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503.【ハル視点】再会の喜び
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「お二人とお会いできてよかったです」
「俺も会えてよかったよ。あと、良い店を教えてくれてありがとな」
「ありがとうございました」
俺がお礼を伝えれば、アキトもすぐに感謝の言葉を口にした。アッシュは俺とアキトを見つめたと思うと、不意にふわりと笑みを浮かべた。
「ハルさん、雰囲気が柔らかくなりましたよね」
「え?そんなに変わった自覚は無いんだが…そんなに変わってるか?」
アキトに出会ってから、色々な事が変わった。大切な存在を得て更に強くなりたいと思うようになったし、考え方や物の見え方も変わった。でもそれはあくまで俺の内面的な事であって、外から見て分かるような変化になっているとは思っていなかった。
俺の質問にすぐに頷いたアッシュの隣で、ティーも一緒になってコクコクと頷いている。どうやらティーも同意見みたいだ。
「ええ、すごく変わりましたよ。間違いなく、アキトさんのおかげでしょうね」
「あー…うん、そうだな」
昔の俺を知ってるこいつらから見て柔らかい雰囲気になっているとしたら、それは間違いなくアキトのおかげだろう。
「アキトのおかげで今までは何とも思わなかった景色も綺麗に思えるし、今は毎日が楽しいよ」
思わずそう本音を洩らせば、元弟子たちは二人で顔を見合わせた。
「正直…こんなハルさんを見れる日が来るとは、思ってもみなかったですね」
横からティーが俺もと声をあげる。
「ああ、俺もまさかこんな日が来るとは思ってなかったからな。誰かを本気で好きになって、伴侶になって欲しいと思うなんてなぁ」
もしアキトに出会えていなければ、そもそもこうしてこいつらと言葉を交わす事すらできなかったんだけどな。おそらく今でも俺は幽霊のままで、あのナルクアの森から動く事もできずに立ち尽くしていただろうから。
「ははー幸せそうでなによりだよなー」
楽し気に笑ってみせたティーは、ハッと不意に声をあげた。
「アッシュ!時間、本気でやばい!今度こそ怒られる!」
「あー確かに時間はやばいな。でも巡回しながら本部まで戻れば大丈夫だ!お前じゃ無理だけど、俺が報告すれば通るだろう」
相変わらずアッシュは要領が良いんだな。昔からこいつは上司とか上官に気に入られる奴だった。一方でティーは誤解を受けやすい奴なんだよな。まあアッシュが一緒にいるならこれからも何とかするんだろう。
「は?アッシュ、おまえ天才か…?」
わーわーと言い合う二人に、俺は笑って声をかけた。
「引き留めてすまなかったな。仕事、頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、二人ともまたなー」
さっぱりとしたティーの挨拶に、俺は笑って答えた。
「ああ、またな」
「また会いましょう」
「はい、また」
手を振って離れていった二人は一瞬で真剣な表情に変わると、しっかりと周りを見回しながら去っていった。頼もしい衛兵になっているんだなと、何だか嬉しくなってしまう。
「行っちゃった」
「ああ」
「良い人達だったね」
「ああ、まさか二人ともここで働いているとは思わなかったけど…あいつらは全然変わってなかったな」
「会えてよかったね」
「そうだな」
アキトにはわざわざ話すつもりは無いが、実は俺は幽霊の頃に一度だけイーシャルに来た事があった。リスリーロの花の情報収集のためだ。
その時にこの街にティーがいる事には気づいていたんだよな。アッシュは休みだったのかたまたま休憩中だったのか、とにかくいなかったんだが。
あの時の絶望はすごかった。目の前に立とうが何をしようが、一切反応が返っててこない。またなと言って別れたのに、もう再会する日は来ないんだと覚悟したのを覚えている。
それなのにこんな日が訪れるとはな。
思わず二人の去っていった方をぼんやりと見つめていた俺は、ふうと一つ息を吐くと後ろで待ってくれていたアキトを振り返った。
「さぁ、じゃあ次はアッシュのお勧めの店まで行ってみるか」
「うん!えーっとこっちであってる?」
「ああ、そっちであってるよ」
俺達はどちらともなく手を繋ぐと、そのままゆっくりと歩き出した。
