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475.ジャムの露店
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人混みに流されるようにして辿り着いたのは、昨日も通った覚えのある一本道だった。
昨日まではどう見ても普通の住宅街のありきたりな道だったのに、今は完璧なお祭り会場へと変貌を遂げていた。
たった一晩でここまで印象が変わるのかと、素直に驚いてしまった。
そこかしこにトリクの花束が飾られた道には、たくさんの露店がずらりと並んでいた。道がそこまで広くないからか、片側だけに綺麗に整列しているのがちょっと見慣れない感じで面白い。
「あ、アキト、あそこ見て」
「ん?どこ?」
「あそこの店」
ハルが指差したのは、ジャムらしきものが入った瓶がびっしりと並んだ露店だった。瓶の大きさも様々で、小さなおもちゃのような瓶から、誰が買うんだろうと思うほど巨大な瓶までがずらりと並んでいる。
人混みをハルの誘導で歩きながら店に近づいていくと、店員のお兄さんがふと俺達の方へと視線を向けた。
「いらっしゃい!」
「どうも」
「こんにちは」
「ああ、こんにちはーゆっくり見て行ってくれ」
優しそうなお兄さんだ。目の前に並ぶ瓶を遠慮なくまじまじと見つめてから、俺はハルをちらりと見上げた。
「種類も大きさもいっぱいあるね」
「ああ、ここまで品揃えがいいのは、さすがイーシャルだな」
「兄さん、嬉しい事言ってくれるねぇ」
へらりと笑った店員のお兄さんは、折角のトリク祭りだからってうちの家族が張り切って用意したんだよと教えてくれた。
小さな瓶はこどものおやつに、一番大きな瓶は飲食店が買っていく大きさらしい。
「わーこれだけあったら、何買おうか悩むなー」
「アキト。俺達が食べる用も、もちろん買ったら良いんだけどさ」
「うん?」
「これって、土産にしても良さそうじゃない?」
あ、確かに。特に黒鷹亭のレーブンさんとかだったら、喜んでくれるかもしれない。
「しっかり付与魔法もかけてあるから、うちのはかなり日持ちするよ。他の街では珍しい果物を使ったのもあるし、しかも何より味が美味いんだ!」
自慢げに笑ったお兄さんは、薄く切ったパンにジャムを乗せて俺とハルに差し出してくれた。
「まあ、まずは食べてみて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
揃って口に放り込んだ俺達は、顔を見合わせた。
ふわりと口内に広がったのは濃厚な甘みで、でもくどさは一切無い。バナナとパイナップルが合わさったような不思議な風味だ。
「これ買います」
「これをくれ」
俺とハル二人の言葉が重なったのを聞いて、お兄さんはフハッと笑い出した。
「待って待って、他の味も色々あるから!決断が早すぎるから!」
説明も味見もいっぱいしてから考えてよと続けた店員さんは、お兄さんたち息の合った伴侶候補だねぇとさらりと褒めてくれた。
「いやーいっぱい買ってくれてありがとうなぁ」
ホクホク顔の店員さんに声をかけられながら、ハルは無造作に魔導収納鞄の中に買い込んだ瓶をしまい込んで行く。
「いや、どれも美味かったからな」
「うん、本当にどれも美味しかったです!」
「そりゃあ良かった」
俺達は最初に食べたジャムはもちろん、他にも柑橘っぽいジャムとベリー系のジャム、更に名物であるトリクの花のジャムを選んだ。レーブンさんにも大きさこそ違うけれど、同じ種類のものを選んである。
「なあ、トリクの花は好みは分かれるけど、本当に味見しなくて良かったのか?」
「ああ、最初はやっぱりお茶に入れて飲ませたいからな」
「あーそれは分かる」
トリクのジャム入りのお茶は特別なものだから、大事な人との時間に飲むものなんだよとお兄さんは教えてくれた。
「そうなんだ。じゃあハルの分のお茶は俺が淹れるね」
「ああ、ありがとう。アキトの分は俺が淹れて良いんだな?」
「うん、お願いしたいな」
折角ならハルの淹れてくれたのを飲んでみたいと甘えてみれば、店員さんは頭をかきながらぽつりと呟いた。
