477 / 1,112
476.露店巡り
しおりを挟む
人混みの中を何の問題もなくすいすいと歩くのには、きっとなんらかの修行が必要なんだと思う。そしてハルは絶対にその修行を乗り越えてるよね。もしくは資格制だろうか。
ついついそんなくだらない事を考えてしまうぐらいには、俺はさっきから人にぶつかりそうになったり誰かの足を踏みそうになったりと散々だ。
まあ、その全てをハルが回避させてくれてるから、結局は何の問題も無く歩けてるんだけど。ハルには感謝するしかない。ありがとう、ハル。
「トリクのジャムは絶対買いたかったから、買えて良かった」
「うん、お茶に入れたらどんな感じになるんだろー楽しみ!」
ちなみに他にも買いたい物ってあったりするの?とハルの希望を聞いてみたら、トリクの花の香水は買いたいと思ってると教えてくれた。
「あれは本当に良い香りなんだ。アキトにもぜひ試して欲しくて」
しみじみとそう言ったハルに、俺は一体どんな香りなんだろうと思いを巡らせた。昨日はあんなにトリクの花をいっぱい見たのに、結局花の香りは分からなかったんだよな。
「えっとさ、実は俺、香水ってあんまり使った事が無いんだ…」
「そうなの?」
俺の故郷でも使ってる人はいたけどと呟けば、ハルはそうなんだと納得してくれた。
「もしかしたらなんだけどアキトが思ってるのとはちょっと違うかもしれない。このトリクの花の香水は普段から身に着けて使うってものじゃないんだ」
「…え、じゃあどうやって使うの?」
「眠る前に枕に一振りだけかけるんだよ」
何それお洒落すぎない?ハルによるとトリクの花の香水は、良い香りのおかげですぐに寝付ける上に、良い夢が見られるということで人気があるらしい。
「はー予想外の使い方だったよ」
まあ俺が知らないだけで、元の世界にもそういう使い方をしてる人はいたのかもしれないけどさ。
「試してみたくなった?」
「うん、やってみたい!」
「じゃあ忘れずに買って帰ろうか」
よし、目標はトリクの花の香水だ。俺達はたくさんの人で混みあう道を、視線を巡らせながら歩き出した。
露店がずらりと並んでいるエリアは、とにかく誘惑が多かった。ちょっと歩いただけでも、あれこれと気になるものがあって目移りしてしまう。
「香水は買いたいけど…急がなくても良いかな?」
トリクの花の香水はこの祭りの名物の一つだから、色んな所に売ってるし売り切れない筈だとハルは続けた。
気になるお店が多すぎるから我慢できないよね。ハルの気持ちはすっごく分かる。
「うん、とりあえず俺はあの店が気になってる」
「あ、そこの露店?じゃあまずはそこから行こうか」
あっさりと目標を変更した俺達は、まずは露店での買い物を思いっきり楽しむ事にした。
俺達好みのシンプルな服屋さんではお互いの服を選びあったし、古本を取り扱ってるお店では掘り出し物を探してみた。あれこれとお店を冷やかし、時々お土産になりそうな小物や自分たちの物を買い足しながら移動していく。
旅行気分でこういう買い物をして回るのって楽しいな。荷物の心配をしなくて良いのも嬉しいし。
「あ、アキト、あったよ!」
不意にハルがそう声を上げたのは、露店の通りのちょうど端っこの辺りに辿り着いた時だった。
「トリクの花の香水?」
「ああ、ほら、あそこ!」
嬉しそうなハルに香水のあるお店に案内してもらったのは良いんだけど、目の前の光景に俺は戸惑ってしまった。
目の前に並んでいるのは、瓶の見た目から香水の色まで全てがそっくりなお店が三つだ。違いと言えば、瓶に飾りのように結ばれている細いリボンの色ぐらいだろうか。
「えーっと…ハル、これってどう違うの?」
「ああ、店ごとに少しずつ香りが違う筈だよ」
なんでも申請してある香水と全く同じ香りだと、商業ギルドの鑑定で弾かれるんだって。そうなると商品として取り扱えなくなるらしい。
「へーそうなんだ」
「いらっしゃい、うちの香り試してみるかい?」
無表情のおじさんにぶっきらぼうにそう尋ねられたハルは、ふるりと軽く首を振った。
「いや、折角なら二人で試したいから香りの試しはいらないよ。この瓶を貰えるか?」
「まいど」
ハルはさくさくと三つの露店でトリクの花の香水を買い込んだ。無表情なおじさんのところのが白いリボンで、にっこり笑顔のおばあさんのところのはピンクのリボン、厳ついお兄さんのところのは赤いリボンだった。
トリク祭りの時はハルみたいにまとめ買いする人が多いから、区別がつく用にって最近になって付けだしたものなんだって。
大事そうに受け取った瓶を魔導収納鞄に丁寧にしまい込んだハルは、嬉しそうに笑いながら俺を振り返った。
「アキト、日替わりで試してみようね」
「うん、楽しみ!」
