生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
524 / 1,179

523.噂話と俺の決意

しおりを挟む
 ハルは俺よりもよっぽど冷静だよと、笑いながら続けた。

「クリスは、ミタラシって呼び方を広めるように親戚に言っておくから、広まるまでは注意してくれって言ってたよ」
「え、広めてくれるんだ?」
「ああ、その方が咄嗟に出た言葉が問題にならないだろうからって。あと広まる前にもし誰かに聞きとがめられたら、クリスと一緒に食べた時に聞いたんだって言えって忠告まで貰ったよ」

 ハルは何て事のない口調でさらりと続けたけど、口元は嬉しそうに緩んでいた。友人であるクリスさんの気づかいが、嬉しかったんだろうな。

 俺もクリスさんに感謝しないとな。

「そこまでしてくれるなんて…有難いね」
「ああ、本当に有難いよ」

 しみじみとそう呟いたハルは、真剣な表情を浮かべてまっすぐ俺を見つめてきた。

「もう一つ…俺とアキトが知っておいた方が良いって情報もくれたんだ」
「情報?」
「ああ…異世界人についての話なんだけど…」

 言い難そうにしながらもハルが教えてくれたのは、どこかの国に異世界人を召喚したという貴族がいるという情報だった。

「異世界人を召喚…」

 そもそも異世界人って、召喚されて来るものなの?

 俺はなんだか知らないけど何かの弾みで移動してきた――みたいな印象だったんだけどな。自販機前からいきなり異世界だったし、移動して来たときも足元に分かりやすい召喚陣みたいなのは無かったから。

「クリスも最初にその話を聞いた時ははただの噂話なんだと思っていたらしいが…最近になってその国の貴族が今も異世界人を探していると知ったそうだ」

 ああ、なるほど。つまりその探されている異世界人が、もしかしたら俺って可能性もあるって事か。

「俺が探されてるって可能性があるって事だよね?」
「ああ、でもアキト以外の異世界人を探してるって可能性もあるよ」

 アキト以外にも異世界から渡ってきた人はいるんだからとハルは言ってくれたけど、これは多分俺の気持ちを落ち着けるための優しい嘘だよな。

「でも自分が探されてるって思っていた方が良いよね」
「うん、そうだね。知らないよりは知っていた方が警戒できるだろうからって、クリスもそう言ってたよ」
「そっか、本当に俺達のために教えてくれたんだね」
「ああ、クリスは本当に打算無く教えてくれたみたいだな。アキトの知識を利用するつもりかと、俺は殺気まで飛ばしてしまったんだけどな…」

 え、殺気飛ばしたの?クリスさんに?思わず大きく目を見開いてハルを見つめれば、ハルは慌てて言葉を重ねた。

「わざとじゃないんだ!無意識のうちに…つい…うっかり…」

 どんどん勢いをなくしていくハルの言葉に、俺はそっと手を伸ばすとテーブルの上に載せられていたハルの手をきゅっと握った。弾かれるように視線を上げてくれたハルに、俺は優しく笑って声をかける。

「クリスさんには申し訳ないけど、ハルは俺のために怒ってくれたんでしょ?」
「…でも」
「俺は、ハルが俺のために怒ってくれたっていうその気持ちが嬉しいよ」
「アキト…」

 ハルはしょんぼりと肩を落として俺を見つめてくる。滅多に見せないさびしそうな表情をしていても、格好良いんだから困るよね。

「それに、クリスさんは許してくれたんでしょう?」

 そうじゃないとさっきの情報を教えてくれたりしないよねと尋ねれば、ハルはすぐに頷いてくれた。

「ああ、謝罪をしたら受け入れてくれた」
「それなら良かった」
「無意識のうちに殺気を飛ばす奴なんて嫌じゃないのか?」
「嫌なわけないよ。それに俺だってハルの意思を無視してハルが誰かに利用されるなんて事になったら、無意識のうちに殺気ぐらい飛ばすかもしれないし…」

 そう口にしてから、果たして俺に殺気なんてものが飛ばせるるのかなと不安になってしまった。だって意識して殺気を飛ばした事なんて一度もないからね。これでも平和な異世界出身なので。

「あ、やっぱり訂正」
「訂正?」
「うん、俺に殺気が飛ばせるか分からないから、もしその時が来たら代わりに魔法飛ばすね!」

 そう断言した俺を呆然と見つめていたハルは、次の瞬間声をあげて笑いだした。

「そんなに笑わなくても良いだろ?」

 しょんぼりしてるよりも、そうやって笑ってくれてる方が嬉しいんだけどさ。

「殺気よりも魔法を出すって言われたら、そりゃあ笑うよ。先手必勝で攻撃してるじゃないか」

 楽し気に笑い続けていたハルは、でも確かにこれは嬉しいかもしれないなと笑って同意してくれた。俺の気持ちが分かって貰えたみたいでよかったよ。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...