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492.公演の余韻

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「楽しかったー」
「ああ、楽しかったな」

 満面の笑みを浮かべて、俺は隣を歩くハルを見上げた。俺に向かって笑いかけてくれたハルも、心なしかいつもよりもほわっと柔らかい雰囲気を漂わせてる気がする。

 あれはそうなるのも仕方ないと思わせるぐらい、すごいパフォーマンスだったもんな。

 どうやら周りを歩いている人達も、ほとんどがあの噴水広場の舞台を見ていた人達みたいだ。そこかしこから、あの舞台の感想が聞こえてくる。

「いやーフレイトの歌が凄すぎて」
「まさかこんな所で聞けると思ってなかったよな!」
「はーあのめっちゃ美人な踊り手さん…なんて名前なんだろ…」
「どの人さんだよ、美人さんなんていっぱいいただろ?」
「俺はやっぱり一曲目が好きでさぁ」
「確かにあれは良いよなーでも俺は最後から二番目の曲が好きだー」
「あ、それも好き」
「もう一回見たいよなー」
「なあ、見た事ない細長い笛みたいな楽器使ってた人いただろ?あれってどこの楽器?」

 わいわいと盛り上がる人達は、話題こそバラバラだけどみんな揃って笑顔を浮かべている。その様子を見ているだけでも、幸せな気分になってくる。まあ俺とハルもその中の一人なんだけどさ。

 あの圧巻の歌から始まった公演は、最初から最後まで見ている人を少しも飽きさせなかった。

 舞台には男女問わずにたくさんの歌い手さんが登場したんだけど、明るく盛り上がるような曲を笑顔を振りまいて歌ったかと思えば、次の瞬間にはしんみりと聞き入ってしまうようなバラードを歌い上げてみせたりしたんだ。

 何よりたくさんの歌い手で声を重ねてみたり、数人ずつで好きなようにまとまって歌ってみたりと、本人たちが楽しそうだったのが印象的だった。

 楽器を弾く奏で手さんも、気がつけばどんどん増えていった。公演が終わってからハルに聞いたんだけど、見た事も無い楽器だなと思っていたのは地方どころか国まで違う物までたくさん混ざっていたらしい。

 異国では当然のように親しまれている生活に密着した楽器から、祭事にしか使われないという珍しすぎる伝説級の楽器までが一堂に会していたらしい。

 途中から公演に彩りを加えてくれた踊り手さん達もすごかったな。

 踊り手っていうと若い人ばっかりなのかと思っていたけれど、実際の年齢は俺の想像以上に幅広かった。子どもから老齢の人達まで世代を問わずいろんな人が参加していたんだけど、それぞれの得意な踊りを披露してくれて目が釘付けになった。

 即興で曲を作って遊びだした奏で手さん達に呼応するように、即興で踊りだしたのもすごかったな。しなやかに流れるように踊っていたかと思えば、次の瞬間には躍動感のある力強い踊りを披露してくれたりして本当に圧倒された。

 最後には噴水広場にいた観客全員を巻き込んで、簡単なステップを踏んで踊ったりもしたんだ。あんな経験初めてだったけど、ハルと手を繋いではしゃぎながら踊るのは楽しくてたまらなかった。

「はー終わっちゃったって気持ちと、良いものを見たって気持ちでいっぱいだよ」

 寂しいような、嬉しいような複雑な気持ちだと告げれば、ハルも笑って頷いてくれた。

「ああ、俺もそう思うよ。でも来て良かったね」
「うん、噴水広場の公演を教えてくれたあの宿の人にお礼言わなきゃね」

 ハルは優しく笑って俺の頭を撫でてくれた。

「そうだな。忘れずに言うとしよう」



 興奮冷めやらぬまま感想を言い合いながら歩いていくと、気づけば俺達は昨日も訪れた大門前の階段へと辿り着いていた。トリクの花飾りが至る所に増えているせいか初めて来た場所みたいに感じるけど、あの大門前の階段だよね。

「あーここもだいぶ変わってるな?」
「うん、そうだね。初めて来た場所みたいに感じるよ」
「確かにここにもこんなにトリクの花飾りがつくんだな」

 みんなお祭りの会場に行っているのか、階段の周りには思ったよりも人がいない。ハルと二人で階段の隅っこに腰を下ろして、これからどこに行こうかと相談していると不意に声がかかった。

「あー!やっと見つけた!ハル!」

 大きな声でそう叫んだのは、先日イーシャルの入口の門で出会った衛兵さんだった。たしか、ハルが指導していたっていってたティーさんだよね。

「声が大きい」
「あ、悪い」
「まあ良い。わざわざ俺達を探してたのか?ティー」
「そんなの探すに決まってるだろ!」

 ぶんぶんと大きく振られている尻尾が見える気がする。いかつい体格なのに、なんだかワンコみたいな人だな。
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