生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
523 / 1,179

522.幸せな二度寝

しおりを挟む
 昨日は眠気に負けてハルを置いて部屋に戻ってしまったけれど、ぐっすり眠ったおかげで今朝の目覚めは爽やかだった。

 パチリと目を開いた俺は、隣のベッドで眠るハルにそっと視線を向けた。あんまり見つめすぎたら気配に鋭いハルは起きてしまうかもしれないから、チラチラと盗み見る。

 すーすーと寝息を立てながら眠っているハルの姿は、まるで名のある有名な作家が全力で作り上げた美術品のような美しさだ。起きてる時はくるくる変わる表情と、優しくて温かみのあるあの目に意識が行くから美術品みたいなんて思わないんだけどな。

 窓から差し込む光でハルの長いまつげが透けて見える。ああ綺麗だなとついつい見惚れていたけど、これだけ見つめられているのにハルが起きそうな気配は無い。もしかして結構遅くまでクリスさんと二人で飲んでたんだろうか。

 もしそうなら、もう少し寝かせてあげたいな。

 ハルを起こさないように今出来る事を考えたけれど、何も思いつかない。魔道収納鞄の所に本を取りに行くのも無理だし、朝食だって食べるならハルと一緒に食べたい。

 何をしようかなぁとぼんやりと考えながらハルの寝息を聞いていると、あんなにしっかり眠った筈なのに不思議と眠気が湧いてきた。

 できる事、ひとつだけあったな。今日の予定は昼からなんだし、今はまだ早い。

 よし、二度寝しよう。

 自然と閉じていく瞼に抗わず、俺はそっと目を閉じた。



「アキト、起きられる?」

 ふわりと肩に触れる手と優しいハルの声に、俺はそっと目を開いた。

「おはよう、ハル」
「ああ。おはよう、アキト」
「二度寝したら寝すぎちゃったな、起こしてくれてありがとう」
「いや、気にしないで」

 俺の手を取ってベッドから立たせると、ハルはそのままテーブルの方へと歩き出した。

「朝食が届いてるから、食べよう?」
「わ、本当だ!」

 テーブルの上には色んな種類のこぶりなパンにジャム、サラダに果物、卵料理が並んでいた。

「朝の飲み物は…花茶かな?」
「うん、花茶が良い!」

 笑顔でそう答えれば、ハルはすぐにお茶を淹れて手渡してくれた。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 いただきますと声を重ねて朝食に手を伸ばす。見た目はとってもシンプルなホテルの朝食って感じなのに、どれもこれも驚くほどに美味しかった。

「美味しい」
「うん、美味しいね。料理長のこだわりで、朝食は華美じゃないが質が良い物を出すって決まってるらしいよ?」
「へーそれは嬉しいこだわりだな」
「これだけ美味しいならすごい事だよね」

 のんびりと会話を楽しみながらの食事を終えると、ハルは少し申し訳なさそうに俺に向かって声をかけた。

「アキト、ひとつ話したい事があるんだ」
「うん、何?」
「昨夜ね、クリスにアキトが異世界人かって聞かれて…」
「えっ…!?」

 俺は驚きに固まったまま、呆然とハルを見つめていた。

「さすがに誤魔化せなかったから、そうだって教えた。勝手に決めてごめんね」
「いや、うん。それは仕方ないと思うから良いんだけど…何でバレたの?」
「うーん…アキト昨日ダンゴ食べたでしょう?」

 うん、食べたね。久しぶりの和菓子を堪能したね。

「その時にミタラシって言ってたんだよ」
「え…俺みたらしって言ってた?」
「言ってたよ。それをクリスも聞いてたみたいでね」

 ハルいわく、あの菓子はクリスさんの親戚が売り出す予定の物で、まだ一般には発売していないらしい。あの料理法自体はかつて親戚が保護していた異世界人が試行錯誤して作ったもので、数代前の当主の日記と一緒に最近になって出てきたんだって。

「その日記に、正式名称はミタラシダンゴだって言いながらも、なぜかミタラシと呼んでいたって記されていたんだ」

 聞きなれない言葉だから、その名前は使わないつもりだったらしいんだけどねとハルはそう教えてくれた。

 うん、その異世界人さん、多分日本人だよね。

「そっか…うん、俺のうかつな発言のせいなんだね」
「いや、不意打ちで故郷のお菓子が出てきたんだから、それは仕方ないよ」
「ありがと。それでクリスさんはなんだって?」

 思っていたよりも冷静な声が出せた事に、自分でもちょっと驚いた。

 素性も分からないような人にバレてたらもっと動揺したかもしれないけれど、クリスさんとカーディの事は信頼してるからかな。

「アキト、思ったよりも落ち着いてるね?」
「あの二人の事は信頼してるから…かな?知らない人ならもっと動揺してたかも」
「そうか…うん、そうだね」

 ハルはそう言うと、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...