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488.【ハル視点】果物飴の屋台
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「あの屋台って何のお店だろう?」
「あれは多分炒めた麺を売る屋台じゃないかな?西の方の郷土料理だよ」
「へーそんなのもあるんだ?」
「気になるなら寄る?」
「いや、今はまだ食べれそうに無いから」
さっきの肉焼き串がなかなかの食べ応えだったせいか、アキトは少し残念そうにそう答えた。興味はあるけど今は無理って感じかな。どこかでまた見かけたら食べるかどうか聞いてみようと考えながら、俺はアキトに笑いかけた。
「あ、あれは?」
「あれはね…」
そんな風に会話を楽しみながらゆっくりと歩いていると、アキトが不意に口を開いた。
「ねえ、ハル…」
ぽつりと呟いたアキトは、何故かそこでぴたりと口を噤んでしまった。じっと言葉の続きを待っていると、アキトはくいっと俺の手を引っ張った。
「ん?どうしたの?」
アキトをまっすぐに見つめて尋ねれば、軽く背伸びをしながら耳元に顔を寄せてくる。
「あそこの屋台で売ってるのって何?」
「ん?どれ?」
内緒の話なのかと同じくひそめた声で答えれば、アキトをじっと見ていた奴から羨ましそうな視線が飛んできた。どれだけ羨ましがっても俺の伴侶候補だから諦めろと脳内で語りかけながら、俺はアキトの視線の先へとそっと目線を動かした。
どうやらアキトが興味を惹かれたのは、果物飴の屋台みたいだ。
ああ、なるほど。もし誰もが知っている物だったら周りから不審に思われると思って、声をひそめたのか。アキトは慎重だから助かるなと思いながら、俺はあえて普段通りの声の大きさで答えた。
「ああ、あれは果物飴っていうんだ」
アキトは俺の声の大きさだけで、知らなくても問題は無いと分かってくれたらしい。ホッとした表情で俺を見上げた。
「果物飴?」
「そう、果物の果肉を切り出したものを飴で覆ってあるんだよ」
「へー果汁を使ってるとかじゃないんだ?」
「うん、これはそういう飴とは、味も食感も全く違う物だよ。トライプールでは滅多に見かけないから、知らなくて当然だけどね」
この果物飴は採れたての新鮮な果物を使って作らないと美味しくできない上に、作るのにはかなりの手間がかかる。その分、どうしても値段も高くなってしまうんだよな。ここイーシャル以外だとそれこそ王都ぐらいでしか見ないんじゃないかな。
「ね、ハルはあれ食べた事ある?」
「ああ、あるよ」
笑って答えた俺に、アキトは真剣な表情で尋ねてくる。
「どうだった?」
「美味しかったよ」
アキトも好きそうな味だと思うと一言付け加えると、アキトの眼がキラリと輝いた。
「ハル、行こう!お勧めの味があったら教えてね」
「うん、分かった」
アキトはシャルの果実水をかなり気に入ってたみたいだけど、シャルの果実の果物飴もあったりするんだろうか。もしあったらぜひ買わないとな。
そんな事を考えながら、俺はアキトの手を引いて賑わっている屋台の方へと近づいて行った。
「ねーこれいくらー?」
「それは500グルだよ」
「こっちのは?」
「それは750グル」
「じゃあこれはー?」
「そっちは1000グルだね」
はしゃぐ子どもたちの質問に優しく答えていた女性店員は、俺達に気づくとすぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、ゆっくり選んでね」
ぺこりと会釈を返したアキトは、そっと目の前の飴へと視線を向けた。
俺も一緒になって果物飴を見てみたが、どうやらここはかなり種類が豊富みたいだな。王都で見た事があるものは、せいぜい五種類ほどの味しか無かったんだが。
赤、白、黄色、緑、水色、紫、青に夕陽色。分かりやすい色以外にも微妙に色の違うものがたくさん並んでいる。
さすがにこれだけあると、どの色がどの味だとは分からないな。残念ながらアキトの役には立てないかもしれない。それにしてもこれだけあると、どれを選べば良いのか悩んでしまうな。
「ありがとー」
「はい、ありがとー。気をつけて帰ってね!」
