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520.【ハル視点】クリスの真意
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クリスはふうーとひとつ大きく息を吐いてから、俺の目をまっすぐ見つめながら口を開いた。
「もし仮にアキトさんが異世界人だとしても、私はその知識を自分のために利用するつもりなんて一切ありませんよ」
「その言葉は、本心からだと言いきれるか?」
友人としてのクリス個人の事は信用できる――と思う。
でも、こいつは商人だからな。商人というのは、利益のためなら何をするか分からないそういう怖さがある。もちろん全員がそうだというわけでは無いんだが、色んな奴を見てきたからな。
もしこれが自分だけに影響がある事なら、とりあえず様子を見るかと信じたふりで流す事もできたかもしれない。だが、今回はアキトに関する事だからな、そうそう簡単に警戒を緩めるわけにはいかないんだ。
真剣な表情で問い詰める俺に、クリスはあまりにあっさりと答えた。
「間違いなく本心からの言葉ですよ」
うん、表情と口調から嘘は無いと思うんだが…とにかく返事が軽い。軽すぎる。何というかあまりに軽く答えられたせいで、嘘は無いと思うのに信じ難い。さてどうしようかと戸惑う俺に、クリスは続けた。
「これでも私はハルとアキトさんを気に入ってますからね。異世界の知識よりも、どちらかというと冒険者としての能力の方に期待してます」
冒険者としての依頼は利用する事にはならないですよね?と恐る恐る尋ねてきたクリスに俺は小さく頷いた。
「それに…カーディの唯一の友人を利用なんてしたら、私がカーディに嫌われるじゃないですか。そんな恐ろしい事は絶対にしないですよ」
そう続けたクリスのいつも通りすぎる言葉に、俺はようやく肩の力を抜いた。
「ああ、そうだな。うん、お前はそういう奴だよな」
俺が警戒を解いたのに気づいたのか、クリスもふうと肩の力を抜いた。
「そういう奴って…ハルの中で、私はどういう奴なんです?」
「自分の伴侶が一番大切な、伴侶馬鹿だろ?」
「うーん、それは否定できないですね。私はカーディが一番大切な伴侶馬鹿です。でも、ハルもそうでしょう?」
「ああ、うん。それもそうだな」
「どんな理由だとしても信じて貰えて嬉しいですよ」
そう言って小さく笑ったクリスは、テーブルの上に置いたままだったカップに手を伸ばすと冷え切ったお茶をぐいっと飲み干した。
「はー緊張してたので、お茶が美味しいです」
「緊張してたのか?それにしては落ち着いて質問してたと思うが」
「そう見えていましたか?ハルがそう思うなら、私の演技力もなかなかですね」
殺気が飛んできた時はさすがに焦りましたよと苦笑するクリスに、俺はもう一度謝罪の言葉を口にした。
「もう謝ってもらいましたし、気持ちは分かるので気にしないでください」
「さっきの質問だが…確かにアキトは異世界人だよ」
クリスに話したと、あとでアキトにはちゃんと言っておかないとな。そんな事を考えながら、俺はそう口にした。
「やっぱりそうでしたか」
「あの菓子はおそらくアキトの故郷のものなんだろうな」
「なるほど。本当に幸せそうに食べてましたからね」
「ああ。そういえば、その親戚の店はどこで開く予定なんだ?」
あれほど嬉しそうに食べていた故郷の菓子だ。アキトのためにも店の情報は手に入れておきたい。そう思っての質問だったが、クリスは楽し気に声をあげて笑いだした。
「変な事を言ったか?」
「いいえ、アキトさんが第一でハルらしいですね」
「そうか?」
「とりあえず第一店舗は王都で探しているそうですよ」
「王都か」
王都ならいつかアキトと一緒に行く事もあるだろうと、開店したら詳しい情報を教えてもらうように俺はクリスと約束を取り付けた。
「アキトさんの言ったミタラシという言葉なんですが」
「ああ」
「あれは本当に無意識の言葉だったと思うんです。これからもダンゴを食べたらそう言ってしまうかもしれないし、それを誰かに聞かれるかもしれませんよね」
クリスの言葉を否定する事はできなかった。かといって無意識のうちに出るような言葉を、絶対に外では口にしないように気をつけろなんてアキトに言うのも嫌だ。
黙り込んでしまった俺に、クリスはニッと笑って続けた。
「ですから、親戚にはせっかくならそのミタラシと言う呼び方も広めた方が良いんじゃないかとと助言をしようと思うんです」
聞きなれない言葉だからこそ、面白い。ミタラシという呼び方が広まれば、同時にダンゴの名前も広がっていく。
「そんな風に誘導すれば、親戚はきっとその呼び方を広めてくれます」
なるほど。今はその親戚と日記を読んだ人しか知らない呼び方を、商品と一緒に広めてしまうのか。それならアキトがミタラシと口にしたのを聞いた人がいても、気にもかけないだろ。
