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463.賑やかな店内
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口では思いっきりクリスさんを揶揄ってたマティウスさんだけど、二人を見つめる目は温かいものだった。
「でも、やっぱりここでその話をする必要は無いと思うんですが…?」
「おや、むしろ今ここで言わないで、いつ言うんです?」
楽し気に言い合う二人の会話を笑いながら見守っていると、そろーっと後ろのドアが開いたのに気づいた。ゆっくりと開いたドアの隙間からは、整った顔立ちの一人の男性が顔を出していた。
「あのーお話中ごめんなさい。マティウス、いい加減戻ってきて?」
「ああ、ごめんね、トリィ」
その男性が声を発した瞬間、マティウスさんは一瞬で満面の笑みを浮かべた。この笑顔と反応からして、絶対にこの人がマティウスさんの伴侶だよね。
「予想外のお客様が来たから、つい話し込んでしまって」
「予想外のお客様?」
トリィさんと呼ばれた男性は、不思議そうにそう繰り返した。
「私の事ですよ、トリィさん」
「え、クリスぼっちゃん!?」
「トリィさん…ぼっちゃん呼びはやめてください…」
「あ、ごめんね。その、マティウスがいつもそう呼んでるのを聞いてるから…うつっちゃってて」
本当に心の底から申し訳なさそうなトリィさんに、クリスさんはすぐに首を振って答えた。
「…いえ、全ての元凶はマティウスさんなので、お気になさらず」
「ごめん、ありがとう」
「トリィ、今日はクリスの伴侶も一緒らしいよ?」
トリィさん相手にだけ砕けた口調になるらしいマティウスさんは、明るく笑ってカーディの方に視線を向けた。
「え、あの!?ついに口説き落とせたの!?」
悪気も悪意も無く素直にそう言い放ったトリィさんに、クリスさんはがくりと肩を落とし、カーディは噴き出した。俺とハルも笑いをかみ殺すのに苦労したけど、噴き出さなかっただけでも頑張ったと思うんだ。
ようやく足を踏み入れた料理店マティウスの店内は、活気に満ちていた。明るくて温かみのあるお洒落な空間に、わいわいと賑やかな声と笑顔が溢れている。
「お、やーっと店主が帰ってきたぞー!」
「見送りだけで何でこんなに時間かかってるんだよ」
「まあいつもの事だよな」
「違いない」
わっはっはと笑い合う集団に、マティウスさんはもうちょっと待ってて下さいとすぐに厨房へと足を向けた。常連さんが多そうなお店だな。
わいわいと賑やかだけど、こういう雰囲気は結構好きだ。なんだか元気が湧いてくる気がする。
「マティウスー腹減ってんだから、頼むから早く俺の注文した料理を作ってくれ!」
「すぐ作りますから」
「あ、トリィちゃん、こっちおかわりー」
既にかなり飲んでいるのか真っ赤な顔をした男性は、手に持っている木のコップを掲げてそう声を上げた。
その瞬間、店内の空気が凍り付いた。
「おや、一体誰の許可を得て、トリィにちゃん付けしてるんですか…?」
どこから出したのと聞きたくなるほどの低い声でそう尋ねたマティウスさんに、酔っ払いの男性は一気に顔色を悪くした。関係の無い俺でも身構えてしまうぐらい怒りのこもった声だったから、そうなるのも仕方ないと思う。
「あ、すみませんすみません。トリィさん、おかわりお願いします」
「はーい」
何事も無かったようにてきぱきと動き出すトリィさんに、店内の空気もゆっくりと流れ始める。
「こっちに座りましょうか」
慣れた様子で勝手に席に着いたクリスさんは、驚きましたかと俺達を見回して尋ねた。
「これがこの店の普通なので、まあ気にしないで下さい」
「これで普通なのか…」
「トリィさんにちょっかいさえ出さなければ、料理も美味しいし良い店なんですよ。知り合いのひいき目無しで美味しいので」
「いや、そこは疑ってないんだが…長い付き合いなのか?」
ハルの質問に、クリスさんは笑って答えた。
「マティウスさんもトリィさんも、私の両親の友人なんですよ」
「へーご両親の友人なんですか」
「両親の友人…?」
「意外ですか?」
本当の事ですよと答えたクリスさんに、ハルはニヤリと笑みを浮かべた。滅多に見れないハルの悪そうな笑みだ。
「いや意外と言うか…どうすれば両親の友人からぼっちゃんと呼ばれるようになるのかって興味があるなと思っただけだ」
「ちょっと、ハル!揶揄わないで下さい!」
「あ、俺もそれ気になってた」