明るい声に見送られて、会計の終わったこどもたちは屋台から離れていった。
「お兄さんたち、うちは初めて?」
「ああ」
「そうです」
「それならね、自分の好みの果実飴だけを買うって人ももちろんいるんだけど…こういうのも用意してあるんだけど、どうかな?」
そう前置きをした店員が教えてくれたのは、試験的に作ったわざと色んな味を混ぜて販売しているという一角だった。どれにするかを自分で選ばなくても、一つ買えば色んな種類が試せるらしい。
「なるほど、この売り方は面白いな」
「これなら楽しんで色々食べれそう!」
俺とアキトの感想を聞いて、店員の女性は嬉しそうに笑った。
「一応ね、色で味が分かるようにって説明の紙もつけてあるのよ」
自慢げな店員の言葉に、アキトはすぐに俺の方を見上げた。どれにする?と聞きたいんだろうと察した俺は、笑ってアキトに選択肢を委ねた。
「アキトが選んで良いよ」
「えーっと、じゃあ…」
悩みに悩んだ末に、アキトはお土産用にいくつかの小袋入りと、自分たち用には大きめの瓶詰めの果物飴をいくつか選んだ。
明るい声に見送られて屋台を後にした俺達は、道の隅っこに立ち止まると買ったばかりの袋を取り出した。
「ハルはどれにする?」
「俺はこの黒いのにしようかな」
アキトの眼の色だなと思いながら、俺は黒い果物飴を選んでみた。
「あ、じゃあ俺はこの黄色のにする」
二人で視線を合わせてから、それぞれ口内に果物飴を放り込む。口に入れただけでもふわりと果物の香りが広がった。
うん、美味しいな。アキトの食べた黄色はどうだったんだろうと視線を向ければ、アキトは幸せそうに笑っていた。黄色もどうやら美味しいみたいだな。
「ん、美味しいね」
「果実飴は舐めても良いけど、噛んでも美味しいよ」
俺はそう言うと、口の中に放り込んだ飴を軽く嚙み砕いてみせた。パリッと飴が砕けて中の果汁が溢れだしてくる。口の中いっぱいに甘い果汁が広がっていく。
アキトは俺の提案にちょっと驚いたようだったけれど、言われるがままに素直に果物飴に歯を立ててくれた。
「わっ、美味しいっ!?」
「驚いた?」
「うん、俺のはさっぱり酸味のある果物みたいだ」
「そうなんだ?黒は思ったよりも甘いな」
店員のつけてくれた紙を、俺達は顔を寄せあって覗き込んだ。
「あれは多分炒めた麺を売る屋台じゃないかな?西の方の郷土料理だよ」
「へーそんなのもあるんだ?」
「気になるなら寄る?」
「いや、今はまだ食べれそうに無いから」
さっきの肉焼き串がなかなかの食べ応えだったせいか、アキトは少し残念そうにそう答えた。興味はあるけど今は無理って感じかな。どこかでまた見かけたら食べるかどうか聞いてみようと考えながら、俺はアキトに笑いかけた。
「あ、あれは?」
「あれはね…」
そんな風に会話を楽しみながらゆっくりと歩いていると、アキトが不意に口を開いた。
「ねえ、ハル…」
ぽつりと呟いたアキトは、何故かそこでぴたりと口を噤んでしまった。じっと言葉の続きを待っていると、アキトはくいっと俺の手を引っ張った。
「ん?どうしたの?」
アキトをまっすぐに見つめて尋ねれば、軽く背伸びをしながら耳元に顔を寄せてくる。
「あそこの屋台で売ってるのって何?」
「ん?どれ?」
内緒の話なのかと同じくひそめた声で答えれば、アキトをじっと見ていた奴から羨ましそうな視線が飛んできた。どれだけ羨ましがっても俺の伴侶候補だから諦めろと脳内で語りかけながら、俺はアキトの視線の先へとそっと目線を動かした。
どうやらアキトが興味を惹かれたのは、果物飴の屋台みたいだ。
ああ、なるほど。もし誰もが知っている物だったら周りから不審に思われると思って、声をひそめたのか。アキトは慎重だから助かるなと思いながら、俺はあえて普段通りの声の大きさで答えた。
「ああ、あれは果物飴っていうんだ」
アキトは俺の声の大きさだけで、知らなくても問題は無いと分かってくれたらしい。ホッとした表情で俺を見上げた。
「果物飴?」
「そう、果物の果肉を切り出したものを飴で覆ってあるんだよ」
「へー果汁を使ってるとかじゃないんだ?」
「うん、これはそういう飴とは、味も食感も全く違う物だよ。トライプールでは滅多に見かけないから、知らなくて当然だけどね」
