470 / 1,112
469.【ハル視点】マティウスさんの暴露
しおりを挟む
「まあ、俺達のお気に入りの店については、中に入ってからゆっくり話しましょうか?」
「ああ酒場以外にも気に入ってる店はあるしな」
悪戯っぽく知りたいかと尋ねたカーディさんに、アキトは即答で知りたいと答えた。
「トライプールのお気に入りのお店だったら、俺達も行けるよね」
「そうだな、二人で一緒に回ってみようか」
二人が好きなのが賑やかで活気のある料理店なら、きっとアキトも気に入るだろう。
そんな事を話しながら鮮やかな赤色をしたドアへと近づいていくと、何の前触れも無く不意にそのドアが内側から開いた。
「本日はご来店、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」
「今日も美味しかったです」
開いたままのドアからはそんなやりとりが聞こえてきたから、ちょうど帰る客がいたみたいだ。仲のよさそうな客の二人組は、俺達に気づくとニコリと笑顔を見せてから俺達の前を通り過ぎて夜の街へと消えていった。
「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」
見送りに出てきた店員らしき男性は、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべてそう声をかけてきた。穏やかな雰囲気をまとったとても優しそうな男性だ。
「こんばんは」
笑顔を浮かべて声をかけたクリスに視線を向けるなり、その男性は大きく目を見開いた。
「クリスぼっちゃん!?イーシャルに来てたんですか?お久しぶりですね」
クリスぼっちゃん?俺とアキト、カーディさんの視線が一気にクリスに集中した。
「今日の夕方にイーシャルに着いたばかりです」
「それはそれは。早速うちに来てくれるとは光栄ですよ、クリスぼっちゃん」
心底嫌そうに顔を歪めてから、クリスは口を開いた。
「お久しぶりです。…あの、いつも言ってますけど、ぼっちゃんは止めて下さい!」
「でもクリスぼっちゃんはクリスぼっちゃんでしょう?」
表情は相変わらずの優しい笑みだったけれど、そこだけは絶対に譲らないと言いたげな顔だな。こういう顔をしている人は、何があっても自分の意見を曲げないぞ。諦めろ、クリスぼっちゃん。
ふふと笑って見守っていれば、不意にクリスにじろりと睨まれてしまった。まるで脳内でクリスぼっちゃんと呼びかけたのがバレたようなタイミングだな。
「あ…クリスぼっちゃん、そちらの方は…もしかして?」
男性はハッと大きく目を見張ると、まじまじとカーディさんを見つめた。
「ああ…紹介します。私の伴侶、カーディです」
「初めまして。クリスの伴侶カーディです」
「ああ、初めまして。私は伴侶と二人でこの店を経営しているマティウスです」
朗らかに自己紹介をしながらも、マティウスさんの視線は驚くほどカーディさんに釘付けだ。あまりにまっすぐ見つめられすぎて、あのカーディさんでも戸惑いを隠せずにいる。
あまりに熱烈なその視線に、クリスはさっと庇うようにカーディさんの前に出た。
「あまり見ないで下さい、私のカーディが減ると困るので」
「おや、それは失礼しました」
ふふと嬉しそうに笑ったマティウスさんは、そちらのお二人は?と今度は俺達に視線を向けてきた。
「こちらは私たちの友人、ハルとアキト。つい先日伴侶候補になったばかりなんですよ」
「それはそれは。伴侶候補の儀式、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
気持ちの込もったお祝いの言葉に、俺とアキトは二人揃って笑顔で答えた。
「今日は良い日ですな。あの幼かったクリスぼっちゃんが、噂の念願の伴侶と、ご友人を連れて来店して下さるとは」
噂の…念願の…伴侶…?アキトとカーディさんはゆるりと首を傾げた。
「あ、マティウスさん!待ってください!」
慌てた様子で口を開きかけたクリスをあっさりと無視して、マティウスさんはカーディさんに向かって話しかけた。
「口説いても口説いても頷いてくれないとよく話を聞いていたんですよ。それでも自分が好きなのはカーディだけだーってあまりに言うから、名前まで覚えてしまいました」
「わー!それは!!なんで言っちゃうんですか!」
「営業中に知った情報は口外しませんが、あれは営業終了後でしたからねぇ」
「それでも!言う必要は無かったでしょう!」
顔中を真っ赤にして慌てているクリスを、マティウスさんは笑顔を浮かべたままで見返した。
「伴侶と私の二人だけの時間の邪魔をしたお返しだーなんて事は言いませんよ」
穏やかで優し気な紳士の口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思っていなかった俺は必死で笑いを飲み込んだ。
うん、それはバラされても仕方ないと俺も思う。営業終了後の伴侶との時間の邪魔をしたお返しが、この情報の横流しというわけだ。
必死で笑いをこらえる俺と納得した様子のアキトの隣で、カーディさんはブハッと思いっきり噴き出すとそのまま楽し気に笑い出した。
「はーマティウスさん、良い事を教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、お二人もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ほら、クリス」
「…ありがとうございます」
カーディさんに促されてしぶしぶといった様子だったけれど、マティウスさんはそんな二人の様子を見つめてぽつりと呟いた。
