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482.噴水広場の舞台
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「ねぇ、ハル、まだ笑ってるの?」
俺は呆れた声でハルに向かって尋ねた。
あの花を売っていた少年を見送ってから結構経つのに、ハルはまだクスクスと楽しそうに笑い続けてるんだ。噴水広場に向かう人の流れに乗って歩いてるんだけど、さっきからずーっと笑ってるんだよね。
「俺、そんなに面白い事言ったかな?」
ゆるりと首を傾げてぽつりと呟けば、ハルはふうーと一つ長い息を吐いてから俺の方をちらりと見つめて口を開いた。
「はーごめんね…やっとちょっと落ち着いてきたよ」
「それは良かった」
さすがにずっと笑ってるハルを、興味深そうに見てる人もいたからね。
「別に内容が面白かったってわけじゃないんだ」
「へ?じゃあ何がそんなに面白かったの?」
素直に尋ねた俺に、ハルは小さな声で答えた。
「その…アキトがあまりに羨ましそうな声で言うからさ、ちょっと我慢できなくて」
「ああー確かに羨ましいなーとは思ってたけど、声に出てた?」
俺一人だったら、あのレベルの人混みには絶対に突っ込んでいけないもんな。ハルに手を繋いでもらってないと、絶対に迷子になると思う。その点あの少年はすごいよねと思いながらハルの意見に同意すれば、何故かハルはまたしても笑いだしてしまった。
うーん、なんだかまたハルのツボにはまってしまったみたいだ。
どうしようと考えながらちらりと見上げてみれば、ハルの明るい笑顔が視界に飛び込んでくる。あーでも幸せそうな良い笑顔だな。
うん、まあハルが楽しそうだから良いか。
落ち着くまで待つことを決めた俺は、周りの景色を見ながらのんびりと歩き続けた。
ハルの笑いが何とかおさまった頃、俺達はようやく目的地である噴水広場に辿り着いた。ぐるりと周りを見渡してみれば、ちょうど噴水の前の辺りに人だかりができているみたいだ。
「あっちだね」
「うん」
人だかりの後ろに立って隙間から前を覗いてみると、昨日までは無かった立派な舞台が出来上がっていた。今はちょうど休憩中なのか、舞台の上には誰もいないみたいだ。待ってる人がいるって事は、次の予定もあるんだろうか。
「すごいね、こんなにちゃんとした舞台まで出来てるとは思わなかった」
俺の勝手な想像だけど、もっと路上ライブとか大道芸的なパフォーマンスみたいなのを思ってたから正直ちょっと驚いた。規模が想像していたのと全然違う。
「ああ、昨日の夜にここを通った時は…まだ無かったんだけどね」
「え、そうなの?これすっごく立派な舞台に見えるんだけど?」
「ああ、魔法と魔道具を駆使して早朝にでも作ったのかな」
そんな事をのんびりと会話しながら舞台を眺めていると、舞台の上にスタスタと一人の女性が歩いて来たのが見えた。女性は歓声を上げる客に向かって一礼すると、置かれていた椅子にちょこんと腰を下ろした。女性はそのまま見た事の無い弦楽器を取り出し構えると、おもむろに爪を使って弾き始めた。
結構距離がある筈なのにしっかりと後ろの方にいる俺達の所にまで音楽が聞こえるのは、魔法か魔道具の力なのかな。
その曲はなんとも不思議な曲だった。絶対に初めて聞く曲なのに、どこか懐かしさを感じさせる。そんな曲だった。
その音色に聞き惚れていると、不意に透き通った笛の音がふわりと女性の曲に重なった。あ、気づいたら舞台の上に男性が増えてるな。いつの間に出てきたんだろう。
男性の笛の音はどこまでも繊細に透き通っていて、すこしの違和感もなく弦楽器の音と馴染んでいった。たった二人で奏でているとは思えない程の深みのある音楽に、自然と客からもため息がこぼれた。
ふわりと音楽が止まり自然と観客が拍手をしようとしたその瞬間、舞台の上にひっそりと登場していた男性が高らかに歌い出した。
収穫を喜ぶ祝福の言葉、祭りの始まりを告げる声、自然の恵みに感謝を伝え、来年の更なる豊穣を願う。
トリク祭りにこれ以上相応しい歌は無いだろうと思わせるその曲を、男性はアカペラで歌い上げていく。
これほどたくさんの人がいるのに、辺りに響くのは男性の歌声と流れる水音だけだ。たくさんの人達は、たったの一言も言葉を発さない。全員がただ圧倒されたように、黙り込んだまま聞き惚れていた。
静まりかえっていた広場の空気が動いたのは、歌いきった男性が観客に向けて笑みを浮かべて軽く会釈をしたその瞬間だった。まるで貯めこんでいた感情を爆発させるかのように、歓声と拍手が一気に弾けた。
