使える奴に会った事があるから、今一番気になってるのは強化魔法…かな?」

 前に使える奴に会ったって、俺の事だよね?もしかしたら補助魔法の事を隠してるかもって配慮してくれたのか。こういう所の気づかいは忘れないから、ファリーマさんは嫌いになれないんだよね。

「なあアキト、会えない間にもしかして使えるようになってたり…しないか?」

 じりじりと近づいてくるファリーマさんから、ハルの腕がそっと庇ってくれた。

「強化魔法は使えるようになってないです」

 残念だなーとぼやくファリーマさんに、カーディが笑って声をかける。

「俺、強化魔法使えるぞ?」
「え、本当か!?強化魔法が使えるってひとに初めて会った!この依頼受けて良かったよ!あの、もし答えにくかったら答えなくても良いんだけど、一つだけ質問しても良いか?」

 真剣な顔のファリーマさんに、カーディはすぐに頷いた。

「ああ、いいぞ」
「その強化魔法は…生まれつき使えた?それとも成長するにつれて覚えたものか?」
「生まれつきだな。父親も使えたらしいから」 
「やっぱり…遺伝式…なのか?過去に手に入れた魔法歴史書に書いてあった事は本当だったのか…それなら…あの本の…」

 ぶつぶつと呟きだしたファリーマさんをじっと見つめていたルセフさんは、ふうとひとつ大きく息を吐いた。

「騒がせてすまないな。だがこうなった時は逆に静かになるから」
「そうなんですか?」
「今頭の中で色々分析してるんだろう」

 だいぶ口から漏れてるけどなと、ウォルターさんもブレイズも慣れた様子でファリーマさんを眺めている。

「なるほど、ファリーマさんは研究家気質なんですね」
「あー、本当にそう言ってくれる依頼人ばっかりだったら良いんだがな…」

 うん、ルセフさん苦労してるんだな。
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