「クリス…ありがとう」
俺は心からの感謝を込めて、クリスに向かって頭を下げた。
「もし仮にアキトさんが異世界人だとしても、私はその知識を自分のために利用するつもりなんて一切ありませんよ」
「その言葉は、本心からだと言いきれるか?」
友人としてのクリス個人の事は信用できる――と思う。
でも、こいつは商人だからな。商人というのは、利益のためなら何をするか分からないそういう怖さがある。もちろん全員がそうだというわけでは無いんだが、色んな奴を見てきたからな。
もしこれが自分だけに影響がある事なら、とりあえず様子を見るかと信じたふりで流す事もできたかもしれない。だが、今回はアキトに関する事だからな、そうそう簡単に警戒を緩めるわけにはいかないんだ。
真剣な表情で問い詰める俺に、クリスはあまりにあっさりと答えた。
「間違いなく本心からの言葉ですよ」
うん、表情と口調から嘘は無いと思うんだが…とにかく返事が軽い。軽すぎる。何というかあまりに軽く答えられたせいで、嘘は無いと思うのに信じ難い。さてどうしようかと戸惑う俺に、クリスは続けた。
「これでも私はハルとアキトさんを気に入ってますからね。異世界の知識よりも、どちらかというと冒険者としての能力の方に期待してます」
冒険者としての依頼は利用する事にはならないですよね?と恐る恐る尋ねてきたクリスに俺は小さく頷いた。
「それに…カーディの唯一の友人を利用なんてしたら、私がカーディに嫌われるじゃないですか。そんな恐ろしい事は絶対にしないですよ」
そう続けたクリスのいつも通りすぎる言葉に、俺はようやく肩の力を抜いた。
「ああ、そうだな。うん、お前はそういう奴だよな」
俺が警戒を解いたのに気づいたのか、クリスもふうと肩の力を抜いた。
「そういう奴って…ハルの中で、私はどういう奴なんです?」
「自分の伴侶が一番大切な、伴侶馬鹿だろ?」
「うーん、それは否定できないですね。私はカーディが一番大切な伴侶馬鹿です。でも、ハルもそうでしょう?」
「ああ、うん。それもそうだな」
「どんな理由だとしても信じて貰えて嬉しいですよ」
そう言って小さく笑ったクリスは、テーブルの上に置いたままだったカップに手を伸ばすと冷え切ったお茶をぐいっと飲み干した。
「はー緊張してたので、お茶が美味しいです」
「緊張してたのか?それにしては落ち着いて質問してたと思うが」
「そう見えていましたか?ハルがそう思うなら、私の演技力もなかなかですね」
殺気が飛んできた時はさすがに焦りましたよと苦笑するクリスに、俺はもう一度謝罪の言葉を口にした。
「もう謝ってもらいましたし、気持ちは分かるので気にしないでください」
「さっきの質問だが…確かにアキトは異世界人だよ」
クリスに話したと、あとでアキトにはちゃんと言っておかないとな。そんな事を考えながら、俺はそう口にした。
「やっぱりそうでしたか」
「あの菓子はおそらくアキトの故郷のものなんだろうな」
「なるほど。本当に幸せそうに食べてましたからね」
「ああ。そういえば、その親戚の店はどこで開く予定なんだ?」
あれほど嬉しそうに食べていた故郷の菓子だ。アキトのためにも店の情報は手に入れておきたい。そう思っての質問だったが、クリスは楽し気に声をあげて笑いだした。
「変な事を言ったか?」
「いいえ、アキトさんが第一でハルらしいですね」
「そうか?」
「とりあえず第一店舗は王都で探しているそうですよ」
「王都か」
王都ならいつかアキトと一緒に行く事もあるだろうと、開店したら詳しい情報を教えてもらうように俺はクリスと約束を取り付けた。
「アキトさんの言ったミタラシという言葉なんですが」
「ああ」
「あれは本当に無意識の言葉だったと思うんです。これからもダンゴを食べたらそう言ってしまうかもしれないし、それを誰かに聞かれるかもしれませんよね」
クリスの言葉を否定する事はできなかった。かといって無意識のうちに出るような言葉を、絶対に外では口にしないように気をつけろなんてアキトに言うのも嫌だ。
黙り込んでしまった俺に、クリスはニッと笑って続けた。
「ですから、親戚にはせっかくならそのミタラシと言う呼び方も広めた方が良いんじゃないかとと助言をしようと思うんです」
聞きなれない言葉だからこそ、面白い。ミタラシという呼び方が広まれば、同時にダンゴの名前も広がっていく。
「そんな風に誘導すれば、親戚はきっとその呼び方を広めてくれます」
なるほど。今はその親戚と日記を読んだ人しか知らない呼び方を、商品と一緒に広めてしまうのか。それならアキトがミタラシと口にしたのを聞いた人がいても、気にもかけないだろ。
「クリス…ありがとう」
俺は心からの感謝を込めて、クリスに向かって頭を下げた。
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