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468.【ハル視点】クリスの目的地
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「そろそろ移動するぞー二人とも!」
アキトがどんな反応を返してくれるかと楽しみに待っていたけれど、どうやら時間切れみたいだな。いつの間にか魔道具談義を終えていたカーディさんからの呼びかけに、俺はすぐに答えた。
「悪い、すぐ行く!」
繋いだままだった手をそっと引けば、アキトは明らかにホッとした顔で隣を歩き出した。
人混みの中で前を行く二人を追いながら、俺はこっそりとアキトに話しかける。
「アキト、急にあんな事言ってごめんね」
「いや…えっと…嬉しいんだよ、嬉しいけどどう反応したら良いか悩んだだけで…慣れてなくてごめんね」
申し訳なさそうにそう答えたアキトに、俺はゆるりと首を振った。謝ってもらう必要なんてかけらも無いし、むしろ慣れた対応をされた方が複雑な心境になると思う――とは、さすがに言えないか。
「そんなアキトも好きだよ」
囁くようにそっと愛を告げれば、アキトはきょとんと俺を見上げた後で、不思議そうにゆるりと首を傾げた。
「えっとね、夜のイーシャルは恋人同士とか伴侶とかで来るのに人気な場所なんだ」
「あ、やっぱり?多いなーとは思ってたんだけど…」
どうやら行き交う人達を観察して、恋人同士や伴侶が多い事には気づいていたみたいだ。さすがアキトだな。
「だから…その、ちょっとぐらい伴侶候補らしい事がしたかったと言うか」
夜のイーシャルという空気に乗せられたと言うか。あーどっちにしても口に出してみるとかなり情けない理由だな。大人の余裕や格好良さのかけらも無い。
恥ずかしさで頬が熱くなってきた俺は、そっと視線を反らした。
「ハル」
ぽつりと名前を呼ばれて、恐る恐る視線をあげる。アキトは特に呆れた様子も無く、むしろ嬉しそうに笑ってくれていた。
あちこちで交わされている恋人たちや伴侶たちの甘いやりとりをあっさりと流しながら、俺はアキトと手を繋いだまま街中を歩いて行った。
周りの行動に一々慌てているアキトが可愛くて、自然と笑みがこぼれてしまう。前を歩くクリスとカーディさんの背中をきちんと追いながら、俺はアキトを誘導して歩き続けた。
しばらく行くと、ようやく前を行く二人が立ち止まった。
クリスの視線の先にあるのは、豪華な装飾がされた派手な建物だった。イーシャルらしく赤いレンガで建てられているその建物は、細かな彫刻なども施されていてかなり目をひく造りだ。
ここはどこかの貴族の邸宅だとか、はたまた豪商の別邸だとか、噂だけは色々あったな。実際に誰が所持しているのかまでは知らないが、確実に飲食店では無いと思うんだが。
「クリス、ここか?」
建物を見つめながらそう尋ねてみれれば、クリスはすぐにふるりと首を振った。
「いえ、こっちです」
そう口にしたクリスはカーディさんの手を引いたまま、派手な建物へとまっすぐに足を進めた。どこに行くのかと見つめていれば、クリスはスルリと建物の真横にある小さな路地へと消えていった。ああ、そんな所に路地があったのか。
「行こう、アキト」
「うん」
アキトと一緒に、二人の後を追って路地へと足を踏み入れる。他の土地なら夜の路地にはあまり近づきたくないが、イーシャルに限ってはその心配は無い。この路地も俺の予想通り、魔道具の灯りで明るく照らし出されていた。
「明るい」
「ああ、危険は無さそうだね」
アキトにどう声をかけながら視線を巡らせてみれば、どうやらこの路地にはいくつかの小さな店が並んでいるようだ。どれもこじんまりとした赤レンガの建物だが、辺りには食欲を刺激するような良い香りが漂っている。
「皆さん、着きましたよ」
クリスがそう宣言したのは、路地の一番突き当りにある店の前だった。
「ここか」
「ええ、ここが目的地の料理店マティウスです」
