532 / 1,179
531.護衛と依頼主の距離感
しおりを挟む
「これはうまいな…」
「ああ、すげぇな」
「このもちもち感はクセになる」
「うん、美味しい」
口々に半透明の肉まんもどきを褒めちぎったルセフさん達は、もぐもぐと上品に食べ進めるクリスさんと豪快にかぶりついてるカーディを見て苦笑を浮かべた。
「本当に面白い依頼主だな」
「面白い…?」
ルセフさんがぽつりとこぼした言葉にそう尋ね返すと、ウォルターさんが笑って答えてくれた。
「ああ、護衛と一緒になって地面に腰を下ろして、しかも同じものを食べる依頼人なんてそうはいないぞ?」
自分たちは馬車の中や用意した派手なテーブルで豪華な食事を楽しみ、護衛は勝手に空いた時間で適当に食べろって態度のひともいるらしい。
「そんなひとが…本当にいるの?」
さすがに嘘でしょ?と尋ねた俺に、パーティーの四人もハルも、そしてクリスさんとカーディまで苦笑を浮かべてゆるりと首を振った。本当にいるんだ、そんなひと。
「まあそこまで酷くはなくても、普通なら依頼主は護衛と同じものは食べないな」
ルセフさんは笑ってそう続けた。
「というか、そもそも護衛にまで食べ物を用意したりしないんだよね」
ファリーマさんはそう言いながら、美味しい物に出会えて俺は嬉しいけどねと笑っている。カーディはそんな皆のやりとりに明るく口を挟んだ。
「俺も元冒険者だから分かるけど、まあ色んな奴がいるよなぁ」
「ああ、もちろん良い依頼主もいるんだが…」
「滅多にいないんだよな…」
ぼそりと呟いた皆の空気がひどく重い。
「それにしても、こんなにうまい飯本当にもらって良かったのか?」
「ええ、私たちが食べたい物を選んだだけなので、口にあって良かったです」
にっこり笑ってさっきも言いましたけどおかわりもありますよと追加分を取り出したクリスさんに、ウォルターさんは嬉しそうに手を差し出した。
「クリスさんとカーディさんは、本当に依頼書に書かれてる通りの対応をしてくれるんだな」
しみじみと呟いたルセフさんに、クリスさんは不思議そうに尋ねる。
「そういう条件で依頼をしているんだから当然の事だと思うんですが…?」
「あー…うん、条件は俺が決めるんだーって依頼を受けてからバンバン条件を変えるくそ野郎に最近当たったからなぁ…」
ウォルターさんは嫌悪感を隠さずに、心底嫌そうにそう言った。しかもその言葉を聞いたルセフさんまで、一瞬で眉をしかめる。
「うん、あれは歴代最悪のくそ依頼主だったな」
「あーうん、確かにあれは大変だった。しかも途中から魔法の話は禁止だとか言われたし」
「いや、でもあれはお前が条件破りの腹いせに質問責めにした上に、わざと難しい魔法理論の話ばっかり聞かせたからだろうが」
途中からちょっと同情しちゃったからなとウォルターさんは苦笑を洩らす。そんな事をしたのかと驚いて視線を向ければ、ファリーマさんは悪戯っぽく笑ってみせた。
「だってあの依頼人魔法研究の専門家を名乗ってたんだぜ?なのにあの程度の知識量って…あり得ないだろう?」
ああいう知識も実力も無いのに偉そうな奴は嫌いなんだとファリーマさんは続けた。
「そういえばファリーマは魔法が好きだって言ってたが、どういう魔法が好きなんだ?」
何げない様子でカーディがファリーマさんに向かってそう尋ねた瞬間、ルセフさんは天を扇ぎ、ウォルターさんは絶句し、ブレイズはそっと視線を反らした。ああ、聞いちゃったな。
「カーディ!あんた聞いてくれるのか?良い奴だな!そうだなー俺は魔法ならまあ何でも好きだし嫌いな魔法は無いんだけど、特に自分が使えない魔法にはかなり興味があるな」
すっごいワクワクした様子のファリーマさんに、カーディは動じずに答える。
「自分が使えない魔法って、例えば?」
「俺はどちらかというと攻撃特化だからそれ以外の魔法だな。補助魔法は前に使える奴に会った事があるから、今一番気になってるのは強化魔法…かな?」
前に使える奴に会ったって、俺の事だよね?もしかしたら補助魔法の事を隠してるかもって配慮してくれたのか。こういう所の気づかいは忘れないから、ファリーマさんは嫌いになれないんだよね。
「なあアキト、会えない間にもしかして使えるようになってたり…しないか?」
じりじりと近づいてくるファリーマさんから、ハルの腕がそっと庇ってくれた。
「強化魔法は使えるようになってないです」
残念だなーとぼやくファリーマさんに、カーディが笑って声をかける。
「俺、強化魔法使えるぞ?」
「え、本当か!?強化魔法が使えるってひとに初めて会った!この依頼受けて良かったよ!あの、もし答えにくかったら答えなくても良いんだけど、一つだけ質問しても良いか?」
真剣な顔のファリーマさんに、カーディはすぐに頷いた。
「ああ、いいぞ」
「その強化魔法は…生まれつき使えた?それとも成長するにつれて覚えたものか?」
「生まれつきだな。父親も使えたらしいから」
「やっぱり…遺伝式…なのか?過去に手に入れた魔法歴史書に書いてあった事は本当だったのか…それなら…あの本の…」
ぶつぶつと呟きだしたファリーマさんをじっと見つめていたルセフさんは、ふうとひとつ大きく息を吐いた。
「騒がせてすまないな。だがこうなった時は逆に静かになるから」
「そうなんですか?」
「今頭の中で色々分析してるんだろう」
だいぶ口から漏れてるけどなと、ウォルターさんもブレイズも慣れた様子でファリーマさんを眺めている。
「なるほど、ファリーマさんは研究家気質なんですね」
「あー、本当にそう言ってくれる依頼人ばっかりだったら良いんだがな…」
うん、ルセフさん苦労してるんだな。
「ああ、すげぇな」
「このもちもち感はクセになる」
「うん、美味しい」
口々に半透明の肉まんもどきを褒めちぎったルセフさん達は、もぐもぐと上品に食べ進めるクリスさんと豪快にかぶりついてるカーディを見て苦笑を浮かべた。
「本当に面白い依頼主だな」
「面白い…?」
ルセフさんがぽつりとこぼした言葉にそう尋ね返すと、ウォルターさんが笑って答えてくれた。
「ああ、護衛と一緒になって地面に腰を下ろして、しかも同じものを食べる依頼人なんてそうはいないぞ?」
自分たちは馬車の中や用意した派手なテーブルで豪華な食事を楽しみ、護衛は勝手に空いた時間で適当に食べろって態度のひともいるらしい。
「そんなひとが…本当にいるの?」
さすがに嘘でしょ?と尋ねた俺に、パーティーの四人もハルも、そしてクリスさんとカーディまで苦笑を浮かべてゆるりと首を振った。本当にいるんだ、そんなひと。
「まあそこまで酷くはなくても、普通なら依頼主は護衛と同じものは食べないな」
ルセフさんは笑ってそう続けた。
「というか、そもそも護衛にまで食べ物を用意したりしないんだよね」
ファリーマさんはそう言いながら、美味しい物に出会えて俺は嬉しいけどねと笑っている。カーディはそんな皆のやりとりに明るく口を挟んだ。
「俺も元冒険者だから分かるけど、まあ色んな奴がいるよなぁ」
「ああ、もちろん良い依頼主もいるんだが…」
「滅多にいないんだよな…」
ぼそりと呟いた皆の空気がひどく重い。
「それにしても、こんなにうまい飯本当にもらって良かったのか?」
「ええ、私たちが食べたい物を選んだだけなので、口にあって良かったです」
にっこり笑ってさっきも言いましたけどおかわりもありますよと追加分を取り出したクリスさんに、ウォルターさんは嬉しそうに手を差し出した。
「クリスさんとカーディさんは、本当に依頼書に書かれてる通りの対応をしてくれるんだな」
