475 / 1,103
474.トリク祭り
しおりを挟む
「え、トリク祭り!?」
トライプールのギルド職員メロウさんから、トリク祭りについてはちょっとだけ教えてもらったから存在は知ってた。ただ日程がはっきりとは決まってなくて、多分その時期にあたるんじゃないかなーぐらいの説明だったんだよね。
異世界のお祭りって雰囲気が違うのかなーってちょっと気になってたんだけど、さすがに日程が分からないと参加はできないと思ってたんだ。
そのトリク祭りが、まさかの今日から?
「ええ今日からです。これに合わせてイーシャルに来られるという方も多いんですよ」
「なるほど、それで混んでるのか」
「はい、お二人ともトリク祭りは初めてでしょうか?」
「はい!」
俺はすぐに頷いてから、ちらりとハルに視線を向けた。もしかして前にも来た事があるのかなと反応を伺っていたんだけど、ハルは笑って口を開いた。
「ああ、祭りに参加するのは初めてなんだ」
「そうですか。お二人がもしよろしければ、すこしだけトリク祭りについて説明しましょうか?」
「ああ、頼んで良いか?」
「お願いします!」
俺達の返事を聞くなり、お兄さんは嬉しそうにトリク祭りについて話しだした。
「トリク祭りが開催されるのは年に一度、今年は今日と明日の二日間だけです。これはイーシャル領の収穫を祝うために、はるか昔から今まで絶えず行われ続けている、伝統のあるお祭りです」
職業柄なのかやけに説明慣れしている様子のお兄さんは、流れるような口調で説明を続けた。
「祭りの期間中はイーシャルの街の至る所にトリクの花飾りが飾られます。街中にはたくさんの屋台や露店が並び、市場では珍しい果物や野菜なども特別価格で販売されますよ。それに、噴水広場では歌い手や踊り手の公演なども行われるんです!」
こちらは恋人同士や伴侶、伴侶候補の方に特に人気の場所ですので、もし興味があれば足を運んでみて下さいねとさらりと教えてくれる。
すっごく微笑ましそうに俺とハルを見つめてくれてるんだけど、あの、もしかして昨日の俺の恋人抱きでの移動を目撃してたりするんでしょうか?
あ、駄目だ。これは深く考えるのはやめておこう。
「他に、何か質問はありますか?」
「あのー日程がはっきり決まってないって聞いたんですけど、何か基準はあるんですか?」
ただの興味本位での質問だったけれど、お兄さんは嬉しそうに笑って答えてくれた。
「ええ、日程がはっきりと決まってないというのは事実ですよ。前提としてジャムなどに加工されるトリクの花は、イーシャルの北側にある大きな農場で栽培されています」
え、なんで急に農場の話になったんだろう?俺はゆるく首を傾げた。
「そこの農場のトリクの花が満開になるだろう日を目安にして、開催されるんですよ」
「ああ、なるほど、それで毎年日程が違うのか」
そういう決め方だとは俺も知らなかったなと、ハルも興味深そうに呟いている。
毎年同じ日に花が満開になるわけじゃないから、お祭りの日も毎年ずれてるって事なのか。
「メロウにもこの基準を教えてやらないとな」
ぽつりと呟いたハルの言葉に、俺は笑って頷いた。
「説明はこんな所でしょうか」
「説明、ありがとう」
「ありがとうございました!」
「いえいえ、また気になる事があれば、何でもお気軽にお尋ねくださいね。お勧め屋台からお勧めの店まで何でも答えますから」
丁寧に言葉を添えてくれた男性は、忙しそうな受付カウンターの中へと消えていった。
「ハル、お祭りだって」
「トリク祭りは俺も初めてだ。とりあえずは歩きながらどこに行くか決めようか」
「うん、そうだね」
「アキト、手つなごうか」
きっと街中はここ以上に混みあってると思うからと差し出された手を、俺はすぐにきゅっと握り返した。
イーシャルの街は、驚くべき事にたった一晩で様変わりしていた。
鮮やかな青色のリボンで束ねられたまるで花束のようなトリクの花が、街灯や街路樹に大きく飾られている。これがあのお兄さんが言ってたトリクの花飾りってやつかな。
よくよく見てみれば、それぞれの家や店の入口などにも同じ色のリボンが結ばれているみたいだ。
「飾り付けすごいね」
「ああ、本当にすごいな。昨夜は確実に無かったから…今朝つけたのか」
「昨日は一個も無かったもんね」
「無かった…よな?」
ハルも思わず記憶に自信を無くすぐらい、たくさんの飾りが使われている。
ふと視線を動かすと、水路を流れる透き通った水の表面を、トリクの花の花びらを模した紙のようなものがゆっくりと流れていくのが見えた。
「ハル、あれ見て!水路!」
「あれって何を流してるんだろう?」
「んー何なのかは分からないけど、綺麗だね」
「ああ、綺麗だ」
まるで水路に落ちた花びらが、ゆっくりと流れてるみたいに見えるんだ。桜の時期を思いだすなぁ。
「あっちは人が多いね」
「あれが屋台とか露店の辺りかな。行く?」
「うん、見て回りたい!」
俺達は手を繋いだまま、人ごみへと足を進めた。
トライプールのギルド職員メロウさんから、トリク祭りについてはちょっとだけ教えてもらったから存在は知ってた。ただ日程がはっきりとは決まってなくて、多分その時期にあたるんじゃないかなーぐらいの説明だったんだよね。
異世界のお祭りって雰囲気が違うのかなーってちょっと気になってたんだけど、さすがに日程が分からないと参加はできないと思ってたんだ。
そのトリク祭りが、まさかの今日から?
