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465.ご馳走
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よっぽどマティウスさんの言葉が予想外だったのか、クリスさんはぼーっとしたまま厨房の方を見つめていた。こんな風にぼんやりしてるクリスさんはかなり珍しいな。
そう思いながらも無言で見守っていると、カーディの手が優しくクリスさんの頭を撫でた。
「クリス」
「カーディ?」
「な、せっかくの料理だし早く食べよ?」
「あっ…!そ、そうですね!お二人も、お待たせしてすみません!」
我に返るなりバッとこちらを向いたクリスさんに、俺とハルは慌ててブンブンと首を振った。俺達の事は気にしなくて良いからと二人して言いつのると、クリスさんはやっと肩の力を抜いてくれた。
「サラダもスープも、どっちもすっごく美味そうだよなー」
「ええ、どちらも美味しいですよ。特に私は、この冷製スープがお気に入りですね」
「へーそれは楽しみだな」
穏やかに続いていく和やかな二人の会話を聞きながら、俺とハルはいただきますと声を揃えた。
どっちから食べようかなと一瞬だけ迷ったけど、冷製スープは飲んだ事が無いしとそちらを選んで手を伸ばす。持ち上げた素朴な木製の器は、手の中にしっくりと馴染む形だった。そっとスプーンですくった乳白色のスープには、細かく刻まれた野菜がたっぷりと入っている。
「っ…んー!美味しい!」
冷製と言うだけあってしっかりと冷やされているそのスープには、驚くほど濃厚な野菜の旨味が溶けだしていた。この味、俺好きだな。
「わーこれすごいよ、ハル。野菜の旨味をウカの乳がまろやかにまとめてる!」
興奮して思わずそう声をあげれば、ハルも笑顔で自分の食べていたサラダをお勧めしてきた。
「これも美味しいよ、アキト。シャキシャキ食感の野菜とホロっと崩れる豆の食感が面白いし、味もすごく美味しい」
「そうなんだ?じゃあサラダも食べてみるね」
「うん、そうして?俺もアキトのお勧めのスープ食べてみるから」
じゃれ合うようにそんなやりとりをしてから口に運んだ豆のサラダは、お世辞抜きで本当に美味しかった。食感が面白いというハルの言葉が、食べてみると一瞬で理解できる。確かにこの食感は面白いし、素直に美味しい。
「このサラダ、美味しいね!」
「このスープも…美味いな」
「お二人も気に入ってくれたみたいで良かったです」
俺達が料理を口に運ぶのをじっと見つめていたクリスさんは、安心した様子でスープに口をつけた。
「ああーまた腕を上げてますね…前に食べたのよりも更に美味しくなってます」
「ありがとう。クリスぼっちゃんがそう言ってたって伝えたらマティウスもきっと喜ぶよ」
タイミングよく料理を運んできたトリィさんは、クリスさんの感想を聞くなりふふと嬉しそうに頬を緩めた。優しそうな人だよな、トリィさん。
「トリィさん、わざわざマティウスさんに伝えなくて良いですからね?」
「うーん、それは約束できないなー」
「なんでですか?」
不服そうに尋ねたクリスさんに、トリィさんは声を潜めてそっと尋ねた。
「逆に聞くけど…カーディさんが絶対に喜ぶだろう話をたまたまどこかで聞いたとして、クリスぼっちゃんはそれをカーディさんに黙ってられる?」
「…あー…うん、なるほど。それは無理ですね」
「それが答えだよ」
そんな軽口を叩きながらも、トリィさんは流れるような動きでテーブルへと皿を並べていく。何種類もの魚料理に肉料理の乗った大皿の横には、山盛りになったパンのカゴ。更にその隣にはお酒や果実水までがずらりと並んだ。ここまで大量にあると、なかなかに壮観な景色だ。
でもこれどうみても一人で運べる量じゃないよねとついつい見つめてしまったけれど、よくよく見ればトリィさんは小さめのワゴンを押していたみたいだ。船の中で使われていたワゴンと同じで、このワゴンにも収納鞄みたいな機能があるんだろうな。
テーブルの上に綺麗に料理を並べ終えたトリィさんは、ざっと料理の説明までしてくれた。
「…で、最後にこっちは川魚ススーのグリル!味は付けてあるけどこのソースはお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」
トリィさんが去っていくと、クリスさんは飲み物の入ったグラスを手に持った俺達をゆっくりと見回してから口を開いた。
「無事にイーシャルに到着できた事を祝して、乾杯」
「ああ、無事の到着に乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯!」