どんどん楽しみが増えていくなとワクワクしながら、俺はハルと繋いだままの手をブンブンと振り回した。
ついついそんなくだらない事を考えてしまうぐらいには、俺はさっきから人にぶつかりそうになったり誰かの足を踏みそうになったりと散々だ。
まあ、その全てをハルが回避させてくれてるから、結局は何の問題も無く歩けてるんだけど。ハルには感謝するしかない。ありがとう、ハル。
「トリクのジャムは絶対買いたかったから、買えて良かった」
「うん、お茶に入れたらどんな感じになるんだろー楽しみ!」
ちなみに他にも買いたい物ってあったりするの?とハルの希望を聞いてみたら、トリクの花の香水は買いたいと思ってると教えてくれた。
「あれは本当に良い香りなんだ。アキトにもぜひ試して欲しくて」
しみじみとそう言ったハルに、俺は一体どんな香りなんだろうと思いを巡らせた。昨日はあんなにトリクの花をいっぱい見たのに、結局花の香りは分からなかったんだよな。
「えっとさ、実は俺、香水ってあんまり使った事が無いんだ…」
「そうなの?」
俺の故郷でも使ってる人はいたけどと呟けば、ハルはそうなんだと納得してくれた。
「もしかしたらなんだけどアキトが思ってるのとはちょっと違うかもしれない。このトリクの花の香水は普段から身に着けて使うってものじゃないんだ」
「…え、じゃあどうやって使うの?」
「眠る前に枕に一振りだけかけるんだよ」
何それお洒落すぎない?ハルによるとトリクの花の香水は、良い香りのおかげですぐに寝付ける上に、良い夢が見られるということで人気があるらしい。
「はー予想外の使い方だったよ」
まあ俺が知らないだけで、元の世界にもそういう使い方をしてる人はいたのかもしれないけどさ。
「試してみたくなった?」
「うん、やってみたい!」
「じゃあ忘れずに買って帰ろうか」
よし、目標はトリクの花の香水だ。俺達はたくさんの人で混みあう道を、視線を巡らせながら歩き出した。
露店がずらりと並んでいるエリアは、とにかく誘惑が多かった。ちょっと歩いただけでも、あれこれと気になるものがあって目移りしてしまう。
「香水は買いたいけど…急がなくても良いかな?」
トリクの花の香水はこの祭りの名物の一つだから、色んな所に売ってるし売り切れない筈だとハルは続けた。
気になるお店が多すぎるから我慢できないよね。ハルの気持ちはすっごく分かる。
「うん、とりあえず俺はあの店が気になってる」
「あ、そこの露店?じゃあまずはそこから行こうか」
あっさりと目標を変更した俺達は、まずは露店での買い物を思いっきり楽しむ事にした。
俺達好みのシンプルな服屋さんではお互いの服を選びあったし、古本を取り扱ってるお店では掘り出し物を探してみた。あれこれとお店を冷やかし、時々お土産になりそうな小物や自分たちの物を買い足しながら移動していく。
旅行気分でこういう買い物をして回るのって楽しいな。荷物の心配をしなくて良いのも嬉しいし。
「あ、アキト、あったよ!」
不意にハルがそう声を上げたのは、露店の通りのちょうど端っこの辺りに辿り着いた時だった。
「トリクの花の香水?」
「ああ、ほら、あそこ!」
嬉しそうなハルに香水のあるお店に案内してもらったのは良いんだけど、目の前の光景に俺は戸惑ってしまった。
目の前に並んでいるのは、瓶の見た目から香水の色まで全てがそっくりなお店が三つだ。違いと言えば、瓶に飾りのように結ばれている細いリボンの色ぐらいだろうか。
「えーっと…ハル、これってどう違うの?」
「ああ、店ごとに少しずつ香りが違う筈だよ」
なんでも申請してある香水と全く同じ香りだと、商業ギルドの鑑定で弾かれるんだって。そうなると商品として取り扱えなくなるらしい。
「へーそうなんだ」
「いらっしゃい、うちの香り試してみるかい?」
無表情のおじさんにぶっきらぼうにそう尋ねられたハルは、ふるりと軽く首を振った。
「いや、折角なら二人で試したいから香りの試しはいらないよ。この瓶を貰えるか?」
「まいど」
ハルはさくさくと三つの露店でトリクの花の香水を買い込んだ。無表情なおじさんのところのが白いリボンで、にっこり笑顔のおばあさんのところのはピンクのリボン、厳ついお兄さんのところのは赤いリボンだった。
トリク祭りの時はハルみたいにまとめ買いする人が多いから、区別がつく用にって最近になって付けだしたものなんだって。
大事そうに受け取った瓶を魔導収納鞄に丁寧にしまい込んだハルは、嬉しそうに笑いながら俺を振り返った。
「アキト、日替わりで試してみようね」
「うん、楽しみ!」
どんどん楽しみが増えていくなとワクワクしながら、俺はハルと繋いだままの手をブンブンと振り回した。
150
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる