生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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509.竜種の魔石

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 防音結界のおかげで静まり帰った部屋の中で、クリスさんは穏やかに語り出した。

「私たちが探していた竜種の魔石は、噂通りとある商人が集めていました」
「あの情報自体は合ってたんだよなー」

 カーディはそう言うとへらりと笑みを浮かべた。

「ええ、あれは良い情報でしたね。…ですが、その商人が数年かけて集めたものの中に、残念ながら赤褐色の魔石はなかったんです」
「あー…赤色ならともかく、赤褐色となるとそう簡単には見つからないよな…」

 ハルは苦笑しながらそう答えた。

 赤と赤褐色でそんなに入手難易度が違うんだ?赤よりも赤褐色の方が珍しいって事?

 正直ちょっと興味は湧いたけど、俺は何も言わずに手に持ったままだったカップをそっと口に運んだ。覚えてたら今度調べてみようかな。そんな事を考えながら、俺はふわりと口内に広がった茶葉の香りを楽しんでいた。

「あの時はさすがに、もう諦めるしかないなと思いましたよ」
「あー俺も同じこと思ったぞ」
「カーディもですか?」

 クリスさんは二人とも同じことを考えていたんですねとそれはもう心底嬉しそうに笑うと、俺達の方へと視線を向けた。

「他のお店も見に行くべきかとカーディと相談していたら、なんとそこにムフィル商会の店主がやってきたんですよ」
「は?…そこの店主と商談の予定でも入ってたのか?」

 不思議そうに尋ねたハルに、クリスさんはすぐに首を振って答えた。

「いいえ、訪問を受けた商人も驚いていたので、あれは本当に飛び込みでしょうね」
「明らかに俺達目当てで来てたから、どこかで情報仕入れてきたんだろうな」

 呆れたようなでもどこか感心したような複雑な表情で、カーディは笑ってみせた。

 商人にお願いして個室を借りたその男性は、家族がしでかした襲撃未遂事件について率直に謝罪して頭を下げたらしい。三男が勝手にやった事だとかただの気の迷いだとかそういう言い訳は一切無しで、ただひたすらに謝罪する姿にクリスさんとカーディは謝罪を受け入れたそうだ。

「そしたらさ、お詫びの品を渡したいって言い出したんだよ」
「謝罪だけで良いと言ったんですが…それでは気が済まないと言われてしまいまして」
「あの人すごいよな、クリス相手に真向から交渉するんだから」

 あっさりとそう言ってのけたカーディの後ろで、クリスさんは蕩けるような笑みを浮かべていた。まあたしかに今の言葉は、カーディがクリスさんの能力を高く評価してないと出ないよね。

「さすがに俺達が何を探してるかまでは分からなかったから教えてくれーって、結構なしつこさだったよ」

 カーディが苦笑するぐらいだから、本当にしつこかったんだろうな。結局クリスさんも根負けして、どうせ無理だろうと赤褐色の竜種の魔石を探してると教えたらしい。

「それで…あったのか?」
「ええ、ムフィル商会の店舗と倉庫を全て調べたら、先代が買ったまましまい込んでいたのが出てきたそうですよ」
「それはそれは幸運だったな?」

 ハルがニヤリと笑ってそう言えば、クリスさんもカーディもにんまりと笑みを浮かべた。

「ただそこからが大変でさぁ」
「え、見つかってからが大変だったの?」

 滅多に見つからないって素材を無事に見つけられたのに?不思議に思ってそう尋ねれば、カーディは聞いてくれよアキトと声をあげた。うん、何でも聞くよ?

「お詫びの品だから金は受け取れないと言い張るムフィル商会の店主と、手配してくれただけで有難いから金は払うって言い張るクリスの戦いが始まったんだよ」

 俺はただ二人のやりとりを見守るだけの置物だったぞと、カーディは苦笑を浮かべた。

「なんだ、受け取らなかったのか?」

 クリスならお詫びの品だと言われたら喜んで受け取るかと思ったんだがと、ハルは爽やかにひどい事を言ってのけた。クリスさんは特に気にした様子も無く、笑って答えた。

「当然そのまま受け取りたい気持ちはありましたけどね。ただその魔石を使って魔道具を作った時に、権利だなんだと揉めたくなかったんですよ」
「ああ、そういう事か」
「まあ、今回はさすがに主張して来る可能性はかなり低いでしょうけど、可能性は潰しておかないと」

 そう言いきったクリスさんは、悪い顔で笑ってみせた。

「で、どっちが勝ったんだ?」
「もちろん、私が勝ちましたよ」

 あちらの気が済むように、多少割引はしてもらいましたけどねとクリスさんはさらりと続けた。

「あの時のクリスは本当に格好良かったよな。惚れ直した」
「カーディ!そんな事を考えてくれてたんですか!?」
「ああ」
「カーディが格好良かったと言ってくれるなら、面倒な交渉を頑張って良かったです!」

 あーうん。多分もう面倒な交渉の疲れなんて、今ので全部吹っ飛んだだろうな。そう思ってしまうぐらい、クリスさんは幸せそうに笑ってカーディに抱き着いた。
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