「本当に今日は良い日です」
「ああ酒場以外にも気に入ってる店はあるしな」
悪戯っぽく知りたいかと尋ねたカーディさんに、アキトは即答で知りたいと答えた。
「トライプールのお気に入りのお店だったら、俺達も行けるよね」
「そうだな、二人で一緒に回ってみようか」
二人が好きなのが賑やかで活気のある料理店なら、きっとアキトも気に入るだろう。
そんな事を話しながら鮮やかな赤色をしたドアへと近づいていくと、何の前触れも無く不意にそのドアが内側から開いた。
「本日はご来店、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」
「今日も美味しかったです」
開いたままのドアからはそんなやりとりが聞こえてきたから、ちょうど帰る客がいたみたいだ。仲のよさそうな客の二人組は、俺達に気づくとニコリと笑顔を見せてから俺達の前を通り過ぎて夜の街へと消えていった。
「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」
見送りに出てきた店員らしき男性は、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべてそう声をかけてきた。穏やかな雰囲気をまとったとても優しそうな男性だ。
「こんばんは」
笑顔を浮かべて声をかけたクリスに視線を向けるなり、その男性は大きく目を見開いた。
「クリスぼっちゃん!?イーシャルに来てたんですか?お久しぶりですね」
クリスぼっちゃん?俺とアキト、カーディさんの視線が一気にクリスに集中した。
「今日の夕方にイーシャルに着いたばかりです」
「それはそれは。早速うちに来てくれるとは光栄ですよ、クリスぼっちゃん」
心底嫌そうに顔を歪めてから、クリスは口を開いた。
「お久しぶりです。…あの、いつも言ってますけど、ぼっちゃんは止めて下さい!」
「でもクリスぼっちゃんはクリスぼっちゃんでしょう?」
表情は相変わらずの優しい笑みだったけれど、そこだけは絶対に譲らないと言いたげな顔だな。こういう顔をしている人は、何があっても自分の意見を曲げないぞ。諦めろ、クリスぼっちゃん。
ふふと笑って見守っていれば、不意にクリスにじろりと睨まれてしまった。まるで脳内でクリスぼっちゃんと呼びかけたのがバレたようなタイミングだな。
「あ…クリスぼっちゃん、そちらの方は…もしかして?」
男性はハッと大きく目を見張ると、まじまじとカーディさんを見つめた。
「ああ…紹介します。私の伴侶、カーディです」
「初めまして。クリスの伴侶カーディです」
「ああ、初めまして。私は伴侶と二人でこの店を経営しているマティウスです」
朗らかに自己紹介をしながらも、マティウスさんの視線は驚くほどカーディさんに釘付けだ。あまりにまっすぐ見つめられすぎて、あのカーディさんでも戸惑いを隠せずにいる。
あまりに熱烈なその視線に、クリスはさっと庇うようにカーディさんの前に出た。
「あまり見ないで下さい、私のカーディが減ると困るので」
「おや、それは失礼しました」
ふふと嬉しそうに笑ったマティウスさんは、そちらのお二人は?と今度は俺達に視線を向けてきた。
「こちらは私たちの友人、ハルとアキト。つい先日伴侶候補になったばかりなんですよ」
「それはそれは。伴侶候補の儀式、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
気持ちの込もったお祝いの言葉に、俺とアキトは二人揃って笑顔で答えた。
「今日は良い日ですな。あの幼かったクリスぼっちゃんが、噂の念願の伴侶と、ご友人を連れて来店して下さるとは」
噂の…念願の…伴侶…?アキトとカーディさんはゆるりと首を傾げた。
「あ、マティウスさん!待ってください!」
慌てた様子で口を開きかけたクリスをあっさりと無視して、マティウスさんはカーディさんに向かって話しかけた。
「口説いても口説いても頷いてくれないとよく話を聞いていたんですよ。それでも自分が好きなのはカーディだけだーってあまりに言うから、名前まで覚えてしまいました」
「わー!それは!!なんで言っちゃうんですか!」
「営業中に知った情報は口外しませんが、あれは営業終了後でしたからねぇ」
「それでも!言う必要は無かったでしょう!」
顔中を真っ赤にして慌てているクリスを、マティウスさんは笑顔を浮かべたままで見返した。
「伴侶と私の二人だけの時間の邪魔をしたお返しだーなんて事は言いませんよ」
穏やかで優し気な紳士の口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思っていなかった俺は必死で笑いを飲み込んだ。
うん、それはバラされても仕方ないと俺も思う。営業終了後の伴侶との時間の邪魔をしたお返しが、この情報の横流しというわけだ。
必死で笑いをこらえる俺と納得した様子のアキトの隣で、カーディさんはブハッと思いっきり噴き出すとそのまま楽し気に笑い出した。
「はーマティウスさん、良い事を教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、お二人もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ほら、クリス」
「…ありがとうございます」
カーディさんに促されてしぶしぶといった様子だったけれど、マティウスさんはそんな二人の様子を見つめてぽつりと呟いた。
「本当に今日は良い日です」
141
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる