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487.【ハル視点】食べ物の屋台
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香水を手に入れた俺達は手を繋いだまま、たくさんの露店で賑わっている通りを抜けた。さあ次はどこに行こうかと考える間も無く、気づけば周りにはたくさんの屋台やお店が並んでいた。
イーシャルの街全体が会場になると聞いてはいたけど、これは想像していた以上の規模だな。
さっきまで歩いていた道には雑貨や日持ちのする食品・服やアクセサリーなどのお店が多かったが、ここからは一気に料理や食べ物のお店が増えるみたいだな。きちんと区画が分けられている事に感心しながら、俺は楽しそうなアキトに話しかけた。
「この辺りからは屋台が多そうだね」
「うん、あ、でも果物とかも売ってるみたいだね」
「ほんとだ。なんだろ、料理とか食材を集めてるって感じなのかな?」
俺も初めてだから分からないやと笑って答えれば、アキトはふふと嬉しそうに笑ってくれた。
屋台の方を見ながら人混みの中を歩き出すと、そこかしこから食欲を刺激する良い香りが漂ってくる。
「良い香り!」
「ああ、確かに良い香りだな」
「ちょっとお腹空いてきたかも」
「結局朝食もちゃんと食べてないからね」
「うん」
「アキト、気になるお店があったら言ってね?」
アキトの食べたいものを選んでもらおうとそう声をかけた俺の顔を、アキトは無言のままじっと見上げてきた。何かまずい事でも言っただろうか?そう思ってゆるく首を傾げた俺に、アキトは真剣な表情に変わるとそっと口を開いた。
「うん、ちゃんと言うよ。ちゃんと言うけど、ハルも食べたいって思うのがあったらちゃんと俺に教えてね?」
あーどうやら俺がアキトの食べたいものを優先しようと思っていたのが、ばっちりとバレてしまっていたみたいだな。きちんと自分の好みを主張しろと言ってくれるアキトに、俺は笑みを浮かべた。
「うん、分かった。ちゃんと言う」
はっきりとそう約束を交わせば、アキトは上機嫌で屋台へと視線を戻した。
トリク祭りは収穫のお祭りだと言うだけあって、どうやら料理を出す屋台側も気合の入り方が違うみたいだ。
「うちのシャルの果実水は一味違うよー!どこが違うって、飲めばわかるよ!」
元気いっぱいな女性店員が叫ぶと、買った!と叫び返す客の声が聞こえる。
「普段は大通りでしか食べれないトレーシーのあの味が食べられる!」
落ち着いた服装の壮年男性のよく通る美声に、道行く人がトレーシーの味!?と騒いでいるのが聞こえる。
「今日はお祭り用に特別にスパイスを変えてあるからね、ぜひ試してってくれ!」
お爺さんの張り上げた声に、普段から美味いのにあれ以上かと常連らしき人が叫び返す。
「うちのスープはトリクの花の香り付きだよ!トリク祭りだけの味!」
スープにトリクの花?と疑っていたお客さんが、一口飲ませて貰うなり財布を出していたりと中々に賑やかだ。
飛び交う店員と客のあまりの喧噪に嫌そうな顔をしている人までいるんだが、アキトはどこまでも楽しそうにニコニコと笑っている。
「楽しそうだね、アキト」
「うん、楽しい」
アキトが楽しそうだと、それだけで俺も嬉しくなってしまう。
しかも今は以前とは違い、俺とアキトの手には伴侶候補の腕輪がある。
この伴侶候補の腕輪のかげで、アキトの美しさに目を惹かれた奴らが残念そうに視線を反らしてくれるからな。牽制する手間がはぶける上に、ただデートをしているだけでも俺の伴侶候補だと自慢できているようなものだ。
そんな事を考えながら歩いていた俺は、ふと漂ってきた香りに気が付いた。なんだかすごく良い香りがするな。肉の焼ける香りにつられるように視線を向けると、そこには美味しそうな肉の串し焼きを出している屋台があった。ああ、美味そうだな。
「あ、アキト…」
「ん?」
さっき約束したからな。これはちゃんと口に出して言った方が良いだろうと、俺はアキトの手をくいっと引いて声をかけた。
「あの屋台、寄って良いかな…?」