しみじみと呟いたルセフさんに、クリスさんは不思議そうに尋ねる。
「そういう条件で依頼をしているんだから当然の事だと思うんですが…?」
「あー…うん、条件は俺が決めるんだーって依頼を受けてからバンバン条件を変えるくそ野郎に最近当たったからなぁ…」
ウォルターさんは嫌悪感を隠さずに、心底嫌そうにそう言った。しかもその言葉を聞いたルセフさんまで、一瞬で眉をしかめる。
「うん、あれは歴代最悪のくそ依頼主だったな」
「あーうん、確かにあれは大変だった。しかも途中から魔法の話は禁止だとか言われたし」
「いや、でもあれはお前が条件破りの腹いせに質問責めにした上に、わざと難しい魔法理論の話ばっかり聞かせたからだろうが」
途中からちょっと同情しちゃったからなとウォルターさんは苦笑を洩らす。そんな事をしたのかと驚いて視線を向ければ、ファリーマさんは悪戯っぽく笑ってみせた。
「だってあの依頼人魔法研究の専門家を名乗ってたんだぜ?なのにあの程度の知識量って…あり得ないだろう?」
ああいう知識も実力も無いのに偉そうな奴は嫌いなんだとファリーマさんは続けた。
「そういえばファリーマは魔法が好きだって言ってたが、どういう魔法が好きなんだ?」
何げない様子でカーディがファリーマさんに向かってそう尋ねた瞬間、ルセフさんは天を扇ぎ、ウォルターさんは絶句し、ブレイズはそっと視線を反らした。ああ、聞いちゃったな。
「カーディ!あんた聞いてくれるのか?良い奴だな!そうだなー俺は魔法ならまあ何でも好きだし嫌いな魔法は無いんだけど、特に自分が使えない魔法にはかなり興味があるな」
すっごいワクワクした様子のファリーマさんに、カーディは動じずに答える。
「自分が使えない魔法って、例えば?」
「俺はどちらかというと攻撃特化だからそれ以外の魔法だな。補助魔法は前に使える奴に会った事があるから、今一番気になってるのは強化魔法…かな?」
前に使える奴に会ったって、俺の事だよね?もしかしたら補助魔法の事を隠してるかもって配慮してくれたのか。こういう所の気づかいは忘れないから、ファリーマさんは嫌いになれないんだよね。
「なあアキト、会えない間にもしかして使えるようになってたり…しないか?」
じりじりと近づいてくるファリーマさんから、ハルの腕がそっと庇ってくれた。
「強化魔法は使えるようになってないです」
残念だなーとぼやくファリーマさんに、カーディが笑って声をかける。
「俺、強化魔法使えるぞ?」
「え、本当か!?強化魔法が使えるってひとに初めて会った!この依頼受けて良かったよ!あの、もし答えにくかったら答えなくても良いんだけど、一つだけ質問しても良いか?」
真剣な顔のファリーマさんに、カーディはすぐに頷いた。
「ああ、いいぞ」
「その強化魔法は…生まれつき使えた?それとも成長するにつれて覚えたものか?」
「生まれつきだな。父親も使えたらしいから」
「やっぱり…遺伝式…なのか?過去に手に入れた魔法歴史書に書いてあった事は本当だったのか…それなら…あの本の…」
ぶつぶつと呟きだしたファリーマさんをじっと見つめていたルセフさんは、ふうとひとつ大きく息を吐いた。
「騒がせてすまないな。だがこうなった時は逆に静かになるから」
「そうなんですか?」
「今頭の中で色々分析してるんだろう」
だいぶ口から漏れてるけどなと、ウォルターさんもブレイズも慣れた様子でファリーマさんを眺めている。
「なるほど、ファリーマさんは研究家気質なんですね」
「あー、本当にそう言ってくれる依頼人ばっかりだったら良いんだがな…」
うん、ルセフさん苦労してるんだな。
185
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる