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498.お試しスタート
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最初は大きな串焼きだけをメニューに載せてたんだけど、常連さんから懇願されたんだそうだ。
「他の味も食べたいのに、なかなか他のに手がだせないーってねー」
俺も俺の伴侶も大食いだから、普通の人があの大きさの串焼きをいくつも食べるのは無理だって知らなかったんだーと苦笑しながら教えてくれた。
この細身のお兄さんが大食いなの?とちょっと驚いてしまったけれど、口を挟む間もなくお兄さんの説明は続いていく。
「それでねーみんなの意見を聞いて回った結果、色んな味を試せるようにしようって決めたんだー」
最初はただ切り分けたものを出していただけだったけど、それはちょっと味気ないと店員さん達は悩んだらしい。
それで最終的には色んな種類の大きな串焼きを持った店員が個室を回って、それぞれの目の前で切り分けてくれる今のやり方になったらしい。
うん、それってあれだよね、串焼きというよりむしろシュラスコってやつだよね。
「なるほど、それは良いな」
どうやらハルも乗り気みたいだ。お兄さんはすかさず値段を教えてくれたけれど、本当にそんな値段で良いのかと聞きたくなる安さだった。
「あ、気に入ったのがあればそれだけ追加もできるしーもっと気に入ったのがあれば別料金になるけど大きな串で丸ごと追加なんて事もできるよー」
苦手な物は食べないと断って良いとか、いっぱい食べたいのはもっと大きく切ってとお願いしても良いとか、お兄さんの教えてくれるこの店のルールを俺はワクワクしながら聞いていた。
説明を聞いてて思ったんだけど、この店かなり自由だ。こんなの絶対に楽しいやつだ。
「俺はそれにしようかな。アキトはどうする?」
「うん、俺もそれが良い!」
「はーい、じゃあ二人ともまずはお試しだねー」
お兄さんはしばらくおまちくださーいと明るく笑って、部屋から出ていった。
「どれにするか悩むかと思ったら、試せるのは嬉しいな」
「うん、でもハルはウカのステーキ串選ぶつもりだったでしょ?」
「バレてたか…そういうアキトはマルックスのグリル串と果物串だろう?」
「うん、当たりー」
お互いの食べたいものを言い当てながら、俺達はシャルの果実水に口をつけた。よく冷えたシャルの果実水が、乾いた喉に染みわたっていく。
「ここのシャルの果実水も美味しいね」
「ああ、何か他の果物が入ってるのかもしれないな」
「色は普通だけど、特別って言ってたもんね」
そう言い合っていると、不意にカーテンの向こうから声がかかった。
「待たせた」
ぼそりと響いた重低音の声に、俺は慌ててカーテンの方へと視線を向けた。薄いカーテンの布地の向こうに立っていたのは、レーブンさんやギルマスにもひけを取らない巨体の男性だった。
あの細身の明るい店員さんが来ると思ってたから、ちょっとびっくりしてしまった。
「入って良いか?」
続けて極めて低音でそう尋ねた男性の手には、野菜が刺さった巨大な串と料理用らしきこれまた巨大なナイフを持っている。
「ああ、どうぞ」
ハルがあっさりとそう答えると、男性はカーテンをかき分けて部屋の中へと入ってきた。
「これは今日の日替わり野菜串だ、いるか?」
そう尋ねられた俺とハルは、何も考えずに反射的にすぐに頷いた。だって目の前にある野菜串から、あまりに美味しそうな香りが漂ってきてたからね。これは我慢なんてできない。
男性はすぐに巨大なナイフを繊細に使いこなして、野菜を切り落としてくれた。
「ゆっくり食ってくれ」
「じゃあ折角だし、同時に食べようか」
「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
声を揃えてから口に放り込んだその野菜は、野菜本来の甘みとスパイスの塩梅が絶妙だった。じっくりと加熱されたせいかトロリと中がとろけているのに、皮のあたりはパリッと焼けているからその食感の違いまで楽しめてしまう。
「あっつい!でも美味しいっ!」
「っ!ああ、これは美味いな!」
「ところでハル、この野菜って何か知ってる?」
「ああニリーだな」
「二リーっていうんだ」
ハルの説明を聞きながら待っていると、また男性がカーテンの前に立ち止まった。
「入って良いか」
「「どうぞ」」
今度は二人の声がばっちり重なったな。
「次はマルックスのグリル串だ、いるか?」
「ああ、欲しい」
「あの、大き目にお願いします」
まだ一周目なのにとか考える余裕は全くなかった。俺はもしこのマルックスだけでお腹いっぱいになっても後悔しないぞ。そんな事を考えながら、笑顔で切り分けられるマルックスを見つめていた。
「他の味も食べたいのに、なかなか他のに手がだせないーってねー」
俺も俺の伴侶も大食いだから、普通の人があの大きさの串焼きをいくつも食べるのは無理だって知らなかったんだーと苦笑しながら教えてくれた。
この細身のお兄さんが大食いなの?とちょっと驚いてしまったけれど、口を挟む間もなくお兄さんの説明は続いていく。
「それでねーみんなの意見を聞いて回った結果、色んな味を試せるようにしようって決めたんだー」
最初はただ切り分けたものを出していただけだったけど、それはちょっと味気ないと店員さん達は悩んだらしい。
それで最終的には色んな種類の大きな串焼きを持った店員が個室を回って、それぞれの目の前で切り分けてくれる今のやり方になったらしい。
うん、それってあれだよね、串焼きというよりむしろシュラスコってやつだよね。
「なるほど、それは良いな」
どうやらハルも乗り気みたいだ。お兄さんはすかさず値段を教えてくれたけれど、本当にそんな値段で良いのかと聞きたくなる安さだった。
「あ、気に入ったのがあればそれだけ追加もできるしーもっと気に入ったのがあれば別料金になるけど大きな串で丸ごと追加なんて事もできるよー」
苦手な物は食べないと断って良いとか、いっぱい食べたいのはもっと大きく切ってとお願いしても良いとか、お兄さんの教えてくれるこの店のルールを俺はワクワクしながら聞いていた。
説明を聞いてて思ったんだけど、この店かなり自由だ。こんなの絶対に楽しいやつだ。
「俺はそれにしようかな。アキトはどうする?」
「うん、俺もそれが良い!」
「はーい、じゃあ二人ともまずはお試しだねー」
お兄さんはしばらくおまちくださーいと明るく笑って、部屋から出ていった。
「どれにするか悩むかと思ったら、試せるのは嬉しいな」
「うん、でもハルはウカのステーキ串選ぶつもりだったでしょ?」
「バレてたか…そういうアキトはマルックスのグリル串と果物串だろう?」
「うん、当たりー」
お互いの食べたいものを言い当てながら、俺達はシャルの果実水に口をつけた。よく冷えたシャルの果実水が、乾いた喉に染みわたっていく。
「ここのシャルの果実水も美味しいね」
「ああ、何か他の果物が入ってるのかもしれないな」
「色は普通だけど、特別って言ってたもんね」
そう言い合っていると、不意にカーテンの向こうから声がかかった。
「待たせた」
ぼそりと響いた重低音の声に、俺は慌ててカーテンの方へと視線を向けた。薄いカーテンの布地の向こうに立っていたのは、レーブンさんやギルマスにもひけを取らない巨体の男性だった。
あの細身の明るい店員さんが来ると思ってたから、ちょっとびっくりしてしまった。
「入って良いか?」
続けて極めて低音でそう尋ねた男性の手には、野菜が刺さった巨大な串と料理用らしきこれまた巨大なナイフを持っている。
「ああ、どうぞ」
ハルがあっさりとそう答えると、男性はカーテンをかき分けて部屋の中へと入ってきた。
「これは今日の日替わり野菜串だ、いるか?」
そう尋ねられた俺とハルは、何も考えずに反射的にすぐに頷いた。だって目の前にある野菜串から、あまりに美味しそうな香りが漂ってきてたからね。これは我慢なんてできない。
男性はすぐに巨大なナイフを繊細に使いこなして、野菜を切り落としてくれた。
「ゆっくり食ってくれ」
「じゃあ折角だし、同時に食べようか」
「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
声を揃えてから口に放り込んだその野菜は、野菜本来の甘みとスパイスの塩梅が絶妙だった。じっくりと加熱されたせいかトロリと中がとろけているのに、皮のあたりはパリッと焼けているからその食感の違いまで楽しめてしまう。
「あっつい!でも美味しいっ!」
「っ!ああ、これは美味いな!」
「ところでハル、この野菜って何か知ってる?」
「ああニリーだな」
「二リーっていうんだ」
ハルの説明を聞きながら待っていると、また男性がカーテンの前に立ち止まった。
「入って良いか」
「「どうぞ」」
今度は二人の声がばっちり重なったな。
「次はマルックスのグリル串だ、いるか?」
「ああ、欲しい」
「あの、大き目にお願いします」
まだ一周目なのにとか考える余裕は全くなかった。俺はもしこのマルックスだけでお腹いっぱいになっても後悔しないぞ。そんな事を考えながら、笑顔で切り分けられるマルックスを見つめていた。
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