トリク祭り真っ最中の街中は、夕方になってもたくさんの人で賑わっていた。こども達の姿はさすがに少し減った気がするけれど、その分恋人同士や伴侶なのだろう甘い雰囲気の大人が増えてきている。
「ここを左だな」
祭りの雰囲気を楽しみながらものんびりと歩き続けていた俺達は、アッシュの教えてくれた店の前に辿り着いた。
「ここの筈…なんだが…?」
「え、ここ?」
二人して戸惑ってしまったのは、目の前にあるのがあまりにも普通の住宅街にしか見えなかったからだ。イーシャルでは一般的な赤レンガの建物に、トリク祭りの花飾りが飾られている家がいくつも並んでいる。
「えーっと…どう見てもお店には見えないね?」
「ああ…だが道は間違えてないんだよな。ここを曲がって二軒目って言ってたから」
そう言いながらそっと二軒目の建物に近づいていく。
「あ!あのドアの所、小さい看板がある!」
アキトがそう言いながら指差したのは、わざとなんだろうがドアと全く同じ色合いで作られたあまりにも地味な看板だった。
「うん、串焼き屋って書いてあるな」
こんなに小さな字でわざわざ書き込んである言葉が、串焼き屋とは。
「店名ですら無いんだ」
アキトはくすりと笑ってからそう呟いた。
「こういう名前にこだわらないのに人気の店は、絶対に美味いんだよな」
そう答えた俺の言葉を、アキトはそうなんだと興味深そうに聞いている。
「アッシュさんに聞いてなかったら、お店だって気づかなかっただろうな」
「ああ、これはもし前を通ったとしても気づかないよな」
「だよね」
「アキト、とりあえず営業中にはなってるから入ってみようか?」
「うん、せっかく教えてもらったんだし入ってみよ」
そう決めた俺達はゆっくりと店のドアに近づいていったんだが、近づけば近づくほど不安になってくる。ここまで近づいても肉の焼ける香りもしなければ、客の声も一切聞こえてこない。
不審に思いながらもドアに手をかければ、うっすらと開いたドアの隙間からうっすらと聞こえてきたのは、楽し気な笑い声と軽やかな音楽だった。どうやら店はやっているみたいだなと思った次の瞬間、今度は何かが焼ける香ばしい香りが辺りいっぱいに広がった。
「うわー良い香り!」
「これは防音結界の魔道具と、消臭結界の魔道具を使ってるのか?」
防音結界はともかく、香りを制御するのはなかなかに珍しい魔道具なんだが。
「俺も会えてよかったよ。あと、良い店を教えてくれてありがとな」
「ありがとうございました」
俺がお礼を伝えれば、アキトもすぐに感謝の言葉を口にした。アッシュは俺とアキトを見つめたと思うと、不意にふわりと笑みを浮かべた。
「ハルさん、雰囲気が柔らかくなりましたよね」
「え?そんなに変わった自覚は無いんだが…そんなに変わってるか?」
アキトに出会ってから、色々な事が変わった。大切な存在を得て更に強くなりたいと思うようになったし、考え方や物の見え方も変わった。でもそれはあくまで俺の内面的な事であって、外から見て分かるような変化になっているとは思っていなかった。
俺の質問にすぐに頷いたアッシュの隣で、ティーも一緒になってコクコクと頷いている。どうやらティーも同意見みたいだ。
「ええ、すごく変わりましたよ。間違いなく、アキトさんのおかげでしょうね」
「あー…うん、そうだな」
昔の俺を知ってるこいつらから見て柔らかい雰囲気になっているとしたら、それは間違いなくアキトのおかげだろう。
「アキトのおかげで今までは何とも思わなかった景色も綺麗に思えるし、今は毎日が楽しいよ」
思わずそう本音を洩らせば、元弟子たちは二人で顔を見合わせた。
「正直…こんなハルさんを見れる日が来るとは、思ってもみなかったですね」
横からティーが俺もと声をあげる。
「ああ、俺もまさかこんな日が来るとは思ってなかったからな。誰かを本気で好きになって、伴侶になって欲しいと思うなんてなぁ」
もしアキトに出会えていなければ、そもそもこうしてこいつらと言葉を交わす事すらできなかったんだけどな。おそらく今でも俺は幽霊のままで、あのナルクアの森から動く事もできずに立ち尽くしていただろうから。
「ははー幸せそうでなによりだよなー」
楽し気に笑ってみせたティーは、ハッと不意に声をあげた。
「アッシュ!時間、本気でやばい!今度こそ怒られる!」
「あー確かに時間はやばいな。でも巡回しながら本部まで戻れば大丈夫だ!お前じゃ無理だけど、俺が報告すれば通るだろう」