グラスを空中に掲げてこの世界での乾杯をすれば、後はもう目の前のご馳走を楽しむだけだ。俺達は賑やかな店内に負けじと、楽しい会話を楽しみながらご馳走を堪能した。
そう思いながらも無言で見守っていると、カーディの手が優しくクリスさんの頭を撫でた。
「クリス」
「カーディ?」
「な、せっかくの料理だし早く食べよ?」
「あっ…!そ、そうですね!お二人も、お待たせしてすみません!」
我に返るなりバッとこちらを向いたクリスさんに、俺とハルは慌ててブンブンと首を振った。俺達の事は気にしなくて良いからと二人して言いつのると、クリスさんはやっと肩の力を抜いてくれた。
「サラダもスープも、どっちもすっごく美味そうだよなー」
「ええ、どちらも美味しいですよ。特に私は、この冷製スープがお気に入りですね」
「へーそれは楽しみだな」
穏やかに続いていく和やかな二人の会話を聞きながら、俺とハルはいただきますと声を揃えた。
どっちから食べようかなと一瞬だけ迷ったけど、冷製スープは飲んだ事が無いしとそちらを選んで手を伸ばす。持ち上げた素朴な木製の器は、手の中にしっくりと馴染む形だった。そっとスプーンですくった乳白色のスープには、細かく刻まれた野菜がたっぷりと入っている。
「っ…んー!美味しい!」
冷製と言うだけあってしっかりと冷やされているそのスープには、驚くほど濃厚な野菜の旨味が溶けだしていた。この味、俺好きだな。
「わーこれすごいよ、ハル。野菜の旨味をウカの乳がまろやかにまとめてる!」
興奮して思わずそう声をあげれば、ハルも笑顔で自分の食べていたサラダをお勧めしてきた。
「これも美味しいよ、アキト。シャキシャキ食感の野菜とホロっと崩れる豆の食感が面白いし、味もすごく美味しい」
「そうなんだ?じゃあサラダも食べてみるね」
「うん、そうして?俺もアキトのお勧めのスープ食べてみるから」
じゃれ合うようにそんなやりとりをしてから口に運んだ豆のサラダは、お世辞抜きで本当に美味しかった。食感が面白いというハルの言葉が、食べてみると一瞬で理解できる。確かにこの食感は面白いし、素直に美味しい。
「このサラダ、美味しいね!」
「このスープも…美味いな」
「お二人も気に入ってくれたみたいで良かったです」
俺達が料理を口に運ぶのをじっと見つめていたクリスさんは、安心した様子でスープに口をつけた。
「ああーまた腕を上げてますね…前に食べたのよりも更に美味しくなってます」
「ありがとう。クリスぼっちゃんがそう言ってたって伝えたらマティウスもきっと喜ぶよ」
タイミングよく料理を運んできたトリィさんは、クリスさんの感想を聞くなりふふと嬉しそうに頬を緩めた。優しそうな人だよな、トリィさん。
「トリィさん、わざわざマティウスさんに伝えなくて良いですからね?」
「うーん、それは約束できないなー」
「なんでですか?」
不服そうに尋ねたクリスさんに、トリィさんは声を潜めてそっと尋ねた。
「逆に聞くけど…カーディさんが絶対に喜ぶだろう話をたまたまどこかで聞いたとして、クリスぼっちゃんはそれをカーディさんに黙ってられる?」
「…あー…うん、なるほど。それは無理ですね」
「それが答えだよ」
そんな軽口を叩きながらも、トリィさんは流れるような動きでテーブルへと皿を並べていく。何種類もの魚料理に肉料理の乗った大皿の横には、山盛りになったパンのカゴ。更にその隣にはお酒や果実水までがずらりと並んだ。ここまで大量にあると、なかなかに壮観な景色だ。
でもこれどうみても一人で運べる量じゃないよねとついつい見つめてしまったけれど、よくよく見ればトリィさんは小さめのワゴンを押していたみたいだ。船の中で使われていたワゴンと同じで、このワゴンにも収納鞄みたいな機能があるんだろうな。
テーブルの上に綺麗に料理を並べ終えたトリィさんは、ざっと料理の説明までしてくれた。
「…で、最後にこっちは川魚ススーのグリル!味は付けてあるけどこのソースはお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」
トリィさんが去っていくと、クリスさんは飲み物の入ったグラスを手に持った俺達をゆっくりと見回してから口を開いた。
「無事にイーシャルに到着できた事を祝して、乾杯」
「ああ、無事の到着に乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯!」
グラスを空中に掲げてこの世界での乾杯をすれば、後はもう目の前のご馳走を楽しむだけだ。俺達は賑やかな店内に負けじと、楽しい会話を楽しみながらご馳走を堪能した。
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