上 下
518 / 1,112

517.【ハル視点】ダンゴ

しおりを挟む
「無事にこれからの予定も決まったことですし、そろそろこれの出番でしょうか」

 クリスはそう言うと、持ち込んでいた魔道収納鞄の中から小ぶりな木箱を取り出した。

 テーブルに載せられたその木箱の蓋には、美しい花の模様が小さく描かれていた。繊細な細い線だけで描かれた花の中には、俺も知らない見慣れない花がいくつか混じっているようだ。

 話の流れ的にこの中身が菓子なんだろうが…菓子を入れるためだけにしてはかなり凝った作りだな。

「この箱の中身が…さっき言ってた珍しい甘い物なのか?」

 俺は興味深く箱を観察しながら、クリスにそう尋ねた。

「ええ、箱にもこだわってるらしいんです。綺麗な箱でしょう?」
「ああ、確かにこれは綺麗だな。これなら手土産や贈り物にも良さそうだ」

 今は黒一色で描かれている花に色でも付ければ、もっと価値があがりそうだな。

「それでは、開けますよ」
「おおー面白い見た目だな」

 楽し気なカーディさんの声を聞きながら覗き込んだ木箱の中は、真ん中で二つに分かれていた。どうやら半分ずつ種類が違うようだが、どちらも見た目の形は似たような雰囲気だな。

 丸い形の物が三つずつ串に刺さっていて、片方はとろみのある茶色いソースがかけられている。残りの半分にはソースは無く、ピンクと白と緑色の丸い物が刺さっている。

 ふと視線を向ければ、アキトは驚いた顔でぴたりと固まってしまっていた。どうしたんだろう、この菓子に何かあるんだろうかと考えながらも、俺はあえて明るく声を上げた。

「へえ、確かにこれは面白いし、かなり変わった見た目だな。俺も見た事がないよ」

 アキトは俺の声にハッと顔を上げると、うんうんと小さく頷いてくれた。とりあえず今は困った様子は無いから、後でどうして固まっていたのか聞いてみよう。

「クリス、これって…なんていう菓子なんだ?…というかこれは本当に菓子なのか?」

 見た目は串焼きみたいだよなと尋ねたカーディさんに、クリスは箱に添えられていた紙を見ながら答えた。

「えーと、ダンゴという名前で、れっきとした菓子だそうですよ?」
「ダンゴ?ダンゴかー。聞きなれない名前だな」

 カーディさんはダンゴという聞きなれない名前の響きが気に入ったのか、楽し気に何度も何度も繰り返している。

「まあ、まずは食べてみませんか?」
「そうだな」
「ああ」
「そうですね」

 カートから取り出したお皿に二種類のダンゴを並べたクリスは、それぞれの前にそっと差し出してくれた。お礼を言って受け取った俺達は、まじまじと目の前のダンゴという菓子を観察した。

「さあ、どうぞ」
「「いただきます」」
「んっ!これ、もちもちして美味いな!」
「ああ、確かにこれは…初めて食べる食感ですね」

 カーディさんとクリスが口をつけて感想を言うのを待ってから、アキトはそっとダンゴを取り上げた。嬉しそうな表情をしているからこの菓子に何かがあるってわけじゃないのか。

 あーんと口を開いたアキトを横目で見ながら、俺もダンゴを口に運んだ。もちもちしていると言っていたが、これは想像以上にもちもちしているな。そう思った瞬間、アキトがしみじみと呟いた。

「みたらし、うま…」

 ぽつりとこぼれたそのミタラシという言葉は、今までに一度も聞いた事のない聞きなれない単語だった。不思議なその響きからして、おそらく異世界の言葉なんだろう。

 つまりこのダンゴとやらは異世界の菓子で、それが出てきたから動揺してたのか。一瞬でそこまで理解した俺は、すぐにアキトに話しかけた。

「うん、これは美味しいね、アキト」
「あ、うん、もちもちですごく美味しい!」

 幸せそうに笑っているアキトはすごく可愛い。いつまででも見つめていたくなる可愛らしさだが、俺はちらりと目線だけをクリスとカーディさんの方へと向けた。

 今のミタラシという単語は、はたして二人の耳に届いていただろうか。

 様子を伺う俺に気づかずに、カーディさんとクリスはもう一種類のダンゴに齧りついていた。

「ああ、こっちも美味い!」
「ええ、こちらは三色で味が違うんですね」

 二人の感想を聞いたアキトも、三色のダンゴを口に運んだ。途端にパァッと笑顔になったアキトは、興奮した様子で俺の方を見つめてくる。

「わ、本当に味が違うんだ!」

 ハルも早く食べてと訴えてくるアキトの視線に負けて口に運べば、確かに味が少しずつ違っているみたいだ。

「これは楽しいな」
「ね、美味しいね」
「ああ、美味しいな」
「うーん、見た目は串焼きっぽいと思ったけど、これはちゃんと菓子だな」

 カーディさんもダンゴの味が気に入ったのか、満足そうに頷きながら食べ進めている。

「クリス、ダンゴ気に入った!」
「ハルとアキトさんも気に入りました?」
「はいっ」
「ああ、好きな味だな」
「それは良かったです」

 クリスはそう答えると、嬉しそうな笑みを浮かべてみせた。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...