相変わらずアッシュは要領が良いんだな。昔からこいつは上司とか上官に気に入られる奴だった。一方でティーは誤解を受けやすい奴なんだよな。まあアッシュが一緒にいるならこれからも何とかするんだろう。
「は?アッシュ、おまえ天才か…?」
わーわーと言い合う二人に、俺は笑って声をかけた。
「引き留めてすまなかったな。仕事、頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、二人ともまたなー」
さっぱりとしたティーの挨拶に、俺は笑って答えた。
「ああ、またな」
「また会いましょう」
「はい、また」
手を振って離れていった二人は一瞬で真剣な表情に変わると、しっかりと周りを見回しながら去っていった。頼もしい衛兵になっているんだなと、何だか嬉しくなってしまう。
「行っちゃった」
「ああ」
「良い人達だったね」
「ああ、まさか二人ともここで働いているとは思わなかったけど…あいつらは全然変わってなかったな」
「会えてよかったね」
「そうだな」
アキトにはわざわざ話すつもりは無いが、実は俺は幽霊の頃に一度だけイーシャルに来た事があった。リスリーロの花の情報収集のためだ。
その時にこの街にティーがいる事には気づいていたんだよな。アッシュは休みだったのかたまたま休憩中だったのか、とにかくいなかったんだが。
あの時の絶望はすごかった。目の前に立とうが何をしようが、一切反応が返っててこない。またなと言って別れたのに、もう再会する日は来ないんだと覚悟したのを覚えている。
それなのにこんな日が訪れるとはな。
思わず二人の去っていった方をぼんやりと見つめていた俺は、ふうと一つ息を吐くと後ろで待ってくれていたアキトを振り返った。
「さぁ、じゃあ次はアッシュのお勧めの店まで行ってみるか」
「うん!えーっとこっちであってる?」
「ああ、そっちであってるよ」
俺達はどちらともなく手を繋ぐと、そのままゆっくりと歩き出した。
トリク祭り真っ最中の街中は、夕方になってもたくさんの人で賑わっていた。こども達の姿はさすがに少し減った気がするけれど、その分恋人同士や伴侶なのだろう甘い雰囲気の大人が増えてきている。
「ここを左だな」
祭りの雰囲気を楽しみながらものんびりと歩き続けていた俺達は、アッシュの教えてくれた店の前に辿り着いた。
「ここの筈…なんだが…?」
「え、ここ?」
二人して戸惑ってしまったのは、目の前にあるのがあまりにも普通の住宅街にしか見えなかったからだ。イーシャルでは一般的な赤レンガの建物に、トリク祭りの花飾りが飾られている家がいくつも並んでいる。
「えーっと…どう見てもお店には見えないね?」
「ああ…だが道は間違えてないんだよな。ここを曲がって二軒目って言ってたから」
そう言いながらそっと二軒目の建物に近づいていく。
「あ!あのドアの所、小さい看板がある!」
アキトがそう言いながら指差したのは、わざとなんだろうがドアと全く同じ色合いで作られたあまりにも地味な看板だった。
「うん、串焼き屋って書いてあるな」
こんなに小さな字でわざわざ書き込んである言葉が、串焼き屋とは。
「店名ですら無いんだ」
アキトはくすりと笑ってからそう呟いた。
「こういう名前にこだわらないのに人気の店は、絶対に美味いんだよな」
そう答えた俺の言葉を、アキトはそうなんだと興味深そうに聞いている。
「アッシュさんに聞いてなかったら、お店だって気づかなかっただろうな」
「ああ、これはもし前を通ったとしても気づかないよな」
「だよね」
「アキト、とりあえず営業中にはなってるから入ってみようか?」
「うん、せっかく教えてもらったんだし入ってみよ」
そう決めた俺達はゆっくりと店のドアに近づいていったんだが、近づけば近づくほど不安になってくる。ここまで近づいても肉の焼ける香りもしなければ、客の声も一切聞こえてこない。
不審に思いながらもドアに手をかければ、うっすらと開いたドアの隙間からうっすらと聞こえてきたのは、楽し気な笑い声と軽やかな音楽だった。どうやら店はやっているみたいだなと思った次の瞬間、今度は何かが焼ける香ばしい香りが辺りいっぱいに広がった。
「うわー良い香り!」
「これは防音結界の魔道具と、消臭結界の魔道具を使ってるのか?」
防音結界はともかく、香りを制御するのはなかなかに珍しい魔道具なんだが。
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