「カーディまで…アキトさんもですか?」
「えーと、はい」
気にはなってますと素直に答えれば、クリスさんは苦笑しながらも口を開いた。
「でも、やっぱりここでその話をする必要は無いと思うんですが…?」
「おや、むしろ今ここで言わないで、いつ言うんです?」
楽し気に言い合う二人の会話を笑いながら見守っていると、そろーっと後ろのドアが開いたのに気づいた。ゆっくりと開いたドアの隙間からは、整った顔立ちの一人の男性が顔を出していた。
「あのーお話中ごめんなさい。マティウス、いい加減戻ってきて?」
「ああ、ごめんね、トリィ」
その男性が声を発した瞬間、マティウスさんは一瞬で満面の笑みを浮かべた。この笑顔と反応からして、絶対にこの人がマティウスさんの伴侶だよね。
「予想外のお客様が来たから、つい話し込んでしまって」
「予想外のお客様?」
トリィさんと呼ばれた男性は、不思議そうにそう繰り返した。
「私の事ですよ、トリィさん」
「え、クリスぼっちゃん!?」
「トリィさん…ぼっちゃん呼びはやめてください…」
「あ、ごめんね。その、マティウスがいつもそう呼んでるのを聞いてるから…うつっちゃってて」
本当に心の底から申し訳なさそうなトリィさんに、クリスさんはすぐに首を振って答えた。
「…いえ、全ての元凶はマティウスさんなので、お気になさらず」
「ごめん、ありがとう」
「トリィ、今日はクリスの伴侶も一緒らしいよ?」
トリィさん相手にだけ砕けた口調になるらしいマティウスさんは、明るく笑ってカーディの方に視線を向けた。
「え、あの!?ついに口説き落とせたの!?」
悪気も悪意も無く素直にそう言い放ったトリィさんに、クリスさんはがくりと肩を落とし、カーディは噴き出した。俺とハルも笑いをかみ殺すのに苦労したけど、噴き出さなかっただけでも頑張ったと思うんだ。
ようやく足を踏み入れた料理店マティウスの店内は、活気に満ちていた。明るくて温かみのあるお洒落な空間に、わいわいと賑やかな声と笑顔が溢れている。
「お、やーっと店主が帰ってきたぞー!」
「見送りだけで何でこんなに時間かかってるんだよ」
「まあいつもの事だよな」
「違いない」
わっはっはと笑い合う集団に、マティウスさんはもうちょっと待ってて下さいとすぐに厨房へと足を向けた。常連さんが多そうなお店だな。
わいわいと賑やかだけど、こういう雰囲気は結構好きだ。なんだか元気が湧いてくる気がする。
「マティウスー腹減ってんだから、頼むから早く俺の注文した料理を作ってくれ!」
「すぐ作りますから」
「あ、トリィちゃん、こっちおかわりー」
既にかなり飲んでいるのか真っ赤な顔をした男性は、手に持っている木のコップを掲げてそう声を上げた。
その瞬間、店内の空気が凍り付いた。
「おや、一体誰の許可を得て、トリィにちゃん付けしてるんですか…?」
どこから出したのと聞きたくなるほどの低い声でそう尋ねたマティウスさんに、酔っ払いの男性は一気に顔色を悪くした。関係の無い俺でも身構えてしまうぐらい怒りのこもった声だったから、そうなるのも仕方ないと思う。
「あ、すみませんすみません。トリィさん、おかわりお願いします」
「はーい」
何事も無かったようにてきぱきと動き出すトリィさんに、店内の空気もゆっくりと流れ始める。
「こっちに座りましょうか」
慣れた様子で勝手に席に着いたクリスさんは、驚きましたかと俺達を見回して尋ねた。
「これがこの店の普通なので、まあ気にしないで下さい」
「これで普通なのか…」
「トリィさんにちょっかいさえ出さなければ、料理も美味しいし良い店なんですよ。知り合いのひいき目無しで美味しいので」
「いや、そこは疑ってないんだが…長い付き合いなのか?」
ハルの質問に、クリスさんは笑って答えた。
「マティウスさんもトリィさんも、私の両親の友人なんですよ」
「へーご両親の友人なんですか」
「両親の友人…?」
「意外ですか?」
本当の事ですよと答えたクリスさんに、ハルはニヤリと笑みを浮かべた。滅多に見れないハルの悪そうな笑みだ。
「いや意外と言うか…どうすれば両親の友人からぼっちゃんと呼ばれるようになるのかって興味があるなと思っただけだ」
「ちょっと、ハル!揶揄わないで下さい!」
「あ、俺もそれ気になってた」
「カーディまで…アキトさんもですか?」
「えーと、はい」
気にはなってますと素直に答えれば、クリスさんは苦笑しながらも口を開いた。
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