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522.幸せな二度寝
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昨日は眠気に負けてハルを置いて部屋に戻ってしまったけれど、ぐっすり眠ったおかげで今朝の目覚めは爽やかだった。
パチリと目を開いた俺は、隣のベッドで眠るハルにそっと視線を向けた。あんまり見つめすぎたら気配に鋭いハルは起きてしまうかもしれないから、チラチラと盗み見る。
すーすーと寝息を立てながら眠っているハルの姿は、まるで名のある有名な作家が全力で作り上げた美術品のような美しさだ。起きてる時はくるくる変わる表情と、優しくて温かみのあるあの目に意識が行くから美術品みたいなんて思わないんだけどな。
窓から差し込む光でハルの長いまつげが透けて見える。ああ綺麗だなとついつい見惚れていたけど、これだけ見つめられているのにハルが起きそうな気配は無い。もしかして結構遅くまでクリスさんと二人で飲んでたんだろうか。
もしそうなら、もう少し寝かせてあげたいな。
ハルを起こさないように今出来る事を考えたけれど、何も思いつかない。魔道収納鞄の所に本を取りに行くのも無理だし、朝食だって食べるならハルと一緒に食べたい。
何をしようかなぁとぼんやりと考えながらハルの寝息を聞いていると、あんなにしっかり眠った筈なのに不思議と眠気が湧いてきた。
できる事、ひとつだけあったな。今日の予定は昼からなんだし、今はまだ早い。
よし、二度寝しよう。
自然と閉じていく瞼に抗わず、俺はそっと目を閉じた。
「アキト、起きられる?」
ふわりと肩に触れる手と優しいハルの声に、俺はそっと目を開いた。
「おはよう、ハル」
「ああ。おはよう、アキト」
「二度寝したら寝すぎちゃったな、起こしてくれてありがとう」
「いや、気にしないで」
俺の手を取ってベッドから立たせると、ハルはそのままテーブルの方へと歩き出した。
「朝食が届いてるから、食べよう?」
「わ、本当だ!」
テーブルの上には色んな種類のこぶりなパンにジャム、サラダに果物、卵料理が並んでいた。
「朝の飲み物は…花茶かな?」
「うん、花茶が良い!」
笑顔でそう答えれば、ハルはすぐにお茶を淹れて手渡してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
いただきますと声を重ねて朝食に手を伸ばす。見た目はとってもシンプルなホテルの朝食って感じなのに、どれもこれも驚くほどに美味しかった。
「美味しい」
「うん、美味しいね。料理長のこだわりで、朝食は華美じゃないが質が良い物を出すって決まってるらしいよ?」
「へーそれは嬉しいこだわりだな」
「これだけ美味しいならすごい事だよね」
のんびりと会話を楽しみながらの食事を終えると、ハルは少し申し訳なさそうに俺に向かって声をかけた。
「アキト、ひとつ話したい事があるんだ」
「うん、何?」
「昨夜ね、クリスにアキトが異世界人かって聞かれて…」
「えっ…!?」
俺は驚きに固まったまま、呆然とハルを見つめていた。
「さすがに誤魔化せなかったから、そうだって教えた。勝手に決めてごめんね」
「いや、うん。それは仕方ないと思うから良いんだけど…何でバレたの?」
「うーん…アキト昨日ダンゴ食べたでしょう?」
うん、食べたね。久しぶりの和菓子を堪能したね。
「その時にミタラシって言ってたんだよ」
「え…俺みたらしって言ってた?」
「言ってたよ。それをクリスも聞いてたみたいでね」
ハルいわく、あの菓子はクリスさんの親戚が売り出す予定の物で、まだ一般には発売していないらしい。あの料理法自体はかつて親戚が保護していた異世界人が試行錯誤して作ったもので、数代前の当主の日記と一緒に最近になって出てきたんだって。
「その日記に、正式名称はミタラシダンゴだって言いながらも、なぜかミタラシと呼んでいたって記されていたんだ」
聞きなれない言葉だから、その名前は使わないつもりだったらしいんだけどねとハルはそう教えてくれた。
うん、その異世界人さん、多分日本人だよね。
「そっか…うん、俺のうかつな発言のせいなんだね」
「いや、不意打ちで故郷のお菓子が出てきたんだから、それは仕方ないよ」
「ありがと。それでクリスさんはなんだって?」
思っていたよりも冷静な声が出せた事に、自分でもちょっと驚いた。
素性も分からないような人にバレてたらもっと動揺したかもしれないけれど、クリスさんとカーディの事は信頼してるからかな。
「アキト、思ったよりも落ち着いてるね?」
「あの二人の事は信頼してるから…かな?知らない人ならもっと動揺してたかも」
「そうか…うん、そうだね」