「あー何故か急に俺も伴侶候補に会いたくなってきたわー」
昨日まではどう見ても普通の住宅街のありきたりな道だったのに、今は完璧なお祭り会場へと変貌を遂げていた。
たった一晩でここまで印象が変わるのかと、素直に驚いてしまった。
そこかしこにトリクの花束が飾られた道には、たくさんの露店がずらりと並んでいた。道がそこまで広くないからか、片側だけに綺麗に整列しているのがちょっと見慣れない感じで面白い。
「あ、アキト、あそこ見て」
「ん?どこ?」
「あそこの店」
ハルが指差したのは、ジャムらしきものが入った瓶がびっしりと並んだ露店だった。瓶の大きさも様々で、小さなおもちゃのような瓶から、誰が買うんだろうと思うほど巨大な瓶までがずらりと並んでいる。
人混みをハルの誘導で歩きながら店に近づいていくと、店員のお兄さんがふと俺達の方へと視線を向けた。
「いらっしゃい!」
「どうも」
「こんにちは」
「ああ、こんにちはーゆっくり見て行ってくれ」
優しそうなお兄さんだ。目の前に並ぶ瓶を遠慮なくまじまじと見つめてから、俺はハルをちらりと見上げた。
「種類も大きさもいっぱいあるね」
「ああ、ここまで品揃えがいいのは、さすがイーシャルだな」
「兄さん、嬉しい事言ってくれるねぇ」
へらりと笑った店員のお兄さんは、折角のトリク祭りだからってうちの家族が張り切って用意したんだよと教えてくれた。
小さな瓶はこどものおやつに、一番大きな瓶は飲食店が買っていく大きさらしい。
「わーこれだけあったら、何買おうか悩むなー」
「アキト。俺達が食べる用も、もちろん買ったら良いんだけどさ」
「うん?」
「これって、土産にしても良さそうじゃない?」
あ、確かに。特に黒鷹亭のレーブンさんとかだったら、喜んでくれるかもしれない。
「しっかり付与魔法もかけてあるから、うちのはかなり日持ちするよ。他の街では珍しい果物を使ったのもあるし、しかも何より味が美味いんだ!」
自慢げに笑ったお兄さんは、薄く切ったパンにジャムを乗せて俺とハルに差し出してくれた。
「まあ、まずは食べてみて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
揃って口に放り込んだ俺達は、顔を見合わせた。
ふわりと口内に広がったのは濃厚な甘みで、でもくどさは一切無い。バナナとパイナップルが合わさったような不思議な風味だ。
「これ買います」
「これをくれ」
俺とハル二人の言葉が重なったのを聞いて、お兄さんはフハッと笑い出した。
「待って待って、他の味も色々あるから!決断が早すぎるから!」
説明も味見もいっぱいしてから考えてよと続けた店員さんは、お兄さんたち息の合った伴侶候補だねぇとさらりと褒めてくれた。
「いやーいっぱい買ってくれてありがとうなぁ」
ホクホク顔の店員さんに声をかけられながら、ハルは無造作に魔導収納鞄の中に買い込んだ瓶をしまい込んで行く。
「いや、どれも美味かったからな」
「うん、本当にどれも美味しかったです!」
「そりゃあ良かった」
俺達は最初に食べたジャムはもちろん、他にも柑橘っぽいジャムとベリー系のジャム、更に名物であるトリクの花のジャムを選んだ。レーブンさんにも大きさこそ違うけれど、同じ種類のものを選んである。
「なあ、トリクの花は好みは分かれるけど、本当に味見しなくて良かったのか?」
「ああ、最初はやっぱりお茶に入れて飲ませたいからな」
「あーそれは分かる」
トリクのジャム入りのお茶は特別なものだから、大事な人との時間に飲むものなんだよとお兄さんは教えてくれた。
「そうなんだ。じゃあハルの分のお茶は俺が淹れるね」
「ああ、ありがとう。アキトの分は俺が淹れて良いんだな?」
「うん、お願いしたいな」
折角ならハルの淹れてくれたのを飲んでみたいと甘えてみれば、店員さんは頭をかきながらぽつりと呟いた。
「あー何故か急に俺も伴侶候補に会いたくなってきたわー」
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