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510.これからの予定

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「あーつまりもう予定は全部終わったって事だよな?」

 カーディの発言にすっかり浮かれていたクリスさんが落ち着くのを待ってから、ハルはそう切り出した。

「ええ、そうですね」
「そうか。トライプールへの帰りは、いつ出発にするつもりだ?」

 唐突なハルの質問に、クリスさんは少し困った顔で考え込んだ。

「まだ未定なら未定でも良いんだが…」
「あ、いえ、すみません。今考えているのは…そうですね、二つの案があります」

 まず一つ目は明日の昼までトリク祭りを楽しんで、そのまま馬車に乗ってトライプールに向けての移動を開始するという案。

 もう一つは明日のトリク祭りをたっぷり一日満喫、その後数日はイーシャルでのんびりと過ごしてから移動を開始するという案らしい。

 え、予定が終わったって言ってたのになんで数日のんびりするの?そう思いながらぐるりと周りを見渡してみれば、ハルは納得した顔で頷いてたけどカーディは俺と同じくらい不思議そうな顔だった。

「あー…なるほど。トリク祭りが終わると一気に混みあうから…か」
「ええ、今はイーシャルにはトリク祭りのためにたくさんの人が集まってますからね」
「え、そんなに混むのか?」
「そうなんです。多分カーディが今想像してる以上の混み具合ですよ」

 そう言って笑ったクリスさんによると、トリク祭りにはかなり遠方の人まで集まってきているらしい。クリスさんも親戚が勢ぞろいしたって言ってたぐらいだから、そういう感じで家族が集まってたりするんだろうか。

 その結果、祭りが終わると普段とは比べ物にならないほどの人数が、一気にイーシャルから各地へ出発する事になるんだって。

「ですから、祭りが終わる前に早めに出発するか、それとも数日経ち落ち着いてから出発するかの実質二択になるんです」
「混雑の中で帰るのは駄目なのか?」

 カーディが不思議そうに尋ねれば、ハルが困った顔で口を挟んだ。

「混雑の中での移動は、とにかく警戒対象が増えるんだ」

 ハルによると、わざわざ盗難目的で人混みにまぎれてる人もいるらしい。楽しいお祭り帰りを狙って盗みに来るなんて、嫌な話だな。

「あーそれは困るな」
「もちろんそれでもどうしても移動すると言うなら、依頼だから護衛はするが…」

 そこで言葉を切ったハルに、クリスさんは笑って答えた。

「まともな依頼人ならそんな無理はさせないんですよ。あ、当然ですが、私たちはまともな依頼人ですよ?」
「ああ、そういう理由なら納得だし、無理は言わないぞ」

 元冒険者だけあって、カーディはまあそういう依頼人もいるよなと苦笑を洩らしている。

「では二つの案から選ぶという事で。アキトさんとカーディは、どちらの案が良いと思いますか?」
「うーん…俺は夕方から色々見て回れたし、もう結構満足してるかな」

 カーディは一つ目の案に一票と軽く答えた。三人の視線が集まってきたのを感じて、俺も手をあげてから口を開く。

「今日一日ハルと一緒にお祭りを満喫したので、俺も一つ目の案に一票でお願いします」

 そう答えた俺の言葉を聞くなり、ハルとクリスさんは顔を見合わせた。

「二人がこう言ってるなら、予定は決まりだな」
「そうですね」

 あまりにあっさりとそう言いきった二人に、俺は驚いて声をあげた。

「え、まだ二票なのに!?」
「そうだよ。クリスとハルがゆっくりしたいなら、俺達はそれでも良いんだぞ?」

 慌ててカーディがそう声をかける。

「いや、二人の意見を聞く前から、俺は早めの出発の方が良いと思ってたから問題無いよ」

 クリスとカーディさんは仕事もしてたけど、俺とアキトは一日休みだったからなとハルは笑って続けた。

「クリスは?クリスも明日帰るって案で良いのか?」
「ええ、私もその案の方が良いと思ってましたから」
「本当に?」

 まっすぐカーディに見つめられたクリスさんは、困ったように視線を反らした。

「自分の意見をちゃんと言ってくれないと、拗ねるぞ?」

 怒るとかじゃなくて拗ねるって辺りがカーディらしいな。まあクリスさんには効果は抜群みたいだけど。クリスさんはふうと一つ息を吐いてから、苦笑しながら口を開いた。

「本当にそう思ってますよ。正直に言うとですね…私は早くトライプールに帰って、やっと手に入ったあの竜種の魔石を加工したいんです」

 手に入った素材にワクワクして早く帰りたいなんて子どもみたいだから言うつもりは無かったのにと、クリスさんは恥ずかしそうに頬を染めながらそう続けた。

「あー…そうか、そうだな。クリスならそう言うわ」
「分かってくれて何よりです」
「アキトとハルも本当に良いんだよな?」

 もう一度確認してきたカーディに、俺とハルはすぐに返事を返した。

「うん」
「ああ、問題ない」
「よし。じゃあ明日出発って事で頼む」
「「分かった」」
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