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469.【ハル視点】マティウスさんの暴露

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「まあ、俺達のお気に入りの店については、中に入ってからゆっくり話しましょうか?」
「ああ酒場以外にも気に入ってる店はあるしな」

 悪戯っぽく知りたいかと尋ねたカーディさんに、アキトは即答で知りたいと答えた。

「トライプールのお気に入りのお店だったら、俺達も行けるよね」
「そうだな、二人で一緒に回ってみようか」

 二人が好きなのが賑やかで活気のある料理店なら、きっとアキトも気に入るだろう。

 そんな事を話しながら鮮やかな赤色をしたドアへと近づいていくと、何の前触れも無く不意にそのドアが内側から開いた。

「本日はご来店、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」
「今日も美味しかったです」

 開いたままのドアからはそんなやりとりが聞こえてきたから、ちょうど帰る客がいたみたいだ。仲のよさそうな客の二人組は、俺達に気づくとニコリと笑顔を見せてから俺達の前を通り過ぎて夜の街へと消えていった。

「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」

 見送りに出てきた店員らしき男性は、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべてそう声をかけてきた。穏やかな雰囲気をまとったとても優しそうな男性だ。

「こんばんは」

 笑顔を浮かべて声をかけたクリスに視線を向けるなり、その男性は大きく目を見開いた。

「クリスぼっちゃん!?イーシャルに来てたんですか?お久しぶりですね」

 クリスぼっちゃん?俺とアキト、カーディさんの視線が一気にクリスに集中した。

「今日の夕方にイーシャルに着いたばかりです」
「それはそれは。早速うちに来てくれるとは光栄ですよ、クリスぼっちゃん」

 心底嫌そうに顔を歪めてから、クリスは口を開いた。

「お久しぶりです。…あの、いつも言ってますけど、ぼっちゃんは止めて下さい!」
「でもクリスぼっちゃんはクリスぼっちゃんでしょう?」

 表情は相変わらずの優しい笑みだったけれど、そこだけは絶対に譲らないと言いたげな顔だな。こういう顔をしている人は、何があっても自分の意見を曲げないぞ。諦めろ、クリスぼっちゃん。

 ふふと笑って見守っていれば、不意にクリスにじろりと睨まれてしまった。まるで脳内でクリスぼっちゃんと呼びかけたのがバレたようなタイミングだな。

「あ…クリスぼっちゃん、そちらの方は…もしかして?」

 男性はハッと大きく目を見張ると、まじまじとカーディさんを見つめた。

「ああ…紹介します。私の伴侶、カーディです」
「初めまして。クリスの伴侶カーディです」
「ああ、初めまして。私は伴侶と二人でこの店を経営しているマティウスです」

 朗らかに自己紹介をしながらも、マティウスさんの視線は驚くほどカーディさんに釘付けだ。あまりにまっすぐ見つめられすぎて、あのカーディさんでも戸惑いを隠せずにいる。

 あまりに熱烈なその視線に、クリスはさっと庇うようにカーディさんの前に出た。

「あまり見ないで下さい、私のカーディが減ると困るので」
「おや、それは失礼しました」

 ふふと嬉しそうに笑ったマティウスさんは、そちらのお二人は?と今度は俺達に視線を向けてきた。

「こちらは私たちの友人、ハルとアキト。つい先日伴侶候補になったばかりなんですよ」
「それはそれは。伴侶候補の儀式、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」

 気持ちの込もったお祝いの言葉に、俺とアキトは二人揃って笑顔で答えた。

「今日は良い日ですな。あの幼かったクリスぼっちゃんが、噂の念願の伴侶と、ご友人を連れて来店して下さるとは」

 噂の…念願の…伴侶…?アキトとカーディさんはゆるりと首を傾げた。

「あ、マティウスさん!待ってください!」

 慌てた様子で口を開きかけたクリスをあっさりと無視して、マティウスさんはカーディさんに向かって話しかけた。

「口説いても口説いても頷いてくれないとよく話を聞いていたんですよ。それでも自分が好きなのはカーディだけだーってあまりに言うから、名前まで覚えてしまいました」
「わー!それは!!なんで言っちゃうんですか!」
「営業中に知った情報は口外しませんが、あれは営業終了後でしたからねぇ」
「それでも!言う必要は無かったでしょう!」

 顔中を真っ赤にして慌てているクリスを、マティウスさんは笑顔を浮かべたままで見返した。

「伴侶と私の二人だけの時間の邪魔をしたお返しだーなんて事は言いませんよ」

 穏やかで優し気な紳士の口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思っていなかった俺は必死で笑いを飲み込んだ。

 うん、それはバラされても仕方ないと俺も思う。営業終了後の伴侶との時間の邪魔をしたお返しが、この情報の横流しというわけだ。

 必死で笑いをこらえる俺と納得した様子のアキトの隣で、カーディさんはブハッと思いっきり噴き出すとそのまま楽し気に笑い出した。

「はーマティウスさん、良い事を教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、お二人もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ほら、クリス」
「…ありがとうございます」

 カーディさんに促されてしぶしぶといった様子だったけれど、マティウスさんはそんな二人の様子を見つめてぽつりと呟いた。

「本当に今日は良い日です」
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