ハルはそう言うと、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
パチリと目を開いた俺は、隣のベッドで眠るハルにそっと視線を向けた。あんまり見つめすぎたら気配に鋭いハルは起きてしまうかもしれないから、チラチラと盗み見る。
すーすーと寝息を立てながら眠っているハルの姿は、まるで名のある有名な作家が全力で作り上げた美術品のような美しさだ。起きてる時はくるくる変わる表情と、優しくて温かみのあるあの目に意識が行くから美術品みたいなんて思わないんだけどな。
窓から差し込む光でハルの長いまつげが透けて見える。ああ綺麗だなとついつい見惚れていたけど、これだけ見つめられているのにハルが起きそうな気配は無い。もしかして結構遅くまでクリスさんと二人で飲んでたんだろうか。
もしそうなら、もう少し寝かせてあげたいな。
ハルを起こさないように今出来る事を考えたけれど、何も思いつかない。魔道収納鞄の所に本を取りに行くのも無理だし、朝食だって食べるならハルと一緒に食べたい。
何をしようかなぁとぼんやりと考えながらハルの寝息を聞いていると、あんなにしっかり眠った筈なのに不思議と眠気が湧いてきた。
できる事、ひとつだけあったな。今日の予定は昼からなんだし、今はまだ早い。
よし、二度寝しよう。
自然と閉じていく瞼に抗わず、俺はそっと目を閉じた。
「アキト、起きられる?」
ふわりと肩に触れる手と優しいハルの声に、俺はそっと目を開いた。
「おはよう、ハル」
「ああ。おはよう、アキト」
「二度寝したら寝すぎちゃったな、起こしてくれてありがとう」
「いや、気にしないで」
俺の手を取ってベッドから立たせると、ハルはそのままテーブルの方へと歩き出した。
「朝食が届いてるから、食べよう?」
「わ、本当だ!」
テーブルの上には色んな種類のこぶりなパンにジャム、サラダに果物、卵料理が並んでいた。
「朝の飲み物は…花茶かな?」
「うん、花茶が良い!」
笑顔でそう答えれば、ハルはすぐにお茶を淹れて手渡してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
いただきますと声を重ねて朝食に手を伸ばす。見た目はとってもシンプルなホテルの朝食って感じなのに、どれもこれも驚くほどに美味しかった。
「美味しい」
「うん、美味しいね。料理長のこだわりで、朝食は華美じゃないが質が良い物を出すって決まってるらしいよ?」
「へーそれは嬉しいこだわりだな」
「これだけ美味しいならすごい事だよね」
のんびりと会話を楽しみながらの食事を終えると、ハルは少し申し訳なさそうに俺に向かって声をかけた。
「アキト、ひとつ話したい事があるんだ」
「うん、何?」
「昨夜ね、クリスにアキトが異世界人かって聞かれて…」
「えっ…!?」
俺は驚きに固まったまま、呆然とハルを見つめていた。
「さすがに誤魔化せなかったから、そうだって教えた。勝手に決めてごめんね」
「いや、うん。それは仕方ないと思うから良いんだけど…何でバレたの?」
「うーん…アキト昨日ダンゴ食べたでしょう?」
うん、食べたね。久しぶりの和菓子を堪能したね。
「その時にミタラシって言ってたんだよ」
「え…俺みたらしって言ってた?」
「言ってたよ。それをクリスも聞いてたみたいでね」
ハルいわく、あの菓子はクリスさんの親戚が売り出す予定の物で、まだ一般には発売していないらしい。あの料理法自体はかつて親戚が保護していた異世界人が試行錯誤して作ったもので、数代前の当主の日記と一緒に最近になって出てきたんだって。
「その日記に、正式名称はミタラシダンゴだって言いながらも、なぜかミタラシと呼んでいたって記されていたんだ」
聞きなれない言葉だから、その名前は使わないつもりだったらしいんだけどねとハルはそう教えてくれた。
うん、その異世界人さん、多分日本人だよね。
「そっか…うん、俺のうかつな発言のせいなんだね」
「いや、不意打ちで故郷のお菓子が出てきたんだから、それは仕方ないよ」
「ありがと。それでクリスさんはなんだって?」
思っていたよりも冷静な声が出せた事に、自分でもちょっと驚いた。
素性も分からないような人にバレてたらもっと動揺したかもしれないけれど、クリスさんとカーディの事は信頼してるからかな。
「アキト、思ったよりも落ち着いてるね?」
「あの二人の事は信頼してるから…かな?知らない人ならもっと動揺してたかも」
「そうか…うん、そうだね」
ハルはそう言うと、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
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