この果物飴は採れたての新鮮な果物を使って作らないと美味しくできない上に、作るのにはかなりの手間がかかる。その分、どうしても値段も高くなってしまうんだよな。ここイーシャル以外だとそれこそ王都ぐらいでしか見ないんじゃないかな。
「ね、ハルはあれ食べた事ある?」
「ああ、あるよ」
笑って答えた俺に、アキトは真剣な表情で尋ねてくる。
「どうだった?」
「美味しかったよ」
アキトも好きそうな味だと思うと一言付け加えると、アキトの眼がキラリと輝いた。
「ハル、行こう!お勧めの味があったら教えてね」
「うん、分かった」
アキトはシャルの果実水をかなり気に入ってたみたいだけど、シャルの果実の果物飴もあったりするんだろうか。もしあったらぜひ買わないとな。
そんな事を考えながら、俺はアキトの手を引いて賑わっている屋台の方へと近づいて行った。
「ねーこれいくらー?」
「それは500グルだよ」
「こっちのは?」
「それは750グル」
「じゃあこれはー?」
「そっちは1000グルだね」
はしゃぐ子どもたちの質問に優しく答えていた女性店員は、俺達に気づくとすぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、ゆっくり選んでね」
ぺこりと会釈を返したアキトは、そっと目の前の飴へと視線を向けた。
俺も一緒になって果物飴を見てみたが、どうやらここはかなり種類が豊富みたいだな。王都で見た事があるものは、せいぜい五種類ほどの味しか無かったんだが。
赤、白、黄色、緑、水色、紫、青に夕陽色。分かりやすい色以外にも微妙に色の違うものがたくさん並んでいる。
さすがにこれだけあると、どの色がどの味だとは分からないな。残念ながらアキトの役には立てないかもしれない。それにしてもこれだけあると、どれを選べば良いのか悩んでしまうな。
「ありがとー」
「はい、ありがとー。気をつけて帰ってね!」
明るい声に見送られて、会計の終わったこどもたちは屋台から離れていった。
「お兄さんたち、うちは初めて?」
「ああ」
「そうです」
「それならね、自分の好みの果実飴だけを買うって人ももちろんいるんだけど…こういうのも用意してあるんだけど、どうかな?」
そう前置きをした店員が教えてくれたのは、試験的に作ったわざと色んな味を混ぜて販売しているという一角だった。どれにするかを自分で選ばなくても、一つ買えば色んな種類が試せるらしい。
「なるほど、この売り方は面白いな」
「これなら楽しんで色々食べれそう!」
俺とアキトの感想を聞いて、店員の女性は嬉しそうに笑った。
「一応ね、色で味が分かるようにって説明の紙もつけてあるのよ」
自慢げな店員の言葉に、アキトはすぐに俺の方を見上げた。どれにする?と聞きたいんだろうと察した俺は、笑ってアキトに選択肢を委ねた。
「アキトが選んで良いよ」
「えーっと、じゃあ…」
悩みに悩んだ末に、アキトはお土産用にいくつかの小袋入りと、自分たち用には大きめの瓶詰めの果物飴をいくつか選んだ。
明るい声に見送られて屋台を後にした俺達は、道の隅っこに立ち止まると買ったばかりの袋を取り出した。
「ハルはどれにする?」
「俺はこの黒いのにしようかな」
アキトの眼の色だなと思いながら、俺は黒い果物飴を選んでみた。
「あ、じゃあ俺はこの黄色のにする」
二人で視線を合わせてから、それぞれ口内に果物飴を放り込む。口に入れただけでもふわりと果物の香りが広がった。
うん、美味しいな。アキトの食べた黄色はどうだったんだろうと視線を向ければ、アキトは幸せそうに笑っていた。黄色もどうやら美味しいみたいだな。
「ん、美味しいね」
「果実飴は舐めても良いけど、噛んでも美味しいよ」
俺はそう言うと、口の中に放り込んだ飴を軽く嚙み砕いてみせた。パリッと飴が砕けて中の果汁が溢れだしてくる。口の中いっぱいに甘い果汁が広がっていく。
アキトは俺の提案にちょっと驚いたようだったけれど、言われるがままに素直に果物飴に歯を立ててくれた。
「わっ、美味しいっ!?」
「驚いた?」
「うん、俺のはさっぱり酸味のある果物みたいだ」
「そうなんだ?黒は思ったよりも甘いな」
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