まだアキトの気になる屋台も発見してないのにと思いながらも口にした言葉に、アキトはパァァッと分かりやすく満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!」
ああ、ただ食べたい物を告げるだけでこんなに嬉しそうにしてくれるんだな。そんなアキトが、愛おしくてたまらない。
香りから想像した以上に美味かった肉の串焼きと、アキトが選んだシャルの果実水で小腹を満たしてから、俺達はまたのんびりと屋台の間を歩き出した。
「限定100個のパンだよー見てってー!」
「朝一前通った時も言ってたよね、それ」
「いや、本当に100限定だから!」
そんな気の抜けるやりとりまで聞こえてくる中を、俺達は笑いながら突っ切って歩いていく。
さっきの露店の辺りよりも更に人が多いせいで、少しも気は抜けないな。まあアキトに怪我をさせたくないから気を抜くつもりもないんだけど。
「本当に人多いよね」
「ああ、さすがに今日は朝から出掛ける人が多いから、余計に混んでるのかもしれないね」
折角のお祭りだから、夜だけでかけるんじゃもったいないって思う人が多いんだと思うよとそう教えればアキトはなるほどと納得してくれた
「それで恋人同士や伴侶同士が多いんだね」
「ん?伴侶同士と伴侶候補同士は腕輪と指輪で分かるけど…恋人同士ってよく分かったね?」
一体どこで見分けてるんだろうと少し不思議に思って尋ねれば、アキトはきょとんと俺を見上げてきた。結構分かりやすくない?と首を傾げたアキトは笑って教えてくれた。
「分かりやすくいちゃついてる人はさすがにいないけど…甘い雰囲気を漂わせてるから、多分恋人同士なんだろうなって分かっちゃうよ」
ああ、そうか。俺達はどうしても癖で腕輪や指輪を探してしまうんだが、異世界出身のアキトは二人の雰囲気を感じとっているのか。雰囲気と言われてもと最初は思ってしまったが、よくよく周りを見てみれば、確かに甘い雰囲気を感じる組み合わせが何人かいるな。
「なるほど、面白い見分け方だね」
「えー普通じゃない?」
「いや、初めて聞いた見分け方だよ」
デートを楽しんでいる俺達も、甘い雰囲気を漂わせているんだろうか。そんな事を考えながら、俺はアキトの手をきゅっと握った。
イーシャルの街全体が会場になると聞いてはいたけど、これは想像していた以上の規模だな。
さっきまで歩いていた道には雑貨や日持ちのする食品・服やアクセサリーなどのお店が多かったが、ここからは一気に料理や食べ物のお店が増えるみたいだな。きちんと区画が分けられている事に感心しながら、俺は楽しそうなアキトに話しかけた。
「この辺りからは屋台が多そうだね」
「うん、あ、でも果物とかも売ってるみたいだね」
「ほんとだ。なんだろ、料理とか食材を集めてるって感じなのかな?」
俺も初めてだから分からないやと笑って答えれば、アキトはふふと嬉しそうに笑ってくれた。
屋台の方を見ながら人混みの中を歩き出すと、そこかしこから食欲を刺激する良い香りが漂ってくる。
「良い香り!」
「ああ、確かに良い香りだな」
「ちょっとお腹空いてきたかも」
「結局朝食もちゃんと食べてないからね」
「うん」
「アキト、気になるお店があったら言ってね?」
アキトの食べたいものを選んでもらおうとそう声をかけた俺の顔を、アキトは無言のままじっと見上げてきた。何かまずい事でも言っただろうか?そう思ってゆるく首を傾げた俺に、アキトは真剣な表情に変わるとそっと口を開いた。
「うん、ちゃんと言うよ。ちゃんと言うけど、ハルも食べたいって思うのがあったらちゃんと俺に教えてね?」
あーどうやら俺がアキトの食べたいものを優先しようと思っていたのが、ばっちりとバレてしまっていたみたいだな。きちんと自分の好みを主張しろと言ってくれるアキトに、俺は笑みを浮かべた。
「うん、分かった。ちゃんと言う」
はっきりとそう約束を交わせば、アキトは上機嫌で屋台へと視線を戻した。
トリク祭りは収穫のお祭りだと言うだけあって、どうやら料理を出す屋台側も気合の入り方が違うみたいだ。
「うちのシャルの果実水は一味違うよー!どこが違うって、飲めばわかるよ!」
元気いっぱいな女性店員が叫ぶと、買った!と叫び返す客の声が聞こえる。
「普段は大通りでしか食べれないトレーシーのあの味が食べられる!」
落ち着いた服装の壮年男性のよく通る美声に、道行く人がトレーシーの味!?と騒いでいるのが聞こえる。
「今日はお祭り用に特別にスパイスを変えてあるからね、ぜひ試してってくれ!」
お爺さんの張り上げた声に、普段から美味いのにあれ以上かと常連らしき人が叫び返す。
「うちのスープはトリクの花の香り付きだよ!トリク祭りだけの味!」
スープにトリクの花?と疑っていたお客さんが、一口飲ませて貰うなり財布を出していたりと中々に賑やかだ。
飛び交う店員と客のあまりの喧噪に嫌そうな顔をしている人までいるんだが、アキトはどこまでも楽しそうにニコニコと笑っている。
「楽しそうだね、アキト」
「うん、楽しい」
アキトが楽しそうだと、それだけで俺も嬉しくなってしまう。
しかも今は以前とは違い、俺とアキトの手には伴侶候補の腕輪がある。
この伴侶候補の腕輪のかげで、アキトの美しさに目を惹かれた奴らが残念そうに視線を反らしてくれるからな。牽制する手間がはぶける上に、ただデートをしているだけでも俺の伴侶候補だと自慢できているようなものだ。
そんな事を考えながら歩いていた俺は、ふと漂ってきた香りに気が付いた。なんだかすごく良い香りがするな。肉の焼ける香りにつられるように視線を向けると、そこには美味しそうな肉の串し焼きを出している屋台があった。ああ、美味そうだな。
「あ、アキト…」
「ん?」
さっき約束したからな。これはちゃんと口に出して言った方が良いだろうと、俺はアキトの手をくいっと引いて声をかけた。
「あの屋台、寄って良いかな…?」
まだアキトの気になる屋台も発見してないのにと思いながらも口にした言葉に、アキトはパァァッと分かりやすく満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!」
ああ、ただ食べたい物を告げるだけでこんなに嬉しそうにしてくれるんだな。そんなアキトが、愛おしくてたまらない。
香りから想像した以上に美味かった肉の串焼きと、アキトが選んだシャルの果実水で小腹を満たしてから、俺達はまたのんびりと屋台の間を歩き出した。
「限定100個のパンだよー見てってー!」
「朝一前通った時も言ってたよね、それ」
「いや、本当に100限定だから!」
そんな気の抜けるやりとりまで聞こえてくる中を、俺達は笑いながら突っ切って歩いていく。
さっきの露店の辺りよりも更に人が多いせいで、少しも気は抜けないな。まあアキトに怪我をさせたくないから気を抜くつもりもないんだけど。
「本当に人多いよね」
「ああ、さすがに今日は朝から出掛ける人が多いから、余計に混んでるのかもしれないね」
折角のお祭りだから、夜だけでかけるんじゃもったいないって思う人が多いんだと思うよとそう教えればアキトはなるほどと納得してくれた
「それで恋人同士や伴侶同士が多いんだね」
「ん?伴侶同士と伴侶候補同士は腕輪と指輪で分かるけど…恋人同士ってよく分かったね?」
一体どこで見分けてるんだろうと少し不思議に思って尋ねれば、アキトはきょとんと俺を見上げてきた。結構分かりやすくない?と首を傾げたアキトは笑って教えてくれた。
「分かりやすくいちゃついてる人はさすがにいないけど…甘い雰囲気を漂わせてるから、多分恋人同士なんだろうなって分かっちゃうよ」
ああ、そうか。俺達はどうしても癖で腕輪や指輪を探してしまうんだが、異世界出身のアキトは二人の雰囲気を感じとっているのか。雰囲気と言われてもと最初は思ってしまったが、よくよく周りを見てみれば、確かに甘い雰囲気を感じる組み合わせが何人かいるな。
「なるほど、面白い見分け方だね」
「えー普通じゃない?」
「いや、初めて聞いた見分け方だよ」
デートを楽しんでいる俺達も、甘い雰囲気を漂わせているんだろうか。そんな事を考えながら、俺はアキトの手をきゅっと握った。
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