真っ赤な木製のドアが一際目を惹くその建物の壁には、ただマティウスとだけ書かれた看板がひっそりと下げられていた。その飾り気の一切無い看板を見て、きっと味に自信があるんだろうなと素直にそう思った。耳を澄ましてみれば、店内からは賑やかな声や笑い声がうっすらと聞こえてくる。
どこか温かみがあって、賑やかで、俺とアキトは間違いなく好きな雰囲気だな。
俺はまじまじと店の外観を観察してから、クリスにちらりと視線を向けた。
「あー…俺達は好きそうな店だが…クリスにこういう店に連れて来られるとはちょっと意外だな」
「あれ?意外ですか?」
「もっと分かりやすい高級店に連れていかれるかと思ってた」
アキトが緊張しない店だと良いなと思っていたぐらいだからな。
「仕事相手と商談で利用する事もありますから…もちろん数点候補はありますが」
そこでぴたりと言葉を止めたクリスは、カーディさんへとそっと視線を向けた。急に話を向けられたカーディさんは、慌てるでも無くクスクスと笑いながら口を開いた。
「クリスはな、ああいう店は食った気がしないらしいぞ?俺はまあうまければ何でも良いんだけどさ」
「味は確かに美味しいんですが、上品過ぎるんですよね」
クリスはちまちまと料理が出てくるのも実は苦手ですと、ほんとうに小さな声で続けた。
「クリスさんがそういう事を言うとは思いませんでした」
思わずといった様子でそう呟いたアキトに、カーディさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「なあアキト、クリスと俺と二人セットで初めて会ったのはどこか分かるか?」
ああ、なるほど。確かにそう言われると納得でもあるな。この二人と一緒に会ったのは、あの賑やかすぎるトライプールの冒険者ギルドにある酒場だった。
「冒険者ギルドの酒場?」
アキトも同じタイミングで俺と同じ答えに辿り着いたらしい。
「ええ、正解です!」
「俺達二人はトライプールではあの冒険者ギルドの酒場の常連なんだよ」
「あ、そっか。そう言われると納得」
謎が解けたと笑うアキトに、クリスとカーディさんも楽し気に笑いだした。
アキトがどんな反応を返してくれるかと楽しみに待っていたけれど、どうやら時間切れみたいだな。いつの間にか魔道具談義を終えていたカーディさんからの呼びかけに、俺はすぐに答えた。
「悪い、すぐ行く!」
繋いだままだった手をそっと引けば、アキトは明らかにホッとした顔で隣を歩き出した。
人混みの中で前を行く二人を追いながら、俺はこっそりとアキトに話しかける。
「アキト、急にあんな事言ってごめんね」
「いや…えっと…嬉しいんだよ、嬉しいけどどう反応したら良いか悩んだだけで…慣れてなくてごめんね」
申し訳なさそうにそう答えたアキトに、俺はゆるりと首を振った。謝ってもらう必要なんてかけらも無いし、むしろ慣れた対応をされた方が複雑な心境になると思う――とは、さすがに言えないか。
「そんなアキトも好きだよ」
囁くようにそっと愛を告げれば、アキトはきょとんと俺を見上げた後で、不思議そうにゆるりと首を傾げた。
「えっとね、夜のイーシャルは恋人同士とか伴侶とかで来るのに人気な場所なんだ」
「あ、やっぱり?多いなーとは思ってたんだけど…」
どうやら行き交う人達を観察して、恋人同士や伴侶が多い事には気づいていたみたいだ。さすがアキトだな。
「だから…その、ちょっとぐらい伴侶候補らしい事がしたかったと言うか」
夜のイーシャルという空気に乗せられたと言うか。あーどっちにしても口に出してみるとかなり情けない理由だな。大人の余裕や格好良さのかけらも無い。
恥ずかしさで頬が熱くなってきた俺は、そっと視線を反らした。
「ハル」
ぽつりと名前を呼ばれて、恐る恐る視線をあげる。アキトは特に呆れた様子も無く、むしろ嬉しそうに笑ってくれていた。
あちこちで交わされている恋人たちや伴侶たちの甘いやりとりをあっさりと流しながら、俺はアキトと手を繋いだまま街中を歩いて行った。