俺は呆れた声でハルに向かって尋ねた。
あの花を売っていた少年を見送ってから結構経つのに、ハルはまだクスクスと楽しそうに笑い続けてるんだ。噴水広場に向かう人の流れに乗って歩いてるんだけど、さっきからずーっと笑ってるんだよね。
「俺、そんなに面白い事言ったかな?」
ゆるりと首を傾げてぽつりと呟けば、ハルはふうーと一つ長い息を吐いてから俺の方をちらりと見つめて口を開いた。
「はーごめんね…やっとちょっと落ち着いてきたよ」
「それは良かった」
さすがにずっと笑ってるハルを、興味深そうに見てる人もいたからね。
「別に内容が面白かったってわけじゃないんだ」
「へ?じゃあ何がそんなに面白かったの?」
素直に尋ねた俺に、ハルは小さな声で答えた。
「その…アキトがあまりに羨ましそうな声で言うからさ、ちょっと我慢できなくて」
「ああー確かに羨ましいなーとは思ってたけど、声に出てた?」
俺一人だったら、あのレベルの人混みには絶対に突っ込んでいけないもんな。ハルに手を繋いでもらってないと、絶対に迷子になると思う。その点あの少年はすごいよねと思いながらハルの意見に同意すれば、何故かハルはまたしても笑いだしてしまった。
うーん、なんだかまたハルのツボにはまってしまったみたいだ。
どうしようと考えながらちらりと見上げてみれば、ハルの明るい笑顔が視界に飛び込んでくる。あーでも幸せそうな良い笑顔だな。
うん、まあハルが楽しそうだから良いか。
落ち着くまで待つことを決めた俺は、周りの景色を見ながらのんびりと歩き続けた。
ハルの笑いが何とかおさまった頃、俺達はようやく目的地である噴水広場に辿り着いた。ぐるりと周りを見渡してみれば、ちょうど噴水の前の辺りに人だかりができているみたいだ。
「あっちだね」
「うん」
人だかりの後ろに立って隙間から前を覗いてみると、昨日までは無かった立派な舞台が出来上がっていた。今はちょうど休憩中なのか、舞台の上には誰もいないみたいだ。待ってる人がいるって事は、次の予定もあるんだろうか。
「すごいね、こんなにちゃんとした舞台まで出来てるとは思わなかった」
俺の勝手な想像だけど、もっと路上ライブとか大道芸的なパフォーマンスみたいなのを思ってたから正直ちょっと驚いた。規模が想像していたのと全然違う。
「ああ、昨日の夜にここを通った時は…まだ無かったんだけどね」
「え、そうなの?これすっごく立派な舞台に見えるんだけど?」
「ああ、魔法と魔道具を駆使して早朝にでも作ったのかな」
そんな事をのんびりと会話しながら舞台を眺めていると、舞台の上にスタスタと一人の女性が歩いて来たのが見えた。女性は歓声を上げる客に向かって一礼すると、置かれていた椅子にちょこんと腰を下ろした。女性はそのまま見た事の無い弦楽器を取り出し構えると、おもむろに爪を使って弾き始めた。
結構距離がある筈なのにしっかりと後ろの方にいる俺達の所にまで音楽が聞こえるのは、魔法か魔道具の力なのかな。
その曲はなんとも不思議な曲だった。絶対に初めて聞く曲なのに、どこか懐かしさを感じさせる。そんな曲だった。
その音色に聞き惚れていると、不意に透き通った笛の音がふわりと女性の曲に重なった。あ、気づいたら舞台の上に男性が増えてるな。いつの間に出てきたんだろう。
男性の笛の音はどこまでも繊細に透き通っていて、すこしの違和感もなく弦楽器の音と馴染んでいった。たった二人で奏でているとは思えない程の深みのある音楽に、自然と客からもため息がこぼれた。
ふわりと音楽が止まり自然と観客が拍手をしようとしたその瞬間、舞台の上にひっそりと登場していた男性が高らかに歌い出した。
収穫を喜ぶ祝福の言葉、祭りの始まりを告げる声、自然の恵みに感謝を伝え、来年の更なる豊穣を願う。
トリク祭りにこれ以上相応しい歌は無いだろうと思わせるその曲を、男性はアカペラで歌い上げていく。
これほどたくさんの人がいるのに、辺りに響くのは男性の歌声と流れる水音だけだ。たくさんの人達は、たったの一言も言葉を発さない。全員がただ圧倒されたように、黙り込んだまま聞き惚れていた。
静まりかえっていた広場の空気が動いたのは、歌いきった男性が観客に向けて笑みを浮かべて軽く会釈をしたその瞬間だった。まるで貯めこんでいた感情を爆発させるかのように、歓声と拍手が一気に弾けた。
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