「ええ今日からです。これに合わせてイーシャルに来られるという方も多いんですよ」
「なるほど、それで混んでるのか」
「はい、お二人ともトリク祭りは初めてでしょうか?」
「はい!」
俺はすぐに頷いてから、ちらりとハルに視線を向けた。もしかして前にも来た事があるのかなと反応を伺っていたんだけど、ハルは笑って口を開いた。
「ああ、祭りに参加するのは初めてなんだ」
「そうですか。お二人がもしよろしければ、すこしだけトリク祭りについて説明しましょうか?」
「ああ、頼んで良いか?」
「お願いします!」
俺達の返事を聞くなり、お兄さんは嬉しそうにトリク祭りについて話しだした。
「トリク祭りが開催されるのは年に一度、今年は今日と明日の二日間だけです。これはイーシャル領の収穫を祝うために、はるか昔から今まで絶えず行われ続けている、伝統のあるお祭りです」
職業柄なのかやけに説明慣れしている様子のお兄さんは、流れるような口調で説明を続けた。
「祭りの期間中はイーシャルの街の至る所にトリクの花飾りが飾られます。街中にはたくさんの屋台や露店が並び、市場では珍しい果物や野菜なども特別価格で販売されますよ。それに、噴水広場では歌い手や踊り手の公演なども行われるんです!」
こちらは恋人同士や伴侶、伴侶候補の方に特に人気の場所ですので、もし興味があれば足を運んでみて下さいねとさらりと教えてくれる。
すっごく微笑ましそうに俺とハルを見つめてくれてるんだけど、あの、もしかして昨日の俺の恋人抱きでの移動を目撃してたりするんでしょうか?
あ、駄目だ。これは深く考えるのはやめておこう。
「他に、何か質問はありますか?」
「あのー日程がはっきり決まってないって聞いたんですけど、何か基準はあるんですか?」
ただの興味本位での質問だったけれど、お兄さんは嬉しそうに笑って答えてくれた。
「ええ、日程がはっきりと決まってないというのは事実ですよ。前提としてジャムなどに加工されるトリクの花は、イーシャルの北側にある大きな農場で栽培されています」
え、なんで急に農場の話になったんだろう?俺はゆるく首を傾げた。
「そこの農場のトリクの花が満開になるだろう日を目安にして、開催されるんですよ」
「ああ、なるほど、それで毎年日程が違うのか」
そういう決め方だとは俺も知らなかったなと、ハルも興味深そうに呟いている。
毎年同じ日に花が満開になるわけじゃないから、お祭りの日も毎年ずれてるって事なのか。
「メロウにもこの基準を教えてやらないとな」
ぽつりと呟いたハルの言葉に、俺は笑って頷いた。
「説明はこんな所でしょうか」
「説明、ありがとう」
「ありがとうございました!」
「いえいえ、また気になる事があれば、何でもお気軽にお尋ねくださいね。お勧め屋台からお勧めの店まで何でも答えますから」
丁寧に言葉を添えてくれた男性は、忙しそうな受付カウンターの中へと消えていった。
「ハル、お祭りだって」
「トリク祭りは俺も初めてだ。とりあえずは歩きながらどこに行くか決めようか」
「うん、そうだね」
「アキト、手つなごうか」
きっと街中はここ以上に混みあってると思うからと差し出された手を、俺はすぐにきゅっと握り返した。
イーシャルの街は、驚くべき事にたった一晩で様変わりしていた。
鮮やかな青色のリボンで束ねられたまるで花束のようなトリクの花が、街灯や街路樹に大きく飾られている。これがあのお兄さんが言ってたトリクの花飾りってやつかな。
よくよく見てみれば、それぞれの家や店の入口などにも同じ色のリボンが結ばれているみたいだ。
「飾り付けすごいね」
「ああ、本当にすごいな。昨夜は確実に無かったから…今朝つけたのか」
「昨日は一個も無かったもんね」
「無かった…よな?」
ハルも思わず記憶に自信を無くすぐらい、たくさんの飾りが使われている。
ふと視線を動かすと、水路を流れる透き通った水の表面を、トリクの花の花びらを模した紙のようなものがゆっくりと流れていくのが見えた。
「ハル、あれ見て!水路!」
「あれって何を流してるんだろう?」
「んー何なのかは分からないけど、綺麗だね」
「ああ、綺麗だ」
まるで水路に落ちた花びらが、ゆっくりと流れてるみたいに見えるんだ。桜の時期を思いだすなぁ。
「あっちは人が多いね」
「あれが屋台とか露店の辺りかな。行く?」
「うん、見て回りたい!」
俺達は手を繋いだまま、人ごみへと足を進めた。
150
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる