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476.露店巡り
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人混みの中を何の問題もなくすいすいと歩くのには、きっとなんらかの修行が必要なんだと思う。そしてハルは絶対にその修行を乗り越えてるよね。もしくは資格制だろうか。
ついついそんなくだらない事を考えてしまうぐらいには、俺はさっきから人にぶつかりそうになったり誰かの足を踏みそうになったりと散々だ。
まあ、その全てをハルが回避させてくれてるから、結局は何の問題も無く歩けてるんだけど。ハルには感謝するしかない。ありがとう、ハル。
「トリクのジャムは絶対買いたかったから、買えて良かった」
「うん、お茶に入れたらどんな感じになるんだろー楽しみ!」
ちなみに他にも買いたい物ってあったりするの?とハルの希望を聞いてみたら、トリクの花の香水は買いたいと思ってると教えてくれた。
「あれは本当に良い香りなんだ。アキトにもぜひ試して欲しくて」
しみじみとそう言ったハルに、俺は一体どんな香りなんだろうと思いを巡らせた。昨日はあんなにトリクの花をいっぱい見たのに、結局花の香りは分からなかったんだよな。
「えっとさ、実は俺、香水ってあんまり使った事が無いんだ…」
「そうなの?」
俺の故郷でも使ってる人はいたけどと呟けば、ハルはそうなんだと納得してくれた。
「もしかしたらなんだけどアキトが思ってるのとはちょっと違うかもしれない。このトリクの花の香水は普段から身に着けて使うってものじゃないんだ」
「…え、じゃあどうやって使うの?」
「眠る前に枕に一振りだけかけるんだよ」
何それお洒落すぎない?ハルによるとトリクの花の香水は、良い香りのおかげですぐに寝付ける上に、良い夢が見られるということで人気があるらしい。
「はー予想外の使い方だったよ」
まあ俺が知らないだけで、元の世界にもそういう使い方をしてる人はいたのかもしれないけどさ。
「試してみたくなった?」
「うん、やってみたい!」
「じゃあ忘れずに買って帰ろうか」
よし、目標はトリクの花の香水だ。俺達はたくさんの人で混みあう道を、視線を巡らせながら歩き出した。
露店がずらりと並んでいるエリアは、とにかく誘惑が多かった。ちょっと歩いただけでも、あれこれと気になるものがあって目移りしてしまう。
「香水は描いたいけど…急がなくても良いかな?」
トリクの花の香水はこの祭りの名物の一つだから、色んな所に売ってるし売り切れない筈だとハルは続けた。
気になるお店が多すぎるから我慢できないよね。ハルの気持ちはすっごく分かる。
「うん、とりあえず俺はあの店が気になってる」
「あ、そこの露店?じゃあまずはそこから行こうか」
あっさりと目標を変更した俺達は、まずは露店での買い物を思いっきり楽しむ事にした。
俺達好みのシンプルな服屋さんではお互いの服を選びあったし、古本を取り扱ってるお店では掘り出し物を探してみた。あれこれとお店を冷やかし、時々お土産になりそうな小物や自分たちの物を買い足しながら移動していく。
旅行気分でこういう買い物をして回るのって楽しいな。荷物の心配をしなくて良いのも嬉しいし。
「あ、アキト、あったよ!」
不意にハルがそう声を上げたのは、露店の通りのちょうど端っこの辺りに辿り着いた時だった。
「トリクの花の香水?」
「ああ、ほら、あそこ!」
嬉しそうなハルに香水のあるお店に案内してもらったのは良いんだけど、目の前の光景に俺は戸惑ってしまった。
目の前に並んでいるのは、瓶の見た目から香水の色まで全てがそっくりなお店が三つだ。違いと言えば、瓶に飾りのように結ばれている細いリボンの色ぐらいだろうか。
「えーっと…ハル、これってどう違うの?」
「ああ、店ごとに少しずつ香りが違う筈だよ」
なんでも申請してある香水と全く同じ香りだと、商業ギルドの鑑定で弾かれるんだって。そうなると商品として取り扱えなくなるらしい。
「へーそうなんだ」
「いらっしゃい、うちの香り試してみるかい?」
無表情のおじさんにぶっきらぼうにそう尋ねられたハルは、ふるりと軽く首を振った。
「いや、折角なら二人で試したいから香りの試しはいらないよ。この瓶を貰えるか?」
「まいど」
ハルはさくさくと三つの露店でトリクの花の香水を買い込んだ。無表情なおじさんのところのが白いリボンで、にっこり笑顔のおばあさんのところのはピンクのリボン、厳ついお兄さんのところのは赤いリボンだった。
トリク祭りの時はハルみたいにまとめ買いする人が多いから、区別がつく用にって最近になって付けだしたものなんだって。
大事そうに受け取った瓶を魔導収納鞄に丁寧にしまい込んだハルは、嬉しそうに笑いながら俺を振り返った。
