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515.【ハル視点】魔石の入手
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クリスは穏やかに語り出した。
「私たちが探していた竜種の魔石は、噂通りとある商人が集めていました」
「あの情報自体は合ってたんだよなー」
カーディさんはそう言うとへらりと笑みを浮かべた。
「ええ、あれは良い情報でしたね。…ですが、その商人が数年かけて集めたものの中に、残念ながら赤褐色の魔石はなかったんです」
「あー…赤色ならともかく、赤褐色となるとそう簡単には見つからないよな…」
俺は苦笑しながらそう答えた。
赤色は基本的には火属性に属する魔石だが、赤褐色は火属性に加えて何らかの別属性の魔力が含まれている魔石だ。赤色ならまだ十に一つぐらいはあるかもしれないが、赤褐色となると五十に一つあれば良い方だろう。
「あの時はさすがに、もう諦めるしかないなと思いましたよ」
「あー俺も同じこと思ったぞ」
「カーディもですか?」
クリスは二人とも同じことを考えていたんですねとそれはもう心底嬉しそうに笑うと、俺達の方へと視線を向けた。相変わらずだな、クリスは。
「他のお店も見に行くべきかとカーディと相談していたら、なんとそこにムフィル商会の店主がやってきたんですよ」
「は?…そこの店主と商談の予定でも入ってたのか?」
思わずそう尋ねた俺に、クリスはすぐに首を振って答えた。
「いいえ、訪問を受けた商人も驚いていたので、あれは本当に飛び込みでしょうね」
「明らかに俺達目当てで来てたから、どこかで情報仕入れてきたんだろうな」
呆れたようなでもどこか感心したような複雑な表情で、カーディさんは笑ってみせた。
商談の予定も無く突然他の商人の所に顔を出すなんて事は、まっとうな商人なら絶対にしない。販売している物が全く重なっていないならまだ分からなくもないが、ムフィル商会は各種素材も取り扱っている筈だ。
普通ならあり得ない行動だが、竜種の魔石を集めていた商人は全く怒らずに個室を貸してくれたらしい。
ムフィル商会の店主は家族がしでかした襲撃未遂事件について率直に謝罪し、深々と頭を下げたらしい。三男が勝手にやった事だとかただの気の迷いだとかそういう言い訳は一切無しで、ただひたすらに謝罪する姿にクリスとカーディさんは謝罪を受け入れたそうだ。
「そしたらさ、お詫びの品を渡したいって言い出したんだよ」
「謝罪だけで良いと言ったんですが…それでは気が済まないと言われてしまいまして」
「あの人すごいよな、クリス相手に真向から交渉するんだから」
心底感心したという声であっさりとそう言ってのけたカーディさんの後ろで、クリスは蕩けるような笑みを浮かべている。たしかに今の言葉は、カーディさんがクリスの能力を高く評価してなければ出ない言葉だが、ちょっと喜びすぎじゃないか?
「さすがに俺達が何を探してるかまでは分からなかったから教えてくれーって、結構なしつこさだったよ」
カーディさんが苦笑するぐらいだから、本当にしつこかったんだろう。結局クリスも根負けして、どうせ無理だろうと赤褐色の竜種の魔石を探してると教えたらしい。
「それで…あったのか?」
「ええ、ムフィル商会の店舗と倉庫を全て調べたら、先代が買ったまましまい込んでいたのが出てきたそうですよ」
もし仮に手元に無かったとしても何が何でも用意しただろうが、そうなるとかなりの時間がかかるだろう。わざわざイーシャルまで出向いたなら、急ぎで欲しかったんだろうなと考えた俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「それはそれは幸運だったな?」
クリスもカーディさんもにんまりと笑みを浮かべた。
「ただそこからが大変でさぁ」
「え、見つかってからが大変だったの?滅多に見つからないって素材を無事に見つけられたのに?」
不思議そうにそう尋ねたアキトに、カーディさんは聞いてくれよアキトと声をあげた。
「お詫びの品だから金は受け取れないと言い張るムフィル商会の店主と、手配してくれただけで有難いから金は払うって言い張るクリスの戦いが始まったんだよ」
俺はただ二人のやりとりを見守るだけの置物だったぞと、カーディさんは苦笑を浮かべた。
「なんだ、受け取らなかったのか?クリスならお詫びの品だと言われたら喜んで受け取るかと思ったんだが」
失礼な発言だと理解した上で口にしたんだが、クリスは特に気にした様子も無く笑って答えた。
「当然そのまま受け取りたい気持ちはありましたけどね。ただその魔石を使って魔道具を作った時に、権利だなんだと揉めたくなかったんですよ」
「ああ、そういう事か」
「まあ、今回はさすがに主張して来る可能性はかなり低いでしょうけど、可能性は潰しておかないと」
そう言いきったクリスは、悪い顔で笑ってみせた。
「で、どっちが勝ったんだ?」
「もちろん、私が勝ちましたよ」
あちらの気が済むように、多少割引はしてもらいましたけどねとクリスはさらりと続けた。
「あの時のクリスは本当に格好良かったよな。惚れ直した」
「カーディ!そんな事を考えてくれてたんですか!?」
「ああ」
「カーディが格好良かったと言ってくれるなら、面倒な交渉を頑張って良かったです!」