周りの行動に一々慌てているアキトが可愛くて、自然と笑みがこぼれてしまう。前を歩くクリスとカーディさんの背中をきちんと追いながら、俺はアキトを誘導して歩き続けた。
しばらく行くと、ようやく前を行く二人が立ち止まった。
クリスの視線の先にあるのは、豪華な装飾がされた派手な建物だった。イーシャルらしく赤いレンガで建てられているその建物は、細かな彫刻なども施されていてかなり目をひく造りだ。
ここはどこかの貴族の邸宅だとか、はたまた豪商の別邸だとか、噂だけは色々あったな。実際に誰が所持しているのかまでは知らないが、確実に飲食店では無いと思うんだが。
「クリス、ここか?」
建物を見つめながらそう尋ねてみれれば、クリスはすぐにふるりと首を振った。
「いえ、こっちです」
そう口にしたクリスはカーディさんの手を引いたまま、派手な建物へとまっすぐに足を進めた。どこに行くのかと見つめていれば、クリスはスルリと建物の真横にある小さな路地へと消えていった。ああ、そんな所に路地があったのか。
「行こう、アキト」
「うん」
アキトと一緒に、二人の後を追って路地へと足を踏み入れる。他の土地なら夜の路地にはあまり近づきたくないが、イーシャルに限ってはその心配は無い。この路地も俺の予想通り、魔道具の灯りで明るく照らし出されていた。
「明るい」
「ああ、危険は無さそうだね」
アキトにどう声をかけながら視線を巡らせてみれば、どうやらこの路地にはいくつかの小さな店が並んでいるようだ。どれもこじんまりとした赤レンガの建物だが、辺りには食欲を刺激するような良い香りが漂っている。
「皆さん、着きましたよ」
クリスがそう宣言したのは、路地の一番突き当りにある店の前だった。
「ここか」
「ええ、ここが目的地の料理店マティウスです」
真っ赤な木製のドアが一際目を惹くその建物の壁には、ただマティウスとだけ書かれた看板がひっそりと下げられていた。その飾り気の一切無い看板を見て、きっと味に自信があるんだろうなと素直にそう思った。耳を澄ましてみれば、店内からは賑やかな声や笑い声がうっすらと聞こえてくる。
どこか温かみがあって、賑やかで、俺とアキトは間違いなく好きな雰囲気だな。
俺はまじまじと店の外観を観察してから、クリスにちらりと視線を向けた。
「あー…俺達は好きそうな店だが…クリスにこういう店に連れて来られるとはちょっと意外だな」
「あれ?意外ですか?」
「もっと分かりやすい高級店に連れていかれるかと思ってた」
アキトが緊張しない店だと良いなと思っていたぐらいだからな。
「仕事相手と商談で利用する事もありますから…もちろん数点候補はありますが」
そこでぴたりと言葉を止めたクリスは、カーディさんへとそっと視線を向けた。急に話を向けられたカーディさんは、慌てるでも無くクスクスと笑いながら口を開いた。
「クリスはな、ああいう店は食った気がしないらしいぞ?俺はまあうまければ何でも良いんだけどさ」
「味は確かに美味しいんですが、上品過ぎるんですよね」
クリスはちまちまと料理が出てくるのも実は苦手ですと、ほんとうに小さな声で続けた。
「クリスさんがそういう事を言うとは思いませんでした」
思わずといった様子でそう呟いたアキトに、カーディさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「なあアキト、クリスと俺と二人セットで初めて会ったのはどこか分かるか?」
ああ、なるほど。確かにそう言われると納得でもあるな。この二人と一緒に会ったのは、あの賑やかすぎるトライプールの冒険者ギルドにある酒場だった。
「冒険者ギルドの酒場?」
アキトも同じタイミングで俺と同じ答えに辿り着いたらしい。
「ええ、正解です!」
「俺達二人はトライプールではあの冒険者ギルドの酒場の常連なんだよ」
「あ、そっか。そう言われると納得」
謎が解けたと笑うアキトに、クリスとカーディさんも楽し気に笑いだした。
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