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501.【ハル視点】アッシュという男
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「あ、そういえばハルに会わせたい奴がいるんだ」
急にそう言い出したティーに、俺はゆるりと首を傾げた。確かにさっきから気配は感じていたけれど、全く敵意が無いから気にしてなかったな。知り合いなのか?
「ん?」
「あれ、どこ行った?」
「どうも、ハルさん、おひさしぶりです」
そう声を上げながらティーの近くにある木の後ろから現れた男の顔を見て、俺は大きく目を見開いた。元々ティーと気が合ってる奴ではあったが、まさかイーシャルで一緒に働いているとは思わなかった。
「なんだ、アッシュもこの街にいたのか」
「ええ、いましたよ。どうせ気配で気づいていたんでしょう?」
「敵意が無い奴が隠れてるのには気づいてたけど…さすがに気配でアッシュだとまでは分からないぞ?」
俺の気配探知はあくまでスキルだからな。探知魔法のように誰がいるかを判別できるほどの精度は無い。
「そうですか。それにしても、何でよりによって俺が非番の日にイーシャルに来ちゃったんですか?」
「いやいや、お前の都合なんて知らないからな」
「しかも盗品持ってたやつハルさんが捕まえたんでしょう?俺も見たかったです」
「それこそ偶然だから」
面白い場面を見逃したと言いたげなアッシュに、俺は苦笑を返した。こいつも全く変わってないな。落ち着いて見えるのは見た目だけで、情報収集に余念が無い。
「あのー、ハルさんが伴侶候補を連れてるって聞いたんですが…」
そう口にしたアッシュは、盗み見るようにちらりとアキトの方を見つめた。目があったアキトがぺこりと会釈をすると、アッシュも丁寧に会釈を返している。
「ああ、紹介する。俺の伴侶候補のアキトだ」
「初めまして、アキトです」
「どうも、俺はアッシュと言います。ティーと同期でハルさんに指導してもらってたんです」
アッシュの言葉に、アキトはそうなんですかと笑顔で返している。
「ハルさんの指導は厳しかったですけど、おかげで実力はついたので感謝してるんです」
「そんなに厳しくした覚えは無いんだが」
思わず口を挟んだ俺に、アッシュの隣に立っていたティーが大きく目を見開いて俺を見つめていた。なんだ、異論でもあるのか?
「あれで厳しくなかったら、本気で厳しくしたらどうなるんだよ」
ぼそりとそう呟いたティーに、俺はすぐに答える。
「三日寝ずに野営とかはさせなかっただろう?」
「は?」
「辺境領では当たり前にやる訓練だぞ?」
しかも食料は本当に最小限しか用意されないから、現地調達が当たり前という徹底っぷりだ。あまりに現地調達ができない隊には先輩からの手助けもあるから、まだマシだとは思うんだが。
ちなみにこれは辺境領の新兵は全員が通る道だ。当然俺の兄弟たちも俺も参加させられた。
「だからいつも言ってるけど、辺境領基準で語るな」
そんな風に言われても困るんだよな。辺境領ではそれが当たり前なんだから。
ティーとの会話を終えた俺は、アッシュの凝視を止めるべく口を開きかけた。その視線にはすこしの熱も感じない。だからただ俺の伴侶候補として見つめてるだけなんだろうが、アキトが困った顔をしているからな。
そう思ったけれど、アキトの方が俺よりも先に口を開いた。
「あの…?」
「あ、すみません。見つめすぎましたか」
アッシュは大きく息を吐いてからしみじみと呟いた。
「はー…本当にハルさんの伴侶候補って実在してたんですね?」
「本当に実在してるってお前、俺があれだけ説明したのに信じてなかったのか?」
即座に声を上げたティーに、アッシュはいつも通りの口調で答えた。
「いやー実際に見るまで信じられるかよ。お前いつだって話を盛るだろうが!」
「いつ話を盛ったよ!」
「いつもだろうが!」
アッシュは基本的には敬語なんだが、素の状態だとこういう喋り方なんだよな。衛兵というより傭兵っぽいというか冒険者っぽいというか。乱暴な喋り方をするアッシュを、アキトはぽかんと口を開いて見つめていた。
「びっくりした?この二人はいつもこんな感じだよ」
そう声をかければ、アキトはそうなんだと笑って二人のやりとりを見つめていた。
そのままの勢いでしばらく言い合っていた二人は、不意におれたちの存在を思いだしたのか気まずそうに視線を反らしてから黙り込んだ。
「あ…お前のせいでハルさんとアキトさんの前で恥かいたじゃないか」
「は?俺のせいじゃなくてお前のせいだろ?」
これは放っておいたらまた言い合いが始まるな。
「お前たち、そろそろ休憩時間も終わるんじゃないのか?」
俺の言葉にハッと言い合いを止めて顔を上げた二人は、揃って制服のポケットから時計の魔道具を取り出した。
「まだもうちょっとだけ大丈夫だな」
「時間超えてるかと思って焦った…ハルさん、教えてくれてありがとうございます」
「いや、気にするな」
「これからお二人はどうする予定なんですか?」
アッシュの言葉に、俺とアキトは顔を見合わせた。
「どうしようね?」
「うーん、夕食でも食べてから帰ろうか?」
「そうだね、ちょっとお腹減ってきたし」
アキトの返事を聞いた俺は、すぐにティーとアッシュに視線を向けた。
「二人のお勧めの店、教えてくれないか?」
「え、俺達のお勧めで良いんですか?」
「イーシャルにはあまり詳しくないからな」
俺が知ってる店よりも、ここを拠点にして仕事をしている二人の方が良い店を知ってそうだ。
「そうですか」
二人はそのままうーんと声を上げて、悩みだしてしまった。
急にそう言い出したティーに、俺はゆるりと首を傾げた。確かにさっきから気配は感じていたけれど、全く敵意が無いから気にしてなかったな。知り合いなのか?
「ん?」
「あれ、どこ行った?」
「どうも、ハルさん、おひさしぶりです」
そう声を上げながらティーの近くにある木の後ろから現れた男の顔を見て、俺は大きく目を見開いた。元々ティーと気が合ってる奴ではあったが、まさかイーシャルで一緒に働いているとは思わなかった。
「なんだ、アッシュもこの街にいたのか」
「ええ、いましたよ。どうせ気配で気づいていたんでしょう?」
「敵意が無い奴が隠れてるのには気づいてたけど…さすがに気配でアッシュだとまでは分からないぞ?」
俺の気配探知はあくまでスキルだからな。探知魔法のように誰がいるかを判別できるほどの精度は無い。
「そうですか。それにしても、何でよりによって俺が非番の日にイーシャルに来ちゃったんですか?」
「いやいや、お前の都合なんて知らないからな」
「しかも盗品持ってたやつハルさんが捕まえたんでしょう?俺も見たかったです」
「それこそ偶然だから」
面白い場面を見逃したと言いたげなアッシュに、俺は苦笑を返した。こいつも全く変わってないな。落ち着いて見えるのは見た目だけで、情報収集に余念が無い。
「あのー、ハルさんが伴侶候補を連れてるって聞いたんですが…」
そう口にしたアッシュは、盗み見るようにちらりとアキトの方を見つめた。目があったアキトがぺこりと会釈をすると、アッシュも丁寧に会釈を返している。
「ああ、紹介する。俺の伴侶候補のアキトだ」
「初めまして、アキトです」
「どうも、俺はアッシュと言います。ティーと同期でハルさんに指導してもらってたんです」
アッシュの言葉に、アキトはそうなんですかと笑顔で返している。
「ハルさんの指導は厳しかったですけど、おかげで実力はついたので感謝してるんです」
「そんなに厳しくした覚えは無いんだが」
思わず口を挟んだ俺に、アッシュの隣に立っていたティーが大きく目を見開いて俺を見つめていた。なんだ、異論でもあるのか?
「あれで厳しくなかったら、本気で厳しくしたらどうなるんだよ」
ぼそりとそう呟いたティーに、俺はすぐに答える。
「三日寝ずに野営とかはさせなかっただろう?」
「は?」
「辺境領では当たり前にやる訓練だぞ?」
しかも食料は本当に最小限しか用意されないから、現地調達が当たり前という徹底っぷりだ。あまりに現地調達ができない隊には先輩からの手助けもあるから、まだマシだとは思うんだが。
ちなみにこれは辺境領の新兵は全員が通る道だ。当然俺の兄弟たちも俺も参加させられた。
「だからいつも言ってるけど、辺境領基準で語るな」
そんな風に言われても困るんだよな。辺境領ではそれが当たり前なんだから。
ティーとの会話を終えた俺は、アッシュの凝視を止めるべく口を開きかけた。その視線にはすこしの熱も感じない。だからただ俺の伴侶候補として見つめてるだけなんだろうが、アキトが困った顔をしているからな。
そう思ったけれど、アキトの方が俺よりも先に口を開いた。
「あの…?」
「あ、すみません。見つめすぎましたか」
アッシュは大きく息を吐いてからしみじみと呟いた。
「はー…本当にハルさんの伴侶候補って実在してたんですね?」
「本当に実在してるってお前、俺があれだけ説明したのに信じてなかったのか?」
即座に声を上げたティーに、アッシュはいつも通りの口調で答えた。
「いやー実際に見るまで信じられるかよ。お前いつだって話を盛るだろうが!」
「いつ話を盛ったよ!」
「いつもだろうが!」
アッシュは基本的には敬語なんだが、素の状態だとこういう喋り方なんだよな。衛兵というより傭兵っぽいというか冒険者っぽいというか。乱暴な喋り方をするアッシュを、アキトはぽかんと口を開いて見つめていた。
「びっくりした?この二人はいつもこんな感じだよ」
そう声をかければ、アキトはそうなんだと笑って二人のやりとりを見つめていた。
そのままの勢いでしばらく言い合っていた二人は、不意におれたちの存在を思いだしたのか気まずそうに視線を反らしてから黙り込んだ。
「あ…お前のせいでハルさんとアキトさんの前で恥かいたじゃないか」
「は?俺のせいじゃなくてお前のせいだろ?」
これは放っておいたらまた言い合いが始まるな。
「お前たち、そろそろ休憩時間も終わるんじゃないのか?」
俺の言葉にハッと言い合いを止めて顔を上げた二人は、揃って制服のポケットから時計の魔道具を取り出した。
「まだもうちょっとだけ大丈夫だな」
「時間超えてるかと思って焦った…ハルさん、教えてくれてありがとうございます」
「いや、気にするな」
「これからお二人はどうする予定なんですか?」
アッシュの言葉に、俺とアキトは顔を見合わせた。
「どうしようね?」
「うーん、夕食でも食べてから帰ろうか?」
「そうだね、ちょっとお腹減ってきたし」
アキトの返事を聞いた俺は、すぐにティーとアッシュに視線を向けた。
「二人のお勧めの店、教えてくれないか?」
「え、俺達のお勧めで良いんですか?」
「イーシャルにはあまり詳しくないからな」
俺が知ってる店よりも、ここを拠点にして仕事をしている二人の方が良い店を知ってそうだ。
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