全力で叫ぶクリスに、俺は防音結界が作動している事に少しだけ感謝した。
「私たちが探していた竜種の魔石は、噂通りとある商人が集めていました」
「あの情報自体は合ってたんだよなー」
カーディさんはそう言うとへらりと笑みを浮かべた。
「ええ、あれは良い情報でしたね。…ですが、その商人が数年かけて集めたものの中に、残念ながら赤褐色の魔石はなかったんです」
「あー…赤色ならともかく、赤褐色となるとそう簡単には見つからないよな…」
俺は苦笑しながらそう答えた。
赤色は基本的には火属性に属する魔石だが、赤褐色は火属性に加えて何らかの別属性の魔力が含まれている魔石だ。赤色ならまだ十に一つぐらいはあるかもしれないが、赤褐色となると五十に一つあれば良い方だろう。
「あの時はさすがに、もう諦めるしかないなと思いましたよ」
「あー俺も同じこと思ったぞ」
「カーディもですか?」
クリスは二人とも同じことを考えていたんですねとそれはもう心底嬉しそうに笑うと、俺達の方へと視線を向けた。相変わらずだな、クリスは。
「他のお店も見に行くべきかとカーディと相談していたら、なんとそこにムフィル商会の店主がやってきたんですよ」
「は?…そこの店主と商談の予定でも入ってたのか?」
思わずそう尋ねた俺に、クリスはすぐに首を振って答えた。
「いいえ、訪問を受けた商人も驚いていたので、あれは本当に飛び込みでしょうね」
「明らかに俺達目当てで来てたから、どこかで情報仕入れてきたんだろうな」
呆れたようなでもどこか感心したような複雑な表情で、カーディさんは笑ってみせた。
商談の予定も無く突然他の商人の所に顔を出すなんて事は、まっとうな商人なら絶対にしない。販売している物が全く重なっていないならまだ分からなくもないが、ムフィル商会は各種素材も取り扱っている筈だ。
普通ならあり得ない行動だが、竜種の魔石を集めていた商人は全く怒らずに個室を貸してくれたらしい。
ムフィル商会の店主は家族がしでかした襲撃未遂事件について率直に謝罪し、深々と頭を下げたらしい。三男が勝手にやった事だとかただの気の迷いだとかそういう言い訳は一切無しで、ただひたすらに謝罪する姿にクリスとカーディさんは謝罪を受け入れたそうだ。
「そしたらさ、お詫びの品を渡したいって言い出したんだよ」
「謝罪だけで良いと言ったんですが…それでは気が済まないと言われてしまいまして」
「あの人すごいよな、クリス相手に真向から交渉するんだから」
心底感心したという声であっさりとそう言ってのけたカーディさんの後ろで、クリスは蕩けるような笑みを浮かべている。たしかに今の言葉は、カーディさんがクリスの能力を高く評価してなければ出ない言葉だが、ちょっと喜びすぎじゃないか?
「さすがに俺達が何を探してるかまでは分からなかったから教えてくれーって、結構なしつこさだったよ」
カーディさんが苦笑するぐらいだから、本当にしつこかったんだろう。結局クリスも根負けして、どうせ無理だろうと赤褐色の竜種の魔石を探してると教えたらしい。
「それで…あったのか?」
「ええ、ムフィル商会の店舗と倉庫を全て調べたら、先代が買ったまましまい込んでいたのが出てきたそうですよ」
もし仮に手元に無かったとしても何が何でも用意しただろうが、そうなるとかなりの時間がかかるだろう。わざわざイーシャルまで出向いたなら、急ぎで欲しかったんだろうなと考えた俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「それはそれは幸運だったな?」
クリスもカーディさんもにんまりと笑みを浮かべた。
「ただそこからが大変でさぁ」
「え、見つかってからが大変だったの?滅多に見つからないって素材を無事に見つけられたのに?」
不思議そうにそう尋ねたアキトに、カーディさんは聞いてくれよアキトと声をあげた。
「お詫びの品だから金は受け取れないと言い張るムフィル商会の店主と、手配してくれただけで有難いから金は払うって言い張るクリスの戦いが始まったんだよ」
俺はただ二人のやりとりを見守るだけの置物だったぞと、カーディさんは苦笑を浮かべた。
「なんだ、受け取らなかったのか?クリスならお詫びの品だと言われたら喜んで受け取るかと思ったんだが」
失礼な発言だと理解した上で口にしたんだが、クリスは特に気にした様子も無く笑って答えた。
「当然そのまま受け取りたい気持ちはありましたけどね。ただその魔石を使って魔道具を作った時に、権利だなんだと揉めたくなかったんですよ」
「ああ、そういう事か」
「まあ、今回はさすがに主張して来る可能性はかなり低いでしょうけど、可能性は潰しておかないと」
そう言いきったクリスは、悪い顔で笑ってみせた。
「で、どっちが勝ったんだ?」
「もちろん、私が勝ちましたよ」
あちらの気が済むように、多少割引はしてもらいましたけどねとクリスはさらりと続けた。
「あの時のクリスは本当に格好良かったよな。惚れ直した」
「カーディ!そんな事を考えてくれてたんですか!?」
「ああ」
「カーディが格好良かったと言ってくれるなら、面倒な交渉を頑張って良かったです!」
全力で叫ぶクリスに、俺は防音結界が作動している事に少しだけ感謝した。
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