「アキト、日替わりで試してみようね」
「うん、楽しみ!」
どんどん楽しみが増えていくなとワクワクしながら、俺はハルと繋いだままの手をブンブンと振り回した。
ついついそんなくだらない事を考えてしまうぐらいには、俺はさっきから人にぶつかりそうになったり誰かの足を踏みそうになったりと散々だ。
まあ、その全てをハルが回避させてくれてるから、結局は何の問題も無く歩けてるんだけど。ハルには感謝するしかない。ありがとう、ハル。
「トリクのジャムは絶対買いたかったから、買えて良かった」
「うん、お茶に入れたらどんな感じになるんだろー楽しみ!」
ちなみに他にも買いたい物ってあったりするの?とハルの希望を聞いてみたら、トリクの花の香水は買いたいと思ってると教えてくれた。
「あれは本当に良い香りなんだ。アキトにもぜひ試して欲しくて」
しみじみとそう言ったハルに、俺は一体どんな香りなんだろうと思いを巡らせた。昨日はあんなにトリクの花をいっぱい見たのに、結局花の香りは分からなかったんだよな。
「えっとさ、実は俺、香水ってあんまり使った事が無いんだ…」
「そうなの?」
俺の故郷でも使ってる人はいたけどと呟けば、ハルはそうなんだと納得してくれた。
「もしかしたらなんだけどアキトが思ってるのとはちょっと違うかもしれない。このトリクの花の香水は普段から身に着けて使うってものじゃないんだ」
「…え、じゃあどうやって使うの?」
「眠る前に枕に一振りだけかけるんだよ」
何それお洒落すぎない?ハルによるとトリクの花の香水は、良い香りのおかげですぐに寝付ける上に、良い夢が見られるということで人気があるらしい。
「はー予想外の使い方だったよ」
まあ俺が知らないだけで、元の世界にもそういう使い方をしてる人はいたのかもしれないけどさ。
「試してみたくなった?」
「うん、やってみたい!」
「じゃあ忘れずに買って帰ろうか」
よし、目標はトリクの花の香水だ。俺達はたくさんの人で混みあう道を、視線を巡らせながら歩き出した。
露店がずらりと並んでいるエリアは、とにかく誘惑が多かった。ちょっと歩いただけでも、あれこれと気になるものがあって目移りしてしまう。
「香水は描いたいけど…急がなくても良いかな?」
トリクの花の香水はこの祭りの名物の一つだから、色んな所に売ってるし売り切れない筈だとハルは続けた。
気になるお店が多すぎるから我慢できないよね。ハルの気持ちはすっごく分かる。
「うん、とりあえず俺はあの店が気になってる」
「あ、そこの露店?じゃあまずはそこから行こうか」
あっさりと目標を変更した俺達は、まずは露店での買い物を思いっきり楽しむ事にした。
俺達好みのシンプルな服屋さんではお互いの服を選びあったし、古本を取り扱ってるお店では掘り出し物を探してみた。あれこれとお店を冷やかし、時々お土産になりそうな小物や自分たちの物を買い足しながら移動していく。
旅行気分でこういう買い物をして回るのって楽しいな。荷物の心配をしなくて良いのも嬉しいし。
「あ、アキト、あったよ!」
不意にハルがそう声を上げたのは、露店の通りのちょうど端っこの辺りに辿り着いた時だった。
「トリクの花の香水?」
「ああ、ほら、あそこ!」
嬉しそうなハルに香水のあるお店に案内してもらったのは良いんだけど、目の前の光景に俺は戸惑ってしまった。
目の前に並んでいるのは、瓶の見た目から香水の色まで全てがそっくりなお店が三つだ。違いと言えば、瓶に飾りのように結ばれている細いリボンの色ぐらいだろうか。
「えーっと…ハル、これってどう違うの?」
「ああ、店ごとに少しずつ香りが違う筈だよ」
なんでも申請してある香水と全く同じ香りだと、商業ギルドの鑑定で弾かれるんだって。そうなると商品として取り扱えなくなるらしい。
「へーそうなんだ」
「いらっしゃい、うちの香り試してみるかい?」
無表情のおじさんにぶっきらぼうにそう尋ねられたハルは、ふるりと軽く首を振った。
「いや、折角なら二人で試したいから香りの試しはいらないよ。この瓶を貰えるか?」
「まいど」
ハルはさくさくと三つの露店でトリクの花の香水を買い込んだ。無表情なおじさんのところのが白いリボンで、にっこり笑顔のおばあさんのところのはピンクのリボン、厳ついお兄さんのところのは赤いリボンだった。
トリク祭りの時はハルみたいにまとめ買いする人が多いから、区別がつく用にって最近になって付けだしたものなんだって。
大事そうに受け取った瓶を魔導収納鞄に丁寧にしまい込んだハルは、嬉しそうに笑いながら俺を振り返った。
「アキト、日替わりで試してみようね」
「うん、楽しみ!」
どんどん楽しみが増えていくなとワクワクしながら、俺はハルと繋いだままの手をブンブンと振り回した。
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